表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/66

闇の大地

 魔王の軍勢は別の世界から来たと考えられている、


 この世界が光とするなら、それと相反する闇の世界、


 幾度も魔王は闇からやってきたと神話でも語られている。


「ですが、魔族はこの世界に残っているのですか?」


 ソーマとリリーはアクアティリスから離れて、大陸の南西に向かっている。


 ステンパロスとブライトニアの間、そこに魔王の居城はかつて存在した。


 昔は魔物も魔族もぶらつく闇の大地であり、


 今も魔王城の跡地は危険だが、徐々に光が闇を照らし始め安全な地帯も増え始めている。


 といっても積極的に近づく者はいなく、


 この付近にいるのは、元々住んでいて仕方なく住んでいる者しか存在しないであろうか。


「俺が戦った魔族で4人の強者が存在した」


「四天王ですか?」


 魔王以外で強かった4人の強者、それは四天王と呼ばれていた。


 火、水、土、風、


 4属性にそれぞれ1人ずつ、


 獄炎、氷刃、大震、疾風、


 ソーマは全員と戦ったことがある。


「その中でも疾風と氷刃だけは生き残っている」


「そうなのですか?」


「ああ、分かりあえたというべきか……その2人は戦いに疑問を持っていたからな」


 魔王はこの世界を滅ぼそうとしており、四天王は誰もがそのために動いていた、


 だがその中で、氷刃と疾風だけは戦いに疑問を持っていた、


 氷刃はこの世界を見て、疾風は人間を知って、戦いたくないと思ったのであろう、


 故に2人をソーマは見逃していた、勿論、仲間からは反発されて、唯一理解を示したのは魔法使いのエリーゼだけだ。


 彼女だけはそういう節があった、根は優しい女性なのかもしれない、


 彼女がソーマを裏切った理由は強い方につくため、


 ソーマという強い人間についてる時、その余裕があれば基本的には優しいのであろう。


「疾風、名前は確か……ローザだったか、彼女はこの付近にまだいるはずだ」


 ローザ、それが疾風の名前だ。


 風を操る夢魔であり、サキュバスという種族、


 ものすごい美貌を持っており、男なら100人中99人は振り向くような美女である。


 風の魔法だけではなく魅了の魔法も持っており、


 女性でなおかつ魔法に長けている、エリーゼですら苦戦した強力な魔法だ。


 だがそれを持ってしてもソーマだけは魅了が効かなかった。


 なにせ愛も恋も知らぬ時代、


 ローザからしてみれば、あり得ない、信じられない思いであろう。


 そんな彼女だが未だにこの危険なところに住んでいる、リリーはにわかには信じられない。


「この魔物がうろつく闇の大地にですか」


 闇の大地は常に雲が掛かっており、他と比べると薄暗い、


 雲が光を遮るということは、植物もあまり育たず自然がないということになる。


 荒野といった不毛の地が広がっており、


 たとえ光が照らしたと言えど回復には、相当の年数を要するであろう。


 そんな地に、住んでいるとはリリーには想像出来なかった。


 それが光の世界の価値観というか、常識というか、


 とにかくこの大地を見て何かが生きてるとは思えないほどに本能が拒否していたのだ。


 だが、そんなリリーの本能は容易に覆されることになる。



 少し歩くと寂れた集落が見えてくる、それは間違いなく村だ。


 しかも、魔族ではなく人が住んでいる村だ。



「これは勇者様、魔王なき今、このような辺鄙な村に何の用で?」


 ソーマが村に入ると、えらく歓迎されている様子であった。


 しかも未だに勇者と呼んでいるのを見るに、まだソーマが裏切ったとは伝わっていないようだ。


「この辺りで1人の女を見なかったか? 特徴と言えば美人と言うしかないのだが……」


「ふむ、それならば豊穣の女神様でしょうな」


「豊穣の女神?」


「はい、この太陽の光が届かないこの大地でも、育つ食物の種を配っている女神のようで……」


 そういって村長は畑に案内する。


「なんとも、禍々しさを感じるな」


「見た目はあれですが、味は素晴らしいですぞ」


 それは禍々しさを感じざるを得ない、果物と野菜、木の実などである。


 ソーマは紫のりんごっぽいものを村長から受け取る。


 余り食べるのをためらうような外見だが、匂いは甘く、手にとって見るとそこまで危険な感じはしなかった。


「あら、美味しいですわね、桃のようなりんごのような、中間の味ですわ」


 リリーは先に頂いていた。


 ソーマは口に入れてみると、確かに桃の如くのみずみずしさと甘さ、


 だがシャッキとしたりんごの食感、なんとも言えないが少なくともまずくはない。


 リリーのように好みであると言われても、違和感はない果物であった。


「向こうの世界の果物なのかもな」


 植物は光を受けないと成長することはない、


 だからこの地の植物は朽ちていったのだが、この植物は少ない光でも成長することが出来る。


 そのことから闇の世界では光が少なく、こういう植物が生き残っていったのだと予想が出来る。


「この種を配っていたものは、最後の教会にいるという噂があります」


「最後の教会?」


 それは聖女でもあった、リリーが知らない単語であった。


「最後の教会っていうのは、人類の生存圏ギリギリに存在した教会の事だ、まあ要するに魔王城に1番近い教会だな」


 この地に存在する唯一の教会、そこは魔族と人類の戦いの基準となっていた、


 ソーマ達は、魔王城を攻め入るためにその教会を補給や休憩地点にするべく進行して取り返し、


 逆に魔王側もそれを取られないように必死に取り返そうとしていた。


 最後の四天王、大震と戦ったのも最後の教会であった。



 教会とは人々がやすらぎを得るための施設である。


 大昔、1番始めの魔王との戦いの時に建築され、


 勇者が休めるようにと作られたが、魔王を討伐した後は旅する人の休む宿みたいになっていたのだ。


 最後の教会はその意味を成していなかったが、


 今では復興しようと、勇気あるシスターがその教会に住み込んでいる。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 シスターは戦いで身寄りを失った子供達を受け入れて、


 教会は孤児院のようになっており、それを手伝う女性が1人、シスターと一緒に住んでいる。


 3日に渡る旅を終えて、教会に帰ってくる。


 深くかぶったフードをあげ、シスターに挨拶をした。


 誰もが振り向くような美貌、それが露わになる。


 彼女の名こそ、ローザ、元四天王である疾風であり、今では孤児院のお姉さんといったところか。


「わあ、ローザお姉ちゃんおかえり!」


「ふふ、いい子にしてた?」


「うん!」


 彼女が帰ってくるや否や、子供達がローザを囲むようにして寄ってくる。


 人を誘惑して、夢を餌として食らう夢魔、今ではその面影はなく只のよいお姉さんとなっている。


「シスター、お肉が手に入ったから、今日は豪勢に振る舞ってあげて」


「いつもありがとうね、ローザ」


 ローザはこの闇の大地を旅して、闇に閉ざされていても育つ食物の種を栽培して配っている


 それは重要な食物であり人間にとってはありがたいものだ、


 だがその代わりに狩りなどで得た獲物を分けてもらっている。



「……こういうのも、いいものわね」


 ローザは一度外に出て、空を見る。


 こちらではこの闇の暗雲は特別な天気だが、ローザにとっては見慣れた故郷の空である。


 ローザは闇の世界でも夢魔の国の出身であり、


 その国は光球という技術によって明るく光の世界の国とあまり変わりがない、


 だがその実態は実力主義の世界であり、厳しい国である。


 美しくあれ、


 サキュバスにとって美貌はなによりも大切なものであり、美人であるなんて最低限、


 ローザはその中でも強かったから、魔王の四天王まで選ばれたのだ。


 逆に言えば、そうでないものは悲惨である。


 彼女は幾多もの同族を踏み台にして生きてきた。


 それを当たり前だと思い、何も疑問を抱く事はなかった。


 美しいから許される、強いから弱者を餌に出来る、その権利が自分にはあるのだと。


 そんなローザが変わったのは、光の世界に来てソーマと出会ってからだ。


 ――美しいと思ってしまった。


 その容姿にではない、その在り方が美しいと思ってしまった。


 ソーマが守るのは弱者だ、それは私が餌として認識していた存在、


 それを餌にすることは何ら疑問を抱かない、


 この世界は弱肉強食、光だろうが闇だろうが共通の意識、


 それなのに、ソーマの行なってる行為に私は心を打たれ、


 初めて自分以外を美しいと認めてしまったのだ。


 そこで私は敗北してしまったのであろう、


 サキュバスにとって、誰かに見惚れてしまうなど、心臓にナイフが突き刺さられたのと同意義。


 そこからは私も美しく生きたいと思った、それは体の話ではなく心の話だ。


 自分の事しか考えず他は餌としか見ない、そんな私は醜かったのだろう、そんなのは嫌だ、


 だから誰にも自分にも美しく輝いて見える、そんな風に生きたいと思ったのだ。



「それなのに、なんでソーマは魔王様の後を追おうしているのだろ?」


 ローザは知っていた、ソーマが世界に宣戦布告しているの事を。


 それはかつての魔王の行為であり、


 魔王もまたローザが敵わない美しさを持っていた。


「ローザ、私はあの世界を犠牲にしてでもこの世界を繁栄させるつもりだ」


 世界のために全てを背負う覚悟、


 こちら側の人間からしてみればたまった話ではないが、魔族にとっては救世主であり、


 その言葉を糧として戦うものも多く存在した。


「ソーマも何かを背負っているのかな」


 どちらにせよ、ソーマがただ無意味にその行為をするとは考えられず、


 何か重い使命を背負っているのだと、ローザは考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ