復讐者と悪の聖女
祈りの間は、ソーマと聖女だけになる、
復讐が終わり、聖女には聞かなければならないことがある、
そう思い、聖女をにらみつけるように見る。
「この結界を解け、無駄だという事が分かってるだろ?」
ソーマは聖女に命令をすると、案外呆気なく結界は解かれる。
「どういうつもりだ?」
「どういうつもりといいますと?」
「とぼけるな、本心を言え」
エリーゼを外に出した行為。
出さなくても結果は変わらないとは言え無視出来ないものだ。
「いいのですか? 本心を言っても?」
「ああ、答えによってはどうなるか分からんがな」
ソーマはにらみつける、自分に好意を持っているのか。
それとも助かるために犠牲にしたのか。
どちらにせよ、判別する必要があった。
「……たまらない」
「は?」
「たまらないですわ! 元仲間同士で戦う姿は思った以上に美酒ですわ! あの剣士の四肢が吹っ飛んだ時、正直絶頂しましたわ! ……まあ、その後の蛇足で冷めましたけど、腹いせであの女を外に出しましたけどやはりナイス判断でしたわね」
余りの事にソーマは呆気にとられる。
「あの女の命乞い、そして狂う姿、もうこれだけでニヤつきが止まりませんわ!」
「ああ、もういい、頭が痛くなってきた」
流石にこの本性は予想外もいいところであった。
「俺の見舞いに来てた理由はその姿を見て笑ってたてところか」
「ええ、たまりませんわね」
「命は惜しくないのか」
「惜しかったら、暴露しませんわ! ……私を殺してくれませんか?」
「なに?」
突然冷めた彼女にソーマは疑問の表情を浮かべる。
「聞いての通り私の本性は悪です、とびっきりの邪悪」
確かに趣味が悪いのもいいところだ。
そして悪、邪悪の感性、
断罪されるべき存在。
「生まれた時から、人の不幸を望み、笑い、喜ぶ、あってはならない事です」
それは確かにあってはならない感情かもしれない。
「聖女がですよ? 治そうとしましたが、どうやら私は壊れすぎているようです」
「そのために死か」
「はい」
死ななければならない。
死ぬべき存在、だけど、どうしても生を望んでしまう。
不幸を食べるために、生むために、それはどうしようもない本能であった。
だが圧倒的な力で殺されるなら仕方がない、そう思っていた。
――似ている。
彼女は俺に似ているんだ。
勇者でありながら、復讐の道を選んだ俺。
聖女でありながら、邪悪の道しか選べない彼女。
どっちも壊れている。
それは先天的なものか後天的なものかの違いだけだ。
現に今の道はとても似ているのだ。
「いいじゃないか、壊れていても」
「え?」
突然のソーマの言葉に彼女は呆けた声を出す。
「どうせ、くだらない世界なんだし」
「ですが……」
「あってはならないっていうなら、俺が君を肯定する。」
「あなたが?」
「魔王を倒した勇者だが、仲間に裏切られて絶望し世界を変えることにした、俺でよければな」
「ふふ、大層な称号ですね、ですが悪くありません」
「まあ、壊れたもの同士よろしく」
ソーマは手を握る。
彼女がソーマの新しい仲間となったのである。
「あ、そういえば名前を聞いてなかったな」
「え、私、貴方が勇者の時代にも何度かあってますよ?」
「すまない、あの時は必死だったから」
確かに勇者時代にも何度か顔を合わせた事もある。
だけど、魔王を倒すことに集中していたので、頭に入ってこなかったのだ。
「もう、私はリリー・レクレール、リリーでいいですわ」
「そうか、よろしくリリー」
――光に染まる事を良しとしないものもいる、ソーマとリリー、2人のように闇に染まるほうが馴染む人間もいるのだ。