九十二話 みんなでおばあちゃん家に行こう⑥(風呂編)
晩御飯も食べ終わり、食休めにリビングでテレビを見ていた。
「風呂沸いてるけどどうする?誰行く?」
父さんが聞いてくる。
「あー、俺はいいよ。誰か行きたいやついる?」
俺はみかん達に言う。
「んー、わたしいいや」
「あたしも」
「わたしももう少し後でいいわ」
すももさんとりんご、清さんが遠慮した。
「じゃあわたしいきまーす!」
「あたしも行く」
星宝姉妹が手を上げる。
「じゃあわたしは遠慮しようかな」
「同じくパス」
みかんがシャロンに続く。
「二人なら行けそうだな、行ってきます?」
俺はアリエとアリアさんに言ってみる。
「いいわねー、久しぶりにわたしと行っちゃう?」
アリアさんがアリエの手を取る。
「嫌だ」
だがアリエはアリアさんの期待を躊躇なく断った。アリアさんの顔が笑顔から悲しそうな顔になった。
「嫌だって、お姉ちゃんとお風呂入りたくないの?」
「嫌、中学生にもなってお姉ちゃんとお風呂入るとか恥ずかしいじゃない」
「うう……」
アリエの言葉にアリアさんの顔がどんよりする。
「は、恥ずかしい、そんな………わたしはこんなにも妹を愛しているのに………」
アリアさんが顔を両手で覆ってシクシク泣き始めた。いい歳して恥ずかしくないのか。
「これはほっといてみかん、あたしと入らない?」
アリエがアリアさんの涙など気にせず言う。
「え、あたし?」
急な指名にみかんが驚く。
「あたし、友達とお風呂入るの憧れてたんだ。ね、いいでしょ?」
アリエの笑顔は思わず俺が一緒に行くと言いそうになるが流石に親が見てる前でははばかられた。というかよしんば入れたとしても何か間違いが起きそうで恐い。
「友達って学校の泊まりの行事でそういうことないの?修学旅行とか」
「そうじゃなくて、あんたと入りたいって言ってるの!」
みかんに見当違いなことを言われるとアリエは強く言い放った。
「いや、あたしそういう趣味は………」
「いいから来る!」
遠慮がちなみかんをアリエが引っ張っていく。あいつって、ああいう性格だったかな。
しばらくしてアリエが先に戻ってきた。ふわふわな豪奢なフリルに包まれた薄い黄色のワンピースを着ていて普通なら可愛いと感じるところだがアリエ自身はそんな雰囲気じゃなかった。
なぜか妙にくたびれてるような。さっきはこいつがみかんを強引に誘ったはずなのになんでこいつが疲れてるんだ?
「アリエ?」
俺は彼女に声をかける。
「あいつ、危険よ………思ったより……悪魔よ!」
アリエが叫ぶ。
「悪魔?」
「どういうことよ」
「なんていうか………」
アリエは顔を赤くして言葉を止める。まさかみかんがよからぬことでもやったのだろうか。
「さ、触ってくるの!」
「あー」
つまりはスキンシップが激しいということか。意外だな、さっき強引だったアリエもだがみかんも同性に対してスキンシップが強いとは思わなかったぞ。
「しかもむ、胸とか揉んでくるし………」
アリエが胸の前に手を持ってきて言う。
「うわ………」
女同士のやり取りとはいえそういうのは流石に引くぞ。アリエの胸なら俺だって揉みたいけど我慢してるんだ、なんて羨ましけしからん!
「なにやってんのよあなたの妹……」
アリアさんが幻滅した目で俺を見る。
「ほんとですね、けしからんですね」
俺は拳を握り締めて答える。
「葉月?」
「もしかして、アリエちゃんの胸揉めなくて残念とか思ってない?」
すももさんがいたずらっぽい顔で言った。
「ああ?あんた、彼氏だからってうちの妹にそんなことしようとしてんの?」
妹絡みだからか、アリアさんがいつになく喧嘩腰に接してきた。
「いやいやいや、言いがかりですよ!そんな、変態みたいな真似俺がするわけないじゃないですか!」
俺は必死に否定する。ほんとは図星なんだけど肯定したら即刻この人に殺されそうだ。
「ふーん」
アリアさんは俺を睨みつけたままだ。
「葉月になら………揉まれても、いいけど」
アリエがまた胸の前に手をやりながら言う。
「やめろ、俺の家族の前だぞ。そんな真似断じて出来るか!」
俺は吐き捨てるように言った。
「ご、ごめんなさい………」
アリエが謝る。
「あー、気持ちよかった」
みかんが部屋のドアを開ける。俺はみかんの肩を掴んで外に戻した。
「なになに?どうしたの?」
「ちょっといいか?あのさ、アリエになにやったんだよ、いやどんな触り方したんだよ」
「あ、お兄ちゃんも気になるー?」
みかんが人差し指を指してからかうように言ってきた。俺は妹のおふざけに眉を潜めた。
「ちゃかすな」
「まあ、色々やったかな。後ろから抱きついたり、髪洗ってあげたり、あと胸揉んだり……かな。案外大きかったよ、あの子」
みかんが指折り数えながらアリエにやったことを言う。
「あ、そう……」
アリエの胸が大きいと言われ俺は内心興奮した。
「まあ、女の子同士だし、これくらいやるんじゃない」
当然だというようにみかんが言う。
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
俺は納得してみかんと部屋に戻る。
「で、次誰行く?」
そしてみんなに聞いた。
「よし、じゃありんご、一緒に行こっか」
すももさんがりんごに話しかける。
「なんで姉貴と、一人で行けし」
りんごがゲーム機から目を離さず言った。
「えー、行こうよー。姉妹でしょー」
すももさんがりんごにまとわりつく。
「くっつくなよ気持ち悪い」
りんごがすももさんをどかす。
「それに、姉妹だからって中学生にもなって一緒に入らないってアリエも言ってただろ」
りんごがアリエを例に挙げて言う。
「そんなこと言ってー、よそはよそでしょー。りんごと一緒に入りたいんだよー、ね?いいでしょ?」
すももさんがめげずにりんごにくっつく。
「…………分かったよ」
りんごは多くを語らないがしょうがない姉だなーとは思ってそうだ。
「行っていいか?」
りんごがみんなに聞く。
「わたしはいいわ」
「同じく」
「お先にどうぞ」
アリアさん達の承諾を得てりんごとすももさんが部屋を出ていく。
「なあ、その服だけど………」
俺はアリエに呼びかける。
「なによ」
「可愛いな」
「パジャマになに言ってんのよ」
確かにパジャマに美意識や褒め言葉など不要だ。
「でも、このフリルとかお洒落でいいよな」
「やめてよもう、恥ずかしいじゃない!」
アリエが顔を赤くして言う。
「いや、人形みたいで可愛いよ」
「馬鹿………」
ボソッと呟いた後さらに小さい音程でありがとという声が聞こえた。
「なんだか妬けちゃうわねぇ。ねえ、あなた……今夜一緒に寝ない?」
母さんが猫撫で声で父さんに言う。
「なにを言ってるんだ、子供達の前だぞ。いいから母さんの手伝いしてこい」
「はーい」
父さんは母さんをあしらう。母さんが部屋を出ていく。ばあちゃんは食事の後一人で皿などの洗い物をしている。最初俺達も手伝おうとしたんだけど客人にそこまでしてもらわなくていいと断られたんだ。
「父さん、この歳で下の兄弟とか出来たら軽蔑するからね」
みかんが既に軽蔑する目で言う。
「大丈夫だって、お前は自分が親になるまでずっと甘える側だ、それは保証する」
「ありがと」
父さんの言葉にみかんが微笑む。
「なによあんた、弟や妹が出来たら葉月とイチャつく時間が減ると思ってるの?」
アリエが揶揄するように言った。
「そんなんじゃないわよ。だいたい、お兄ちゃんは一人暮らしなんだからそんなのあるわけないじゃない。単に下の兄弟の面倒を見るのが嫌なだけ」
「あ、そう」
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