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黄昏の水平線で

 八岐の山脈。


 かつてはヤマタノオロチという龍が居たとされる山脈。


 当時はここを通るだけでも命がけであった。


 今となってはただ危険なだけな、山であるが、


 その伝説は語り継がれてきて、


 恐怖の象徴となっている。


 言うことを聞かない子供に、


 ヤマタノオロチに食われるぞ、と言い聞かすのが例であろう。


 といっても伝説は伝説。


 実際にはこの山を通って、国外に行くしかない、


 他国からもこの山を通るしか、アクアティリスにたどり着けない。


 遭難や、水害で行方不明になることはあれど、


 ヤマタノオロチという伝説の龍が出てくるわけでもなく、


 気をつけて進めば、くぐり抜ける事は当然可能だ。


「弓部隊はここに配置しろ」


 それどころか、今は戦いの場になりつつある。


 まさに神を恐れぬ行為。


 だが、それも仕方がない。


 国を焼く訳にはいかないのだから。



「いいですか、初めに強固な結界を作って、それを保持するイメージです」


 リリーはその戦場の場で、巫女の候補生達に結界のコツを教えていた。


 アクアティリスの巫女の候補生、


 メルアが現存なので彼女たちが巫女になることはないだろうが、


 その力は劣化しながらもメルアと似たようなものである。


 他の国ならば、魔法使い、魔術師、


 それに属するのが彼女らである。


 そして、巫女は聖女といった聖職者に役割は似ている。


 攻撃的な魔法より、防御的な魔法。


 そちらの方が得意なのだ。


 巫女達はそれを聞いて、結界の練習を始める。


 攻めてきたら、すぐに戦場になる。


 緊迫した空気がその場を支配していた。




「……おかしいですね」


 一方、宮殿の一室。


 そこは司令部となっており、重鎮達が戦況を見守るところだ。


 口を開いたのは、若い軍師。


「どうしたのだ?」


「敵の進軍のスペースが遅すぎます」


 普通なら接敵しているはず、


 そんな時間であったが、未だに接敵した情報は入っていない。


 考えられるのは、ルートを読み間違えたか、相手側のアクシデント。


 八岐の山には偵察の部隊が出ているので、


 もし、ルートが違う場合、すぐに発覚する。


 なので、この場合はイレギュラーが予想される。


「優秀な隠密部隊に敵の領内を探らせてください」


「分かった、すぐに手配しよう」


 軍師の言葉、


 隠密の大臣は部下に命令を飛ばす。


 それはすぐに最前線の隠密部隊に伝わって、


 作戦は実行された。




「相変わらず綺麗だな、水平線ってやつは」


 神殿の最上部、そこにソーマとメルアは居た。


 海に面する神殿、そこの最上部からは水平線がはっきりと見える。


 空は紅く染まり、時刻は夕方を示している。


 果てしなく続く、海の向こう側。


 太陽はそこに落ちようとしていた。


「……本当に単独で行くつもりですか?」


「……心配なのか?」


「当然です」


 結局はソーマが単独で攻める。


 ソーマが強いのは知っているが、


 心配なものは、心配であった。


 お互いの間に変な空気が流れる。


 メルアとしてはこの時間はかけがえのないものであった。


 なにせ、好きな人と2人きりなのだから。


 だけど、聞きたいこともある。


 聞くのが少し恐く、それで躊躇していたのだ。


 それにソーマが何を考えているのかが、分かりにくいのもあった。


 メルアはそこに同じ視点で立つことが出来ない、


 もどかしさを感じてもいた。


「……少し質問をいいですか?」


 だが、メルアは意を決して口を開く。


「なんだ?」


 ソーマは少しキョトンとしていた。


 だけど、それでも質問をすることを許可していた。


「その……レイナさんの事は良いのですか?」


 その名前を聞いて、ソーマは眉をピクッと動かせる。


 メルアはその反応を見て、


 やはり聞くべきではなかったと、後悔をする。


 ソーマにとっては嫌な質問であったのだと、気づく。


 だけど、ソーマは遠くを見るような表情で口を開きだす。


「死んだよ……俺が殺した」


 呆気にとられる。


 メルアはソーマの故郷の話を聞いたことがある。


 ソーマは明言していなかったが、明らかにその女性、


 幼馴染を好きだったと話を聞いて思ったのだ。


 敵わない。


 一緒にいる年月、思いが違いすぎる。


 だから、身を引いたのだ。


「……気になるか?」


「い、いえ、そんなことは!」


「分かりやすいな……そうだな君には話しておこうか」


 そうして、ソーマは語り始める。


 ――壮絶だった。


 ソーマ様の話はとても衝撃的であった。


 レイナさんは、ソーマ様を見限ったこと。


 権力のためにソーマ様を利用していたこと。


 ここまで聞けば、悪女である。


 だがソーマ様の言葉からは恨みといった負の感情が感じられない。


 どうしようもない、倦怠感が感じられる。


「俺は多分、レイナの事が好きだった」


 好きだった。


 それはレイナさんも、そうであったはずだと。


 なぜ、最後まで気づかなかったのであろうか。


 魔王を倒す使命、成り上がりたい欲、


 これが2人の間に霧となって、真実を見えなくしたのであろうか。


「メルア、お前は俺の事が好きか?」


 ソーマは唐突にそんな事を聞く。


「はい、とてもとても愛しております」


 私の答えは決まっている。


 愛している。


 好きなんてものじゃない、


 ソーマ様は私の全てだ。


 それは独占欲ではないが、


 病気的に愛してしまっている。


 私は異常なのかもしれない、だけど変えることは出来ない。


「俺は君を愛せないかもしれない、愛しても殺してしまうかもしれない、それでもか?」


「はい、例え一方通行の愛だとしても、私はソーマ様のためなら命を捧げるつもりです」

 

 当然だ。


 それが一方通行でも構わない。


 私だってソーマ様の後をついていける。


 それだけのメリットがあれば、命だってかけれる。


「そうか……君は俺には勿体無いぐらいに、いい女性だな」


 一際強い、潮風が吹く。


 その時、チラリと見えた、ソーマ様の横顔は、


 どこか悲しげだけど、覚悟を決めている顔であった。


 もう戻れない。


 私もソーマ様も、戻るには捨てすぎた。


 だから、私も覚悟を決めることにする。


 例えソーマ様が魔王になったとしても、


 最期までソーマ様の側にいると。

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