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真実を知れば


「シスター、帰ったよ!」


 襲撃をくらった昼に、ソーマとローザの2人は教会に帰ってきて、


 ローザは元気よくマリアに挨拶をする。


 教会の中は、リリーが行った祝福のおかげで、


 出てくるときよりも綺麗で、明るいような雰囲気に変わっており、


 ソーマもローザもその様変わりには驚いていた。


「眩しいな」


「祝福を行いましたので」


「ああ、あれか」


 ソーマもクロムベルト出身なので祝福の事は知っていた。


 幼馴染であるレイナからもらったお守りを、


 教会で祝福してもらったこともある。


「あれ、シスターどうしたの?」


 一方、ローザは祭壇の前で立ち尽くす、マリアを心配するような表情で見ている。


 顔を覗き込んでみると、そこには覚悟を決めた者の表情を見せており、


 ローザはそれに不穏な何かを予感していた。


「ソーマさん、1つだけ聞きたいことがあります」


 そして、ゆっくりとソーマの方に振り向き、歩き出す。


 ソーマはそれを何事かと思い、返事を返し様子を見ることにする。


「なんだ?」


「貴方の目的は、この世界を壊し、創り変えるとのことですが」


「なぜそれを……いや、リリーか」


 面白そうにそれを見守る、リリーを見て、


 喋ったなとソーマは睨みを聞かせる。


「この世界には、沢山の生命が生きています、どうか思い直してくれないでしょうか?」


「ただ破壊するだけではない、良い世界にしてやり直すだけだ」


「ですが、今この世界に生きているものは? それを見捨てるということになります」


「……こんな不完全な世界なんて、ないほうがマシだ、それに俺はもう引き返せないところにいる」


 ソーマだってそれは知っている。


 自分がやろうとしていることは、今の世界を、


 そこで生きているものを見捨てるということ。


 そうだとしても、こんな不完全な世界よりはマシという考えに至り、


 自分自身も、もう引き返せないところまで歩いているという思いからだ。


 止まることが出来ない、賽は投げられた、つまりはそういうことなのだ。


「リリー様、もし神が間違っていたらどうするか聞きましたよね?」


「ええ、答えは出ましたか?」


「私はその間違いを直すために立ちふさがると思います」


 そういって、マリアはソーマをじっと見る。


 その意思の強さにソーマは思わず目を背けようとしてしまうが、


 すぐに自分の意思を貫き、しっかりと目に力をいれる。


「神か……例え、それに敵わないと知っていてもか?」


「どれだけ敵わないと知っていてもです」


 マリアの意思は揺らがない、例えソーマに睨む形で見られてもだ、


 ソーマは彼女を強い人間だと理解する。


 色んな人間にあってきたが、自分の命も顧みず、


 自分の意思を貫く強さを持っているものは、厄介だとしっている。


「俺の道を邪魔するものは全て排除すると決めている」


 だが、ソーマにだって譲れないものはある。


 例え相手が正義を持っていたとしても、自分の正義を優先するのは仕方がないことだ。


「言い方が悪いが貴方は俺にとって、道端の石ころに過ぎない戦闘能力だ、だから、撤回してくれ殺したくはない」


「それは出来ません」


「……そうか」


 ソーマは短くそう言って、剣を抜く。


 それを見たマリアは、静かに目を閉じた。


 もし、ここでマリアが死んで、それを無駄死にだという人間はいるかも知れない、


 結果的に何も成し遂げれず、強者に逆らい死んだだけだと、


 だが、彼女は戦ったのだ、


 愚かであるが勇敢である、


 力に屈するのではなく、力にあらがったのだ。


 ソーマがマリアを切り裂いたって、それがソーマの勝利ではない。


 勝利者も敗北者も存在しない、虚無が訪れるだけだ。


 そして、ソーマは抜いた剣を、目の前の非力なシスターに向かい振り下ろした。


「ローザ」


 だが、振り上げた剣は、ローザによって防がれている。


 魔法陣を展開させて、盾の魔法を使っており、


 刃はその盾によって、防がれていた。


「……お前はそっちをとるのか」


 その声にローザはハッとする。


 今の声はソーマではないと感覚的に理解したのだ、


 そう、今の声は魔王様のものであると、ローザは確信する。


 表情は苦しそうなものに変わるが、目だけは背けたりしない。


「ごめんなさい……でも、私は恩人を見捨てることは出来ません!」


「ローザ……」


 シスターは目を開けて、ローザを見る。


 ローザはそれに対して満面の笑みで返して、心配はないとアピールする。


 ソーマはそれを見て、一度剣を引き、下がると隣にはリリーが立っていた。


「どうしますか?」


「どうしますか? じゃない、面倒な事をしてくれたな」


「求めれば答えてしまうのが聖職者の性、真実を知る資格は平等ですから」


 リリーが言う通り、ここに嘘偽りはない、


 全てが真実であり、真実だからこそ衝突が起こっている。


 それが良いとは言えないが、悪いとも言えない、


 ソーマはそういう性格だからこそ、リリーに反論が出来なかった。


「で、どうするのですか? ここは引きますか?」


「そういうわけにもいかない、反抗者は倒さなければ……」


「あら、意外ですわね、そこまで言うとは……いえ、私にとっては好ましい回答ですが」

 

 リリーも、ソーマがそこまで突っ切るとは思わず、


 この場から逃げるぐらいかと思ったが、倒す……つまりは殺すと言った、


 それに思わず意外という表情になるが、彼女としては殺し合いのほうが良い流れだ。


「ただし、お前は手を出すな」


「あら? よろしいのですか?」


「戦いだけという意味じゃないぞ」


「ああ、そういうことですか……まあ、いいでしょう」


 それは戦いに手を出すということだけではなく、


 もし、ソーマが勝利しても、敗者を弄ぶなという事であった。


 少しつまらなそうにする、リリーだが、


 今の結果だけでも満足なので、傍観者に移ることにする。




 そして、ソーマは敵になるであろう、彼女を見る。


 絶世の美人とも言うべき、ローザ、


 その視線は、強くソーマの方を睨むような表情、


 そしてソーマもそれに返すような視線、


 お互いに戦う覚悟は出来ていた。

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