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もしもの結末


 夜が明けた。


 ソーマとリリーは荷物をまとめる。


 いつでも旅立てるようになっていたのだ。


「もう行くのですか?」


「ええ、力になれずにすみません」


「いえ、ここらの山賊を倒してくれただけでも大助かりです」


 ソーマは一晩でここらの山賊をほぼ殲滅した。


 当分は安泰であろう。


「よき旅路を願っています……聖女様」


「っ! 知っていらしたのですか?」


 今、聖女とバレるのはまずかった。


 口封じも辞さない覚悟だが。


 彼はこのタイミング、知っていることを白状した。


 なんらかの意図があるとみる。


「私はよく都に出入りしていましたから、失礼ながら手配されているようですね」


「そこまで手が回っていましたか……有名というのも考えものですね? で、どうしますか?」


 都では既に指名手配されていた。


 村人も都を出る前に手配書を見ていたのだ。


 リリーとソーマに緊張が走る。


 出したくない、剣が出る。


 そうなってしまいそうだからだ。


「いえ、どうやら私の勘違いのようです、貴方様は聖女ではなく、修行の途中の心優しい修道女のようですね」


 その答えにリリーは微笑みで返す。


 それには感謝するという念も込められていた。


「…………」


 見送りにはナナも来ていた。


 だが何を言っていいか分からず、


 無言でソーマを見つめていた。


「……やっていけるな?」


「うん、ソーマみたいに強くはなれないけど頑張って生きていく」


 ソーマはその答えに納得する。


 だが1つだけ訂正することがあった。


「ナナは強いさ、勇者よりも」


「私が勇者よりも?」


「ああ」


 彼女は強い。


 絶望して復讐の道を選んだ、ソーマ。


 絶望しても、復讐を留まった、ナナ。


 ソーマからすれば、


 ナナの方が遥かに強く、そして優しいと思った。




「……立ち直りましたね、完全に」


 2人は村を去る。


 リリーは残念そうな表情であった。


 ナナは完全に立ち直った。


 あそこからもう堕落することはない。


「なあ、俺も彼女のようになれたと思うか?」


 ソーマはふとそんな質問をリリーにしていた。


 彼女のように。


 絶望に立たされても復讐はしなかった。


 自分もそんな未来があったのだろうか。


 命を諦めて、死に甘んじる。


 そんな結末が、存在したのだろうか。


 そうすれば、少なくても4人は助かって、幸せだった。


「あったのかも知れません、ですがもしもの話をしても……」


「無駄さ、無駄だけど、少しだけ考えてしまったんだ」


 そんな未来。


 考えてしまった、もしもの世界。


 それは脳裏から離れない。


 リリーはその悩む姿を見て、


 少しだけ考えてみる。


「少なくても私はつまらない人生を過ごすことになったでしょうね、それにナナも助からなかったってところでしょうか」


「それだけか」


「ええ、それだけです。ですが世界なんてそんなものです」


 そんなもの。


 それを聞いて、ソーマはなぜか笑いがこみあげてきた。


 結局は何が起こるか分からない。


 それがこの世界。


 無意味な死も国が滅びるもの、誰にも分からない。


 結局はそういうものなんだ。


 ソーマは考えるのをやめた。


「悩みは消えたようですね」


「まあな、ありがと」


「当然の事です」


「聖職者だからか?」


「ええ、聖職者として!」


 キリッとした表情。


 それにソーマは笑いだし、リリーもつられて笑う。


 2人はお互いに笑いながらこの地方を後にした。




「仕方がない、5大国会議を要請する」


 都の王城。


 会議場で1つ決定される。


「王よ、それは他国に弱みを見せるということになりますぞ!」


「仕方がない、事は我々では対処が出来ぬ」


 この国から反逆者を出した。


 しかもそれは世界に影響があるほどだ。


 いくら自分が大切な王でも、事の大事さは理解していた。


「ああ、やっとですね、ご安心を書類は既にまとめていますので」


 No2の男は笑顔でそう言い放つ。


 用意周到で、余裕そうな態度。


 そのいけ好かなさに王は拳を握りしめる。


 だが、この場で怒鳴りつけても自分の株が下がるだけ。


 ぐっとこらえて、その会議の場を後にした。



 そして、4大国に親書は送られた。



 そこは、器の広い戦士が治める、南の大国


 そこは、誇り高い姫騎士が治める、西の大国


 そこは、神聖な海巫女が治める、東の大国


 そこは、肝が座っている老魔術師が治める、北の大国



 その全ての大国に親書はたどり着いた。



「オットー様!」


 ここは南の大国、ステンパロス。


 気候は暖かく、フルーツが名産だ。


 そして獰猛な動物が住むジャングル。


 これらが有名だろうか。


 そして、この国を治めるのがオットー・ステンラス。


 誇り高い戦士である。


「オットー様!」


 そして宮殿の謁見の間。


 そこに従者が慌てて王を呼びに来る。


「オットー様は狩りの時間だ、私に話せ」


 例のごとく、オットーはジャングルに狩りに行っている。


 王なのに狩り。


 それは不自然なことだが戦士ならば当たり前だ。


 オットーは王でありながら、戦士。


 ならば狩りに行ってもおかしくはない。


 と、いうのは通用しなさそうだが。


 通用するのがこの国であった。


「は、これは送られてきた親書です」


 それを王の代理を務める男は読む。


「なんと! 至急、大臣を集めろ、私は王を呼びにいってくる」


 それを見た、男は焦る。


 そして、ジャングルに向かって走り出したのだ。



 ジャングル。


 それはとても危険な自然である。


 自然の罠は勿論。


 獰猛な動物、毒を持った生物、そして過酷な環境。


 最悪である。


 好き好んで行くところではない。


 だが戦士ならば最高の訓練の場所だ。


 この国の戦士はそうやって育ってきた。




「狩る時の基本、獲物に気づかれないように追うべし」


 狩りに焦りは禁物だ。


 しつこく、気付かれないように獲物に近づく。


 時には何時間も追うことがある。


 過酷なのだ。


「焦りは禁物、よく観察し仕留める機を逃すな」


 その瞬間は必ず訪れる。


 生きている者ならいつかは油断する。


 確かにその時間は短い者もいる。


 だが、その瞬間は必ずあるのだ。


 男は槍を構える。


 そして集中する。


 その時が来たら、いつでも狩れるようにと。


 だが、その瞬間、後ろから気配を感じる。


 狩るものが、後ろを取られる。


 それ即ち狩られる側に回るということ。


 オットーは振り向く。


 そして構えている槍を突きつける。


「な、アラヴィン!」


 それは忠臣であるアラヴィンであった。


 アラヴィンは両手を上げてオットーの後ろに立っていた。


 オットーはとりあえずはホッとする。


 見なれたものだからだ。


 だが、殺気を出したことで狙っていた獲物はいなくなっていた。


「ああ、獲物がいねえ! おい、アラヴィン、狩りの最中に来るなって言ってんだろ!」


「すみません、だがしかし問題が発生したので」


 アラヴィンは懐から親書を取り出す。


 何事かと思い、オットーはそれを受け取る。


「くっ、ははははは! なるほどなあ、よしいいだろう、草食動物を狩るのも飽きていたところだ」


 それを見た、オットーは笑い出す。


 そして、宮殿へと帰還する。


「肉を用意しろ、遠征だ!」


「はっ!」


 そこに書いてあったのはソーマの名前。


 それを見てオットーは5大国会議に出席をすることを決めたのだ。

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