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姫と巫女


「巫女さま、大丈夫ですか?」


「ええ、ありがとう」


 メルア達、アクアティリスもリュミエールの塔を目指していた。


 道中は長い。


 従者である、巫女の見習い達もメルアを頻繁に気を使っていた。


 なにせメルア自身、旅にはなれていない。


 体力もそう多いほうではない。


「やはり、馬車を利用したほうが……」


「リュミエールの塔に向かうときに馬車は利用してはいけない、そう言う決まりなのです」


 リュミエールの塔。


 それを建造するために遠方から足で万人は訪れた。


 それに習って、リュミエールの塔に向かうときは自分の足で。


 そういう決まりなのだ。


「まったくどこの馬鹿ですか、そんな決まりを作ったのは! しかも、5大国会議の場所にまで指定して!」


 それはごもっともな意見であった。


「ん、何かこちらに向かってきます!」


 見張りの見習いが報告する。


 それを聞いた、メルアと見習い達は身構える。


 段々と姿が見えてくる。


 先頭の女性らしき人影はメルアに対して手を振っていた。


 それを見て、メルアも安堵の息をつく。


「メルアではないですか」


「ロゼ、お久しぶりです」


 それはローゼリア。


 ブライトニアの姫だ。


 彼女はお供として騎士を連れていた。


「道中にまさか会えるとは」


「ええ……あれ、ブライトニアは西、アクアティリスは東、道中に会うことはないのでは?」


 西から向かう、東から向かう。


 そうなれば必然と出会うのは、その中央である。


 つまりはローゼリアがメルアに道中で会うのはおかしい。


「ん? 考えてみればそうですね、どういうことでしょうか?」


 ローゼリアはお供の騎士に対して聞く。


 するとその騎士は少し考えた後、結論を出す。


「どうやら姫様の方向音痴はご顕在かと」


 そう彼女は方向音痴であった。


 しかも一緒に居たものに伝染するほどに。


「ふふふ」


「わ、笑わないでください」


 ローゼリアは顔を真っ赤にする。


 知られたくなかった、自分の恥ずかしい所。


 それを見られたからだ。


 メルアとローゼリアは仲が良い。


 なにせお互いに若くして国のトップとなった身。


 しかも女性同士。


 共感し合う事は多い。


「いつもはかっこいいロゼにそんな弱点があるなんて」


「む、昔からなのです、どんだけ地図を見ても、どんだけ注意していても気づいたら……」


 それは運命であった。


 ローゼリアは方向音痴。


 それはどうしても切っても切れない宿命だ。


「しかし、私達も気をつけていたのに……もしかしたら姫様は幻覚を生み出しているのかもしれませんな」


「な、なんですかそれは!」


 ローゼリアはそれを聞いて、顔を赤く怒る。


 それを見た、騎士たちは笑いあう。


 ローゼリアと騎士達の仲は良好であった。



「ローゼリア様、遠方から……おや、メルア様も一緒ですか?」


「ああ、途中で会ったのでな、して、貴方の名前はなんという?」


 フィリップスは挨拶をしようとするが、


 ローゼリアと共に来た、メルアに少し疑問を抱く。


 東と西、どうしても交わらないはずなのになぜ?


 と思ったが深くは突っ込まないことにした。


「フィッリプス・ノードロップ、一応、宰相の立場です」


「となるとNo2か、王はどうした?」


「失礼ながら、我が王は休憩中でして、お呼びしましょうか?」


「いや、いい」


 見知らぬ顔。


 それにローゼリアは疑問を抱く。


 だがその立場を聞いて納得する。


「メルアです、この度はお招きいただき、ありがとうございます」


 メルアは丁寧に挨拶をする。


 ここでは最も立場が低い。


 そう思ったからだ。


「いえ、今回はこちらの要請、感謝するべきは私達のほうです」


 それに対して、フィリップスは逆に頭を下げる。


「しばし、旅の疲れを癒やしてはいかがでしょうか? 準備ができ次第お呼びしますので」


「そうだな、休ませてもらうか」


 フィリップスの提案にローゼリアは答える。


 メルアとて長旅疲れたので少し休みたい気持ちであった。


 こうして、2人は待機室に案内された。


 役者は揃い、後は準備だけであった。



 コンコンとドアがノックされる。


「誰ですか?」


「私です、メルア」


 それは友である、ローゼリアだった。


 来客の正体が分かり、メルアはドアを開ける。


「ロゼ? どうしたのですか?」


「いえ、中に入っても?」


「ええ、いいですよ」


 それと同時にメルアは従者に目配せをする。


 ローゼリアが訪れた。


 そして中に入っていいか確認する。


 外では話せない、大事なことがあるのだと思ったのだ。


 故に従者に外すようにとアイコンタクトを送ったのだ。


 それに気づいた彼女らは、


 失礼しますとローゼリアと交代するように外に出る。


「会議の前にお話でも?」


「ああ、うん、まあな……」


 歯切れが悪い。


 ローゼリアにしては、はっきりとしない。


 メルアはそういう印象を抱く。


「ソーマの事、どう思う?」


 ローゼリアは意を決して、その名前を口にする。


 それにメルアはピクッと反応したのだ。


「どうというと?」


 メルアの声は冷たい。


 普段の彼女からしてみれば考えられないほどだ。


 ローゼリアは思わず、焦ってしまう。


「いや、本当に裏切ったのか、どうか、分からないじゃないですか」


「……ああ、そっちですね」


 メルアは小声で呟く。


 そして、いつもの表情を取り戻した。


「私はいつでもソーマ様を信じていますよ、今でも」


「……そうか」


 メルアの答えは決まっている。


 ソーマを信じる。


 たとえ裏切っていたとしても、


 いや、そんな事は関係ない。


 ソーマなら無条件で信じる。


 そこまで盲信していた。


「ロゼは信じていないのですか?」


「いや、信じたいさ! ソーマが裏切るはずがない、魔王を倒したのはソーマだ、そんなこと火を見るよりも明らかだ!」


「なら、それで良いのでは?」


「そこまで単純ではないだろ、この世界は」


 そんな単純な話ではない。


 この世界は結果に、様々な思惑が纏わりつく。


 そして闇に包まれて、真実が覆い隠される。


 事実、ソーマがそうなった。


「いえ、単純ですよ……私の世界は」


「メルア?」


 いつもと違う、雰囲気。


 今度は確かに感じ取る。


 疑問を抱き、


 少し心配を交えて、メルアに呼びかける。


「いえ、なんでもありません」


 だが、メルアは何時も通りの、


 優しい雰囲気に戻っていた。


 彼女はこの時、気づくべきだったかも知れない。


 友人が覚悟を決めていたことを。

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