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戦う理由を知る

 戦場はお互いに熾烈な争いを広げている。


 アクアティリスは防御を固めて、ステンパロスはそれを突破しようとする。


 まさしく総力戦、お互に全力のぶつかり合いだが、


 最後方では、お互いの将が一騎打ちの形でにらみ合うなど、


 何も知らない兵士が知れば、どれほど驚くことだろうか。


 ソーマは、いつでも戦えるように剣を構える。


 対する、オットーも構えてはいるが、


 何かを考えているような目でソーマを見ていた。


「ふっ」


 そして、小さく笑うと懐から、何かをソーマに向かって投げる。


 ソーマはそれを条件反射的にキャッチして、何事かと、


 投げられてものを見てみると、


 何かを注ぐことに適した物体、即ち杯だと確認する。


 今から酒盛りでも始めるつもりかと。ソーマは疑問に思うが、


 それが正解だと、誰が予想できるだろうか。


 オットーは後ろに待機させていた、酒樽を持ち上げて、


 それを自分の前に置くのであった。


「……酒盛りでも始めるつもりか?」


「戦う前に一つだけ問いたい事があってな、となれば酒宴しかないだろ」


「前線で戦っている兵士を差し置いてか?」


 お互いの兵士達は、命を削り戦っているところである。


 そんな中で酒宴を始めるなど、どうかしているとソーマは指摘するが、


「なんだ、友の最後の頼みも聞けないのか?」


 ソーマはその声が、王ではなくオットーとして語りかける口調だと気づき、


 仕方がなさそうに、歩みを酒樽の元に進める。


 そして、オットーから渡された杯を渡すと、


 オットーは満足そうに、柄杓で酒樽から杯に酒を注いで、


 ソーマに手渡す。


 それを受け取り杯の中を覗くと、そこには透明で透き通った液体が、


 注がれており、酒特有の匂いを発していた。


「毒は入っていないぞ、もし不安なら俺から飲もうか?」


 ソーマがじっと杯を眺めていて、


 毒を警戒しているのだと思った、オットーはそう言うが、


 ソーマは首を振り、杯を前に出す、


 それを見た、オットーも杯を前に出して、お互いの杯を、


 カンという音を立てて、ぶつかり合う。


 乾杯というやつだ。


 そして、2人同時に酒を飲むのであった。



「きついという表情だな、相変わらず酒は苦手か?」


「まあな、だがステンパロスの酒は飲みやすい」


「だろうな」


 ソーマは酒が苦手だ、付き合いや社交辞令で飲むことはあろうが、


 自分から飲むことは少ない。


 そして、世界中を旅したソーマは、嫌でも世界中の酒を飲んできたが、


 このステンパロスの酒が一番飲みやすいと結論づけたのだ。


「さて、俺が問いたいのはだな、お前の世界を壊す理由だ」


「理由か……お前はそういうものは気にしないかと思ったんだがな」


「おいおい、俺もただ戦うだけの狂戦士じゃない、戦う理由ぐらいは知っときたいものだ」


「だが、知れば剣先が鈍ることもある」


「お前はそうなのか?」


「まあ、そういうこともある」


 ソーマは杯に口をつけて、酒をもう一口仰ぐ、


 そして、オットーを真剣な表情で見ながら、


 その重い口を開く。


「俺はこの世界を破壊して、新しい世界を創る」


 その言葉にオットーは驚愕するも、


 少し考えたうちに納得という表情になり、


 一度、酒を仰ぐ、


 そして飲み干したあとにソーマに向き直るのであった。


「ま、納得できる話だ」


「そうか? お前はステンパロスの国王だからこそ、それを否定しただろ」


「今は、ソーマという人間の友だ、俺の友は、どうも人助けが趣味なみたいでな」


 ステンパロスの国王としれは否定しなければならないものも、


 ソーマの友しての視点は、それは納得出来るものであった。


 オットーとて、この世界が完璧とは考えておらず、


 ソーマの壊して創り直すという考えにたどり着くことに理解を示していたのだ。


「だがな、この世界には多くの人間が住んでいる」


「……最近、聞いた言葉だな」


「ということは戻れない所まで来ているということか」


 この世界の多くの生命を切り捨ててまで、それを実行する。


 オットーはそれだからこそ、この選択を受け入れないのだが、


 ソーマはそれを知って、なお実行しようとしている。


 ならば、既に引き返すつもりはない、


 知らずに破壊するのではなく、知ってなお破壊する。


 その覚悟を止めれるほどのものを、オットーは持っていない。


「……ならば、後は戦うしかないな」


 交渉は決裂、


 後は力で自分の正義を押し通さなければならない。


「やはり、こうなるしかない、この酒宴に意味があったのか?」


「全て意味があるものではない、例え意味が無くても知らなければならないこともある」

 

 ソーマとオットーは、お互いに杯を地面に置いて、


 距離を取る、その距離は初めに睨み合った距離であった。


 ソーマは剣を構えた。




 ――それがお前が出した答えか。


 いや、違うなこれは俺達が出した答えだ。


 お互いに正義を持って、ぶつかり合うだけ、


 所詮、この世界ではこうでしか決着がつかないといことか。


 そういう意味では、お前の意見は正しい、


 この世界を一からやり直すしか、


 闇を完全に照らすことなど出来ないだろうな。


 一国のために戦うなど、お前からしてみれば小さな事かもしれない、


 だけど、俺はその一国がこの世界より大事だ。


「だからこそ俺は戦える!」


 オットーは前に出る、


 ソーマはそれを見て、同じように足を踏み込む、


 お互いに衝突するような形でぶつかり合い、


 大地が揺れて、空間は震える。


 お互いの間にあった、杯と酒樽は大きく吹き飛び、


 オットーは両手に剣を構えて、ソーマはそれを受け止めている。


 双剣だ、オットーの戦闘スタイルは両手に剣を構える、二刀流だ。


 ギリギリとお互いの剣は鍔迫り合い、震える。


 力は互角、押し切ることは出来ずに拮抗しあっている。


 単純な筋力では互角、ならばあとは魔力の勝負だ、


 ソーマは集中する。


 体内の魔力を爆発するように、腕に剣に流れ込ませる。


 魔力によるブースト、勇者の時から好んで扱う、戦闘方法だ。


 単純なものだが、ソーマにとってこれが最も良いと思った方法、


 ソーマの剣は、オットーの剣を凌駕し始める。


「これはやばいな」


 冷や汗を流しながら、オットーは分析する。


 単純な力のぶつかり合いでは負けていると感じたのだ。


 ならば、オットーは引いて、体制を立て直そうとするが、


「逃さん」


 ソーマは、勿論、それを追撃する。


 ダークネスソード、闇の魔法だ。


 多数の闇の魔力の剣が、オットーに襲いかかる。


「右に……左か」


 だが、オットーはそれを焦ること無く、左右に身体を振り回避する。


 やってることは、只の回避だがその回避の仕方が、


 ソーマには異様に写った。


 放たれる前からの回避行動、


 紙一重に避けたように見えるがそれは違う、


 分かっていたように最小限の動きで回避した。


「ちっ!」


 何か種があると思ったが、


 だからと言って臆すわけにはいかない、


 ソーマは踏み込んでオットーの死角に回り込もうとする。


「おっと、そういう腹か」


「なに!?」


 だが、ソーマの移動先をオットーは読んでいたかのように、


 先回りして、双剣をソーマに叩き込む。


 ソーマはそれを剣で防ぐが、衝撃は伝わり、ソーマの身体は後方に大きく吹き飛ぶ。


「考えている暇はないぞ!」


 すると、オットーは双剣の柄を合体させて、弓のような形に変形させた。


 そして、弓の弦を大きく引く、矢は己の魔力だ。


 オットーは魔法の代わりに、このようにして魔力を使用する。


 ソーマは、とりあえずはその場から逃げようと回避行動を取り、


 オットーの魔法矢もそれと同時に放たれる。


「くっ、また!」


 そして放たれた先は、ソーマの回避先、


 矢は的確にソーマに向かって放たれていたのだ。

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