八十四話 夏だし、プールに行かないか?終
「あなた達ー、わたしの妹とその彼氏になにやってるのよ!」
「ちょ、やめ、苦し………」
俺とアリエは聞き覚えのある声がして顔を見合わせた。
「お姉ちゃん?」
「すももさん?」
すももさんは遊園地の時にいたがアリアさんが付けてきてるのは意外だ。近づくとりんごもいてビデオカメラを下で持っている。
「なにやってんの?」
りんごの体勢はしゃがんだまま固定されてるという奇妙な状態だった。
「姉貴がビデオカメラ落としたからな。このまま地面に落ちたら壊れるだろ?だからこうして先に確保したんだ」
「あ、そう………」
りんごの水着はピンク色をした下がショートパンツで上の面積が多いビキニタイプになっている。
「えっと、お姉ちゃんはなにしてるの?」
アリエが恐る恐るアリアさんに聞く。アリアさんは下がパレオになった白い水着を着ていた。すももさんはフリルのついた下がスカートになってるフリル付きの水着だ。アリアさんはすももさんをヘッドロックしている。見れば分かる、分かるのだが………なぜこんなことになってるのか分からなかった。
「聞いて二人ともー、こいつねー、またあなた達のこと盗撮しようとしたのよー。だから………」
「ぐえ」
アリアさんがすももさんをさらに締め上げるとすももさんがうめき声を上げる。
「あの、アリアさん。すももさん苦しんでますし、そろそろやめてあげましょうよ」
俺はアリアさんにすももさんから腕を離すよう頼んだ。
「あら残念」
「ケホッケホッ」
アリアさんがすももさんから腕を離すとすももさんが咳き込む。
結局、また二人きりじゃなかったか………。まーた、気分が台無しになったよー。
「葉月…………」
アリエも辛そうに俺を見る。
「あれ、わたし………またなんかやっちゃった?」
すももさんが惚ける。こ、この女………自分のせいでこうなったのに自覚なしかよ………、軽く殺意が湧く勢いだぞ。
「ごめんねー、このお馬鹿さんが邪魔しちゃってー」
アリアさんがすももさんの頭を掴んで下げさせる。
「ていうかなんでアリアさんまでここに?まさかあなたも俺とアリエのデートを見るために来たわけじゃないでしょうね」
「そんなわけないじゃない!お姉ちゃんはそんなことしないわよ!」
アリエが強く反対する。
「念のためだよ念のため」
「確かあなた達、前にこのビデオカメラですももに撮られたことあるって言ってたわよね?」
「は、はい」
「それで今度のも付けるのかなーて思って後から来たら、この通り」
アリアさんが肩をすくめる。
「そうなんだ………」
「俺達を、庇ってくれたんですね」
「別にあなた達のためじゃないわよ。ただ、野次馬根性で来たすももが許せないっていうか………」
アリアさんは気まずそうに頬をかく。
「ありがとう、お姉ちゃん」
アリエがお礼を言うとアリアさんは頷いた。
五人で昼食を食べた後、俺はアリエやすももと一緒にすももさんの持ってきたイルカやシャチ、丸い形の浮き輪に乗っている。俺がイルカ、アリエがシャチに、すももさんが丸い大きな浮き輪だ。
「俺達、ある意味お揃いだな」
俺はアリエに言った。イルカとシャチ、どちらも水に住む哺乳類だ。
「そうね、そこは認めてもいいわね」
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その頃、アリアとりんごは荷物の番をしていた。
「一つ、聞いていいかしら?」
アリアがりんごに言う。
「なんだよ」
「すもも、本当に野次馬根性であの二人のこと付けてるの?遊園地の時一回やって二人にはやめるよう言われてるはずよ、なのにまたこんなことをした。あの子もそんなに馬鹿や人でなしじゃないと思うけど?」
だと言うのにまた同じ繰り返すのは何か裏がある、アリアはそう続けた。
「そういえばここに来る途中、これで少しでも葉月くんと一緒にいられるとか言ってたな」
りんごが記憶を手繰り、すももの言葉を伝える。
「葉月と………。まるで葉月に気があるみたいな言い方ね」
「みたいじゃなくて確かにあるのかもな」
「どういうこと?何か確証でもあるの?」
りんごの思わせ振りな言い方にアリアが反応する。
「初対面の時点である程度は気に入ってたみたいだ。葉月がまだうちの客だった頃、姉貴はよくあいつのことを話していたからな」
「でも、そんなこと今まで言ってないわよ、そんな雰囲気もなかったわ」
アリアはすももが葉月に好意を持ってるという事実を疑う。
「本人はあくまで友人との関係、と思っている。だからそういうあからさまな動きは見せないんじゃないか?」
「なによそれ、自分の恋心に疎い女てこと?だってすももは大学生よ、それじゃあ小学生みたいな子じゃない!」
アリアはりんごの推論にわけが分からなくなる。
「これには理由があるんだ」
りんごが重い顔で言う。
「昔男に裏切られたとか言うんじゃないでしょうね」
「裏切られたとは違う、裏切るっていうのはある程度信用のあるやつがやることだ。姉貴がやられたのはその前、信用以前の話だ」
りんごはすももが中学、高校時代に男子からの告白を断り続けたこと、そのせいで男女交際に興味を無くしたことを話した。
「だから、葉月のことが好きってことに自分でも気づかないってこと?」
「そうなるな」
「でも、なんですももまで葉月のことが好きなのかしら、妹は昔迷子になった時助けられたらしいけどすももにも何かやってあげたのかしら?」
アリアはなお疑問をぶつける。
「葉月は姉貴の最初の客だ、同時に見た目だけで姉貴を判断しないてのがある。姉貴は美人だがたまに残念なところがある、その欠点を葉月は容赦なくつつくんだ。そういう躊躇いなく接してくるあいつだから姉貴も惚れたんじゃないか?」
「そんなものかしら」
「そんなものだよ」
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