剣士の最後は
「事情は分かりました、暴走した勇者ですか……」
神殿の祈りの間。
夜の時間帯ここに入れるのは限られたものだけだが。
勇者のパーティには緊急用の避難先として、神鳥の羽が与えられる。
その効果は神殿の祈りの間に転移することだ。
魔王討伐の旅の時は、幾度もなく転移してきた。
エリーゼはその時の余りを使っていたのだ。
「そうなのよ! だから聖女様、私達をお守りください!」
エリーゼは聖女の力を当てにしていた。
魔王の力と相対する聖女の力。
だからこそ都は魔王から守られてきた。
そしてソーマの力は魔王に近いものがある。
だから聖女様ならば守ってくれると思ったのだ。
「もし、その力が魔王のものとしたら私とて完璧な結界を張るのに時間がいります」
「え? ど、どのくらいですか?」
「30分ぐらいです、それまでは2人までが精一杯でしょう」
長過ぎる。
それがエリーゼが抱いた最初の感想だ。
あの魔王相手に1人で30分も持たせるのは不可能だ。
それこそソーマ以外には。
だが仕方がないと思い、エリーゼはなんとか時間稼ぎ役を遂行しようとする。
「駄目だ、お前では30分は持たん」
「でも、アベル……」
「大丈夫さ、防戦だけならなんとか持ちこたえれる、それにここで逃げたら一生後悔する」
「アベル……」
そう言ってアベルはフラフラになりながらも、剣を構え、大扉の方を向く。
「……よろしいのですね?」
「ああ、エリーゼを守ってくれ」
その言葉を合図に聖女は結界を張る。
そして、それを待っていたようにして大扉は大きな音を立てて開かれる。
「やはり、ここか」
ソーマの姿を見た、聖女は絶句という表情であった。
「悪いな、ここは通せない」
「通るさ、障害にもならんからな」
ソーマはそう言って、接近して拳を溝に1つ。
アベルは吹き飛んで、後ろの壁に激突する。
「結界か。だがこんなもの……」
「まだだ!」
アベルは飛び上がって、ソーマに斬りかかる。
だがそれは勿論、ソーマの魔力によって防がれるが。
「馬鹿なやつだ、気絶した振りでもしてれば見逃したかもしれないのに」
「ここで逃げたら一生後悔する気がしたんでね!」
「……魔王から逃げたのにか?」
「……あの時はお前が居たから甘えてた、だけど今は居ないだろ?」
「ふん!」
ソーマはアベルを再度、吹き飛ばす。
「次はないぞ、今度は容赦なく戦力を奪い取る」
「ほざけ!」
アベルは斬りかかる。
無駄だと分かっていながら、剣士である自分ではこれしか手はない。
今度も防がれたと思ったら、アベルの右肩を黒く鋭い魔力が通り抜ける。
「え?」
エリーゼは呆けた表情をする。
アベルの右腕は剣と共に宙を舞っていた。
そしてその剣をソーマはキャッチして、アベルの左肩を斬り落とす。
ボトリと左腕が地に落ちる。
そしてアベルも膝をつく。
「丈夫だな、死にはしないか」
およそ常人ならショック死、出血多量で死んでいるはずだ。
だが剣士の技なのか、アベルは生き残っていた。
そしてソーマは結界の方に向き直る。
「おい、待てよ、俺はまだ戦えるぞ」
息を切らしながらアベルは立ち上がる。
両足は残っている、立ち上がれはするが戦えはしなかった。
それでも立ち上がる。
他でもない愛する者のために。
「次は両足だぞ」
「やってみろよ」
ソーマは容赦なく、両足を切り裂く。
アベルはだるま状態で結界にぶつかる。
結界に背を預ける形でソーマに向き直る事となった。
「……随分、安らかな顔をしているな」
「そうか?」
剣を目前に突きつけれたアベルの表情は穏やかであった。
恐れはない、怒りはない、悲しみはない、ただ穏やかだ。
「なんかこうなることを望んでいたような気がするんだよ」
「だるま状態をか?」
「馬鹿、ちげえよ! ……お前に裁かれることだよ」
アベルは罪の意識はあった。
だからこそ裁かれることを無意識で望んでいたのだ。
「だめ、アベル! 出して! 私を結界から出して!」
エリーゼは見えない壁をドンドンと叩く。
だがそれは強固で彼女ではどうあっても突破できないものであった。
アベルの状態はもう死んでいてもおかしくないものだ。
愛する者が死ぬところを目の前で見る。
それほど残酷な事はない。
「なあ悪いと思ってんだぜ、ソーマ。本当さ、俺達が100%悪かった」
「……それをもっと早く気づいてほしかったな」
「ははは、違いないな……なあ、殺すのか?」
「ああ、殺す」
「だよな……だけどさエリーゼだけは勘弁してもらえねえか?」
「それは駄目だ、一生の願いは使っただろ?」
「あっ、ああ……なら仕方ねえな、先に逝ってるぞ」
アベルの首は飛ぶ。
――ああ、チャンスはくれていたのか。やっぱ、お前は変わんねえな。
祈りの間に血が飛び散る。
ソーマの始めの復讐が終わった。