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海の巫女


「巫女さま!」


 ここは海の国。


 東に存在する、大洋。


 それに面している、大国。


 この国は海、川と水に関わりが深い。


 そのため指導者は自ずと水と関わりが深くなり、


 巫女と呼ばれる、女性がなるのであった。


「巫女さま、親書です!」


 海に面する神殿。


 その中で巫女は瞑想していた。


 瞑想、祈る、それは日課である。


 見習い時代から続く、日課だ。


 それは今となっても変わらない。


 そんな中、従者が神殿に入ってくる。


 静寂な神殿に響くな大きな声。


 巫女はそれに気づき、瞑想を中断する。


「親書ですか?」


「はい!」


 従者はその書類を手に渡す。


 中身を見た、巫女はあからさまに不機嫌な顔になる。


 だがそれも一瞬、すぐに笑顔になっていた。


「おばさまに連絡を、瞑想が終わり次第いきますと」


「は、はい」


 従者は去っていく。


 そして、巫女は海の方を向き瞑想を再開する。


「……今日も海が荒れていますね」


 少し前から荒れ始めた海。


 海は魔王が生きていた時よりも激しく。


 何かの怒りを体現しているようであった。



「ただいま、参りましたおばさま」


「メルアかね」


 メルア・メイルストロム


 この国の巫女の名前だ。


 そして彼女が慕う、おばさま。


 おばさまは前巫女であり、


 今はメルアの相談役であった。


「大きな問題と対面しているようだな、アクアティリスは」


「……はい」


 アクアティリス。


 水と自然豊かな国である。


 海産物を多く算出し、


 古くから水と関係が深い国だ。


 といっても最近では他国の成長に追いつけず、


 立場としては5大国の中で最も低い。


 そんな中、魔王が現れ、


 現巫女が病に倒れた。


 その時、白羽の矢が立ったのがメルアである。


 血筋、才能、能力。


 どれもが巫女として最高。


 だがそれはあくまで候補としての彼女。


 巫女になるには若すぎる。


 それが皆の意見であった。


「……メルアよ」


 おばさまは上体を起こす。


 病に伏せていて、体を起こすのもつらいはず。


 それを見たメルアは近寄って、体を支える。


「お主は特につらい時代に巫女になってしまったと思う、苦しい選択をさせてしまうと思う、だが己を信じるのだ」


「己を?」


「そして、自身の選択を信じて進むのだ」


「……それでもし国が滅びてしまったら?」


「仕方がない、ただし後悔だけはするでない……」


「おばさま!? 誰か、誰かいませんか!」


 おばさまは目をゆっくりと閉じる。


 それを見たメルアは焦り、


 誰かを呼ぶ。


 だがすでに手遅れだった。


 メルアが悪いわけではない。


 病魔におかされて、死んだだけ。


 誰も悪くはない。


 おばさまの葬儀は3日後に行われた。


「海の神々よ、どうか導きたまえ」


 前巫女の葬儀には沢山の国民が集まった。


 神殿の先。


 海のすぐそば。


 メルアはおばさまを抱きかかえて、海に流す。


 巫女は死んだら、海に身を捧げる。


 それは大昔に海と契約した時からの決まりだ。


 初代巫女はその身を代償に大いなる力を得たのだ。


「……おばさま」


 この国を導いてきた、おばさま。


 国民からの人気も絶大だ。


 彼女を悼むために集まった国民は多い。


 メルアだって悲しんでいる。


 そしてこの先、この国がどうなるか。


 メルア次第だ。


 プッレシャーは大きいはず。


 だがメルアに不安という表情はない。


「私は自分の信じた道をいきます、でもおばさま私の中には……」


 ――どうやら悪魔がいるようです。


 私に悪魔が住み着いたのは最近だ。


 幼い頃から巫女に全てを注いだ私。


 それは私が選んだからではない。


 決められた道であった。


 だが、なんの迷いもなくその道を歩いてきた。


 彼と出会うまでは。


 彼は勇者だといった。


 その話は聞いていた。


 魔王が現れて、それを倒すための勇者がいると。


「この国は美しいですね、今日は天候が悪いみたいですけど」


「勇者殿、この国の海には邪気が存在します」


「邪気ですか?」


 勇者はこの国を訪れた。


 そしておばさまと対面した。


 私もその場に居たのでよく憶えている。


「とてつもなく凶暴な海竜、魔王の邪気に当てられたのでしょうか、先日から暴れっぱなしで海も荒れているのです」


「なるほど、それは大変ですね」


 勇者はなにか考える仕草をする。


「おい、ソーマ、お前また寄り道する気か?」


「そう言うなよ、ジュリアン、困った人を助けるのも使命だろ」


「違うな、魔王を倒すのが俺達の使命だ」


 勇者とパーティメンバーは言い争う。


 当然のこと、勇者のパーティは魔王を倒すために旅をしている。


 海竜という危険な存在、関わるべきではない。


「まあ、仕方ねえか」


「ソーマだもんね」


「ちっ」


 結局は3対1となり勇者達が海竜を静める手伝いをしてくれることになった。


「君が巫女かい?」


「あ、はい」


「よろしくね」


 私の第一印象は人見が良い、優しい人。


 それだけだった。



「勇者様、もういいです!」


 私達は海竜と戦った。


 だが海竜の力はとてつもなく、


 勇者のパーティの3人は気絶していた。


 勇者も辛うじて立ち上がるがフラフラだ。


「もういいです! 貴方が死んだらこの世界は!」


「1つの国が救えないで世界なんて救えない」


 勇者はそう言って剣を構える。


 あと一発。


 何かを食らったら力尽きる。


 勇者の死は世界の滅亡を意味している。


 だが説得は難しい。


 なら私がやることは決まった。


「メルア!?」


「私が囮となります、その内に決着を」


 私が壁となり囮となる。


 その内に決着をつけてもらう。


 犠牲になるのは私だけ。


 なんら、世界に影響はない。


 海竜はこちらを見る。


 そしてブレスを吐き出した。


「うおおおおおおおお!」


「勇者様!?」


 そこで予想外のことが起きる。


 勇者がブレスに向かって突撃したのだ。


 荒れ狂う水の奔流。


 食らったらひとたまりもない。


 それに恐れをしらず、向かっていく。


「そして1人の女の子も救えないで、国は救えない!」


「お、女の子!?」


 初めてだった。


 女の子と言われたのは。


 皆、私を巫女として見ていた。


 誰一人、メルアとして見てくれず、


 決められた道を歩いていた。


 だが、勇者は私を女の子と言った。


 そして勇者はそのブレスを切り裂き。


 海竜を地にひれ伏せさせる。


 私は何かがカチッと外れるような感覚を思い知った。


 だがそれは悪くない、


 いやむしろ心地良い。


 そこから私の道はソーマの道となったのだ。


「たとえ邪道に堕ちたとしても私は……」


 ソーマについていく。


 例えそれで国が滅びようとも。

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