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戦いの勝利条件とは

 打ち合う。


 幾つもの槍と剣が交差しあう。


 真正面からの剣戟。


 若干、不利なのはソーマの方である。


 なかなか懐に踏み込めない。


 無理に踏み込もうとすれば、手痛い反撃を食らう。


 といっても、攻めなければ一定の距離を保たれて、


 ソーマの射程から攻撃してくる。


 手も足も出ないってわけではないが、


 攻撃を当てるには厳しい状況であった。


「4、この数字が分かるか?」


「知らん」


 リナトは下がって、


 突如にそんな事を言う。


「俺の槍がお前の体を掠めた、回数だ」


 剣戟の中。


 リナトは4回ほどソーマの体を、


 槍で掠めていた。


 それなのに、傷一つ負っていないソーマ。


 さすがに疑問を抱く。


「さっきの剛掌もそうだ、当たっているはずなのに感触がイマイチ、なにか鎧のようなものを纏っているな」


 ソーマの闇魔法の壁。


 それは全身を包むようにして展開している。


 リナトが言うとおり、それは鎧。


 鎧のデメリットである、重さをクリアした、


 全てをかばえる、強固な鎧である。


「だとしたらどうする? 諦めるか?」


「馬鹿言え、まずはそれを打ち破る!」


 リナトは片手に槍を持ち、


 ソーマに突進する。


 そして、棒のように軽々と槍を振るう。


 その動きは変則的だ。


 まさに舞。


 変則的に攻撃してくる、その動きは、


 初見では捕らえきれない。


 ソーマは防戦に追い込まれる。


 こちらに向かってくる、攻撃をなんとか防ぐ。


 ソーマに出来るのはそれだけだ。


 防御に徹する相手、


 それを崩すのは容易いものではない。


 第三者の視点からはそう見える。


 当の本人である、リナト、


 彼からしてみればそうでもない。


 複雑そうに見える、槍の変則的攻撃も、


 リナトからしれみてば自身の攻撃だ、


 どのように当て、どのように防がれるのか手に取るように分かる。


()った!」


 ガードは崩される。


 決められていた、攻撃の流れ。


 ソーマはそれにまんまと引っかかったのだ。


 心臓への道が空く。


 勿論、それを待ち望んでいた、リナトは見逃さない。


 槍に魔力を込めて、槍を大きく突き刺す。


 今度はソーマの体勢が崩れている。


 槍は一直線に心臓に向かった。


「さ、刺さらねえ!」


 ところが、心臓どころか、体に刺さることはなかった。


 渾身で放ったはずの一撃、それは見えない何かに止められていた。


 ソーマは一点に魔力を集めていたのだ。


 変則的な攻撃、それに破壊力はない。


 どれだけ体を掠めようと、闇魔法の前には効果は薄い。


 ならば、敵が狙うのは、


 変則的攻撃の際に生じた、スキ。


 そこの攻撃は破壊力抜群の直線的な攻撃。


 確実に来るであろう、分かりやすい一撃。


 ソーマはそのためにスキをあえてつくり、


 急所に闇魔法の壁を一点に集中させる。


 リナトの渾身の一撃は、


 ソーマの集中させた防御に防がれていたのだ。


 リナトは寒気に似た、冷たさと震えを感じる。


 やばい。


 大技を防がれた後、


 それは無防備なタイミングだ。


 ソーマは既に反撃に入ろうとしている。


 剣を大きく、振り上げて、叩きつける。


 それにリナトは両手で槍を支えて、受け止める。


 体は地面に押し付けられる。


 何倍もの重力が襲いかかっているようだ。


 地面を支えている、足元は凹んでおり、


 槍が折れそうなほどの勢いだ。


 いや、このままだと槍が先に耐えられない。


 リナトはそれを感じ取っており、


 力を込めて、上から下の攻撃を、横に弾く。


 そのまま、リナトは後方に大きくジャンプして着地する。


「なんだよその守りは、卑怯だろ!」


 渾身の一撃を防がれた、


 確実に決まったと思ったのにだ。


「ふっ、自分の攻撃が通用しなければ卑怯か、だが残念ながらこれは力の差ってやつだ」


「おいおい、言ってくれるな……まあ、力の差があるってのは認める」


 相手は元勇者。


 強いとは思っていたが想定以上であった。


 力量が負けているというのも数度打ち合って感じていた。


 だが、それは今の状態での話だ。


「ケテル、ビナー、ホド、イェソド」


 リナトは単語を呟く。


 それと同時に地面に魔法陣が描かれる。


「魔法か」


 それはケテルの魔法だ。


 言葉は意志を持つ。


 それは万人の魔法使いに共通する、魔法の基礎だ。


 言葉が意志を持ち、マナがそれを実現させる。


 ケテルは単語に複数の意味を持たせて、


 パズルみたいに組み合わせ、繋ぎ合わせ、魔法を発動する。


 リナトの体は熱く燃える。


 火属性の魔法である。


 といってもリリーのように人を燃やすものではない。


 自身の細胞を燃やして、活性化させる魔法である。


 人を燃やす攻撃的な炎、人を包む優しき炎。


 どちらも火属性の魔法であるのだ。


「あれは火属性の魔法ですか?」


 観戦していたメルアはリリーに聞く。


「ええ、といっても私の浄化の性質とは違いますね、おそらくは活性化、支援向きの魔法ですね」


 確かにそれは支援向けの魔法である。


 ただ、それは本人自身に戦闘能力がない場合だ。


 もし、戦闘能力があるのなら、


 その魔法は本人の力を何倍ものに引き上げる。


 魔力を純粋に身体能力に変換しているのだ。


「今度の俺は……」


 ソーマの眼の前からリナトは消える。


 それにソーマは目を見開く。


 見えたの視界の端に写る、僅かな人影。


 そして後方から感じ取った、殺気。


 ソーマは体を大きく仰け反らせる。


 すると虚空を槍がきる。


 そこは虚空であるが、先程までソーマの体があったところだ。


「速えぞ」


 リナトの反攻が始まる。


 最適の距離を保ちながらの連撃。


 その速度、力もまた上昇している。


 今度は相対する、ということも出来ない。


 防ぐのが精一杯だ。


「くっ、これほど強くなるとは」


 ソーマはたまらず後方にジャンプする。


 だがリナトは追従して、思いっきり更に上空から刺突する。


 ソーマは地面に大きく叩きつけられる。


 猛攻は止まらない。


 地面に叩きつけられようが、リナトは攻撃を加える。


 息切れをする気配はない。


 まさに見境なく襲いかかってくる獣。


「調子にのるな!」


 ソーマは空中で無謀になった、リナトを斬りつける。


 それをリナトは槍を手前に持ってくることで防ぎ、


 その反動で体を一回転させて、槍を叩きつける。


 冷静であった。


 狂った獣のようであり、対処は冷静だ。


 これほど厄介な敵もいない。


「どうだ、さっきとは違うだろ?」


「なるほど、それが本当の姿ってわけか、ここまでの近接戦闘の強さは四天王以来だな」


「そりゃ、ありがたい」


 魔王の四天王。


 その強さも他国には知れ渡っている。


 単独で、大国を滅ぼすことが出来る。


 そう言われ、魔王と同じ危険分子であった。


「だが、勝てない、そう言っておこう」


「へえ、どうみてもこっちが上回っているように見えるけど?」


「今に分かる」


 雰囲気が変わった。


 リナトはそう感じた。


 だが、それだけだ。


 リナトみたいに魔法を唱えたわけでもない。


 急激にパワーアップすることはないと踏んでいる。


「なっ!」


 ソーマの後ろから、黒い何かが現れる。


 それは闇魔法である。


 闇魔法は不可視と未知の性質を持っている。


 ソーマが展開している、闇魔法は不可視の性質だ。


 そして、今出現させた黒い闇の魔力。


 それこそが未知の力を持つ、魔法である。


 幾つもの、闇の魔法が放たれる。


 突然の遠距離攻撃、しかも未知の魔法。


 迂闊に食らうわけにはいかない。


 回避することに専念する。


 ソーマは相手を追い込む。


 操作して回避する場所をなくしながら、


 相手を追い込む。


「ちっ!」


 リナトは下がれる場所をなくして空中に跳ぶ。


 それこそがソーマの狙いであった。


 地上の闇魔法が一斉に空中のリナトに襲いかかる。


 空中では身動きが出来ない、


 リナトは槍を振り回して、


 幾つもの黒い魔力をはたき落とすしかなかった。


 だが、余りにも数が多すぎる。


 リナトが振り回す、槍の結界をくぐり抜けて


 1つがリナトの体に突き刺さり、


 リナトはぐらつきながらも着地する。


「ぐっ、なんともない? いや、魔力を吸い取ったのか!」


「そうらしいな」


 未知の魔法。


 それはソーマにとっても未知なものである。


 そのためにどんな性質を持つか分からない。


 この前の山賊達のときは押しつぶす性質を持った。


 今度はどうやら、吸収する性質を持っている。


「これが勝てない理由だ、お前は所詮、一芸だけだからな」


 オールラウンダー。


 少なくても、ソーマ、四天王、魔王はそうであった。


 近接戦闘だけ突出していても、


 ソーマには遠く及ばない。


 戦闘とは総合力が高いほうが勝つ、


 総合力ではソーマが圧倒的に上回っていた。


 汗を一滴も流していないソーマ、


 冷や汗を流す、リナト。


 戦いは終着を迎えようとしていた。

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