光と闇のぶつかりあい
「なんだよこれは……」
ジュリアンは上を見上げる、
深淵の夜空が広がり、上空で、光と闇がぶつかり合っている。
闇は魔王だ、
魔族の王であり、それぐらいやってもおかしくはない存在ではあるが、
光は勇者である。
強いといっても人間であり、限度はあると皆は思っていた。
だからこそ人外である、魔王には敵わないと思ったのだが、
勇者であるソーマは、今や魔王と同じ視点に立って戦っている。
互角の戦いを繰り広げているのだ。
「くっ、ソーマ、お前は……!」
ジュリアンは恨めしそうな表情でその戦いを見守る。
いや、見守るしか出来ないのだ、
もはや、ジュリアン含めソーマ以外の3人ではこの戦いに入っていけない。
この時点でジュリアンは嫉妬を最大のものにして、アベルは恐怖を覚えていた。
「ここまでやるのは、初めて見たぞ! それでこそ死力を尽くし戦う価値があるというもの!」
魔王は強くなり、拮抗してくる勇者に対して、
怒りや恐怖ではなく、歓喜していた。
強すぎる身体と能力を持ってして生まれ落ちた魔王、
既に魔王となることは運命が決めており、魔族の中で自分より上の人間は存在しない、
苦戦という苦戦をしたこともなく、淡々と決められた勝利をもぎ取るだけ。
そんな自分の前に勝利という結果を覆す者が立ちふさがる。
しかも、それは自分と相反する光という存在だ。
これほど分かりやすい敵はいない、光さえも飲み込もうとする魔王の闇に、
自身の命を燃やしてまで食らいつこそうとする光だ、
「それを喜ばなくて何を喜ぶというのだ」
決められたレールの上を歩くほどつまらないものはない、
結果が分かりきるというのは、魔王にとって1番の弱点だったのだ。
だが、ソーマはその魔王の目論見を次々と打ち破り、
結果を次々と予測不能にしてきた。
好敵手というべきか……本来なら競争してお互いを高める存在、
競争とは、強者と弱者をはっきりとするが、無駄ではない。
争い、勝者と敗北者という結果が出るだけで、
その過程による、勝つために尽くした発展や進化がもたらされる。
だからこそ、闇の世界は傷つきながらも、
文明レベルという点では光の世界よりも上をいっている。
平和とはある意味死なのだ、文明は現状を満足して発展することはない、
だからこそ魔王は自分に拮抗する存在に喜んでいるのだ。
「これならどうだ!」
ソーマは聖剣を振り、光の斬撃を飛ばすが、
魔王はそれを闇の魔力で防ぐ。
先程までは不可視だった闇の魔力も、
今では黒く薄い魔力の層が魔王を囲う結界になっていた。
剥がしても剥がしても、すぐに身にまとい攻撃は無駄にみえるが、
ソーマには確実に効いていると分かっていた。
「魔力がだんだん減っているな」
「ふむ、確かに魔力的には削れているな」
いくら魔王と言えど無尽蔵の魔力ではない、
限りは存在する、底まで削ってしまえばソーマの勝ちということになるが。
「だが、闇の魔法にはこういうのもある」
「っ!」
魔王が手の平を向けると、そこからいくつもの闇の鎖が飛び出し、
ソーマに向かって動き始める。
それをソーマは上に飛ぶことによって避けようとするが、
鎖はソーマを目掛けて追従する。
触れるとやばい、ソーマはとりあえずはそう思い逃れようとするが、
周りの空間を埋め尽くすほどの量であり、逃げ場はすぐになくなってしまう。
「はっ!」
ならば断ち切る、聖剣で鎖を切ろうと腕を振る。
だが、刃は鎖を断ち切るに至らなく、
刃は鎖に食い込んでいた。
「くっ、この強度は……」
「捕らえた、勇者よ!」
そのまま手の平を動かして、ソーマを囲うようにして襲いかからせる。
ソーマはそれを聖剣で弾きながら、逃れようとする。
鎖は集まり、円になってソーマは追い込むようにじりじりと迫る。
逃げ場などない、ソーマがそこから逃れようとするのは不可能と見えたが。
「この程度で!」
ソーマは力を一点に集中させて、光の魔力を放つ。
すると闇の魔力によって作られた鎖はそこだけ、ガキィンと壊れて、
円に穴が空き脱出することに成功する。
「だが、逃れられなかったな」
避けきれなかった鎖がソーマの腕を捕らえていた。
「くっ、これは魔力を吸っているのか!」
力が抜けていく感覚、魔力を奪われているとソーマは気づく、
断ち切ろうとするが剣では無理だと思い出し、
不慣れだが魔力を集中させて開放する。
すると光の魔力で、闇の魔力によってつくられた鎖は崩壊していくのだ。
「はぁ、はぁ……」
「魔力には魔力を、よく対処したが……形勢逆転だな」
魔王は勇者から魔力を奪い、魔力を補充していた。
魔力の確保と攻撃を両立した手段、
まさに魔王らしい、効率のよい一手である。
ソーマは一気に不利になったが、焦らずに集中する。
「む、これは……」
失った魔力はすぐにソーマの中から光となって湧き上がる。
短時間でこの量はおかしい、
魔王でもこんな現象は見たことがない。
「なるほど、世界の補助を受けているわけだな……その力、神の創造術によるものか」
創造術、
それは世界を創り上げる力であり、光属性の魔法だ。
無論、歴史上それを扱える人物は存在しない、
勇者にだって許されられない力だ、その代償は恐らく生命、
たった一度きりの魔法であろう。
創造術とは何かを生み出す力だ、しかもそれは何かを必要するわけでもなく、
ただ無償で生み出す絶対的な力であろう。
ソーマも今は、創造術で魔力を生み出して、光に変換している。
だからこそ、魔力が底をつくことはない。
だが、魔王にも勝機はある。
それは、生命を代償の魔法、ならば時間制限まで粘ることだが、
「私を倒すまでは死なないという表情をしている」
「ああ、お前を必ず倒す」
ソーマは倒れるつもりはない、魔王を倒すまでは、
そして魔王も、これはそういう奴だと理解している。
時間切れで勝利は望めない。
ならば、残るはその力を圧倒すること、
生み出せる魔力は無制限だが、その保有量は限りがある、
一度のぶつかり合いで、ソーマの魔力を上回り肉体を滅ぼせば、
無制限の魔力を持っていようが、関係ない。
「ならば、全力を持って貴様を圧倒するしかないな!」
魔王は叫ぶ、自身の全力を持ってソーマを打ち倒すために、
魔神は吠えて、抑えられていた力は開放される。
魔王の後ろの魔神が、元の姿に戻っていく。
その姿はまさに巨人、魔王やソーマの身長を遥かに超えて、
禍々しいほどの魔力が溢れ出る。
そして、魔神は手を掲げる、
すると空中に闇の渦が現れて、そこから闇の隕石が現れる。
最初に見た魔王の魔法だが、それとは規模が遥かに違う、
大きさにしてみれば10倍以上、これがもし光の世界で落ちれば、
一国は余裕で破壊出来るほどの力であった。
「……力を貸してくれ」
ソーマは聖剣に祈りを込める。
それはローゼリアから受け渡された、聖なる剣、
人々の希望の結晶、それに込められた思いを開放する。
すると、その聖剣からこれまで以上の光が溢れ出して、
大きな光の魔力の刃を形成する。
「これで最後だ!」
ソーマはその大剣を上空から落ちてくる、闇の隕石に向けて振りかざす。
すると、光と闇は接触して、大きな音を立てながら拮抗し始める、
世界を賭けた決戦、その最後のぶつかり合いが始まったのだ。