勇者の故郷も今は
戦争が始まり、1週間が経っていた。
だが、未だに起こった戦闘は、
ソーマVSリナトの戦いだけ。
国同士の戦いには未だに至っていない。
それも、どの国も様子見、戦力の確保をしていたからだ。
迂闊に攻められない。
アクアティリスにソーマが加わっただけでこれだ。
それにアクアティリスも攻めにくい地形にある。
後ろは海、前は山岳地帯。
食料も自国で賄えるので、
貿易を取りやめても、資源くらいしか打撃は入らない。
さらに、聖女も居るので守りは完璧、
攻め入るには並大抵の戦力では相手にならない。
それが各国の共通しえる考えである。
だが、一国だけその考えではない国が居た。
「では、ステンパロスの協力を得られないと?」
「はい、オットー様は不在、代理のアラヴィン様はそんな余力はないとの解答です」
フィリップスはステンパロスからの使者と会話をしていた。
協力の要請だが、その解答はノーであった。
1番、可能性が高い国だった。
それでノーとなると、
もはやアクアティリスに攻め入る戦力はない。
だが、フィリップスはそれでも良かった。
今は、他国との連携を取る段階だと。
クロムベルトは今や他国からの信頼は低い。
勇者が居た頃は先導して仕切ってこられたが、
今は他国に対しての優位性は皆無だ。
「フィリップス様、大変です!」
フィリップスは手元の書類を見ながら、頭を抱える。
部下が血相を変えて、入ってきた。
原因は大体、王の事だ。
「ええい、部隊編成はまだか! もう、1週間だぞ!」
「た、ただいま迅速に行なっているので……」
大臣はビクビクであった。
未だに進軍の準備は出来ていない。
だが、それは真正面から言えることではなく、
準備はしていると誤魔化すしかない。
「まだそんなことを言っているのですか?」
「フィリップス!」
フィリップスは王の元にやってくる。
それを見た、大臣たちはホッとする。
王に強く言えるのはフィリップスだけだ。
それは優秀でありながら、多くの後ろ盾を持っているからであり、
王もそのことは実感しており、一方的に優位に立てないのだ。
「今やアクアティリスの戦力は5大国でもトップ、守りに入らればその戦力の3倍は必要でしょう」
「だが、あの男と女を生かしておくには……」
「感情で人を殺せるでしょうか?」
危険分子なのは皆が理解している。
だから、殺すべきだ、殺したい、殺せ。
そんな事は出来ない、実現不可能だ。
殺すための手段を用意して、実現するしかないのだから。
その手段とは戦争であり、用意とは戦力だ。
今やクロムベルトの兵士は徴収しても、全盛期の4割と言ったところか。
魔王の四天王である、獄炎との戦い。
その時は、皆、国を守るため戦っていた。
国とは王ではなく、自分が住む場所、大切な者の事だ。
だが、今回は違う。
攻め入るために兵士を徴収する。
魔王との戦いが終わって、まだ半年も経っていない。
そんな中で、もう戦争とは気が早すぎるのだ。
それに勇者が居ないことも士気に関わってくる。
あの時は、勇者が魔王と戦っているなら……
そんな思いで兵士になろうとする者も多かった。
だが、今や勇者は敵。
そんな士気が下がることを言えるわけもなく。
ただ、アクアティリスとの戦争。
そんな時に兵士になりない人間などいないであろう。
「とにかくも、今は何も出来ない、王が勇者のように強ければ話は別ですが」
個人で国を相手にできる、人外。
それレベルになると、軍隊もなにも必要ないが、
現実にそれが出来るのが、クロムベルトの敵なのだ。
それにフィリップスには、気になることもあった。
世界に復讐、世界を破壊する。
ただ、全てを滅ぼして終わり。
ソーマの目的はそんな単純なことではないと思ったのだ。
事実、魔王も5大国に攻め入ることを目的とはしていなかった。
光の民が言うに、魔王は世界を無に還す秘技を持っている。
だから、魔王を倒さなければならない。
それがこの世界のシステムだと。
ソーマもそれを求めているのではないのか。
ならば我らのやることは、この世界の解明。
今までは光の民に言われるがまま、
倒してきた魔王の秘密を明らかにする。
それが、この世界の崩壊を防ぐための術ではないかと、
そう思ってならない。
「とにかく、すぐに部隊を編成しろ!」
「……分かりました、この問題は早急に解決しましょう」
だが、現実ではこんな風につまらないことに縛られる。
目先の利益に手を伸ばそうと、つられてしまう。
だが、王の言うことにも一理ある。
この戦争の問題も大事なことであり、放っておいてはいけない。
だから、フィリップスは解決を目指すことにする。
――ただし、貴方の想像とは違うかも知れませんが。
現実は思い通りにはならない、それを知ってもらう。
フィリップスは心の中でほくそ笑んでいた。




