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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
十章 夏編
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八十六話 佐藤家集結、長きの常連




「いらっしゃい」


「あ、礼子ちゃんに美結ちゃーん」


その日現れたのは佐藤親子だ。


「こんにちはー」


美結ちゃんが元気に手を振ってくる。


「今日もお世話になりますー」


礼子さんが頭を下げる。


いや、いつもより一人多い。眼鏡をかけた優しそうな男性だ。


「おーマー坊、久しぶりじゃのう」


絹江さんが男性に言う。どうやら絹江さんは知ってるようだ。


「マー坊?」


「雅之と言ってな、子供の頃からこの店に来てるからマー坊と呼んでるのじゃ。まあ、親の仕事の都合で引越して自分の結婚で戻ってきたんじゃがな」


絹江さんが説明する。


「へー、そうなんですか」


「この街が好きなんだね」


「でなきゃわざわざ戻って来ないって」


俺達は雅之さんに関心した。


「やだなー、そんな立派なものじゃないですよ」


雅之さんが照れるように髪の毛をかく。


「マサユキは、この店のために戻ったのですか?」


「ええ?なんでだい?」


シャロンの突拍子もない言葉に雅之さんも戸惑ってしまう。


「だって、子供の頃からこのお店に来ていて大人になっても来てくれたんです。よっぽど好きじゃないと出来ません」


「そうだね、昔から絹江さんにはよくしてもらってるからね。今でも来たくなるよ」


雅之さんが微笑む。


「娘と妻から聞いてるよ、君たちが葉月くん、すももちゃん、りんごちゃん、シャロンちゃんだね。はじめまして、僕が礼子の妻で美結のお父さんの雅之だ」


雅之が俺達に自己紹介する。俺達も雅之さんに合わせて自己紹介をする。するとすももさんとりんごに雅之さんが注目した。


「そうか、君たちが木人の娘か。お父さんのことは残念だったね」


「え?」


「お父さんを知ってるんですか?」


「ああ、小さい頃から店に来ていたからね。木人ともよく遊んだよ」


雅之さんの話ん聞いてる木人というのがすももさんとりんごのお父さんの名前らしい。ぼくととか変わった名前だな、名前にボクなんて音滅多に使わないぞ。


「葬式、行きたかったな………」


そう言う雅之さんの顔は本当に木人さんが死んだのが残念に思う顔だ。その雅之さんにりんごが声をかけた。


「父さんの仏壇なら部屋にあります、葬式には呼べませんでしたが挨拶くらいなら出来ます」


「ありがとう、是非やらせてもらうよ」


「あ、わたしも行く!」


雅之さんを仏壇に案内するりんごをすももさんが追いかける。


俺は礼子さんと美結ちゃんを席に座らせる。


「そういえば、雅之さんて単身赴任でしたよね?」


俺は礼子さんに言う。


「なんだけど、昨日からお休みなの。遠くでずっと会社のために頑張ってくれたから会社が長い休みをくれたみたいなの」


礼子さんが笑顔で言う。アリエみたいな子供の笑顔や清さんみたいなお淑やかな笑顔もいいがこういう大人な微笑みも綺麗なものだ。おっと、この人は人妻だからな、下手に誘惑されてはいけない。アリエという恋人もいるんだ、そういう意味で他の女の人にうつつを抜かすわけには行かない。


「いっぱい、いっぱい休めるんだって」


美結ちゃんが元気に両手を広げる。この子は可愛いが流石に小さすぎて守備範囲じゃないな。


「いっぱいてどのくらい?」


「うーん、一ヶ月くらいかしら?」


「一ヶ月?!」


俺は礼子さんの答えに驚いた。一ヶ月てどれくらい日休まずに働くと貰える休みなのだろうか。何ヶ月も休みなしで働かさられるというすごいことをしないと貰えないんじゃないだろうか。


「なに言ってるのお母さん、お父さんこっちにいるのが一ヶ月で休みは二週間て言ってたよ」


美結ちゃんが礼子さんの間違いを正す。


「そうね、間違えちゃったみたい」


礼子さんがぺろっと舌を出す。小学生の娘がいるお母さんでもその仕草は可愛かった。


「ん?一ヶ月いるのに休みが二週間てどういうこと?」


「地元の会社で働くってこと。一ヶ月経ったらまた別のとこに出張?単身赴任?まあいいや、するみたい」


「へー」


美結ちゃんの言葉は小学生ながら物分りのいい人のものだった、流石高学年と言ったところ。


「あ、飲み物先に持って来ますけど、何にします?」


こう聞いたのはお昼時だからだ。


「じゃあ、ブレンドと、カフェオレお願い。ブレンドは主人の分もね」


礼子さんが指を三つ立てる。


「ブレンド二つとカフェオレですね、かしこまりました」


「かしこまりましたのかしこま!」


美結ちゃんが指を二本出して目の横に持ってくる。あれだな、某アイドルアニメの主役がやるポーズだ。


「かしこま」


俺も同じポーズで返す。


カウンターの向こうに行きコーヒーを淹れる。


「ふ、マー坊との付き合いも長くなったねー」


絹江さんが懐かしそうに言う。


「何年くらいの付き合いなの?」


仏壇から戻ってきたすももさんが聞いた。


「もう二十年だか三十年くらいになるかのー。確かあの子が十歳くらいの時に初めて来たからそんなもんじゃ」


「長いな、常連も極まるとそんな長い付き合いになるのか」


りんごが遠い目をする。


「お前達もいずれはこの街を出るだろうが、いつでも戻ってきていいんじゃぞ」


絹江さんが優しく微笑んで言った。おばあちゃんていう見た目をしてるが母のような慈愛を感じた。でかいでかい慈愛を持った偉大なお母さんて感じか。


「はい!たとえ祖国に戻ることになっても、必ず戻ってきます!」


シャロンが言うと距離的にスケールが大きい話になるな。


「難なら、ずっとこの店にご奉仕しましょうか?」


俺は冗談めかして言った。


「えー、本当にー?」


「正気かお前……」


すももさんとりんごが疑わしい目を向ける。


「あ、その手がありましたか」


シャロンがポンと手を叩く。


「やめんかそういう悪い冗談はー、この店そんなに人来るわけじゃないから給料も大してあげられんのじゃぞ?」


絹江さんが心配するように言う。


「でもこの店、大分気に入ってますし……選択肢としてはいいかなって」


俺は少し真面目なトーンで言った。


「ふん、せめて大学出るまでに考えな。わしも少しは真面目に考えとくわい」


絹江さんは少し照れたように言った。その言葉に少しだけ嬉しく感じた。


「あ、そろそろ料理の注文いいかなー」


雅之さんが俺達を呼んだ。


「はーい。今行きます」


俺は雅之さんに返事をして佐藤家の元へ向かう。


「えっと、ナポリタンと………」


雅之さん達がメニューにある名前を指しながら言う。雅之さんがナポリタン、礼子さんと美結ちゃんがオムライスを注文した。俺は絹江さんの元に行き注文を伝える。


「へえ、ナポリタンかい。相変わらずあの子はナポリタンが好きだねえ」


「あの人、そんな昔からナポリタン食べてるなんですか?」


「そ、小さい頃からナポリタンばっか。大きい大人用の皿じゃ大きいから小さい皿に盛ったりしてたよ。そういえば他のものは全然頼まなかったねえ。お父さんやお母さんが他のもの食べるの見て分けてもらったりしてたけど次店に来た時はやっぱりナポリタン頼んでたよ」


「へー、そんなにナポリタンが好きなんですか」


「そういえば葉月くんがこのお店で初めて頼んだお昼ご飯もナポリタンだったね」


すももさんが昔を思い出して言う。昔と言ってもほんの数ヶ月前の話だけど。


「喫茶店といえばナポリタンでしょ!」


俺は指を出して言い切る。


「いるんじゃよ、そういう変わり者がたまに。お前さんも、同じような性格かもしれんぞ」


絹江さんがナポリタンを作りながら言った。


「変わり者で結構」


俺は肩をすくめる。


料理が完成し、佐藤家に届けた。カウンター近くから佐藤家のいるテーブル席を眺める。ここは老人ばかり集まる店だがこうして家族連れも何組か現れる。その家族の団欒といのは見てるだけで胸が温かくものがあった。こういう風景をいつまでも見ていたい、そう思ったんだ。

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