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師と弟子、似ているが

 リリーが合流する。


 ソーマ達は彼女を加えて、アクアティリスに向かう。


 今はその道中だ。


「顔色が優れませんね、メルア」


 リリーはメルアの顔色に気づく。


 体調が悪いというわけではない。

 

 疲れが溜まっているというわけでもない。


 ただ、どこかすぐれない表情。


 その微妙な変化を感じ取っていた。


「いえ、そのリリー様は、なぜソーマ様と一緒に?」


 恐る恐る、メルアは聞いてみる。


 それに対して、リリーは考える仕草を見せた。


「なぜだと思いますか?」


 リリーは質問で返す。


 といってもこういう事は少なくなかった。


 リリーは答えを提示せずに質問を返してくる。


 それはなぜそう思ったのか、


 何を思っているのか、


 それを重要としているからだ。


「えっと……それはあの、愛し合っているからではないでしょうか?」


 しどろもどろになりながらも答える。


 聞きたくはない、肯定してほしくない、


 メルアはそう願っていた。


 対する、リリーはきょとんと呆気に取られている。


「ふふふふふ、メルア、そう言うことなのですね」


「リリー様?」


 そしてリリーは笑い出す。


 メルアの勘違いが分かったからだ。


 そしてメルアがソーマについた理由。


 それも分かったのだ。


「私はただ単にソーマの道に興味がある、だから一緒にいるのです」


「道ですか?」


「ええ、勇者から復讐者、それは光から闇、光の道を歩いてきた者が闇の道を歩く、なんとも面白い道とは思いませんか?」


「お、面白いですか?」


 メルアは外道ではない。


 悪におちようとも非道、外道な事は進んでしない。


 それはソーマのためだったら別なのだが、


 とにかくもそれで悦を得ることはない。


 だからリリーの面白いという感性分からなかったのだ。


「……リリー様、変わりましたね」


「いえ、メルア、これが私なのです」


 メルアはリリーの変わり様に驚く、


 だがリリーは、変わったのではないと言う。


「メルアと居た頃から、私は今の私でした、その時は仮面を被っていただけ」


「今はその仮面を取ったのですか?」


「ええ、取ってくれたのはソーマ、そして邪悪な私を認めてくれた、そういう意味では愛しているのかもしれませんね」


「え、えぇ!?」


「ふふ、冗談ですよ」


 メルアからしてみれば、質の悪い冗談だ。


 だが、リリーの表情を見るに弄ばれたのだと理解する。


 それに対して、少しばかり頬を膨らましていた。


「ですが、貴方がそんな態度では食べてしまうかもしれませんわよ?」


 リリーは意味深な笑いを見せる。


 メルアは一歩引いた所にいる。


 全てを捧げるほどに、


 ソーマの事を思っている。


 それなのに我慢しているのだ。


 自分はソーマに相応しくない。


 そう卑下して、諦めている。


 リリーはそれも見抜いている。


「……私はソーマ様に相応しくはありません」


「ですが死ぬほど愛している、だけど愛しているのに恋が出来ない、ふふふ、その歪みを見守るのも一興、良き結末を願ってます」


 メルアは寒気を感じる。


 まるで獲物として見られた時の小動物のようであった。


 リリーは笑顔だ。


 いや、笑顔だからこそ余計に寒気を感じていたのだ。


 だが、言っていることは正しい。


 愛している、


 そのはずなのに積極的にアプローチは出来ない。


 自分に自信が持てないから、


 ソーマに相応しいと思えないから、


 メルアは一歩を踏み出すことをしない。


 前に続く、ソーマの道を辿る。


 それだけでいい、そう思っているのだ。


「注意しろ、そろそろ中立地帯を抜ける」


 前を歩いていた、ソーマは後ろの2人に声を掛ける。


 草原は未だに続いている。


 目印らしきものは見当たらない。


 だが、そろそろ中立地帯を抜ける。


 それを感じ取っていた。


「よく、分かりますね」


「リュミエールの塔からは離れた、そろそろ仕掛けてきてもおかしくない」


 正確に中立地帯が設けられているわけではない。


 リュミエールの塔、その地域に住む、光の民。


 ここで戦ってはいけない、彼らと戦っていはいけない。


 そういう決まりがあるだけだ。


 だから、塔から十分の離れた地点、


 そして光の民がいない事。


 それを踏まえて、中立地帯を抜けたと決めたのだ。


「そうだろ? そろそろ姿を現せよ」


 ソーマは後ろに居る、人間に向けて語りかける。


 それは、リリーでもない、メルアでもない。


 はたまたメルアの従者達でもなく、さらに後ろ。


 草原が広がる光景に向けてだ。


 何事かと思い、皆後ろを向く。


 そこには誰も居ない。


 当然だ、足音もなく姿も見えない。


「おいおい、これを見破るのかよ」


 だが突然と声がする。


 そして、マントを脱ぎ捨てる。


 そのマントは草原の光景を写していた。


 それを着て、周りの景色に擬態していたのだ。


「ケテンベルクのミラーマント、じいさんによく見せられたからな」


「……見せんなよ、じじい」


 それはカモフラージュのための魔法である。


 ケテルは万年、雪が降っている。


 つまりは銀世界、雪で白い景色が広がる。


 そんな中、どのように隠れるのが効率的か、


 そこで編み出されたのが上記の魔法である。


 始めは白い雪景色に紛れ込む、魔法であった。


 だが国外では、雪景色だけではなく複雑な色が存在する。


 そこでミラーマントは進化をして、


 今では周りの景色を反射する、魔法となっていた。


「じいさんの横に居たやつか」


「おうよ、名はリナト・リューシン」


「興味はないな」


 ソーマはバッサリと切り捨てる。


 リナトはアチャーと額に手を置く。


 そして、少しの落胆を見せた。


「まあ、そりゃ、世界を救い、世界の敵となった、あんたと比べたら格は落ちるけどよ」

 

 そう言って男は槍を構える。


 片手で軽々と自身の全長は超える武器を振り回す。


「ケテルの中では敵なし、じじいの後釜、最候補なんだぜ」


 槍を向けて、言い放つ。


 ちなみに敵無しは本当だが、


 後者は自称である。


「なんでもいい、ただ死にいく者の事など、どうでもいいだけだ」


「そりゃあいい、戦いは俺も好きだ、ただ生き残るのは俺だがな」


 言うより、戦え。


 それはリナトも望むところであった。


 リナトは槍を向ける。


 ソーマは怯えている従者達を下がらせて、前に立つ。


 そしてリナトに向き合う。


「おいおい、丸腰かよ、勇者は剣を扱ったんだろ?」


「これでも十分だ」


「……萎えるなあ」


 ソーマとしては丸腰でも十分。


 リナトからすれば武器を持たない相手に不満。


 戦いの場でそんなこと気にする必要は皆無だ。


 だがそれでも気になってしまう。


 それがリナトの性格であった。


「ソーマ様、お待ちを」


 メルアはそう言って従者が持っていた剣を受け取る。


 そして、それをソーマに手渡す。


「水竜の剣、アクアティリスの巫女に受け継がれる剣です、聖剣に比べれば見劣りしますが……」


「いいのか?」


「はい、私は剣を使わないので」


 巫女といっても様々な巫女が居た。


 剣を使う、戦巫女。


 魔法を使う、巫女。


 そもそも戦う能力を持たない、巫女。


 メルアは魔法を使う、巫女だ。


 初代は剣も魔法も使った。


 その名残からか剣は受け継がれてきたが、メルアには必要がない。


 といっても巫女の象徴なので持ち歩いては居たのだ。


 ソーマは剣を軽く振る。


 爽快よく振るその姿は、


 やはり、勇者としての技量を見せている。


 メルアだけではなく、怯えていた従者もその姿を見て、見惚れてしまうほどだ。


「ああ、いい剣だ」


 聖剣と比べても大差はない。


 その剣の振り心地にソーマは満足する。


 そして剣を構えて、


 眼の前の槍使いに再び向き合うのであった。

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