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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
十章 夏編
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八十五話 みかん登場夏の陣、 葉月とアリエのキス




「いらっしゃい」


「いらっしゃい、ませ?」


夏休みのある日、店にゴスロリ衣装にサングラスという怪しい出で立ちの少女が来店した。ゴスロリ衣装にサングラスとはまた奇妙な性格だな、いったい何者だ?


チャッ、少女がサングラスを外す。


「久しぶり」


『えーーーーーー!?』


俺達は驚きに声を上げた。サングラスの中から現れたのは意外な人物だった。


「なに、知り合い?」


サングラスの中身を知らないアリアさんが首を傾げる。


「み、みみみみみかん!?」


そう、俺の妹のみかんだ。本来は実家の方にいるはずの少女である。


「あたし聞いてなんいだけど!?」


「お前、なんでここに!?」


「意味分かんないし!」


「あらいっがーい」


俺達は動揺して一様に声を荒らげた。本当に知らないし意味が分からない、意外過ぎる。なぜこいつが、こいつがここにいる。


「ミカン、お久しぶりですー」


シャロンだけは普通に歓迎した。


「あれ、みんなは?ほら、久しぶりて言ってよ」


「あ、ああ久しぶり」


「久しぶり………」


みかんに急かされ俺達も彼女に挨拶を投げる。俺のスマートフォンが鳴った、父さんからだ。


「すいません、ちょっと………」


俺は断りを入れてその場から離れる。


「はい、もしもし」


『は、ははは葉月か!?今母さんから連絡あってみかんが帰らないらしくて、お前………あいつの行きそうところ知ってるか?』


電話口の父さんはかなり慌てていた。


「いや、ここにいるけど………」


『ここ?』


「俺のバイト先」


『なにー!?代われ!みかんに、今すぐ!』


父さんの怒鳴り声に俺は思わずスマホを耳から離した。周りのすももさん達も驚いている。


「わ、分かった」


俺はみかんにスマホを突きつける。


「父さんから」


みかんが俺のスマホを受け取る。


「もしもしお父さん?」


『お前母さんにも言わずなに葉月のバイト先行っとるんだ!母さんが心配してたぞ!』


みかんの耳に当たってるはずのスマホからでも確認出来る声だ。電話の向こうだとどれくらいの音量で怒鳴ってるのだろうか。


「ご、ごめん。お兄ちゃんに内緒で行って驚かせたかったから………」


父さんに応じるみかんの声も震えていた。


『そんなもんいらんわ!行くなら行くって言いなさい!…………』


そこから先は声のボリュームが落ちてなんて言ってるか分からない。


「うん、本当にごめん。心配かけた、うん、ありがと。えっと………とりあえず一週間くらい?うん、分かった、じゃあね」


みかんが通話を切る。


「あー、恐かった、葉月くんのお父さんてあんなキャラなの?」


すももさんがほっとした表情で言う。


「キャラっていうか、誰でも急に娘が消えればキレますよ………」


「はは、だよね………」


「ねえ、今回は一週間くらいいるの?」


アリエがみかんに聞いた。そういえばみかんは電話で一週間という言葉を口にした。


「うん、とりあえずはそうしよっかなって。でも気が向いたらもっといよっかなー」


みかんが何か企むような目をする。


「着替えはいくつ、つか何日分持ってきてんだ?」


みかんはキャリーバッグを持って来てるが俺は念のため聞いた。


「着替えもとりあえず一週間分でいいかなって」


「あ、そう。……………衣紋掛けとか吊るすやつ足りるかなー」


一週間以上住む場合洗濯の必要性も出るから今の俺の家のものじゃ洗濯は出来ても干すのが難しそうだ。


「大丈夫だよ、その時は買えばいいし」


「ま、そうだな」


「ねえ、さっきから聞いてるけどその子って葉月の妹?」


アリアさんが聞いてきたので俺はみかんを紹介した。


「あ、紹介しますよ。こいつ、俺の妹のみかん、綺麗だろ」


「はじめまして、君嶋みかんです。兄がいつもお世話になってます。もしかしてあなた………」


みかんは自己紹介をするとアリアさんを何か気づいたような目で見る。


「はじめまして。ええ、お察しの通りわたしはアリエの姉よ。星宝アリアです、よろしく」


アリアさんがみかんに微笑むふわっと心地よい風が流れた気がした。


「よ、よろしくお願いします………」


その魅力に当てられたのか、みかんの顔も赤くなった。


「せっかくだ、コーヒーでも飲んでいかないか?」


りんごがみかんを誘う。


「うーん、どうせならお兄ちゃんのコーヒーが飲みたいな」


みかんが甘えるような表情を向けてくる。


「分かったよ、今淹れる」


俺はコーヒーを淹れる準備をする。


「で、アリエとはどこまで行ったの?キスぐらいはした?」


コーヒーを淹れてるとみかんがとんでもないことを聞いてきた。


「な、なに言ってるのよみかん!そんなこと急に聞かないでよ!」


アリエはそれを聞いてパニックになった。


「したの?」


「そ、それくらい当然よ、カップルなんだからキスぐらいするわよ!」


アリエが偉そうにふんぞり返る。


「したの?」


みかんは今度は俺に聞いてきた。


「いや、して………ないな」


俺はアリエと違い、見栄を張るのは性に合わないので正直に白状した。


「えー、付き合ってるににキスもしてないのー?それって本当に付き合ってるのかしらー?」


みかんが馬鹿にするように言う。


「ば、馬鹿言わないでちょうだい!付き合ってるに決まってるじゃない!葉月とあたしは理想のカップルよ!」


アリエが顔を真っ赤にして声を荒らげる。


「アリエ、それ自分で言ってて恥ずかしくないの?」


みかんが飽きれたような目で言う。


「これくらい普通よ、恥ずかしい台詞じゃないわ」


「なら、キスも出来るわよね」


「出来るわよ」


「じゃあ、今すぐやってみてよ」


みかんが小悪魔のような顔で言った。


「分かった」


「きゃー!キスよキスー!」


「マジか?ここでやるのか?」


「あらあら、すごいわねぇ」


「ちょっと」


アリエが承諾するとすももさん達が俺達に注目する。そしてアリエは俺に唇を近づけてきた。


「いや、今コーヒー淹れてるから後にしてくれ」


俺はやんわりと断った。


「あ、ごめんなさい」


キスは嬉しいが今やられるとコーヒーが不味くなる、下手したらヤカンの中身を零す恐れるがあった。


「みかんも分かっててやらせるなよ………」


「はーい」


コーヒーを淹れ終わり、みかんに出す。みかんはそれに砂糖とミルクを入れて混ぜる。口に入れると少し顔をしかめた。


「葉月……」


気がつくとアリエの顔が目の前にあった。


「なんだよ………」


あまりの近さに俺は戸惑ってしまう。するとアリエの唇が俺の唇にくっついてきた。


「きゃー!」


「な………」


周りが歓喜と驚きに飲まれる。


フレンチキスなんて軽いものじゃない、何度も吸い付くように唇を動かしてくる、舌まで入って来た。なんだろう、癖になるような、いや、やられてる場合か、俺も、俺もアリエをもっと感じていたい。そう思うと俺の唇も自然と動いていた。


「いて!」


「う」


俺とアリエはいきなり頭を硬いもので叩かれた。


「ばかもんが、神聖な喫茶店でいつまで不埒なことやっとるがな。そんなにやりたいならラブホテルでキスでもセックスでもやってきな」


痛みで頭を抑えながら振り返るとパンやピザを伸ばす時に使う棒を持った絹江さんが言った。


「いや、流石にそこまでは………」


俺はあまりに絹江さんの発言が辛辣過ぎて言葉に詰まった。


「お祖母ちゃん流石にそれは下品だと思うよ?」


すももさんが絹江さんを諌める。


「ふん、若いもんはみんなラブホテル街で何かある度セックス三昧なんじゃろ?」


「それは流石に偏見じゃないか?」


りんごもたじたじな言いぶりだ。


「まあでも、あたしには目の保養だったけど」


みかんが笑みを浮かべながらコーヒーを口に入れた。


「お前なぁ、そもそもお前がやれって言ったからこうなったんだぞ」


「まあいいじゃない、減るもんじゃないし。二人の仲がよくてなによりだよ」


はあ…………嫌なやつじゃないがやっぱみかんの相手は疲れるな。


「でーも、お兄ちゃんの一番はあたしだと思うけどぉ?」


みかんはアリエに挑発するような視線を向ける。おい、なにとんでも発言してんだ悪魔妹。俺は彼女を睨みつける。


「そんなことないわよ!葉月の一番はあたしだもん!たとえ家族でもあんたはありえないわよ!」


アリエが少し子供っぽい口調で言い切る。


「で、どうなの?お兄ちゃん」


みかんが俺に聞いてきた。


「いや、みかんだけど?」


聞かれたからには迷わない、即答だ。みかんより大事な人間などこの世には存在しない。たとえアリエがいても同じだ、例外などない。


「な………、あたしじゃないの!?大事な恋人の、星宝アリエじゃないの?!」


アリエが俺の答えに驚く。


「いや、やっぱみかんには敵わないっていうか………まあデザートは別腹て感じ?」


「もういい!葉月なんか知らない!」


アリエはそう言うと店を出ていく。


「ちょっとアリエ!」


アリアさんがアリエを追いかける。


「ちょっと葉月くーん、追いかけた方がいんじゃない?」


すももさんが言う。


「いや、みかんがからかったせいだろ」


「それは悪かったわね。でも、早めに追いかけないとグレちゃうんじゃない?」


みかんが舌を出してからかってきた。


「お前が言うなよ」


「いいから行けよ、お前の彼女だろ」


りんごがイラついたように言う。


「分かったよ」


俺は店を出てアリエを追いかける。アリアさんを追い越して走る。


「待てよ!」


「嫌よ!追いかけて来ないで!」


俺はアリエに叫ぶが返答は拒否だった。


「葉月、伏せて!」


「え?」


アリアさんが後ろで叫んでとっさにしゃがんだ。するとアリアさんの足が一瞬俺の背中に乗った。


「はっ!」


「きゃ!」


ピューとアリエに飛びつき倒れる。


「なにするのよ!」


「いいから戻るわよ、みんな心配してるわ」


脱出しようとするアリエをアリアさんが説得する。


「わりぃ、アリエ………」


俺はアリエに話しかける。


「葉月………」


「すまん、さっきはとっさにみかんが一番て答えたけどお前も大事だ、それは変わらない。分かってくれ」


俺はアリエに懇願した。


「本当に?嘘じゃないわよね?」


アリエの顔は不安そうだ。


「嘘は言ってない」


そう、嘘は言ってない、嘘は。


「みかんより、大事、よね?」


「え、あ…………」


これ以上は言葉を出せなくなった。


「大事、よね?」


涙目になりながらアリエが訴えてくる。くそ、大事な彼女にこんな顔させるなんて、俺は馬鹿だ。


「ああ、大事だよ。世界で一番、大事な女だ」


俺は歯がゆさを飲み込んで答えた。


「葉月!」


アリエが抱きついてくる。ぎゅーと強く抱きしめられた俺の背中は単なる腕の力だけではない痛さがあった。俺はその身体をそっと抱きしめた。


「葉月、その身体、絶対離さないでよ」


「はい………」


アリアさんの言葉に俺は頷くしかなかった。その内選ぶ必要があるな、妹か恋人か。

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