八十九話 みんなでばあちゃん家に行こう③
それから二十分くらいしてばあちゃんの家についた。
「ここが葉月のお祖母さんの家………」
アリエがばあちゃんの家に見とれる。
「どうだ、でかいだろ?」
「あたしの家の別荘のが大きいわね」
ひでえ、てっきり褒め言葉が来るかと思ったら容赦なく落としてきた。
「あのなあ、これでも俺の家よりでかいんだぞ!」
俺は声を荒らげた。少なくとも面積では上のはずだ。ほとんど平屋に等しい昔ながらの和風な家だが電気や風呂の設備は現代の同様だ。
「ちょっとー、来るの遅いんだけどー」
先に来てたと思しきアリアさんが叫ぶ。一緒にいるのはすももさん、清さん、シャロン、薫子さんだ。
「お姉ちゃん!?」
アリエが驚いて声を上げる。
「おや、先に着いてたんですね」
父さんが薫子さんに話しかける。
「高速で少し速度を上げればこれくらい容易いです」
薫子さんが軽く微笑む。
「ていうか先についてるんならさっさと中入ればいいだろ?」
りんごがすももさん達に言う。
「駄目だよー、鍵は葉月の父さんが持ってる上に中人いないしー」
すももさんがりんごの言葉を否定した。
「ばあちゃん帰ってないの?」
今度は俺がすももさんに聞いた。答えたのは清さんだ。
「インターホン鳴らしたけど出ないみたいなのよー」
「あー、それはいないかもねー」
父さんが唸る。
「とりあえず待っててもあれだから先に入っちゃいましょうか」
母さんが提案する。
「母さんにしてはまともなこと言うんじゃん」
「ほんとほんと、いつもは余計なことしかしないのに」
みかんが俺に頷いた。
「もう、そんな言い方ないじゃなーい」
母さんが文句を言う。
「ちょっとあんた達、母親相手に当たりきつくない?」
アリエが聞いてきた。
「いいんだようちのはこれで」
「そうそう」
父さんが合鍵でドアを開けて俺達は中に荷物を入れることにした。部屋はいくつもあるがひとまず仏壇のある広い部屋に固めることにした。
「よし、じゃあ海に行こうよ!」
すももさんが声を上げた。
「行かないよ、もう夕方だぞ?海なんて行ってられるか」
りんごがそれを拒否する。
「えー」
「明日みんなで行きましょうか」
清さんが柔らかく微笑んで言う。
「はーい」
それを聞く清さんの口元によだれがあるのを俺は見逃さなかった。すももさんの水着がお預けになる分より楽しみなるという考えだろう。
ガチャ、裏口の扉が開いた。表玄関はガチャなど言わない、裏口はヒンジが曲がるタイプだが表玄関はガラガラと音を立てる引き戸型になっている。
「あ、もしかして………」
「お祖母ちゃん帰ってきた」
俺達が裏口に向かうとばあちゃんが大きいビニール袋を持っていた。ばあちゃんはしわしわの顔に白髪頭だけど普通に車が扱えるくらいにはボケてないんだ。
「おかえりー」
「どうしたのそれ?もしかして晩御飯?」
俺とみかんはばあちゃんに言った。
「おう、来てたのか。客がいっぱい来るて聞いてな、いつものより多めに買ってきたんだよ」
ばあちゃんが言う。ばあちゃんの言葉は東北弁で意味は分かるが音程のせいで上手く聞きとることが出来ない。
「紹介するよばあちゃん」
俺はアリエ達までばあちゃんに紹介しようとした。
「ちょっと待ってな、今荷物冷蔵庫にしまうから」
「あ、ごめん」
俺達はばあちゃんに道を開ける。
「あ、おばあさん手伝いますよ」
「わたしもわたしも!」
アリエとすももさんがばあちゃんの荷物を持つ。
「ふん………」
すももさんが口をへの字にして荷物を持ち上げる。
「重い………」
アリエは悲鳴を上げていた。
「なにやってんだよ、しょうがねえなー」
仕方ないが俺はアリエの袋の紐を半分持つことにした。
「ごめん……」
アリエが謝る。
「おうおう、みんな親切で助かるねえ」
「すももさんどこ行くんですか!そこ台所じゃないですよ!」
俺は台所を素通りするすももさんに言った。
「え、これ台所に置くやつなの?」
どうやらばあちゃんの言った冷蔵庫にしまうの部分が完全に伝わってなかったらしい。
「俺のばあちゃん、荷物冷蔵庫に入れるって言ってたの分かります?」
念のため確認する。
「ああ、確かそんなこと言ってたね」
分かったようなことを言ってるが多分分かってない顔だな。
俺達は手分けしてばあちゃんの買ったものを冷蔵庫に入れる。
「ありがとねみんな。お礼に、スイカあげるよ」
ばあちゃんが冷蔵庫からスイカを引っ張り出してきた。
「よし!」
俺は思わずガッツポーズを取る。
『やった!』
みかんとアリエがはしゃぐ。
「粋なおばあ様ね」
アリアも関心する。
「ここのお家って縁側あるのかしらー」
清さんがなぜか縁側の有無を気にする。
「向こうの方にあるからそこに持ってきな」
「ありがとうございますー。わたし、縁側でスイカを食べるのが夢だったんです」
清さんが感激する。
「どうして縁側なんです?」
シャロンが聞いた。
「日本では夏になると昔からよく縁側でスイカを食べていたのよ」
「なるほど、初めて知りました」
そういえばスイカにはそんなイメージあったなと俺も関心する。
「わざわざすいません」
薫子さんが頭を下げる。
「いいのよ、孫の友達なんだからこれくらい当然よ」
ばあちゃんがカラッと笑って言う。
「はあ……」
薫子さんが微妙な顔をする。あ、これ聞き取れとてない顔だな。
「スイカは………わたたしは別にいいかな」
「あたしも」
すももさんとりんごが遠慮がちに言った。
「スイカ、嫌いなのかい?」
ばあちゃんが珍しいというように言った。確かにスイカ嫌いな人間はあまり見ないな。
「いやー、わたし達のお祖母ちゃんもよく夏になるとスイカ出してくるから飽きちゃって………」
「去年まではいいんだけど今年は一緒に住んでるから毎日食べさせられてもういいっつうか………」
そういえばカフェダムールだと八月からスイカが夏期間限定メニューになっていてよくまかないにも出てくるな。
「でも俺達も食べてるけど飽きてないぞ」
「はい、とても美味しいです」
俺とシャロンが言った。
「みんなは夜食や朝ごはんにスイカ勧められる気分て言えば分かる?」
すももさんの言葉に一同え?という顔になった。
「そんなに、スイカ食べるのかい?」
聞いたのはばあちゃんだけどすももさんは肯定と頷いた。
「じゃあ、たくさんは食べなくていいからおやつ代わりに少し食べるかい」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「あたしもそういう感じで」
スイカが切られ、それを持って縁側に移動した。
「おー、これが縁側というものですか」
シャロンが見とれる。
「縁側なんて初めて見たわね」
アリエがじっくり観察する。
「うちの別荘にも作ってみようかしら」
アリアさんが言う。
「今度実家の方に手配しましょう」
薫子さんが追従する。
「助かるわ」
縁側て、簡単に作れるものだろうか。いや、金持ちだから出来る技だろう。
「すももちゃんのお家には縁側とかあるのかしら」
清さんが聞いた。
「あるけど………前が洗濯物で埋もれちゃってこのみたいに風流て感じはしないね」
すももさんのせいでムードが台無しだ。
俺は普段、わざわざ縁側を気にしたりしないがやはり見るやつが見たら新鮮らしいな。
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