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捨て去りし過去


「殺したのですか?」


 リリーは不満げに聞く。


「いや、気絶させただけだ」


 それを聞いた、リリーは満足そうな顔を見せるのだ。


 ソーマは観客の元に向き直る。


「さて、来場者の皆さん、私はどうやら魔王に屈した裏切り者のようですね?」


 その問に答える者は1人も居なかった。


「始まりの言葉はジュリアンの言葉であったと聞いておりますが?」


 勇者は最後の最後に裏切った。


 ジュリアンの報告はこれであった。


 それを信じる者は1人もいない。


 だがそれは国にとって、王にとって最も都合の良い真実である。


「……私は君を恐れたのだ」


 王は小さく声に出す。


 勇者の力はある意味王より上だ。


 彼がなにか言えば民衆はその通りに動く。


 それほど信仰力がある。


 だから悪役でいなければならなかった。


「なるほど、そして皆さんはその王を恐れたと?」


 そして有権者の貴族達も王を恐れていた。


 だから王の通りに動く。


「ははは、本当に救えない人達だな」


 リリーは彼らは豚と称した。


 権力しか見えていない豚。


 民衆を食い荒らす肥えた豚。


「ここで1つゲームをしよう」


「ゲーム?」


「簡単だ、俺の元につくか、王の元につくか、それだけだ」


 そしてソーマは聖剣で地面に線を書く。


「俺の元につくならこの線を超えよ、そしたら俺は手をださねえ」


 すると、貴族達は一斉に走り出して線を超える。


 それを見た、王は苦渋の表情をつくり。


 リリーは満足げだ。


「まあ、そうなるよな」


 それを見て呆れたソーマはジュリアンを抱きかかえて線の外側に出る。


 それを見たリリーも続いて、線の外側に出るのだ。


 貴族達はそれを見て疑問の表情を浮かべる。


「お、おい、私達は本当に助けてくれるんだろうな」


「ああ、俺は手を出さない」


 ソーマは背中を向けながら目を合わせない。


 すると、リリーが懐から何かを取り出した。


「知っていますか? 大昔まで疑わしき者は火炙りにされたと」


 手に取り出したのは灰である。


 そしてそれを貴族達の前に振りまく。


「主よ、この異端を還したまえ」


 リリーがそう言うと灰は燃えはじめる。


「異端者を焼く、炎です」


 リリーが笑顔でそう言うと貴族達は慌てて逃げようとする。


 だが見えない壁に阻まれる。


 聖女の結界だ。


「お、おい、約束が違うぞ!」


「何がだ? 俺は手を出していない」


 確かにソーマは手を出していなかった。


 出したのはリリーである。


「あら、安心してください、私の結界はこれごときの炎を通しません」


 その言葉に貴族達はホッとする。


「ただし、30分間です、そしてこの炎は一晩経たねば収まりません」


 今までとびっきりの笑顔でリリーは告げる。


 それを聞いた貴族達は絶望して、


 阿鼻叫喚になり、騒ぎ始める。


 そして1人が誰かを殴り、そのまま争い始める始末だった。


「ああ……たまりませんわ」


 恍惚な表情を浮かべる、リリー。


「豚の争いがそんなにも良いのか?」


「ええ!」


 きっぱり言いやがったなとソーマは呆れる。


「ほら、行くぞ」


「むう、仕方ありませんわね」


 といってもいつまでもここに居るわけにはいかない。


 時期にここは炎に包まれる。


「さて、王様、早く逃げないと」


「……貴様たちの狙いはなんだ?」


 この不自然な行動、王は目の前の2人が分からなくなっていた。


「しいて言うならば世界を壊すことでしょうか」


「壊すだと?」


「ええ、簡単ですよ、かつて壊そうとした男がいたでしょう?」


 魔王、かつて世界を破壊しようとした男だ。


「だから、今度は遠慮しないで俺の事を非難すればいい」


「そういうことなので御免遊ばせ」


 ――世界は俺が悪であることを求めた。


 ならば本当になってやろうじゃないか。


 魔王と呼ぶのも自由だ。


 ただし容赦はしない。


 遠慮はしない、手加減もしない。


 その上で俺を殺せばいい。



 ソーマとリリーは去っていく。


 呆然としている王、阿鼻叫喚の貴族達。


 彼らを置いていって、自分の道を歩き出す。


 ふと、ソーマは振り返る。


 目に入ってきたのは、王でも、貴族でも、炎でもない。


 十字架の前で安らかに眠る、レイナだ。


 ――さようなら、過去の俺。


 こうして、復讐への本当の始めの一歩を今日、踏み出したのだ。

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