険しさの中の安らぎ
「流石に疲れてきたわね」
イービルマウンテンの中腹あたり、ローザも疲れの顔を見せてきた。
ソーマも表情こそは変わらないが、肩で息をし始めており、
疲れている様子であった。
といってもローザがいるので、大分楽になっており、
ソロではこの道中、3倍ほどの時間がかかるぐらいには厄介なところではあった。
「確か、この先に魔物がいない洞窟がある、そこで休憩をしよう」
「へえ、よく知ってる……あ、そっか、ソーマは来たことがあるもんね」
ローザの言う通り一度通った道である。
詳細は分からないが、大体の構造は把握しているので、
昔を思い出せば何があったのか大雑把なものは理解していた。
そして、ソーマの言う通り少し進めば洞窟の入り口が見えてきたのだ。
「ほんとだ、魔物がいないね」
その洞窟内には魔物の気配が感じられない、
そして、洞窟の中なのに明るい。
「この洞窟は印象的だったからな、この壁や天井に含まれる何かが光源となっているんだろう」
ソーマの言う通り、洞窟内の壁や天井は淡い光を発しており、暗闇を照らしている。
ローザはそれを聞いて、ハッとしたように何かを思い出す。
「あ、光源石だ」
「光源石? 聞いたことがないな」
「うん、光が少ない闇の世界で、光源に使われている鉱石で街中に照明器具として設置されているんだ、この光は魔物避けの効果があるからね」
「だから、この洞窟には魔物がいないのか」
あれだけ魔物が居た道中、ここだけ魔物がいないからおかしく思っていたが、
その事を聞いて、ソーマは納得した。
そして、洞窟を進むと広い空間にたどり着く。
「わあ、ここまで純度が高い光源石は初めてかも!」
その空間の中心には、結晶とも言うべき光源石の塊と、
洞窟の中なのに草と水と土が光源石の結晶から広がっていった。
純度が高い光源石から発生される光で、草が育つほどの環境になっていたのだ。
「険しい山の中、ここだけはまるで楽園みたいだったから、印象的だったんだ」
「確かにこれは奇跡なのかもね、私達の世界もこんだけ光があれば、もっと美しい光景が見れたのかな?」
ローザがこっちの世界に来てびっくりしたことは、自然の美しさである。
光の世界は、草木に溢れ、美しい川と、広大な海、
それらが合わさり美しい光景が見れる場所が沢山ある。
対する闇の世界は、険しい山や荒野、川の水は浄化しないと使えず、海も凍っているところが多い。
自然の厳しさは闇の世界の方が感じられるが、
その光景は生ではなく死を連想させるものである。
「んー、空気もいい感じかも」
ローザは草の上にペタンと座る。
光の世界の自然はこのように生命を感じられるのが多い、
そこに居るだけで、力が滾ってくる感覚になる。
彼女も気持ちよさそうに肩をほぐしていた。
ソーマもそんな彼女の様子を見ながら、
自分も体を休めようとその場に座り込み、
中央にある光源石の結晶を見ながら、半年前を思い出す。
「……あの時は4人だったな」
それは魔王を倒すために旅をしていた、勇者の時代。
ここにたどり着いた時は、
賢者のジュリアン、剣士のアベル、魔法使いのエリーゼが一緒だった。
――あの時、俺が何か声をかければこうはなっていなっかたのかもな。
「……ここなら休憩できそうね」
エリーゼがそう言った。
ここにたどり着いた時、パーティの雰囲気は最悪だったであろう、
当時こそは分からなかったが、今なら分かる。
それは強い魔物が多く存在して、
消耗によるストレスだけではない。
それなのに俺は、
決戦が近いから、皆思うところがあるのだろうと、
前向きな考えでしかなかった。
エリーゼは、ジュリアンとアベルの負の思いを知っていたが、
決戦が近い中、パーティを空中分解させるわけにはいかないと、
辛うじて3人のつなぎ役だったが、
俺はそれすらも理解していなかった。
「なあ、皆はこの戦いが終わったらどうするんだ?」
俺がこの一言さえ言っていれば、また違った結末が待っていたかもしれないが、
この休憩の時は、4人共無言のまま過ぎていって、
そのまま最終決戦に突入したんだったな。
「ねえ、ソーマ?」
ソーマが記憶の中から戻ってくると、いつの間にかローザが隣に座っていた。
夢魔特有の甘い雰囲気と美貌で、ソーマは一瞬どきりとするが、
すぐに心に平穏を取り戻す。
「どうした?」
「ソーマの事を聞きたいかなって」
「俺の事?」
「うん、結局私って、ソーマが勇者であることしかしらないから」
ローザはソーマの事を知りたがっていた。
彼女が知っているのはソーマが勇者であり、私達の敵であったという事だけ、
こうやって、一緒に旅できる仲だからこそ、聞けることをローザは知りたがっていた。
「余り面白くない話もあるぞ?」
「それでも聞きたいかな、一緒に旅しているわけだし」
「……そうだな」
前の旅の失敗からか、自分のことを話すのも悪くないとソーマは思い、
子供の頃から今の話を簡単に語り始めた。
幼馴染とのレイナとの関係を語った時は、1番目を輝かしていただろうか、
ローザはそういう男女関係に最も興味があった。
魔王との戦いを語った時は、目から涙を流していた。
「恨んでいるか?」
ソーマは思わず聞いてしまった。
なんとなくだが、ローザは魔王が好きだったと思ったのだ。
「ううん、私達は倒さるべき存在だもの、これで良かったのよ」
そっちからしてみれば、倒されるべき存在はソーマ達のはずなのに、
ローザはそれでも光の世界を侵略した私達が悪だと言いはった、
ソーマはそれを聞いて、なんとも言えない気持ちになった。
そして、話はソーマが裏切られた話になる。
「……私の世界では騙される方が悪いって言葉があるけど、やっぱり騙す方が悪いと思う」
闇の世界はこっちの世界よりも弱肉強食な世界、
魔王が不在の時代は常に戦争をしているような、競争ばかりの世界。
そんな中、人を騙すというのは日常的に行われており、
人々は騙される方が悪いと常々口にしている。
ローザだってそう過ごしていたが、やっぱりそれはおかしいと思ったのだ。
そのきっかけはこっちの世界に来て、こっちの世界の生活に触れてからだ、
ソーマが経験した通りに騙す人間は存在するが、
必死に生きている人間だって存在する。
弱者が群れて協力して生きている姿、
それは確かに強者からしてみれば見苦しいかもしれない。
四天王の1人である獄炎なら、くだらないと一笑に付すかもしれないが、
ローザはそれを美しいと思ったのだ。
だからこそ裏切りという行為を今は憎んでおり、
表情に怒りを見せている。
「かつての仲間に、幼馴染、国に裏切られて辛かったね」
「……だがそれがあったから今の俺はある」
それは強がりだ。
そのことはローザにも分かり、
彼女は思わずソーマを抱きしめてしまう。
「……何をしてるんだ?」
「いや、唐突に抱きしめたくなって……駄目?」
「少しだけなら……な」
ローザは感情が豊かだ、
そして感情を体で表現することが多い、
だからこそ、ソーマの話を聞いて、
表情を一喜一憂させたり場面によりコロコロ変えていた。
それが夢魔の特徴であろうか、
女性しか生まれない種族で、誰もが美しく、
いい意味でも悪い意味でも女性らしくを極めている。
そして今の話を聞いたローザはソーマが寂しそうに見えた、
だから癒やしてあげたいという感情を、抱きしめるという行動で表したのだ。
ソーマは久しぶりに顔を赤くしており、恥ずかしさもあったが、
母に抱きしめられたという経験がない、ソーマにとっては何よりも癒やしとなる。
「暖かいんだな」
「ソーマは抱きしめられたことはないの?」
「母は物心が付く前に死んだし、年上の女性とそんな関係になったこともないしな」
ソーマの両親は死んでいる、だから幼馴染のレイナの両親にお世話になっていたが、
やはりそれなりの距離感があった。
それに知り合いだった年上の女性となると、エリーゼぐらいだが、
彼女とはそういう関係ではない。
ソーマは母性というのを、ほとんど経験したことがなかったのだ。
だからこそ、抱きしめられるのがこんなにも暖かく、
安らぐとは想像出来なかった。
「大丈夫、まだ戦えるさ」
ソーマはローザにも聞こえないぐらいの小さく呟く、
まだ自分にはやることがある、休むならそれからでもいい、
一時的な癒やしの中、覚悟を強いものにした。




