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記憶の中の残照

 魔王から託された言葉、


 玉座の下に秘密は眠っている。


 それを確かめようとしていたソーマとローザだが、


 困り果てていた。


「玉座の下と言っても何もなかったな」


 玉座をどかして地面を確かめてみたがそこには何もない。


 となると、その言葉の意味のままに取るわけではないという事と、


 ソーマは推測する。


「玉座の下……下か、この玉座は特別なものだとは感じるのだが」


 魔王の玉座、それはクロムベルトの大神殿にある祭壇、


 それと同じような神々しい力を感じられるものだ。


「王冠……玉座……王国……」


「ん、ローザ、なにか言ったか?」


「ううん、私達の世界の物語にこんなのがあるの」


 ローザの世界で最も有名な物語、


 それはこっちの世界でいうクロムベルト生誕の物語のようなものか。


「強き者が王の資格を持ち生まれる、そして王は城を築き、皆はその地に集まる、つまりは魔王の生誕を語った物語なの」


「なるほど、それにヒントが隠されているのか?」


「うん、その物語は3章構成で、1章が王冠、2章が玉座、3章が王国、そんなタイトルが付けられている」


 王冠は王になるまでの、玉座は城が出来るまでの、王国は国が出来るまでの物語であり、


 クロムベルト生誕の物語に似ている。


 そこまで言えば、ソーマもピンっと来て、確かに引っかかるものがあったが、


「玉座の下……上から並べていくと王国になるな、だがそれだけでは……」


 上巻、中巻、下巻、3つはそう解釈すれば、


 中巻である玉座の次の下巻の王国、それを指し示していると言える。


 だが、王国というヒントを得てもそれが何を意味しているのか、


 ソーマにはそこまでは理解できない。


「3章の一節にこんな言葉がある、汝は秘密の契約を結ぶ、初代魔王は魔神と秘密裏に契約を結んで、魔王様も魔神と契約を結んでいた」


 魔神、それは闇の世界での女神の立ち位置、


 魔王を手助けする存在。


 その力はソーマも一部を引き継いでいる。


 その物語では、まだ魔神は周知される存在ではなく、


 初代魔王が契約を結んで、自身の力として振る舞っていた。


 だからこそ王国の象徴であり、秘密であった。


「不完全だが、俺の闇の力でも大丈夫なのだろうか?」


 ソーマは玉座に手を置く、


 そして、自分の中に存在する、闇の魔力を開放する。


 すると、玉座はそれに呼応するようにして、


 ブォンという、奇怪な音をあげた。


「……さて、どうなるかだ」


 そして、玉座の間に魔力は広がっていき、


 ソーマとローザは闇に包まれた。




 暗闇に包まれ、視界は闇に染まるが、


 徐々に光が溢れ出してきて、眩しそうにしながらも、


 ソーマはゆっくりと目を開く。


「ここは?」


 目に入ったのは白い石材を利用した建物、


 見渡すと、どの建物もそれを素材としており、


 真っ白な街というイメージが浮かぶ。


「ここは私達の世界?」


 そして、ローザが気がついたのは、


 光源としてそこら中に設置されている街灯。


 光源石を利用したものであり、


 闇の世界の技術、つまりは光の世界のないものだ。


「見覚えがあるのか?」


「ううん、ここは私が知らない土地だけど、大きな街だと思う」


 空は見上げると、光の世界と変わりがないほど明るい、


 普通ならば暗いはずだが、これも光源石を利用した技術であり、


 ここまで大規模だと闇の世界では、大きな街であることが分かる。


「聞いてみるしかないな」


「そうだね、あの、すみません!」


 ローザは前から歩いてくる主婦らしき人に話しかけようとするが、


 主婦の女性は、ローザを無視してそのままローザに向かって歩く。


 そのような反応をされるとは思ってなくて、


 ローザは回避しそびれ、衝突してしまいそうになるが、


 彼女が衝撃を受けて、転ぶことはない。


「え?」


 なぜなら、その女性はローザをすり抜けてしまったからだ。


「無駄だ、ここは記憶の中、私達はここに存在していないのだからな」


 そんな中、この状況を知っている人物がソーマとローザに話しかける。


 その声は2人にとって、良くも悪くも忘れることが出来ないものだ。


「魔王様!?」


 ローザは声の方を見てみると、


 そこには、まごうことなき魔王が立っていた。


 死んだはずの魔王、もちろんローザは驚愕の表情を見せる。


「……魔王か」


「大分、様変わりしたが勇者だな……この結果ならばこうなるとは思ったがな」


「どういう意味だ?」


「この世界の闇に食われるということだ」


 魔王はソーマがこうなることに予期していた。


 それは最後の決戦の時である。


 魔王はソーマがほんの少しの闇を抱えているのに気づいていた。


 光の世界に闇をもたらしたのは魔王だが、元々存在する闇もある。


 それこそ、奴隷、戦争、陰謀、ソーマは旅の最中で出会ってきた。


 魔王を倒しても晴れない闇だ。


 だからこそ、完全に人の事を信じられていない、引っ掛かりを持っていた。


「もしかして、俺が生き残ったのはお前の仕業か?」


「感がいいな、その通りだ」


「なぜだ?」


「お前なら私の目的を達成しれくれると思ったからだ」


「目的だと?」


 魔王は最後の瞬間、魔神の契約をソーマに譲渡していた。


 後はそのスイッチが入るだけで魔神の力を開放できる。


 そのためには強い負の感情が必要だ、


 ソーマにとってそれは、裏切られた絶望と復讐心によって満たされて、


 光の力によって失われた生命を、闇の力が補った。


 なぜ、そんな事を魔王はしたのか?


 それは、彼の目的がソーマと重なると思ったからだ。


「私の目的は、この世界のリセットだ」


 それこそが魔王の目的、


 破壊して創り変えようとするソーマと殆ど同じ目的であった。


「お前はそのやり方を知っているのか?」


「完全には知らない、だがそれを示すことは出来る……そのためには、始まりを知らなければならない」


 そう言って魔王は手を広げて、この記憶の世界を指し示す。


「レムナント・ラスタ、初代魔王の王国であり、闇の世界で唯一の光の残照だ」


 それがこの街の……国の名前であった。

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