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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
1章カフェダムールへようこそ
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八話



「たっだいまー」


「今帰ったぞ」


後ろのドアが開いてすももさんと彼女のお祖母さんが帰ってきた。


二人は買い物袋から荷物を出し冷蔵庫や棚にしまっていく。


「あ、来てたんだねー。なになに、今日はカフェオレ?」


すももさんが俺に気づいて近づいてくる。


「姉貴、それカフェオレじゃない、カフェモカ」


少女にコーヒーの間違いを指摘されるすももさん。ケーキを食べるのに夢中でカフェモカは生クリームまだ乗ったままの状態だ、形が崩れかけてはいるが。それなのにカフェオレと間違えるとは喫茶店の孫なのにコーヒーの種類に疎いのだろうか。


少女はすももさんを姉貴と呼んだ。ということは少女はすももの妹さんのりんごだったのか。


「そうなの?!」


驚いたように声を上げるすももさん。コーヒーの違いが分からないというよりコーヒーの知識がないような驚き方だ。


「カフェオレは牛乳を混ぜただけのやつ、カフェモカはさらにチョコとクリームを入れたやつ!分かる?」


りんごがオレとモカの部分を強調して言った。


「うん、わかった」


分かってないようなすももさんの返事。


黙ってれば綺麗なのだがひとたび喋りだすと残念になるというすももさんに俺はかなり微妙な気分になっていた。どっちにしろ可愛いから問題なさそうだが。


「ほんとに分かったんだろうな…………」


「あ、因みにいちごのケーキはわたしが作ったんだー」


すももさんが俺が食べてるケーキを見て言う。


「知ってます、りんごさんから聞きました。おいしくいただいてます、正直食べるのがもったいないですけど………」


「いや、作ったのは確かじゃがすももはスポンジを焼くのもクリームを塗るのも下手での、ケーキはほとんどりんごが作っておった。結局この子がやったのは最後のいちごを乗せるとこだけじゃ」


お婆さんが言う。


「うそでしょ?!」


俺は思わず店内に響き渡るくらいの大声で言った。


「ちょっとおばあちゃん!それは言わない約束でしょ!」


「はて、言ったかの………」


「言ったって!」


すももさんがお婆さんと喧嘩を始める。そんな中、俺は食べかけのケーキを見つめる。今まで後生大事に食べていたのはりんご成分ですももさん成分はいちごにしかなかったのか…………。今までの時間はなんだったんだ…………。


「わるい、ちょっと大袈裟に言った」


りんごが手を縦にして謝るが俺には届いていない。


仕方ない、せめてこのいちごは最後まで味わって食べるか。


「そういや坊主、まだ名前を聞いてなかったかのう。あんた、名前はなんて言う?」


お婆さんが聞いてきた。喫茶店が客の名前を聞くなんて珍しい、てっきり寿司屋やレストランで店が混んでる時に紙に名前を書く時くらいだと思っていたが。


「君嶋、君嶋葉月です」


「葉月か、いい名前じゃ」


「そ、そんな、女の子みたいってよくからかわれるんですよ。褒められた名前じゃないですって」


俺は困惑する。


「いいじゃん、可愛いくて。わたしだったらぎゅーってしちゃうな」


すももさんが俺に抱きつく。


「ちょ、すももさん?!」


俺はさらに困惑する、いや、ドキドキしていた。俺の憧れの、愛しのすももさんが俺に抱きついているなんて……………。しかも女性特有の柔らかいものが腕に密着していてここは天国かと思うほどだった。


「りんごもそう思うでしょ?」


「どうでもいい」


すももさんがりんごに同意を求めるもそっけなく返されてしまう。


「見せつけやがって」


ん?今りんごが物騒なこと呟いた気がするが気のせいか?


「ちぇー、つれないのー」


すももさんが拗ねように言う。仲が悪いというのは本当だったようだ。



ケーキも食べおわり、残るはカフェモカだけになった。最初はクリームが山盛りだったカフェモカももう崩れかけドロドロになっていた。こうなっては最初の頃の面影はない、いっそのこと下のコーヒーと混ぜてしまおう。クリームを混ぜるとカフェオレのような薄い茶色になった。


「あー、もったいなーい。せっかくのカフェモカなのに」


すももさんが残念そうに言う。


「いいんですよ別に」


こうなっては最早カフェオレなのかカフェモカなのか分からない、味は当然別物だが。


スプーンを見ると混ぜる時についたのかクリームが乗っていた。


「貸して」


俺からスプーンを取り上げるすももさん。何をするかと思ったがスプーンについたクリームを舐めはじめた。


「これこれやめんか、だらしがない」


「えー、だってもったいないじゃーん」


お婆さんに注意されるもすももさんは気にしない。見るとりんごも冷たい目ですももさんを見ていた。


「自己紹介が遅れたの、わしは間宮絹江というんじゃ」


絹江さんというのか、かっこいい名前だ。流石おばあちゃんだけある。


「孫達は息子の子供での、名字も同じ間宮じゃ。もう知ってると思うが今あんたにひっついてるのが上の子ですもも」


「はーい」


そこですももさんが手を振る。


「で、カウンターでふてくされてるのが下の子のりんごじゃ」


「ふん」


りんごがプイッとそっぽを向いて鼻を鳴らす。


「絹江さんにすももさん、りんごさんですね」


「うむ、今後ともカフェダムールをよろしくたのむぞ」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


お婆さんと話してるのになんかお見合いみたいでちょっと恥ずかしいな。


それを見たりんごが笑った気がした。鼻を鳴らす馬鹿にするような笑いではなく自然な笑みだ。


へー、こいつもこんな顔するんだと何気ない一面に感心した。


カフェモカのクリームの甘みのあるコーヒーが口に入る。ブレンドとは違いコーヒーなのに甘みのが強く新鮮な感覚だ。


「そういえば昨日の件じゃが………」


絹江さんが思い出したように言う。


「昨日の?」


「ほれ、なんじゃったかの、確かりんごの…………」


何か言おうとするが言葉が出ない絹江さん。


「りんごさんの?」


「あたしがどうしたんだよ」


「なんじゃったかの?ここまででかかってるんじゃが…………」


頬の辺りを指す絹江さん。こういう場合、普通は首を指すのではないだろうか。


「りんごの引きこもりを直して欲しい、だっけ」


すももさんが言う。


「そうそう、それじゃそれ」


「そうそう、じゃないから!なにあたしが引きこもりみたいになってるんだよ!別に学校ないから出掛けないだけで引きこもってるわけじゃないからな?!」


二人にりんごが猛抗議する。俺も引越ししてからは必要なものを買う以外はこの店にしか出掛けることはないからそれと同じようなものだろうか。


「でも友達とかおらんじゃろ?」


「妹が一人寂しく過ごしてると思うとお姉ちゃんも寂しい、ぐすっ」


すももさんがわざとらしくりんごに抱きつく。


「くっつくな気持ち悪い」


りんごが嫌そうにすももさんを引きはがす。この姉妹は姉がスキンシップ過剰で妹は逆に遠慮気味なのだろうか。そう思うとすももさんの言う妹が冷たいというのは少々誇張に思えてきた。


「だいたい、姉貴だってこっち引越して来てから友達いねえじゃねえか!」


まだ春休みである今は学校が始まっておらず新しい友達というのは基本的に存在しないものだ。


「いるし!前の学校からの友達とかちゃんといるし!根暗なりんごと違って友達いるし!」


そうか、携帯があれば距離があっても会話をする程度なら問題ないか。


根暗と言われたりんごは一瞬眉を動かしたが冷静に聞き返した。


「へえー、誰がいんだよ?名前言ってみろし」


「えーと、梨香ちゃんでしょ、ありさちゃんでしょ、えーとあとは…………」


すももさんは指を二本折るが三本目の指が止まる。どうやら彼女に友人と言えるような存在はあまりいないようだ。


「で、そいつらとは最近も連絡取ってんの?」


「え……………も、ももももちろんだよ。取ってるよ連絡。あー、今日もおばあちゃんの手伝い大変だなーとかそうだね大変なんだねーとか言って盛り上がってるよー」


あまりの慌てように本当なのな疑いたくなる言葉。ここはそっとしてるのが華と見た。


「じゃあそこにいるやつは?」


「俺?」


りんごが俺の方に顔を向ける。


「葉月くんはわたしのお客さん第一号にして大事な常連さんでコーヒー友達の親友だよ!」


すももさんが元気よく答える。目の中に星が光ってそうで言われる方としては嬉しかった。会って三日なのにもう親友にランクアップしていたが欲を言うと恋人と言って欲しかった。


「ふーん、じゃあ店にいない時もメールしてたりするのか?」


「あ…………」


りんごに言われて言葉に詰まるすももさん。


「まだアドレス交換とかはしてないな」


「い、今から交換すればいいよ!ね?!」


慌てたように俺に詰め寄るすももさん。そんな慌てなくてもアドレス交換ぐらいできると思うが。


「じゃあそういうことなら…………」


俺はスマートフォンを取り出して自分の番号を表示させる。すももさんもスマホを取り出して俺のを覗き込が………………


「あれ、電話番号の登録ってどうやるんだっけ」


「ずこっ、分かんないのかよ」


すももさんが電話帳の画面で固まりりんごが崩れ落ちそうになった。アドレス登録なんてものは一度登録してしまえば新しい知り合いとのを登録する必要がない限り使うことはなく使い方も時期に忘れてしまうというものである。


「全く情けないのう」


絹江さんが俺達からスマホを奪い操作する。今時の高齢者は機械にも詳しいようだ。しばらくするとりんごからもスマホを出すよう要求する。


「は、なんであたしまで?」


「いいから渡しなさい」


強めに言われてスマホを差し出すりんご。またスマホを操作する絹江さん。


「ほれ、終わったぞ。試しにメールでもLINEでも打ってみい」


作業が終わり絹江さんが俺達にスマホを返す。


「あたしは別にいいんだけどな…………」


りんごが言う。


「ついでじゃよついで、何かあった時の為に今の内に連絡出来るようにした方が便利じゃろ?」


「まあ、かもしんないけど………」


「早速送っていい?」


すももさんが言う。


「どうぞ」


「ありがとう!じゃあ送るね!」


ピロン、スマホの着信音が鳴り通知を確認する。


『はじめまして♡♡初めてメールするんですけどおかしいところないでしょうか?(∩´﹏`∩)☆☆お返事待ってます♡♡』


短い文なのに絵文字が多めに使われておりあまり絵文字な慣れてなさそうな印象が伺える。


俺はグッと親指を出した絵文字で返した。


すももさんのスマホが鳴る。グッと親指を出してくるすももさん、どうやらコミュニケーションは成立したようだ。

今回もお読みいただきありがとうございます。よかったらブックマークや評価お願いします

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