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先の戦いを語る


 休憩の後、2人は1時間もかからずに山を越えると、


 すぐに魔王城が見えてくる。


 魔王城は今も立派な姿でその存在を誇っており、


 半年前と見た目は変わりがない。


「……戻ってきたんだ」


 ローザは感慨深く、魔王城を見上げる。


 対するソーマもここは、ある意味思い出の強いところであり、


 少しばかり思い出にふける。


「行くか」


 ソーマがそう言い、2人は魔王城の中に入っていった。




 流石に魔王城の中はところどころ埃がかぶっており、


 半年の間、誰もここには来ていないということが分かる。


 残った魔族も、ここには用がなく、


 4大国も、ここに来る余裕がないので、放置されているのであろう。


「ここに魔王が居たんだったな」


 そこは謁見の間、今や主がいない玉座のみが鎮座する空間である。


 基本的に魔王はここに居て、勇者を待ち構えた時もここに座っていた。


「魔王様が戦ったわりには綺麗な状態だね」


 ローザが気になったのは、


 あれほどの力を持った魔王が暴れたのに空間の状態が保っている事、


 ここで戦えば魔王城が壊れてもおかしくはないのに、


 それはおかしいと思ったのだ。


「ああ、何か外の空間って所にワープさせられたからな……そうだな、ローザは俺と魔王の戦いを聞く資格があるな」


 今となっては、あまり語りたくない戦いだが、


 魔王に近かったローザには教えなければならない、そう思ったのだ。



 ――始まりは、そうジュリアンの悪態からであったな。



「魔王のくせに立派な城に住んでいるじゃないか」


 魔王城は、クロムベルトの城……いや世界で最も立派な、


 ブライトニアの王城よりも立派な城であった。


「魔王だからこそ、こんな城なんだろ」


 アベルは、魔王だからこそこんな立派な城を持っていると言う。


 確かに敵ではあるが、立派な王、


 城とは王の格を示すものでもある、世界を敵に回す王としては、


 これほど立派な城の主だとしてもおかしくはない。


「この先だな」


 ソーマは大扉の前で立ち止まり、この先にある禍々しい魔力を感じ取る。


 それは3人にも感じ取れており、各々震えが止まらなかった。


 だが、ソーマは後ろも振り向かずに前の扉だけを見ている。


「行こう、皆」


 そして、ソーマが扉を開くと、


 そこには大きな玉座とそれに続くレッドカーペットが敷かれていた。


 ソーマ達は、そのレッドカーペットを進み、階段の上にある玉座へと近づく。


「よく来たな、人間の客人は初めてだ」


 魔王が顔を表す。


 顔は整っており中性的な顔立ち、体は細く一見力弱そうに見えるが、


 魔王から溢れている魔力がそれを否定している。


 禍々しい、邪悪、それらがソーマ達には感じ取られ、


 絶対に相容れることはない嫌悪感がわいてくる。


「随分、余裕だな」


「いや、そうでもない、私の計画は全て壊されて、もはや取るべき選択肢は最終決戦だけだからな」


 魔王を立ち上がり、腕を組む。


 それに対して、ソーマ達は武器を構えて戦う意思を見せる。


「最後に聞く、我の元に着く気はないか? お前と私なら新しい運命の道も見えるであろう」


「断る、お前はここで倒す」


 ソーマは即答する。


 魔王はそれに笑いで返す。


「そうだろうな、では戦うとするか」


 魔王は手を天にかざし、指を鳴らす。


 すると空間は一変して、深淵へと落ちる。


「こんな簡単に転移!?」


 エリーゼは驚く、


 転移は最高難易度の魔法であり、人数、距離にもよるが、


 相当な時間をかけなければ発動することが出来ない。


 それを意図も簡単に発動させた魔王、


 そこからでも実力が伺い知れる。


「ここは何だ?」


 アベルは当然の疑問を口にする。


 周りはどこまでも夜空のような深淵が広がっており、星や岩が浮かんでいる。


 この世界のどこにいっても、見られないような光景であり空間だ。


「外の世界、といってもお前たちでは分からないか」


「どこだろうが関係ない、俺達のやることはお前を倒すことだ」


 ソーマは力強く答える。


「そうだな、行くぜ!」


 アベルもそれに同意して、剣を構えて魔王に斬りかかる。


 一番槍だ、アベルは戦いの中でも積極的に真っ先に仕掛けていた。


「愚かだな」


 魔王は闇の魔力の礫を連射する。


 アベルはそれを回避しながら、自身の距離へと持ち込んだ。


「む、雑魚ではないな」


「当然だろ!」


 魔王の懐へと接近して、剣の距離へ踏み込む。


 武器を持たぬ彼にとっては致命的な距離、


 アベルの剣が魔王に襲いかかる。


 アベルはやったと思いつつも、呆気ないとの疑問も頭に引っかかっていた、


 それは経験によるものだが、正解である。


「な、剣が!」


 その刃は魔王に届いているようで届いていない、


 見えない何かが阻んでいたのだ。


 まるで鉄の壁を切っているよう、手応えがまるでない。


「まずはお前からだな」


 そして、またもや見えない何かがアベルの首を締め上げる。


「がっ!」


 その力強さから抜け出すとが出来ずに、


 アベルは首を絞められて息ができなくなる。


「ファイアストーム!」


 それを開放するべくエリーゼは魔法を放つ、


 豪炎がアベルを避けて魔王に襲いかかる。


 道中のSランクの魔物にも通用する、威力の魔法だ。


 流石のこれを直撃すれば、魔王と言えど無事ではいられない。


 そう思った、ソーマ達だったが、


「獄炎に比べれば、焚き火程度だな」


 そういいつつ、炎を振り払い、


 ケロッとした表情でその場に浮いていた。


「そんな……」


「ば、化物かよ」


 アベルとエリーゼは信じられないような表情で魔王を見上げる。


 既に2人は力の差を感じれおり、意気消沈であった。


「くっ、ビビってるんじゃねえ!」


 ジュリアンはそれでも虚勢をはり、剣を構える。


 魔王はそれを見て、面白そうな表情を見せていた。


「ほう、ならばこれならどうだ?」


 そういいつつ、手をかざすと空に闇の渦が現れて、


 そこから強大な闇の魔力の塊が姿をあらわす。


「な、なんだよあれ!」


 その魔力量は見たことがなく、


 もし、あの隕石が落ちてくるならば何もかも跡形もなく消え去るであろう。


 そして、魔王が手を振り下ろすとゆっくりとその魔力はソーマ達に襲いかかる。


 圧倒的魔力に諦めた表情を見せる3人だが、もちろんソーマは諦めていない。


 聖剣を突き出すように魔力の隕石に向けて、力を開放する。


「光よ!」


 すると剣の先から光が溢れ出して、結界の盾を作り出す。


 全面に展開された光の盾は闇の隕石と衝突すると、


 バチバチといった音を立てて、お互いに消滅し合う。


 そして、一際大きなバチンという音と共に


 ソーマ達に光の雨を降らして消滅した。


「流石に勇者は一筋縄ではいかないか」


 そういって魔王は魔法を集中させる、


 まずは炎の閃光を飛ばす、フレイムライン、


 それをソーマは剣で弾き返す。


 次に旋風を起こして敵を切り刻む、エアカッター、


 ソーマはそれを回避して、魔王へと接近する。


 それを見た魔王は自身の力でソーマを捕らえようとするが、


 ソーマは剣を振り、見えない腕を切り落とす。


「なに!?」


「見えているぞ!」


 3人には何を切ったのか分からなかったがソーマには、


 はっきりと黒い腕のような何かが、魔王の後ろから出ているのが見えていた。


「そうか、光の力か!」


 光の加護を持っているソーマには、見えない力も見る事が出来て、


 魔王が隠している何かを捉えていた。


「覚悟しろ!」


「ちっ、コメット!」


 魔王は土の塊を飛ばす魔法を唱えるが、


 それをソーマはバターのように切り裂き、物ともせずに魔王を切り裂く。


 聖剣の力もあって、魔王を守る結界ごと切り裂きダメージを与えることに成功する。


「ぐっ!」


 魔王への初のダメージだ、


 致命傷ではないが、胴体を切り裂きそこそこのダメージを与えることに成功した。


「……なるほどなめていたな、私も本気をだすことにしよう」


 魔王は魔法を唱える。


「あれは確か氷刃の!」


 四天王である氷刃が使っていた魔法、


 彼は氷の力だけではなく、水の力で守りと再生能力を備えており、


 四天王の中で1番厄介であった。


 魔王が唱えたのは、結界:再生式であり、傷を徐々に癒やす結界を造る魔法である。


 それを知っていたソーマはもちろんそれを邪魔しようとする、


 氷刃は受けのタイプであり、攻撃力を持たなかったから倒せたが、


 魔王ほどの相手がそれを唱えると防御と攻撃を両立させてしまうことになる。


 そうなってしまっては、厄介なので先に潰そうとするが、


 魔王もそれは読んでいる。


「直線的すぎる!」


 魔王の後ろから何かが現れる。


 それこそが先程の見えない腕の正体である、魔神であった。


 その魔神はソーマの突進に合わせ、


 拳を構え、カウンターを合わせようとしていた。


 とっさに出現にソーマはギリギリで反応して、剣で防御する構えを見せ、


 なんとか拳のクリティカルヒットを防ぐ。


 だが、その力で大きく後ろに吹き飛ばされて、宙に漂う岩にぶつかってしまった。


「がっ!」


「ソーマ!」


 エリーゼは落ちてきたソーマの元に駆け寄り心配する。


「だ、大丈夫だ」


 ソーマは何とか立ち上がるが、ダメージはそうとう受けていた。


「何だよあれ、反則じゃねえか」


 アベルは顕になった魔王の力を見て、さらに絶望する。


 魔神を従えている魔王、それが可視化されて目に見える形で理解してしまったのだ。


 これに敵うわけがないと。


「に、逃げましょう!」


「そうだな、一度引くってのも……」


 逃げる選択肢、アベルとエリーゼはそれを提示する。


「どこにだ、どうやってだ、次は勝てるって保証なんてない」


「だからといって、このままだと無駄死にだぞ!」


 確かに勝ち目は薄い、実質的に戦えるのはソーマだけだが、


 そのソーマさえも魔王には押されていた。


「……手はあるさ」


 ソーマは拳を握りしめて、一呼吸を置く。


 するとソーマから、纏わりつくように光が溢れ出す。


「なんだ!?」


 ジュリアンはソーマが飛ばされていった後方から光を感じて驚くが、


 それは近くのアベルとエリーゼも同じであった。


「……命を賭して私を倒すか」


 そして、魔王はその力が命を引き換えということを感じ取る。


 その表情はどこか残念そうに見え、やはりと納得しているようでもある。



「ソーマ、この力を使えば貴方は死にます」


 女神はそう言って、ソーマに反則的な力を手渡した。


「皆には伝えなくていいのですか?」


「知らせる必要もないでしょう、不安を煽ってしまうだけです」


 ソーマは魔王を倒すための力として、女神に頼っていたのだ。


 パーティのメンバーには知らせずにこっそりとだ。


「私としては使っては欲しくないです」


「そうなれば、俺もいいと思うよ」


 そう言うが、ソーマ躊躇なく使うつもりであった。


 だが、そう思っても体とは死を拒否するものだ。


 脳がそれを使うなと体の細胞1つ1つに反対の命令をだす。


 だけど、魔王の強すぎる力、そして危機的な状況、


 このまま行けば全滅は明らか、死ぬくらいならと覚悟を決める。


「迷うことはない!」


 そう迷うことはない、


 迷いがなくなり、ソーマは力を使い、命は尽きるだけとなったが、


 尽きる前の覚悟したもの力と命の代償、


 雑念はなくなり、ただただ戦いに集中することが出来る。


 ソーマは、今や戦いの極地に立ったのだ。


「全力を持って、お前を倒す!」


 勇者の最後の戦いが始まろうとしていた。

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