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その変わり様には


 聖女は祈る、神殿で。


 祈りは毎日欠かさず行っていた。


 魔王を倒す前も、倒した後も。


 祈ることしか出来ないからだ。


 神の教えを忠実に実行するのが聖女の役目だ。


 だから毎日、祈っては主に願う。


「……主よ、迷える子羊を導きたまえ」


 その願いに答えは返らない。


 だがそれでも祈らずにはいられなかった。




 都は未だに戦勝ムード、騒がしいものだ。


 その中心には勇者のパーティのメンバーが存在した。


 今日もとある酒場でそのメンバーを囲いながら民衆は騒いでいる。


「注目されるのもいいけど、静かに酒も飲めないとはねえ」


「仕方がない、それが有名税ってものだ」


 中心に座る2人はエリーゼとアベルだ。


 エリーゼは魔法使い、アベルは剣士として最高の名誉を欲しいままにしていた。


 なにせ世間では、勇者は魔王についた裏切り者として、3人が魔王を倒したという事になっているからだ。


「それにしても聞いた? ジュリアン、結婚するんだって」


「ほう、結婚ブームってやつか」


 平和は訪れたからか、都では結婚するのが流行っていた。


 幸せの象徴として最も分かりやすかったからだ。


 ここ一ヶ月は結婚ラッシュが止まらない。


 さぞ聖女も忙しかろう。


「それが相手がさ、ソーマの幼馴染って言うのさ」


「おいおい、えげつねえな、そこまでするのかよ」


 ジュリアンの事は2人は理解していた。


 プライドが高く、勇者の素質を持ったソーマを妬み。


 ソーマの正義を嫌悪して。


 ソーマの全てを奪おうと画策した男だ。


「無理やり連れ出したのか?」


「あっさりついてきたって、本人も予想外だと言ってたわ」


 確かにソーマの話を聞いた限り、一途な子というイメージだった。


 だからエリーゼは拍子抜けして、アベルも同じ感想だ。


「まあ、女って怖いものよ」


「おいおい、お前がそれを言うのか」


 アベルは愛する女がそう言うのを見て、やれやれと首を振る。


「まあそれにしてもソーマも最悪よね。なにせ相手は国だもの所詮、勇者といっても人間ってことね」


「同情してんのか?」


「まさか! 人生最大の汚点を見られたんだから……それに強いほうにつく、アベルも同じでしょ」


「まあな……」


 魔王との決戦の時、3人は早々に心が折られた。


 魔王の力があまりにも強かったからだ。


 まさに化物だったが、それに対抗したソーマも化物である。


 国はソーマに恐怖して、魔王を倒すという役割を終えた勇者を始末しようとしたのだ。


「そんなことはいいのよ、それよりさ私達もそろそろなんじゃない?」


「おいおい、こんな噂が広まりやすいとこで……まあ悪くねえがな」


 アベルは酒を飲み干す。


 それを聞いた、エリーゼは笑顔を見せる。


「それじゃあ明日にも神殿で……」


「結婚式の準備か? 良かったなあ、お前たちは仲が良かったからな」



 エリーゼとアベルは凍りつく。


 その声は1番聞きたくないもので、聞こえるはずがないものだった。


「ぜひスピーチをやらせてくれ、2人の最大の仲間としてな」


「ソ、ソー……マ?」


 黒い髪は白に変わり、目つきも鋭いもになっている。


 極めつけは赤い目、まさに魔族そのものと言ってもいい。


 その変わりように2人は一瞬、ソーマか判別出来ないくらいだ。


「お前、ソーマなのか?」


「それ以外に誰に見えるんだ?」


「――――」


 絶句だった。


 あまりの変わりようについていけない。


 あの人が良さそうなオーラは完全になくなっている。


「問題は俺が誰かじゃないな、なぜここにいるかだろ?」


「な、なんでよ?」


「仲間に裏切られた奴が、仲間の前に現れた、ここまで言えば答えは分かるだろ?」


 アベルは震えながらも口を開く。


「……復讐か?」


「正解だ、ということで突然だがエンカウントだ」


「ま、待て、ここでやるつもりか!?」


 ここには一般人も沢山いる。


 そんな中でやり合うなど正気の沙汰ではなかった。


 さすがにソーマも躊躇すると思ったのだが。


「俺は一向に構わない」


 そう言って魔力を貯め始める。


 禍々しいほどの魔力。


 魔王を彷彿させる力。


 ここで開放すれば一帯を吹き飛ぶほどだ。


 それを見て、本気だと言うことが2人には感じ取れた。


「頼む、やめてくれ」


 アベルは頭を下げる。


 それ見たソーマは魔力を収めて、禍々しい魔力は消え去る。


「それが一生の願いでいいんだな?」


「……ああ」


「じゃあ、ついてこい」


 そういってソーマは酒場から出ていこうと背を向ける。


 アベルは素直についていこうとする。


 逆らったら、いつ暴れるかわからないからだ。


「お前はここにいろ」


「……嫌よ、2人いれば勝てるかもしれないでしょ、フラフラよ彼」


 ソーマが全盛期ならば勝てる見込みはない。


 だがその後姿はフラフラであり、病み上がりということが伺える。


 それならば、2人で挑めは勝ち目はある、そう思ったのだ。


「知らねえぞ、どうなっても」


 2人は手を繋いで酒場を出て、ソーマの後ろに続く。


 まるで最後の戦いに出向く2人であった。




 ――俺は許さない。


 裏切ったものを、そして変わっていない世界を。


 まずは身近なものからだ。


 裏切りものに復讐できなければ、世界なんて変えられない、壊せれない。


 ああ、俺は狂ってるんだろうな。


 だが忘れるな、俺を追い込んだのは他でもないお前たちなのだから。


 俺が間違ってるって言うなら止めてみろ。


 俺が魔王を止めたようにな。

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