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戦士王の帰還

「いつになったら戦いが起こるんだ!」


「オットー様はどうなっている、なぜ表の舞台に出てこないのだ!」


「戦うなら、戦うと言ってくれ!」


 これがステンパロスの現状である。


 王が不在な現状、そして、国家間の緊張感、それが国民や兵士にも感じ取り、


 極度の不安感を与えている。


 それに頭を悩ますのは、現状での実質のトップである、オットーの副官、


 アラヴィン・アラビスである。


「困ったものだ」


 国王である、オットー・ステンラスは不在である。


 そこで、副官であるアラヴィンが外交、内政を仕切っていた。


 元々、オットーはそういう事は苦手で、普段と変わらない事であるが、


 やはり象徴であるオットーが居ると、居ないでは、効率が違ってくるのだ。


 円滑に物事を進ませるという点では、オットーの存在は偉大である。


「しかし、オットー様が必要だと言うならば、仕方がない」


 オットーは今、来るべき決戦に向けて、修行をしている最中だ。


 どこに行ったかは、アラヴィンも想像が出来る。


 ジャングルの奥にある、神聖な地、


 そこにある、深淵へと繋がる大穴だ。


 あえて、闇に身を任せることで、闇に対する力を手に入れる場所、


 かつての勇者が闇に染まったなら、それが必要だとオットー様も思ったはず、


 アラヴィンはそう推測して、それは当たっている。


「だが過酷な地だ、いくらオットー様とは言え無事に帰ってこれるかどうか……」


 ステンパロスの王ならば、一度はそれに挑まなければならない、


 多くの戦士が命を落とす場所だが、オットーは一度それを制している。


 だからこそ、王になったのだが、


 二度目はどうかと言うと必ず戻ってこれる訳ではない。


 それほど、厳しいところなのだ。


 アラヴィンは、もしオットーが帰ってこない事を考えてしまい、


 胃がきりきりと痛むのを感じて、ついお腹を押さえてしまう。


「アラヴィン様、食事の準備が出来ましたがどうしましょうか?」


 そんな時、ノックをして執務室に部下が入ってくる。


「片付ける書類が……いや、頂こうか、食堂に足で向かう」


 ここ3日、水しか飲んでいないが、


 気分転換にと食堂に向かおうと思い、席を立つ。


 だが、フラフラでありまともに歩けるか怪しい様子で、


 部下は思わず心配になってしまう。


「私で良けれ書類を手伝いましょうか?」


「いや、これは私がチェックして、判断しなければならないものだ、気持ちだけは受け取っておく」


 どの書類も重要なもので、アラヴィンが判断して、責任を持たなければならない、


 だがこの書類の量は異常であり、多すぎるがそれには理由があり、


 それは国の方針、戦士が伝統的に重視されているが関係がある。


 ステンパロスの民は武官だが、文官ではないということ、


 このように行政を行える者は少ないのだ。


 その中でもアラヴィンは特に優秀であり、オットーの副官を務めているが、


 それが故にアラヴィンはこの手の事に頼られがちだ、


 そうすると自然にアラヴィンに書類が集まってくる。


 それこそ、飯を食べる暇もないほどにだ。


「最後に食べたものは……干し肉だったな」


 アラヴィンが記憶を辿ると、3日前に干し肉をかじりながら、


 執務室で書類を整理していたことを思い出す。


「たまには普通なものを食べないとな」


 思うかべるのは、スープにサラダに、魚か肉のバランスの良い料理、


 普通ならば持ってこさせるのだが、気分転換にわざわざ食堂に向かったのだ。


 生き抜きも含めて、少しは休憩するかと思い食堂のドアを開けると、


 アラヴィンは予想にしなかった人物と会うことになる。


 まず、見えたのは肉、そして次に見えたのは肉、


 テーブルは、まさに肉料理の嵐である。


 誰が、こんなにも肉料理を?


 そう思ったのもつかの間、その中心には納得が出来る人物が座っていたのだ。


「もぐ……ん、アラヴィンか、お前も飯か?」


「オ、オットー様!? いつの間に帰ってきたのですか!?」


「今しがたな、やはり料理とはいいな、自然の味もいいが飽きるというもの」


 一心不乱に肉料理にかぶりつくオットー、1人で5人前はいっているだろうか、


 それでもなお、料理を腹の中に収めていた。


「どうした、アラヴィン、お前も食え、飯を食べに来たのだろ?」


「あ、はい……いやいや、帰ってきたのなら今の現状を……」


「いいから座って、飯を食え」


「……はい」


 オットー様が帰ってきたと国民に知らせなければならないとアラヴィンは思ったが、


 オットーはそれを制して、座って飯を食えと言い聞かせる。


 それに逆らうわけにもいかずに席に座ると、厨房から料理が持ってこられたのだ。



「うん、うまいな、やはり料理とは素晴らしい文化だ」


「そうですね」


「なあ、それだけでこの世界を守る価値があると思わないか?」


「なんですかそれは?」


「ん、いや……世界を守る理由ってやつだ、駄目か?」


「ははは、それはあまりにも小さいのでは?」


「やはりそうか……まあ、相手は世界のために戦ってるやつだったからな」


 お互いに談笑を繰り広げ、笑い合う。


 この瞬間、アラヴィンは久しぶりの安らぎを得ており、


 十分な休憩になっているが、オットーの目つきが変わり、


 場は一瞬でシリアスな雰囲気に包まれた。


「だからこそ俺は、ソーマがただ世界を破壊しようとしているとは思えないのだ」


「ですが、あれほどの裏切りがあれば、勇者とは言え、悪に落ちるのでは?」


「ソーマはそんな奴じゃない、あいつにあるのは優しさだ、誰もを救おうとする強欲さもあるが、基本的にその行動は善に繋がっていた」


「破壊することで救済をすると?」


「まあ、この世界は光よりも闇が目立つからな」


 いいとこより、悪いところが目立つのは仕方がないことであった。


 いいことは刹那的な事だが、悪いことは持続する。


 一瞬の幸福を求めて、数多もの苦しみを我慢するのが人生だからだ。


「だからと言って、世界を破壊するのは極論ですね」


「ああ、その通りだ」


 だからこそ、オットーは敵になった。


 世界を滅ぼす、それはステンパロスも含まれている、


 国を守る王としては、それだけはどんな信念があろうとも、


 許容することなど決して出来ないのだから。


「む、もういいのですか?」


 オットーは食事を中断して、立ち上がる。


 アラヴィンも食事を終えたところなので、それを見計らっていたのであろう。


「声明の準備だ、アラヴィン」


「ということは」


「ああ、戦うぞ」


 王の声は力を持つ、オットーが戦うと宣言すれば、


 国民は武器を持ち、戦士となる。


 アクアティリスに迫る戦争の影、


 それはすぐそこまで来ていたのだ。

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