戦争前のやり取り
「騒がしいな」
ソーマがアクアティリスに帰還した時、
なにやら国全体がざわついているという感想を覚えた。
何かあったのかと思い、2人は駆け足気味に宮殿に向かう。
「おかえりなさい、ソーマ様」
宮殿では、メルアが2人の前に出てきて、
彼女は喜びと安心の混ざった表情を見せる。
「ああ、何かあったのか?」
「……はい、とりあえずは作戦本部に」
メルアはとりあえず、2人を作戦本部の部屋に案内した。
「なるほど、宣戦布告か」
メルアから渡された書簡、それはステンパロスはアクアティリスに、
宣戦布告を行う旨を書いた、書類であった。
「まったく、あいつは」
「この書類は必要がないもの、何か別の意図を感じますが」
「いや、この文字通りだよ、ステンパロスはこれから進軍をしてくる」
この類の書類は、国家間で交渉が決裂した時に送る書類だ、
既にアクアティリスとステンパロスは戦時下にあるので、
宣戦布告の書類など必要ないものであり、軍師はこれを罠か、
時間稼ぎなど、裏を見るが、ソーマはそうでなく文字通りの意味だと説明する。
「オットーはこういう謀略を仕掛けてくるタイプではない、まあ、正々堂々と戦うということか」
「そうですか……では、捕えている使者はどうしますか?」
「捕えている? どういうことだ?」
使者は干渉してはいけない、そういう暗黙のルールがあるが、
この重役達は、その使者を捕えていた。
「宣戦布告との事ですが、既に宣戦布告はなされています、和平でもなく訪れた使者は、野放しに出来ないので」
「なるほど、その使者は戦時中の敵国に、宣戦布告の通達をしにきた、確かにおかしい話しだな」
「それに、ソーマ殿に話があるみたいで」
「俺にか?」
「はい」
何の用があるのか、ソーマは検討もつかないが、
とりあえずは会ってみよう思ったのだ。
使者は、宮殿の地下の牢獄に収容されていた。
様々な犯罪者を捕えておく施設であり、暗い雰囲気が漂う。
「さて、ステンパロスの使者を呼んでいただきたい」
「了解しました!」
監獄の兵士は、敬礼をして、尋問室を出ていく、
すると、物の数分でステンパロスの使者は部屋の中に連れてこられた。
「拘束は解いてもいい」
「しかし!」
「彼は使者だ、拘束は失礼にあたるだろ?」
ソーマがそう言うと、手枷と足枷は解かれて、
使者は自由な身となる。
「さて、君は俺に用があると聞くが?」
「はい、私はオットー様の言葉を預かっています」
「オットーの?」
使者がそう言うと、彼はオットーから預かる言葉を口に出した。
「これが最後になるだろう、本当に思い直すつもりはないのかと」
オットーは、確かにソーマと戦いたいという気持ちもあるが、
友であるという気持ちもある。
リュミエールの塔では戦おうと言ったが、冷静になればやはり友として、
接してしまうのがオットーという人間であった。
その事を知っている、ソーマは笑みを浮かべて、その言葉を笑う。
「賽は投げられた、と返しておこう」
既に止めることは出来ないとの言葉だ。
「さて、君はどうするんだ? この国では君は使者ではないということになっている」
「私の役目は、この書簡と言葉を届けるだけです」
「なるほど、覚悟は出来ていると」
「当然です」
使者とは言え、アクアティリスでは只の敵国の人間という事になる。
戦時中に勝手に寄越した使者は、正式なものではないという、言い分だ。
「ふむ、だが、敵とは言えオットー王だ、返事を返さなければ失礼に当たるな」
そう言ってソーマはその使者を開放して、
ステンパロスに返したのだ、ソーマの言葉を伝えるために。
「使者が帰りました!」
「おお、では早速報告を聞きたい」
ステンパロスでは、着々と進軍の準備は整っており、
後は報告を待つだけであった。
「生きて帰ってこれました」
「だろ、ソーマとはそういう奴なのだ」
使者は、一方通行で書簡を届けたら、殺される覚悟だった。
それでも、オットー様の意思を尊重しようと立候補したのだが、
生きて帰ってこられるのは意外という表情だ。
「で、ソーマは何と言った」
「賽は投げられたと」
「……そうか」
それはオットーにも意味は通じる。
止まる気はない、戦うしかない、それがこれから起こる事だ。
だが、ソーマは友とは言え、戦わないという選択肢を取らないオットーではない、
むしろ、この答えを待っていたかのように、闘争本能には火がついていた。
「ふっ、友だというのに殺し合う事に期待をしている……やはり、俺は戦士なのだな」
自分が認めた強さを持っているからこそ、戦いたくなる。
それが戦士というものだ。
「アラヴィン!」
「何なりと」
「戦士に通達しろ、これからアクアティリスに向かうと!」
「了解しました」
戦衣装に包んだ、オットーとアラヴィン、
彼らは、今か今かと血を滾らす、戦士たちに進軍を伝えると、
その場は湧き上がり、歩みをアクアティリスに向けたのであった。
「時間は出来たな」
「ですが、少ないことには変わりありません」
一方、アクアティリスでは、対ステンパロスの対策が練られている。
宣戦布告という、オットーの正々堂々とした態度により、
アクアティリスは考える時間が確保することが出来た。
だが、それでも僅かなのは変わりがない。
「北の戦力の半分を南に移します」
「そうだな、警戒するに変わりはないが、ステンパロスと戦うとなると現状の戦力では足りんからな」
北のクロムベルトやケテンベルク、それを警戒しつつも、
戦力は南に集中させる。
そのための時間ぐらいはあった。
「ですが、練度という点で私達はステンパロスに勝てるのでしょうか?」
「いや、無理だな、向こうは戦いに慣れている」
兵士の練度、その点で言えば、アクアティリスとステンパロスでは差がある。
兵力差は負けており、数も負けている、勝っているのは防衛側なので、
攻めるよりはこっちのほうが戦いやすいということだけか。
「となると作戦は」
「まあ、俺を主軸に置くしかないだろ」
なら、ソーマという切り札を主軸に置いて、戦うしかない。
「それにリリーがいるなら、守りという点では負けてはいない」
防衛のスペシャリストのリリー、聖女の結界はこういう時こそ、
最も効果を発揮する。
「では、陣地を作成しないとですね」
「頼む」
軍師はそれを聞いて、敵の進行ルートの予測して、
その地図をリリーにわたす。
「ですが、守ってばかりではジリ貧です」
「ああ、メルア、そのために俺がいるんだ」
「……また、単騎特攻ですか?」
「不足か?」
「不足です!」
メルアには珍しく、ソーマに対して強い口調で否定して、
ソーマだけでなく、その会議の皆は思わず驚愕する。
「危険すぎます、ソーマ様は自分の身を少しは考えて……」
「メルア、俺は十分自分の事を考えているよ、この道しか皆が生き残る道はないんだ」
結局、戦争はソーマ頼みになるのは仕方がないことだ。
つまり、ソーマが無茶をしなければ、勝ち目はないという事。
そう言われては、メルアは口を閉ざすしかなかった。
「俺が敵将を討つ」
「となると、オットー王と戦うということですか」
「向こうもそれを望み、そう考えて戦ってくる、俺を抑えとけば戦争は勝てるからな」
ソーマが以外、恐れるに足らず、実際、ソーマが動けなければ、
兵力差で徐々に守りが突破されるのは、明らかだ。
「だが、それはチャンスだ、最も障害となるオットーが居なくなれば、俺を止めるものはなくなるだろう」
「つまり、ソーマ殿が警戒しているのは、オットー王だけだと?」
「ああ、そうだ、あいつは必ず俺に食いついてくる」
ソーマはオットー以外は、どれだけ強かろうと烏合の衆だと考える。
実際それは正しく、この戦争はオットーとソーマの戦いになるであろう。
オットーが勝てば兵力通りの結果、ソーマが勝てばそれを覆す結果になる。
だからこそ、ソーマはオットーを倒さなければならず、逆も然りなのだ。
「よし、すぐに隊を編成する、迎え撃つぞ!」
勝負は3日後、この戦争初めての真正面からのぶつかり合い。
おそらく悲惨な戦いになるが、もはや止めれるものはいない、
ステンパロスとアクアティリスの軍靴の音は、
お互いに聞こえる位置まで迫っていたのだ。