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現実はかくも厳しい


 私の名前はナナ。


 村に住む、平凡な少女だ。


 ただ人と違うものを持っている。


 パパとママはそう言った。


 でも私はそれを特別だと思わない。


 それよりも、同じ年のロラン君の方が特別だと思った。


 だって、ロラン君は私よりも勉強が出来る。


 運動だって得意だし、何よりもかっこいい。


「僕はね、勇者みたいに強い男になるんだ」


 ロラン君の口癖だった。


 確かに勇者様は世界にとっての希望。


 そして男の子の夢であった。


「うん、頑張ってね!」


 私はそんなロラン君の事を応援したいと思った。




「逃げなさい、ナナ!」


 だが現実の前にはそんな夢は通用しない。


 突然、村を襲撃した山賊達。


 狙いは私だった。


「ロラン、ナナちゃんを連れて逃げろ」


「でも、父さんは!」


「お前たちが逃げる時間を稼ぐ」


 ロラン君のパパはそう言って、武器を取った。


「ぼ、僕も戦う!」


 ロラン君は震えながらも前に出る。


「ロラン、お前はナナちゃんを守れ」


「僕が?」


「ああ、ロランがだ、さあ行け!」


 そう言って、ロラン君のパパは戦場に向かう。


 私達に背を向けながら、行ってしまう。


 私はそれに思わず手を伸ばしてしまった。


「駄目だ、ナナ!」


「でも、皆が!」


「逃げるしかないんだ!」


 ロラン君はそう言って私の手を引っ張った。


 その時の私はなんとなくだけど逃げ切れそうな予感があった。


 ロラン君なら守ってくれる。


 そんな根拠のない予感があった。


「ナナ! 逃げろ!」


 だが現実は違う。


 追いついてきた男達。


 数は減っているが私達ではどうにもならない。


 そんな中、ロラン君は私を逃がすために向かっていく。


 なんでこうなったんだろ?


 私が生きていたから?


 私のせいで皆が死んだの?


 分からない、分からないけど、私は逃げ続けた。


 そしてそんな私の前に彼は現れたのだ。




「ほらみろ、お前の悪趣味に彼女怯えてるだろ?」


「あら、違いますよね? あの山賊達が怖かったんだよね?」


 少女は明らかに怯えている。


 それもそのはずだ。


 例え助けられとしても、あの助け方。


 幼い子どもには刺激が強すぎる。


「ほら、怖くないよ」


 リリーは手を伸ばす。


 少女はそれにビクッと反応した。


「いやああああああ!」


 そして大声で叫ぶ。


「き、傷つきますわね」


「自業自得だ」


 幼い子どもに嫌がられる。


 小動物に無視されるぐらいにはリリーは傷ついていた。


 それも仕方がない。


 人が燃えるのを恍惚な目で見ながら悦を得ている。


 そんな、女が近寄ってきたら恐怖以外なにものでもない。


「ごほん……少女よ、貴方は何を恐れるのですか?」


「え?」


「ここには貴方を傷つけるものはなにもない、貴方を傷つけたものは天に還った、顔を上げなさい、光を見なさい」


 リリーは聖女モードに入る。


 今さら何を


 ソーマはそう思った。


 だが効果は驚くほどあった。


 怯えていた少女から震えはなくなる。


 リリーをまるで神のごとく見始める。


 理屈なんて関係ない、ただ神聖だから崇める。


 腐っても聖女だった女、そういうのはお手のものか。


 ソーマは呆れにも似た感心を抱く。


「さあ、これを、そして落ち着いたら貴方の事を聞かせて」


 そういってリリーはどこからか飴玉を取り出して、少女に渡した。




「なるほどナナ、村を襲われたと……それは大変でしたね」


 リリーは悲しそうな表情でナナに同情する。


 だがその口元は笑みを堪えている。


 ソーマからはそれが見えた。


 そしてナナに襲いかかった不幸。


 その理由も理解した。


「なるほど、幸運眼(ラッキーアイ)だな」


「ラッキーアイ?」


「彼女の瞳をよく見てみろ」


 リリーはそれを聞いてナナの瞳を覗き込む。


 ナナの瞳は黒い。


 そして、その中で金色に光る何かが浮いているように見えた。


「あら、綺麗ですわね」


「ママとパパはこれは特別だと言ってた」


 それがナナが特別だった理由である。


「ラッキーアイって言って、何千万人に一人の割合でそういう瞳を持って生まれる」


「なるほど」


「特徴は見ての通り、瞳の中に金色に光る粒子が浮いている」


 それがラッキーアイの特徴。


 ソーマが旅先で得た知識だ。


 リリーはそれを聞いて、素直に感心する。


 そういうものもあるのだと。


「えっと、それで?」


「それだけだ」


「え! 運がよくなったりとかは?」


「迷信レベルだ」


 迷信では運が上がると言われている。


 大昔では豊作の象徴として地位が約束された。


 だが今ではそんな事はない。


 あえて言うならば、その希少性だけ。


 それが故に狙われる。


 今のナナのように。


 ラッキーアイを持っている。


 それは不幸になる運命。


 皮肉だがそういうことなのだ。


「ああ、なんという事なんでしょう」


「ニヤついているぞ」


 他人の不幸は蜜の味。


 それを地でいくリリー。


 口では嘆いているが、


 体をクネラせて、表情は歪みに歪んでいる。


「村に戻らなきゃ」


 それを尻目にナナは立ち上がり、フラフラと歩き出す。


 ほっとくいてもよいのだが、一応は声をかける。


「村に帰っても誰もいないぞ」


「……それでも帰らなきゃ」


「……好きにしろ」


 もし付いてくると言うならばそれを許した。


 だがナナは村に帰るといった。


 ならばソーマにそれに付き合う義理はない。


 死にに行くなら好きにしろ。


 ソーマはそう言ったのだ。


「待ってください、私達も付いていきましょう」


「どうしたんだ?」


「聖職者として、迷える魂は導かねば」


「ああ、なるほど、壊滅した村が見たいんだな」


「いえ、聖職者として」


 リリーはキリッとした表情を見せる。


 この女はと思いつつも、ナナに付いていくことにした。



 ナナはフラフラと歩く。


 焦点が定まっていないのか、危なげだ。


 それに対して、ソーマとリリーは続く。


 何も声はかけずに無言で歩き続ける。


 だが、ふとナナは何かに気づき、走り出す。


「……ロラン君」


 それは少年の死体であった。


「子供か、かわいそうに」


「ええ……」


 珍しくリリーも悲しそうな顔であった。


「いや、ロラン君!」


 ナナの叫ぶ。


 それを聞いて、ソーマとリリーは合点がいく。


 話の中で出てきた少年だと気づく。


 ソーマは何か声をかけようとする。


 だがこういう時、何を言っていいか分からない。


 優しい言葉、厳しい言葉、どれもが嘘になってしまうと思ったのだ。


「ナナ、顔を上げなさい」


 だがリリーは真っ先に声をかける。


 それを聞いた、ナナはリリーを見つめる。


「貴方が悲しんでいたら、ロランの魂はずっと迷ったままですよ、行く宛もなく苦しみ続ける、それでもいいのですか?」


「いや!」


「では、しっかり見送ってあげないと」


「それもいや!」


 その気持はソーマにも分かった。


 認めたくない現実。


 それは誰にでもある。


 だけど受け入れなければならない。


 だがそれを受け入れるには少女は若すぎる。


「ナナ、ロランは一足先に天国に行くんですよ? しっかり、導いてあげないと再開出来ませんよ」


「そうなの?」


「ええ、そうです、ほら祈りをささげて」


「うん」


 ナナは両手を組む。


 悲しいけど、ロランが苦しむのは嫌。


 再開できないのも嫌。


 だから悲しさを抑えて、祈りを捧げるのだ。


「主よ、迷える魂を導きたまえ」


 そしてリリーは聖女らしく、死者を導く。


 死後、魂が迷わずに天国に行くように。


 彼女の言葉はどこまでも心地良い。


 聞くものを癒やすであろう。


 だからソーマには分かる。


 その言葉は危ないものだと。


 彼女の言葉は洗脳だ。


 その言葉は現実から目をそらす。


 そして神に縛りつける。


 現実に神は存在しない。


 否、そのような都合の良い神は存在しない。


「……ロラン君」


 でも、人々はその虚像に希望を抱く。


 そして安らぎを得る。


 現実を見て辛く生きる。


 嘘の世界で安らぎを得る。


 どちらが正しいのかは分からない。


「だから人はすがる希望が必要なんだ」


 分からない、だから生きるために希望にすがる。


 その希望を自分の正義とする。


 それが人によっては神かもしれない。

 

 そしてソーマにとってそれは復讐なのだ。

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