それぞれの行動
世界は再び戦いの時代となる。
アクアティリスとソーマ。
そしてそれ以外。
2つに別れたのだ。
「……もう戦時中ってわけだよな?」
オットーは確認するように発言する。
奇妙な状況だ。
戦争に入ったのに、ここには各国の代表が集結している。
だが手を出せない、そんな状況であった。
「ルールを守る必要もないが、ローゼリアにオットー、そしてゲンナディ、流石に丸腰では厳しいものがある」
ソーマはそれだけ言うとその場から去ろうとする。
剣も今は持っていない。
それでも対抗は出来ると思ったが、その3人の他にも優秀そうな従者がついている。
世界有数の実力者が集まっているのだ。
そして、今、この時こそソーマを倒す、千載一遇の好機である。
だが動けない。
なぜなら、彼らはルールに縛られているからだ。
中立地帯では戦闘行為は行えない。
だからソーマが去るのを見逃すしかない。
「では、皆さん、さようなら」
それにメルアはついていく。
従者たちも慌てて、メルアについていった。
「今すぐに、兵士を編成しろ、アクアティリスに攻め込むぞ!」
「了解しました」
クロムベルトも戦争の準備をするために去っていく。
「アラヴィン、しばらくは傍観だ、後は任せるぞ」
「オットー様!?」
オットーは後の事は任せて、1人で去ろうとする。
「ソーマを倒すためには、王ではなく戦士にならなくてはならない、今のままでは捻り潰されるだけだ!」
戦士と王。
王は頂点に立つ者、戦士は戦う者。
今、求められているのは純粋な力。
オットーはそう感じたのだ。
それこそが友としての礼儀であり。
オットーとしての戦士の誇りである。
だから不甲斐ない戦いは出来ない。
今こそ、人生で最高の力を発揮するために、
王を捨て、戦士になる時、
そう感じたのだ。
「……姫様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
ローゼリアは気丈に振る舞っている。
だがその内心は傷ついている。
それに騎士たちも気づいてはいた。
「彼らに覚悟あるように、私にも守るための覚悟はあるのですから」
ローゼリアの覚悟は弱者を守る、覚悟である。
それこそが指導者であり、聖剣を抜いた自分の使命。
そこだけは昔から変わらない。
「帰りましょう、そして考えましょう、これからの世界を」
こうしてローゼリアも会議場から居なくなり、
残るはケテンベルクだけになった。
「どう見た? アレクにリナト」
ゲンナディは唐突に従者に質問をする。
それに冷静な男のアレクサンドロから口を開く。
「恐ろしいでしょうか。 世界に喧嘩を売る、それは決して口からの出まかせではない、彼は本気で喧嘩を売り、本気で壊そうとしており、説得力も十分にある」
「正確な分析じゃ」
冷静が故に、ソーマの分析をしっかりしていた。
彼が言ったことは夢物語だ。
個人が世界に喧嘩を売る。
一般人が魔王と戦うぐらいには現実味がない。
だが、それでも彼は本気であり、
それに足りうる、経歴と覚悟を持っている。
夢物語ではない。
「リナトはどうだ?」
「すげえな、あれは只者ではない、じじいが入れ込むのも分かるぜ」
対するリナト。
彼は抽象的な意見だ。
だが感じていることに間違ってはいない。
「ふむ、そうだなリナト、仕掛けてみるか?」
「いいのか!?」
「中立地帯を抜けたらな、仕掛けてこい」
「了解!」
ゲンナディは感じ取っていた。
戦ってみたい。
リナトのその思いを。
だから許可をする。
すでに戦争は始まっている。
中立地帯を抜けたら、そこは戦場。
敵同士、出会ったら即戦闘。
リナトは意気揚々として戦場に赴く。
「いいのですか? いくら、リナトとは言え……」
「負けるだろうぞ、だがそれでいい」
リナトの実力を認めている。
だがそれでも負ける。
アレクはそう思っていた。
それはゲンナディも分かっていた。
「あやつは国内だと敵なしだからな、いい機会だ」
「なるほど、敵の戦力とリナトの成長を促すということですね、……死ななければよいのですが」
アレクはゲンナディの意図を読み取った。
今のソーマの実力。
それをリナトをぶつけることで、確認する。
負けるだろうが、それ自体も彼のステップアップに繋がる。
問題があるとすれば生きて帰ってこれるかどうかだ。
「問題はないぞ、そこは口を酸っぱくして言っておるからな」
生きて帰れ。
ゲンナディがよく口にする言葉だ。
勝負とは人生。
人生、死ねば負けである。
生き残れば、勝つ努力を行うこともできる。
そして、それはやがて勝ちにつながる。
だからこそ生き残る事に全てをかけろ。
リナトも勿論、その教えを受けていたのだ。
ソーマとメルアはリュミエールの塔から出てくる。
そこにメルアの従者達も一緒だが、
その表情は不安を抱えている。
そんな事はいざ知らず、メルアの表情はごきげんだ。
ソーマと同じ道を歩いている。
それだけで満足なのである。
「ソーマ様、これからはやはりアクアティリスに?」
「ああ、しばらくはそこを拠点にする」
ソーマとしても大助かりだ。
この後の拠点。
いくつか、候補はあったがどれも面倒な事になりそうだった。
だから、アクアティリスという国が無償で手に入ったのは助かっていた。
「だがその前に迎えにいかないとな」
「……迎えにですか?」
ソーマが迎えにいく。
メルアは一瞬、嫉妬をしてしまう。
誰をと聞きそうになる。
だが、それをグッと抑えて口にはしない。
ソーマが迎えにいく、
それは必要だということだ。
だから、余計な口出しはしないのだ。
だが、彼女はその人物を見て、
嫉妬どころか、驚くことになるのだ。
「リ、リリー様!?」
「あら、メルアではないですか」
リュミエールの塔から少し離れた所。
木陰で休んでいる彼女を見て、メルアは驚く。
リリーとメルアは知り合いである。
2人の関係は、言ってしまえば師匠と弟子。
メルアは10歳の頃、巫女の見習いとしてリリーの元に訪れて居たことがある。
その頃、すでに聖女だったリリー。
同世代とは思えないほどに立派で、
聖職者としても憧れていた。
決められた道、決められている結末だったが、
彼女のようになりたい。
そんな目標を持つぐらいには尊敬していた。
だからこそメルアは勝てない、そう思い完全に諦めてしまう。
「知り合いっだったのか?」
「3年ほど一緒に居たことがあります、ですよね、……メルア?」
ボーッとしているメルアにリリーは語りかける。
するとハッとしたようにメルアは顔を上げる。
「は、はい、色々と学ばさせていただきました」
「なるほど、通りでな」
弟子は師匠に似る。
当然の事である。
ソーマが見ていたのはメルアの上辺だけ。
その本性は今日、初めて知った。
衝撃的というか予想外。
それは素直な感想だ。
だが、それはリリーと同じである。
彼女もまた予想外だったのだから。
「ふふふ」
リリーは意味深に笑っていた。
メルアの本性を分かっていたのか、
それともただ単に面白いと思っていたのかは分からない。
だが分かるのは、
メルアもまた世界からしてみれば悪。
ここに居る3人は世界の敵として相応しいということだ。