戦士と魔王
爆発が起きる、
魔力の塊はとてつもない力を持ち、それが解放されると魔力の爆発が起きるのだ。
闇の世界ではマナ爆発と呼ばれる現象は、エーテルというエネルギーに変換したり、
その爆発の力を利用して、兵器にも利用されたりしているが、
光の世界では、研究が進んでおらず、
純粋な魔力をぶつけると爆発が起こるということだけが、知られている。
だが、理屈を知らなくてもその効力はどちらの世界でも同じだ、
オットーが放った魔力の矢は、ソーマに命中して、
爆発して、とてつもない衝撃を与えた。
「やはり、冴えているな」
オットーは満足そうな表情を見せる。
彼には見えていたのだ、ソーマがどこに移動するのか、
先読みの如く放った矢だが、それは読みではなく未来視に近い。
オットーの才能とは、弓や双剣の技量ではない、
天が生まれつき与えた、第6感、
根拠はないが、その本質を感じ取る能力である。
なんとなくだがこれはやめておこう、そういう風に感じる事がある、
それは、いつもと違う何かを違和感として感じ取っているものだが、
オットーの場合は、無意識レベルのものを情報として読み取る。
ステンパロスでは、そのような強い第6感を、大地の精霊の声と呼び、
それを聞けるものは、シャーマンと呼ばれ、神の使いとして重要な地位についていた。
その、大地の呼び声でオットーは、ソーマの回避先を読み取り、
その先を狙えたのだ。
「くっ、一発で結界を貫くか」
対する、ソーマはそれを受けても健在であったが、
防御として展開されている、闇の結界は、
威力を減衰させたとはいえ、ソーマまで攻撃が届いていた。
「四天王ほどの実力と思っていたが、それを上回るようだな」
ソーマとしても、オットーの実力は四天王程度だと思っていた。
事実、それは昔だったら正しい、だけど、今はそれを上回り、
かつての勇者や魔王に、匹敵するほどの実力だとソーマは感じ取る。
短期間で、これほどの強さを見せた、オットーにソーマは疑問を覚えていた。
「いや、これが戦士としてのオットーなのかもしれないな」
今までソーマが見てきたのは、王としてのオットーだ、
偉大だが、それは王としてであり、戦士としてはソーマに劣っていたが、
今は王ではなく、戦士としてソーマに立ちふさがっている。
王からの責務を離れて、戦士として戦いに集中出来る、
この実力こそ、オットーの真の戦闘能力ということだ。
「どうした? こんなものではないだろ、俺達の戦いは」
オットーは弓を双剣に構え直して、ソーマを挑発する。
それに対して、ソーマは笑みを浮かべた。
「当然だ」
ソーマも剣を構えて、再びオットーに肉薄するのであった。
魔力を爆発させて、接近するソーマ、
その速度だけはソーマが知る最も速い、ローザに匹敵するものだ、
ローザの本気である、知覚出来ないほどの速度ではないが、
ついてこれるものは少ない、オットーとてその速度にはついていけない。
「っ!」
だが、オットーはそれを避けてみせる。
ソーマの突撃は回避されて、その攻撃の後をオットーに狙われる。
直線的な攻撃で、自身のスピードを相殺出来ないままブレーキが出来ない、
そんな背中を狙われるが、ソーマとてそのまま受けるつもりはない。
「くっ!」
剣を地面に突き刺して、それを支柱にしてUターンをする。
勢いを回転によって保ったまま、突然の軌道変更、
剣を手放してまでの奇策であり、これを予測できるものはいない、
「そう来るか!」
なのに、オットーは弓から双剣へと武器を形態変化させており、
それを迎え撃っていった。
そこまでこれば、この異様なまでの反応の速さに対して、
ソーマは1つの仮説を立てる。
「……未来予知か」
ソーマは闇の結界を押し付けながらも、小言で呟く。
ソーマの動作に対して、的確な解答をぶつける。
一手、一手、正確な対処をすることなど人間には不可能だ、
なにせ、その一手は未来への無数の可能性に続いており、
読みとはその中でも、最も可能性が高いものを予測する事であるが、
全てが当たるなど、それこそ未来への選択が分からなければ不可能だ。
奇襲まで読まれるとなると、未来を見なければ不可能だと、
その根拠から、ソーマは未来予知という仮説を立てたのだ。
「随分、固くなったな!」
対する、オットーは接近戦に置いて、ソーマの闇の結界に苦戦している。
先程から双剣で攻撃しているが、効果的なダメージを与えれていない、
といっても、接近戦では未来視が出来る、オットーが圧倒しているが。
「なんだ、そりゃ!」
圧倒している中、オットーは急遽後ろに全力で下がる。
見えたのは自分が何かに掴まれる未来、
余りにも意味不明だが、それは起こりえる結果だったので、
行動に移したのだ。
「ちっ、未来が読めたら、不意打ちも意味ないな」
魔神の攻撃を外した、ソーマはすぐに自身の剣の元に走り出すが、
それを黙って見ているオットーではない。
すぐに魔力の矢を3つほど放つ。
ソーマは魔神を顕現させる。
魔法、魔神、どれも不得意だがそうは言ってられない状況、
矢は結界で防げないのなら、魔神で防ぐしかない。
「おいおい、それがやばい感覚の正体かよ」
感覚でやばさを把握していたが、可視化された魔神を見て、
オットーは、呆れた表情になる。
見たことがない力、しかも巨大なもの。
絶望を抱くことはないが、
こんなのを使役しているとは、相手にするのも馬鹿らしい、
そんな事を思い描いたのだ。
まあ、といっても戦うのをやめるという事ではないが。
「未来が分かっていても、避けられない一撃か」
ソーマは思い出す、魔王の扱ってた魔法、
闇の渦から、隕石を降らす魔神の力、
その範囲ならば、分かっていても避ける事は出来ない。
その魔法名前は、
「アビス・インベイド!」
魔神は手をかざして、空に闇の渦を作り出す、
深淵へと繋がるその渦から出てくるのは、闇魔力の塊だ、
空は、闇の大地と同じような黒雲が覆い尽くす、
オットーはその異変さに気づくが、
それを気づいたのは彼だけではない。
「何事か!?」
この戦場で戦う、皆がその異変に気づいていた。
「あれは!?」
アクアティリスの将も、ステンパロスの武官もそれに気づく、
「これは、魔王の力ですか」
リリーはその正体にいち早く気づく、
ソーマの近くに居て、力を見てきてこともあるが、
聖女の力と正反対であり、なお気づく事が出来たのだ。
「これほどとは……だからこそ世界に喧嘩を売れる事が出来るのか」
遠目でオットーとソーマの戦いを見守っていた、アラヴィンもこれには驚愕だ。
天から振る闇の隕石、これが落ちれば周囲の環境は只ではすまない、
地図を新しく書かなければならいぐらいには、地形に影響が出る。
そんなものが、ただ一個人に対して振り下ろされんとしていたのだ。
「嬉しいな」
オットーは、冷や汗をかきながらも笑顔で返す。
迫りくるのは、暴力的なほどの魔法、
どう考えても一個人にはやりすぎだが、そこまでしなければ倒せないと考えての事だ。
そこまで認められるというのは、オットーにとって嬉しい事。
「俺はお前に憧れを持っていた、勇者というものにな」
オットーにとって、勇者とは憧れの1つだ。
王と勇者、どちらも大した称号だが、
その内容、性質はまったく違うものだ。
世界のために巨悪と戦う勇者、それにオットーはほんの僅かながら憧れを抱いていた。
国にとっての主人公は王かもしれないが、世界にとっての主人公は勇者だ、
そんな国というものに囚われず、
大義名分のままに、まだ見ぬ強敵に挑める勇者を、羨ましいと思ったことがある。
そして、勇者がたどり着いた最後の強敵、魔王、
この魔法は、その魔王の力だとオットーは感じ取っている。
そんな、ソーマがたどり着いた最後の敵の攻撃を向けられる、
戦士にとってこれほどの試練はない。
「お前がこれを打ち破り、魔王を倒したというのならば、俺も打ち破るまで!」
オットーは弓の形態にして、天に向ける。
そして、集中する。
大地に立つ、自分の足、そこから頭の先まで一体化させて、
大地のマナを感じ取る。
大地と一体化する、それ即ち、大地の力そのものを意味する。
火、水、土、風、そして光、小さき力を少しずつ借りて、
迎え撃つのは巨大な闇だ。
ソーマの時のように、巨大な光と闇のぶつかりあいではない、
小さきものが集まり巨大な山となった力がぶつかる。
「太古の精霊の力、いまここに集う……エンシェント・フォース・バスター!」
そして、オットーは大地から集まった精霊の力を天の隕石に解き放つ。
赤、青、茶、緑のマナが光の本流に周り着くように、天を穿つ。
それは闇の隕石も巻き込んで、天高くと放たれ、
空にものすごい爆発を引き起こしたのだ。
その爆心点の真下にはものすごい衝撃が襲いかかり、その周りにも衝撃は伝わる。
前線には暴風として吹き荒れて、
後方の陣地では、まるで竜巻の中に巻き込まれているような暴風だ。
戦いのために構築したテント、旗、そんなものは全て吹き飛んでしまう、
アラヴィンや戦士達も、吹き飛ばされないように必死である。
それだと言うのに、一番近いソーマや、オットーは微動だにしない、
服装や髪は後ろへと吹き荒れるが、身体は一切にぶれていない。
まさに王者の貫禄であろう。
「さあ、防いだぞソーマ」
流石のオットーも服装は乱れ、肩で息をしているが、
それは、ソーマも同じ事。
「……サラは涼しい顔で撃っていたが、これほどとはな」
魔王であるサラは、この魔法を撃って、なお余裕であった。
才能の違い、それもあるが魔法という点では、
サラに驚愕の意しか持たないソーマである。
「もう、撃てないだろうな? もう、一発ってなると俺もきついぞ」
「心配するな、ここからは剣で片を付ける」
やはり、頼れるのは剣、自身の才能の振りどころ。
「そうこなくてはな、俺も近接戦闘の方が好みだ」
「不利なのはお前だぞ」
「抜かせ、お前の魔力が大分減っているのは俺でも分かる」
事実、ソーマの魔力は減っており、結界の強度も弱くなっているであろう。
「不利なのはお前のほうだな」
近接戦闘では不利、だからこそ魔法を扱ったのだが、
結果的には、不利になっているのはソーマであると、オットーは主張する。
「どうかな、お前も大分消耗して疲れている、動きに鈍りが出た時が命取りだぞ」
だが、ソーマは未来視の差は埋まったと主張していた。
万全ではないぶん、動き、思考が鈍り、
未来を視る余裕もなくなると。
「結局、最後は力のぶつかりあいか」
「の、ようだな」
お互いに信じ得る、獲物を握りしめる。
ソーマは片手に剣、オットーは両手に剣、
「行くぞ!」
お互いに声が被り、最後のぶつかりあいが始まったのだ。