戦士達は立ち上がる
ステンパロスの王宮前の広場、
そこに今数多くの民が集まっている。
不在だった王が帰ってきて、声明が始まると聞いたので、
急遽、集まったのだ。
皆は、いまかいまかと、オットー王が出てくるのを待ち望んでいる。
「準備はいいか?」
「はい、いつでもいけます」
アラヴィンは隣の立っている、風の魔法使いに確認する。
彼は、オットーの声を魔法で遠くまで運ぶ役割を持っており、
結構重要な役割だ。
そして、アラヴィンもその返事を聞いて、後ろに待ち構えている、
オットーにアイコンタクトを取る。
今のオットーは、伝統的な衣装に着替えており、
国内向けの正装を施していた。
「オットー様だ!」
集まった中でそんな声が上がると、ガヤは止み、
王宮の一番高い位置に立つ、オットーに注目は集まる。
「我が国の民よ、国を空けてしまってすまん!」
第一声は謝罪の言葉であった。
王たるもが簡単に頭を下げるなと思う武官もいるが、
オットーはこういう性格なのである。
だからこそ、下の者に慕われているのだが、
アラヴィンもやれやれと言った感じで、それを見守っている。
「オットー様、戦争は本当に起こるのですか!」
「ああ、起こる」
民衆の1人の質問に、オットーは淡々とそう告げる。
勿論、民衆はざわつき、不安になる。
「いつ戦いが起こるのですか?」
「明日にでもだ」
「なっ!」
そして、更に不安がる事を言って、
ざわつきは最大に達して、暴動寸前にまで場は混乱してしまう。
「静まれ!」
だが、オットーはたったその一言で民衆を黙らせてしまった。
ざわついていた広場に静寂が訪れて、王の次の言葉を皆待つ。
「敵はかつての勇者であり、今は世界を破壊する魔王となった」
そして、自分たちの敵を告げると、
その巨大さに皆一歩引いたような表情になる。
「世界を壊す……それ即ちステンパロスも破壊することになる、私はそれがどうしても許せない、だから戦うのだ」
オットーの決意を込めた表情が国民たちの心を動かす。
「皆はこの国が好きか? 私は好きだから戦うのだ、だが皆はそんな事を考えなくてもいい、ただ隣に立つ大切な者のために戦ってくれ」
国のために戦うのは王だけで十分、オットーはそんな願いを込めてそう言ったのだ。
「逃げ出したいものは逃げてもいい、北にいけばクロムベルト、西にいけばブライトニア、このオットーが必ず受け入れてもらえるようにする、だがもし戦う意思があるならば剣を取り私と一緒に戦って欲しい!」
オットーは命令ではなく、お願いをする。
最終的に自分で選択して欲しいと、そして民の答えは決まりきっていた。
「ここは戦士の国だ、守りたいものがあるならば戦うのみ!」
1人の勇気ある国民がそういった、彼は只の平民だ、特別な力はない、
だが、彼の言葉は同じ力なきものに勇気を与えた。
「俺だって、この国が好きだ! だから、戦うぞ!」
彼に同調するように、民衆は立ち上がる。
「オットー様、そんな事を言わないでください! 私達、戦士はオットー様を、この国を守るためにこの道を選んだのです、だから命令してください!」
戦士たちは言わずがも、国のために戦う気は満々であった。
「ふっ、戦士の血が騒ぐというもの、元勇者が相手とは」
武官達は、その勇者との戦いを想像して、既に武者震いをしていた。
「そうか、皆、感謝する!」
それで、オットーの演説は終わったのであった。
「お疲れ様です」
アラヴィンは、一言オットーに声をかけると、
オットーは空を見上げながら、感嘆といった表情であった。
「この国はいいところだな」
「はい」
「守るぞ、この国を……そのために他国を滅ぼすことになろうともな」
他国を侵略、滅ぼす、そういうのはオットーとて好みではない、
だが、今、オットーの覚悟は決まった。
「後の事は分かるな?」
「はい、女性と子供の避難、戦士を希望するものは、男女関わらず、後方支援、もしくは戦えない者の護衛、元からの戦士で前線の隊を組む、ですね」
いくら戦士基質の国民性とは言え、今からでは練度が劣ってしまう。
無駄な犠牲を出さないためにも、今から戦士を希望するものは、後方支援に徹させるか、
もしくは、大切な家族や友を守らせる。
逆に普段から訓練をしている兵士は、前線に送る。
「ああ、それと宣戦布告を忘れるなよ」
「既に宣戦布告はされているのでは?」
「それでもだ、あいつとは対等で戦いたい」
あいつ、それが誰を指しているのか、アラヴィンには理解できた。
既に宣戦布告はなされており、
アクアティリスはどこから、いつ攻められても文句は言えない、
ステンパロスが不意をつくことだって出来る。
だが、それでも通告するのは、オットーのわがままだ。
だが、そういうオットーのやり方を好む、国民性なのも事実。
アラヴィンはやれやれとなりながらも、
宣戦布告の書類を作成し始めたのだ。
そして3日後、その通告を持った、使者がアクアティリスに到達する。
「これは……」
「これが我が国の意思です」
メルアはそれを受け取り、不安な表情になる。
ソーマがいない今の状況で宣戦布告、
メルアは、ただただソーマの帰還を願うだけであった。