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夢魔はいまや、優しき


 村から歩いて半日のところ、ソーマとリリーは最後の教会に訪れていた。


「教会にはもう訪れないと思っていたのですが……主はお許しになるのでしょうか」


「それこそ神に聞いてみないと分からないであろうな」


 ソーマは余り神を信じていない、


 ここでいう神とは世界を支配するもの、この世界を創った根本であり、


 女神といった、勇者の時に出会った神とはまた別の存在だ。


 そういう意味では、ソーマは神になろうとしているのであろう。


「ソーマは主の存在は信じていないようですね」


「当然だろ、そんな万能な存在がなぜこんな世界を創った」


 世界を支配しているならば、なぜこんな残酷な世界にしたのか、


 ソーマにはその答えが分からなかった。


「主は我々に試練を与えている……と考えられていますが私は違うと思います」


「と言うと?」


「簡単な事、神は残酷です、だから貴方のような、私のような存在が許されている」


 生きることは試練だ、


 その試練を乗り越えた先に苦しみから開放される、それが世界の共通認識である。


 だがリリーが悟った境地は、神は残酷という答え。


 だからこそある意味平等であり、善だろうが悪だろうが生きることを許される。


「残酷か……考えたことなかったな、だが納得できる話ではある」


 神が善だと誰が決めたのだろうか、


 勇者が善でなければならないように先入観によるものである。


「だがやっぱり、この目で見なければ会わなければ納得は出来ない」


 結局は実体がないものを信じろというのが無理がある話、


 リリーのように幼い頃からそういう教育を受けたのならまだしも、


 ソーマはただの村人、神よりも食べる物のほうが大事だ。


「ふふ、それが普通の人間の認識ですわね」


 リリーはそう言いながらも教会の扉を開く、


 大きい扉は木が軋む古い音を出しながらも、ゆっくりと開く。


 初めに目に入るのはステンドグラスと初代聖女の像、教会の象徴的なものだ、


 周りの信者席はボロボロだが、


 修復されたあとが見えて、辛うじて利用できるであろうか。


 そして、教会に居て然るべきシスター、この教会にも勿論、存在した。


「このような辺鄙な教会に……まさか聖女様ですか?」


「あら、ご存知で?」


「1年だけ、クロムベルトの大神殿で働いていましたので」


「大神殿ですか? そのように優秀な貴方がなぜこのようなところに?」


 クロムベルトの大神殿、そこは聖職者にとってはトップの教会である、


 家柄、実力、信仰、どれかがトップクラスでないと務めることが出来ない、


 そんなところで働いていたのに、


 なぜこんな危険な教会にいるのであろうか、リリーはそれに疑問を抱く。


「勇者が魔王を倒したと聞いて、私にも何か出来ないかと思いまして……考えた結果が復興のお手伝いと思ったのです」


「……そうか」


 ソーマは複雑な気持ちになる。


 こういう人種も存在する、世界は悪ばかりではなく、優しい人間も存在するのだ。


「立派な心がけですね、ですが私はもう聖女ではないのです」


「え?」


「大神殿を焼き、クロムベルトを裏切った、ただの世界の敵、それが私なのです」


 言わなくてもいい事をリリーは言う、その表情からは悦の表情が読み取れる。


 私はこれほどの大罪を犯した人間だ、


 そんな人間が目の前に存在して、神を信仰する貴方ならどう対処するか、


 それを楽しみにしているのであろう。


「……それでも私には何も出来ません、罪は私ではなく神が許すもの、私はただここに居る2人の旅人の安らぎの場を提供する、それだけです」


「私達がこの教会を略奪しに来たとは考えませんの?」


「人を見る目だけは自慢できますので」


 シスターはあっさりとそう言い切る、


 この2人はそのようなことをしない、


 悪であろうがそういう正義を持っている、そう感じたのだ。


 だが、そう言われればそうしたくなるのが、リリーの邪悪な性、


 リリーは眼の前の彼女の大切なものを奪いたいその衝動に駆られる。


「……やめとけ、正しいものを虐げるのは俺が許さない」


「真面目ですわね、分かってますわよ」


 分かっている表情はしてない、ソーマはリリーの表情を見てそう感じた。


「俺たちがここに来た理由は女を探している、ローザというのだが知らないか?」


「ローザですか? なぜ、探しているのですか?」


「話がしたい、ソーマと言えば分かるはずだ」


 シスターは、初めて警戒を見せる。


 それでも知り合いだと言うことを知らせれば、


 シスターは2階に向かい、ローザを呼びにいった。



「ソーマ!」


 すると、2階への入り口から女性の声が広間に響き渡る。


 ソーマはそちらを見てみると確かにローザの姿がそこにあった。


 そして、ローザはふわっと手すりを乗り越えて、2階の高さからソーマにダイブする。


 ソーマは反射的に手を伸ばして、体で受け止めて抱きしめる形になった。


「おい」


「久しぶりだね」


 ローザの抱きご心地は一言で言えば柔らかい、


 胸やふともも、その他諸々が当たっており、謎のいい匂いが彼女から漂う、


 こんな女性に、抱きつかれた男性の方は天国に連れて行かれるであろうか、


 それほどまでに彼女は女性の魅力を詰め込んでいるのだ。


「あれ、ソーマ変わった? 愛とか恋とか知ったて感じ?」


 そして、ローザはそういう事に敏感だ、


 ソーマの雰囲気が変わっている、それは見たら分かるがなぜ変わったのか、


 そこに愛や恋があると感じたのだ。


「さあな……いい加減離れろ」


「きゃっ!」


 それは半分……いや、三分の一ぐらいは当たっているかもしれない、


 だがそれをソーマは認めたくなく、ちょっと強めにローザを引きなすと、


 彼女は小さな悲鳴をあげる。


「もう! ……んっと、そっちがソーマの彼女……いや、違うわね、すごいドロドロしてるもの」


「あら、私は聖職者ですわよ?」


「うん、それ、魔王様が勇者だって言うくらいには信用出来ない」


 対するリリーには、ドロドロとした何かを感じていた、


 徹底的に相容れない何か、見た目としては美しいが、内面が醜いというべきか、


 これほどまでの邪悪な感じはローザとて見たことがないほどであった。


「あのジュリアンって賢者も相当だったけど、なんでこんな人間と手を組んでるのよ」


「色々とあってな」


「ふーん、ソーマが変わったことに関係あるとか?」


「……まあな」


 輝いて美しく見えたソーマ、出会って分かったが今は光輝いていない、


 だけど、今のソーマはまた違う美しさを見せていた。


 眩しすぎるほどの理想を抱いているが、


 今にも崩れそうな儚さを見せていた勇者の時とは違う、


 漆黒で強固な宝石のような美しさ、それは魔王様に似た美しさである。


「……なんか魔王様みたい」


「魔王か……確かにそうかもな、今ならあいつの言ってたことが分かるよ」


 ソーマの現在を皆は魔王と重ね合わせており、ローザでさえ、そう感じるほどだ。


「世界はどうしようもない、だから私は破壊する、己のために!」


 それは魔王の弁だ。


 当時はそんな自分勝手な考えと思っていたが、よく考えればその通りだと思い知ることになる。


「むぅ、魔王様だって、ただ嫌だから破壊しようとしたわけではないのだからね」


「では、何のために? 俺は最後までそれを知ることは出来なかった」


「……そっか、話さなかったんだ」


 魔王が世界を壊す理由、ソーマは知ることがなかった。


 ただ、破壊の化身だと思っていたが、


 今となっては何か理由があるのでは?


 そう思っており、理由があるならば知りたいと思っていた。


 ローザは魔王が話さなかったので、話すことを躊躇するが、


 ソーマは知っておいたほうがいいかもしれないと思い直し、語り始める。


「私達の世界は緩やかな滅びを迎えているの」


「闇の世界のことか?」


「そうね、こっちが光だとすれば、向こうは闇、光の世界は衰退することはない、だけど闇の世界のマナは限られていて、ほっとけば世界は破滅する」


 光の世界はマナが満ち溢れており無限だ、だが闇の世界はマナが少なく有限である。


「マナは基本的に光の世界へと流れている、闇の世界はそのおこぼれを頂くだけ」


「だから、この世界を破壊して、闇の世界にマナを流れさせるつもりだったのか?」


「うん、マナが枯渇しようとなると、どこからか預言者が現れて強い肉体を持ったものの生誕を告げる、それが魔王となり、門の守護者が現れて、光の世界への門が開く」


 それが魔王の真実であった、


 彼らは自分の世界を滅亡させないために、


 この世界を滅ぼし生き永らえようとしていたのだ。


 勇者と魔王は、正義と悪のぶつかり合いではなく、正義と正義のぶつかり合い、


 勝ったほうが正しい、そんな戦いを幾千年も続けてきていた。


「歴代魔王はことごとく破れたけど、その戦いの余波で闇の世界にもマナが流れて、生きてきた、だからこの先も勇者と魔王の戦いは終わらないと思う……こっち側が勝たない限り」


 ローザは微妙な表情をしていた、


 光の世界にも生物は生きており、それを仇なすなど今の自分にはもう出来ない、


 だけど自分の事は関係なく、


 勇者と魔王の戦いの連鎖は終わらない、それこそ魔王が滅ぼすまで。


「いや、終わらせる、そのために俺はお前に会いに来た」


「どういう事?」


「俺はこの世界を壊し創り変える、そのためにはこの力の扱い方をしる必要がある」


 ソーマから溢れ出る魔力、それは間違いなく魔王と同じ闇の力だ。


 それにローザは驚きを隠せない、ここまで来ると本当に似ていると思ったからだ。


「……だから、魔王様は私に託したのかも」


 ローザは思い出していた、魔王から託された力の秘密を、


 そしてそれは今も魔王城に眠っているのであった。


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