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復讐の時、来たれり

 ソーマは今一度、目の前の男に向き直る。


 オーランド・クロムベルト。


 クロムベルトの王の名前だ。


 クロムベルトは基本的に世襲制だ。


 だがもし途切れた場合は、


 血が濃い者が継ぐのではなく、


 最も優秀なものが王位を継ぐとされている。


 だからこの国では、度々王族の血筋が変わり、


 初代の王の血は既に絶たれているのだ。


 オーランドはいわば4代目だ。


 そして彼の一族も既にオーランドのみとなっており、


 子を作らねば、王族の血は5代目となり、


 また違う家系の血が王となることになる。


「おのれ、裏切りの勇者め!」


 オーランドはこの状況、


 恐怖ではなく、怒りを湧き上がらせていた。


 自分の思い通りにならない。


 それによる、怒りが彼を支配していたのだ。


 もし剣を向けられもしたのなら、


 恐怖を覚えるかもしれない。


 だが、ソーマはあえて剣ではなく、


 言葉を向けることにする。


「裏切りものか……それは何に対してだ、お前か、国か、それとも世界にか?」


「全てにだ! 貴様は勇者でありながら悪に堕ちたのだ!」


 勇者は善でなければならない、


 光でなければならない、世界のために戦わなければならない。


 誰が決めたわけでもなく、


 当たり前のように皆がそう思っている。


 事情を知らないものからしてみれば、


 ソーマは確かに裏切り者である。


 だが、ソーマからしれみれば裏切ったのは、この男の方だ。


「勝手なことを、裏切ったのはそっちからだろ」


「ぐ、ぬぬぬ」


 そう言えば黙ってしまう。


 事実、この現状を作った原因は王とジュリアンである。


 彼らが何もしなければ、この物語は魔王を倒して終わっている。


「まあそれはいい、結局は過ぎた出来事だ……だが俺は1つだけ聞きたいことがある」


「……なんだと?」


 それは予想にしていなかったことである。


 今更聞きたいことなどないと思っていた。


 なのに眼の前の男は問を投げてくる。


 オーランドはそれに聞く耳を持たないわけもなく、


 純粋に疑問になり、思わず答えてしまう。


「お前たちはなぜそんなに簡単に人を切り捨てれる」


 お前たち。


 この場合だとお前が相応しい状況だ。


 なのにあえて複数を指したのは、勿論意味がある。


 それはオーランドだけではない、


 例えばジュリアン、いやそれだけでもなく、


 彼らのように他人を利用するだけの人間、


 それら全員に問を投げているのだ。


「知れたことを、他人など歯車にしかすぎん、世界を動かすのは一部の人間だけだ!」


 王を豪語に語る。


 ソーマはそれを聞いて、静かに目をつむった。


 ――それが答えなのか。


 確かにあいつの言っていることは間違いではない。


 そんなことはないと否定するのは簡単だが、


 現実、世界の仕組みはそうなっている。


 俺とて動かす側の人間であり、


 大多数は歯車側であろう。


 無意味に死んでいく兵士もいる、


 強大な力に怯えながらが過ごす市民もいる。


 確かに王や勇者、魔王が死ぬのと、市民が死ぬのは価値が違うのは分かる。


 だからといって、進んで道具にするのは違うはずだ。


 それはオットー、ローゼリアは勿論、


 あのゲンナディさえ人を疎かにはしていない。


 だが、このオーランドはそのリミッターを外している。


 確かに俺や、リリーとメルアも外しているが、


 それに至るまでの覚悟はあった。


 だがこの男やジュリアンは違う。


 リリーのように葛藤はない、


 メルアのように殉ずる覚悟もない、


 そして俺が辿っている、破滅の道を行く事もない。


 ただ、自分の私欲のために人を利用できる人間だ。


「……ようやく理解した」


 ――俺の復讐は曇った思いから始まった。


 最初の復讐はアベルだった。


 俺の元仲間だ。


 確かに強大な力を相手に逃げて、ジュリアン側に付いた。


 だけど死ぬ直前の彼は、


 勇者時代のイメージと変わりなく、潔く正しかった。


 次はエリーゼだ。


 彼女も、元仲間である。


 彼女は予想通りに悪あがきをした。


 その見苦しさで少しは気分も晴れるものかと思っていた。


 だが、彼女がアベルを愛していた事実と、


 勇者時代の彼女を思い出し、


 残ったのはモヤモヤとした気持ちであった。


 俺に本当に彼女を殺す資格があったのか?


 2人を殺した後に残ったのは虚無感であった。


 死んでしまおうとも思った。


 だが、その時に目の前にいたリリーに俺は救われたのだ。


 彼女も死にたがっていた。


 本当の自分をどうしようもなく否定しており、


 あってはならないと思っている。


 だが、自殺する勇気はない。


 だから、俺に死を求めてきたのだ。


 俺は彼女と自分を重ねていた。


 お互いにあってはならない存在、


 だから、彼女を肯定すれば俺も正しいと、


 自己肯定できると思ったんだ。


 それがあったかたこそ、俺は今、こうして生きていけるのであろう。


 だがそれで吹っ切れても、


 愛する者を殺すのは相当心にきた。


 レイナが俺を貶めた奴と結婚する、


 そう言われたとしてもどこかでレイナを信じていた。


 もし、リリーと会っていなかったら許してしまう、


 そんな思いはあった。


 だが、リリーと出会ったことで俺の道は既に決まっている。


 レイナを殺す覚悟もなければ、世界を変えることなどできない。


 だから俺は彼女を殺した、


 俺が行く道……悪道とはそういうものだと。


「だけど、ジュリアンを殺す時、俺は何も感じなかった」


「何を言っている?」


 オーランドは突然の言葉に疑問を掲げる。


 ソーマはそれも気にせずに思考を続け、


 自分の中で結論を出す。


「俺も悪だ、だがな悪が悪を討って何が悪いというのか」


 善が悪に及ばない事などいくらでもある。


 そして光は善とは限らない。


 ならばこそ、このような醜悪な悪を討つために悪になる。


 その選択肢も間違いではないとソーマは確信する。


「くっ! 殺すのか!?」


 ソーマが剣を抜いて、


 初めてオーランドは恐怖と焦りを抱く。


「そのためにここに来た」


「待て、貴様に金と地位を約束してやる!」


 それは口から出た、出任せである。


 勿論、ソーマは釣られないし、下らないと一笑に付す。


「金、地位か……そんなものがいらない世界になったらどれほどいいことか」


「ま……」


 オーランドがもう一度待てと言う前に、


 ソーマは首をハネた。


 その仮設の部屋の豪華な家具に鮮血は飛び散り、


 金や銀の眩しい部屋は、あっという間に赤が支配する。


 その中で立ち尽くす、ソーマに罪悪感はない。


 だからと言って晴れた表情でもなく、


 ただただ無表情であった。

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