勝敗の果ての結末
リナトは斬撃を食らう。
何も防ぐものがない中での一撃。
それは致命的であった。
肩から先の腕が吹き飛び、自身も吹き飛ぶ。
だが、驚愕の表情を浮かべるのはソーマの方であった。
「見事だな、1番被害が少ないダメージで済ませたか」
ソーマが狙ったのは体の中心。
体を真っ二つ、ソーマが思い描いていた未来はそれである。
だが、実際にはリナトのダメージは左肩で済んでいる。
致命的だが、致死ではない。
空中での回避、リナトはそれを見事にやり遂げた。
まず、リナトは自身の攻撃を防がれた瞬間、
槍を思いっきり、地面に伸ばした。
そして、それを支柱にするようにして、
横側に回避しようとしたが、
左腕が間に合わなくて、切り裂かれたのだ。
まさに、間一髪。
一瞬だけ、体の軸がブレたので、
ソーマの攻撃が命中する場所もズレた。
「だが、勝ちには変わりないか」
左腕が使えなくなった時点で、ソーマの勝利。
リナトは体術も使えずに、
片手だけでは槍を使うのは難しく、
パワーダウンであろう。
万全な状態でも厳しいのに、
そんな状態ではソーマに勝てる見込みなど皆無である。
それにリナトの体力、魔力も急激に減っている。
槍を杖代わりにして立っているのも精一杯。
勝敗はここに決定した。
「ちっ、殺せ」
リナトは潔く、諦める素振りを見せる。
だがそれをソーマは鼻で笑うのだ。
「ふっ、よく言うな、まだまだ、戦う気満々だろ」
リナトの闘志はまだ死んでいない。
槍を振れるのなら、
油断して近づいてきたソーマに反撃するつもりであった。
だが、それもバレてしまう。
ソーマに油断などはなかった。
「ったく、負けだ、負け!」
「安心しろ、殺しはしない、死よりも辛いかもしれないがな」
「……まあ、そうなるよな」
捕虜。
死んでいないのは逆に僥倖であった。
死体に口なし、
死んでしまっては得られる情報は、その外見だけである。
だが、生きていれば、情報はその口から語られる。
「諦めな、拷問に耐える訓練は仕込まれてる、死んでも口は割らねえよ」
ケテルはそういう所は厳しい。
なにせ魔法大国。
秘伝の魔法など腐るほどある。
それを守ることによって、魔法大国としての地位がある。
捕まったら、逃げるのではなく、自身の魔法を封印して、なんとか死ぬ。
それが、ケテルの教えである。
「あら、それは愉しみですね、我慢強ければ強いだけ、落とした時の反動も大きいもの……ふふふ」
リリーとメルアはいつの間にかソーマの隣に立っていた。
「おいおい、なんだそのやべえ女は」
「拷問が趣味な女だ」
「あら、私が趣味なのは人が堕ちていくとこの観察、拷問なんてその過程ですわ」
「……聖女みたいな笑みを浮かべてとんでもねえことを言うな」
リリーはにっこりと笑い、そんな事を言い放つ。
リナトは呆れ返る。
事実、聖女だったが、
それを聞いて聖女だと想像出来ないのは正常であろう。
「まあ、どっちにしろ、ここまでだな」
リナトのその呟き、それはただの諦めたものかと3人は思っていた。
だが、リナトの変わり様を見て、それはただ諦めたものではないと確信する。
「この魔力の移動……自爆か!」
リナトの体はひび割れて、赤く点滅している。
魔力は心臓に向かって、進み蓄えられている。
勇者を倒すために、己の存在を犠牲にして特攻する。
ソーマはそんな敵を何度も見てきた、
だからすぐにリナトがやろうとしたことを把握出来た。
「まあな、死なばもろともってやつだ、俺の犠牲で巨悪を討つことが出来るのならば儲けものだろ?」
「殊勝な心がけだな!」
リナトの魔力量。
それはとてつもなくでかい。
今まで隠していたものであろう。
年月を重ね、蓄えられていた魔力。
それが命を燃やし爆発した場合には、
広範囲にものすごく損害を与える。
防御する場合にも自身を守るぐらいしか展開できない。
リリーも防御のスペシャリストではあるが、
聖女の結界で防ぐにも、この規模だと時間が足りない。
ソーマはどうするべきか考える。
すでに魔法は発動している。
リナトの命を断ったところで爆発は止まらない。
――どうするべきか。
自分の身は守れる。
だが、リリーとメルア、そして後ろのメルアの従者達、
それは諦めるしかない。
考えている内に時間は過ぎる。
「リリー様、結界を!」
メルアは叫ぶ。
「もう、遅え!」
リナトも叫びながら、魔力は爆発する。
その刹那、リナトは笑い、従者たちは怯え、リリーは結界を発動して、メルアは目を閉じる。
ソーマは後ろを向いて、リリーとメルアを守るように立ちふさがった。
そして、大規模な爆炎がソーマ達を襲いかかったのだ。




