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怒りの代行者


 リリーは眠っていた。


 一晩で崩壊した村。


 人によっては恐怖を感じる。


 聞こえないはずの何かが聞こえてしまう。


 彼女はその中でも安らぎの表情で眠っている。


 肝が座っているのか。


 それとも亡霊の嘆きも彼女にとっては子守唄なのか。


 彼女は朝までぐっすりと眠っていた。



「あら? こんな所で眠っていると風邪を引きますよ」


 リリーは起きて、外に出る。


 火葬は既に終わっていた。


 焼け跡しか残っていない。


 そしてその前で眠っているナナの姿が目に入る。


 確かに夜は炎で暖かったかもしれない。


 だけど今は暖めるものはなにもない。


 風邪を引かないようにと、リリーは声をかける。


「……ん」


 ナナは目を覚ます。


 リリーはそれを見て驚いていた。


 昨日までの目をしていない。


 あの絶望の果ての虚無の顔。


 それがなくなっていたのだ。


 それに対してリリーは少し不満げだ。


 だが、ふと考えてみる。


 ナナが絶望するのを味わった。


 そして少女は理由は不明だが立ち上がった。


 これからの運命、決して楽な道ではない。


 どう足掻いても修羅の道なのは明らかだ。


「……1つで二度美味しいとはこの事でしょうか」


 それを想像しただけでも悦だ。


「リリーさん?」


「い、いえ、ソーマはどうしました? 居ないようですが?」


「それが……」


 ナナは話す。


 昨日の事を。


「なるほど、でも心配はありませんよ」


 単騎で向かった。


 それでも問題はない。


 まあ相手が魔王クラスならば問題だが、


 それはあり得ない。


 ほぼ単騎で魔王を倒した存在。


 山賊がいくら集まっても勝てる道理はなかった。


「ここか?」


「そ、そうです、案内したんだから……」


 そこから先は続かない。


 ソーマは心臓を一突き。


 男は事が切れる。


 ソーマはあの後、無差別に山賊を襲っていた。


 そして情報を得た。


 繋がりを持っているやつを見つけたのだ。


 そして総本山に案内をさせた。


 そこはなんてこともない洞窟。


 散らかっている、鉱山道具。


 おそらくは放棄された鉱山。


 だが明かりが中に続いている。


 それは未だに使われている証拠。


 こういう所は山賊の拠点となる。


 1つの常識であった。


「なんだ、てめえは?」


 ガラの悪い男が2人。


 来るものを拒むように立ちふさがる。


 これはもう確定であった。


「止まれ!」


 ソーマは気にせずに奥に歩く。


 その態度、男達からしてみれば許せないものだ。


 即、斬りかかられてもおかしくはない。


 だが男達は動けないでいる。


 その白い髪と赤眼の不気味さ。


 そして只ならぬ雰囲気。


 そのオーラのようなものを感じ取っていった。


「止まれって言ってんだろ!」


 だから虚勢を張る。


 今までは略奪する側。


 それ故の常識、誇りだ。


 自分の方が上の立場。


 こう強く言えば、誰も逆らえない。


 だがそれで止まるはずの男は止まらない。


 それは男達の常識から大きく外れていた。


「て、てめえ!」


 1人の男が痺れを切らす。


 そして飛びかかる。


 それをソーマは払う動作のようにして剣を抜く。


 男は斬られる。


 絶命した、なにも出来ずに死んだのだ。


 ソーマはそれになんら感情を向けることはない。


 何事もなかったようにして通り抜ける。


 初めから邪魔者はいなかった。


 ただはここを通るだけだ。


 この2人は石ころでしかないのだ。


「ま、待ちやがれ!」


 だが石ころにもプライドはある。


 仲間がやられた、なめた態度をとっている。


 それは許せないことだ。


 感情的になるのに足り得る出来事だ。


「……がっ!」


 だが、今度は斬りかかることすらも出来ない。


 ソーマが手を向ける。


 それだけで見えない何かが男を襲いかかったのだ。


「闇魔法は見えない力と聞いたが、何となく分かってきたな」


 闇魔法、それは未知の力だ。


 かつての魔王が扱った力。


 謎は多く、使い手も魔王だけ。


 この世界に見えざる力。


 受ける側からすれば正体不明の攻撃が襲いかかる。


 理解することは使い手以外に不可能。


 光魔法と闇魔法は、創世と破壊。


 どちらもやろうと思えば行えるほどの力だ。


 女神はそう言った。


 だからソーマは光魔法を受け取り、魔王を打倒したのだ。


 闇魔法に対抗できるのは光魔法だけ。


 そして光魔法の使い手は失われた。


 世界の命運はソーマに託されているのだ。


 世界を壊すのも作るのもソーマ次第である。



 だが今はそれよりも目の前の山賊達だ。


「おい、見張りはどうした?」


 真ん中に立っている男。


 この中で明らかにリーダーだ。


 彼はイラついていた。


 最近、ラッキーアイを持つ少女を見つけたのはいい。


 そしてその買い手も見つかった。


 後は捕らえるだけ。


 それだけで、一生、遊んで暮らせる大金が手に入る。


 簡単な仕事だ。


 なにせいつもどおりに奪えばいい。


 だが結果はどうだ?


 1日経っても帰ってこない。


 持ち逃げを考えたがそれだけの力はあいつらにはない。


 つまりは純粋に失敗したということ。


 そこに現れた謎の侵入者。


 彼の怒りは頂点に達する。


 側に置いてある大斧を手に持つ。


 大木すら切れそうな斧である。


 それを人に振り下ろしたら、


 脳天から真っ二つになるであろう。


 2mは超えている、彼には可能だ。


「おい、てめえ、お前が何かしたのか?」


「ああ、随分とお仲間を殺したよ」


 ソーマは自分より20cmは高い男に挑発する。


 なら、それ以上は言葉は不要。


 山賊のお頭は斧を振り上げ、


 なんの躊躇もなく人に振り下ろす。


「なっ!」


 棒立ちで受け止める。


 お頭の斧は見えざる力によって受け止められていた。


 お頭から見れば、生身で受け止めた感覚だ。


「ど、どうなってやがる!」


「……皆、決まってそんな顔をするな」


 驚愕。


 刃物で斬れば、肉は切れる。


 それを真っ向から否定しているのだ。


 実際には闇魔法によって受け止めているのだが、


 そんな事は相手は知りようがない。


 ソーマはそのまま闇魔法でお頭を吹き飛ばす。


「て、てめえ!」


 門番の山賊と同じことを言いながらも、武器を持つ。


 剣、槍、斧、様々な武器を持っている。


 数は15程度。


 ソーマにとっては修羅場とは言えないものであった。




「最後まで向かってきたのは中々だったな」


 剣を収める。


 1分たらずで山賊達は全滅した。


 だが逃げたものはいない。


 最後の1人までソーマに向かってきたのだ。


 洞窟内には血が飛び散り、死体が転がる。


 それでなおソーマは返り血を受けず。


 余りに無慈悲な実力差だ。


「お、おい、やめてくれ!」


 山賊のお頭は生きていた。


 その惨劇を動かぬ体で見ていた。


 ソーマが近寄ってきたのを見て、思わず命乞いをする。


「ふっ、ここでは殺さねえよ」


 そして、ソーマはお頭の首を掴んで立たせる。


 そのまま脅しながら誘導して、洞窟を後にした。




「がっ!」


 ここはナナの住む村。


 そして山賊が滅ぼした村。


 お頭はここに連れられてきていた。


「それは?」


「山賊の頭だ」


「それはそれは……」


 リリーは顔をニヤつけさせる。


 これから何が起こるか想像出来たからだ。


 山賊を殲滅しに向かった。


 その抜け駆けを許すぐらいには愉しみにしていた。


「貴方が私の村を襲ったの?」


「お、お前は……」


 山賊は驚く、それは狙っていた獲物だったから。


 だが、今は動けない。


 獲物なのは男のほうであった。


 ソーマはナナに剣を貸す。


「それで頭か胸を刺せば死ぬ」


 それにナナと男は驚く。


「こ、殺さないでくれ!」


「俺じゃなくて、その少女に命乞いをするんだな」


 ソーマはナナを指差す。


 今の男の命は彼女が握っている。


 こんな少女に命乞いをする。


 プライドが一瞬躊躇する。


 だがすぐに砕け散った。


「な、なあ、お嬢ちゃん、命だけは見逃してくれ」


 その言葉、ナナの心に突き刺さった。


 罪悪感ではなく、怒りでだ。


「皆を殺しておいて何を言ってるの!」


 ナナは剣を振り上げる。


 憎しみ、怒り。


 それを込めて、思いっきり振り下ろす。

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