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ソーマの選択

「ん……あれ、ここは……」


 ローザは目を覚ます、まず目に入ってきたのは綺麗な何か、


 思い出すのはソーマとの戦い、負けたところまでは覚えている。


 なら、ここは死後の世界、そう思えるほどここは光に溢れていた。


「そっか、私は死んじゃったんだ」


 ローザは寝転びながら手を天井に向ける、


 自分の手のひらを裏表にひっくり返して、自分の状態を確認するが、


 驚くほどに生前と変わりがない。


「シスターは無事なのかな……魔王様の意思を継ぐ、ソーマが温情をかけるとは思えないけど」


 魔王は非情な人間であった。


 特に敵であるものには容赦がない、味方は必ず敵じゃなくてよかったと思うほどだ。


「ローザ!」


「え、シスター!?」


 すると、ローザの手を握るようにして、マリアがローザの視界に映る。


 思わずローザはガバっと上体を起こして、目をパチパチとする。


「そっかあ、やっぱり殺されちゃったんだ」


「何を言ってるの? 私も、貴方も生きていますよ」


「え、本当!? じゃあ、ここは……」


「教会の中ですよ」


 ローザは良く見てみると、雰囲気は明るいものになってるが、


 その構造はいつもの教会だと気づく。


 ローザは祭壇の一番近い、信者席に寝かされていたのだ。


「良かった、この祭壇は祝福がかかっているから、目を覚ましてくれると思いましたが正解だったようですね」


 ローザは魔力切れで寝込んでいた。


 その事を知らないマリアは、一か八かの祝福の力で、


 ローザを良くしようと思ったのだが、


 それは奇しくも正解であった。


 祝福されたものはマナを宿す、聖女のものとなると多くのマナが集まり、


 魔力が切れたローザの回復を早めたのだ。


「えっと、結局どうなったの?」


「貴方達は教会から離れた所で戦ってました、そして、ものすごい轟音に私は居ても立ってもいられなくて、そっちに向かおうと思ったら、天から光が降り注いで、その地点に貴方は倒れていたのです」


 それは最後の決戦の場面だとローザはすぐに思い出した。


 最後の光景は、自分がソーマに剣を向けられて、


 今にも殺されそうなところだったが、こうして生きている。


「温情をかけてくれたのかな?」


 昔のソーマなら温情をかける。


 事実、ローザは一度見逃されているが、


 今のソーマが温情をかけるとは思えず、疑問を抱いていた。


「どちらにせよ、無事で良かった……ごめんなさい、私があんな事を言ったばかりに……」


 マリアは悔いていた。


 今までは1人だった彼女、何を言っても、何をやっても、


 しわ寄せは自分の所に来る、自己責任だった。


 だけど、今はマリアを大切に思う、ローザがいる。


 マリアの行動は、ローザにも影響するということを彼女は理解していなかったのだ。


 だからこそ、今回の件を巻き込んでしまった事に、マリアはひどく落ち込んでいた。


 だが、ローザはそれに笑顔で答える。


「ううん、シスターは、自分の意思を貫いた、かつて魔王様が言ってた、大事なのは意思を持つことだって、だからシスターの行動は正しいと思う」


 何かを為そうとする意思、それを魔王は重視して、良いと思っていた。


 それは、ローザも同じ考えであり、マリアの意思を否定することはない。


「でも、やっぱり私はシスターの命が大切だから、無茶はしないで欲しいかな、あ、でもそういう時は私が守ってあげるからね!」


「……そうね、頼りにしてますよ、ローザ」


 ローザとマリアはお互いに笑顔で絆を確かめあった。




「非情かと思えば温情、ソーマ貴方には迷いがあると見えますが?」


「……そうか?」


 ソーマとリリーは、アクアティリスに帰る道中だ、


 リリーはソーマの行動について迷いがあると指摘するが、


 ソーマはとぼけたようにはぐらかす。




 気絶したローザに剣を向けるソーマ、


 後はそれを振り下ろせばローザは死に、


 マリアを殺すための障害はなくなる。


 それこそが、自分の道を阻むものへの末路に相応しい、


 魔王ならそう考えるであろう。


 だが、ソーマならどうだろうか?


 彼なら、ここで温情をかけるであろう。



「迷っているのか?」


「……あのシスターの言うことは正しい」


「確かにな、だがお前には、お前の正しさがある」


「そのために殺すと?」


「ああ、殺す、それが魔王たる者の生き方だ」


「ああ、そうだな」


「だが、お前はどうだ?」


「なに?」


「お前は魔王ではない、お前自身の選択をするべきだ」


「俺自身の選択?」


「ああ、後悔だけはしないようにな」


「……そうか、俺自身の選択か」


 ソーマは剣を持つ手の力を緩めて、そのまま剣を引き収める。


「命は取らないのですか?」


 いつの間にか現れていた、リリーはソーマに問いかける。


「ああ、そうだ」


「……そうですか」


 リリーは落胆したような顔になるが、


 ソーマの顔はどこか晴れ晴れとした表情であった。




「まるで、仮面をつけて演じている自分と仮面を外した本心の自分が同居しているようですね」


「人はそういう者だろ、誰しもが仮面をつけて他者を欺いている、君だってそうだったはずだ」


「ええ、ですが貴方はどっちが本当の自分なのでしょうか?」


「どういう意味だ?」


「聖女である私と、悪女である私、貴方と出会う前の私は本当の自分が前者だと信じ込んでいました、ですが結局私は悪であった」


 聖女でなければならない、リリーはそう思い、


 本当の自分を覆い隠していた。


 だが、結局本性とは消せるものではなく、それこそ死でしか消せることは出来ない。


 だからこそ、リリーは死を望んでいた事がある。


「ですがソーマという人間は、人を救おうとした勇者か、それとも悪道を貫く魔王か、そしてはたまた優しさを抱く只の人なのか、果たしてどれが本当の自分なのですか?」


「……つまりは一貫性がないと言いたいのか?」


「過程によって人は変ります、だけど根本にあるものはそうそう変わりがない、貴方はやはり、向いていないと思っただけです」


 結局の所、ソーマは優しさを持っている。


 仮面を被って悪を演じたって、人を救いたいという思いは忘れてはいない。


 だからこそ、この世界に恨みを持ちながらも、全てを恨んだりは出来ない。


「何度も言うが、俺に後戻り出来る道はない」


「傷つきながらも進み続けると?」


「そうだ、だからこそ、君も俺についてくるのだろ?」


「ふふふ、よく分かっていますわね……ですが、これは聖職者としての忠告でもあるのですよ、正しさとは時には残酷なものである、知らないほうが良いこともある」


「残念ながら、俺はそういう生き方を好まない」


「そうですか、不器用なのですね」


「そうだな」


 今とは違う生き方もあったはずだ、


 クロムベルトから逃げ出して、1人でこっそりと平穏に生きていく選択肢もあった。


 だけど、ソーマは世界の敵になった、


 なぜならそれが、正しいと思ったからだ。


 心が命じた事に逆らうことが出来ない、


 それは不器用な人間の生き方である。


 器用な人間は仮面をかぶり、本心を隠して生きていけるのであろう。


「私としては、傷つきながらも破滅の道を行く、貴方の生き様は甘美な蜜ですわ、それに行き着く先が世界の破滅というのも私好み」


「ふっ、相変わらず趣味が悪いな」


 リリーはそういう人間だ、悪性でしか喜びを感じる事ができない、


 先天性の悪、どうしようもない性。


「……ですが、私はソーマという人間をどう思っているのでしょうかね」


 最後の言葉は、ソーマに聞こえないように小言で呟いた。


 リリーという人間は、ソーマの事をどう思っているのか、


 先天性の悪だからって、後天的に善が生まれる事もある、


 本当にソーマの道を愉悦とするならば、忠告なんてしない、


 ただ、それに盲目になるように手助けするだけだ。


 聖職者だからと理由をつけているが、


 リリーはソーマがその道を歩くのを、


 本能的に悲しんでいるのかも知れない。


 だが今のリリーにそれを認識することは出来なかった。


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