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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
九章 坂原北高校文化祭
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七十六話 葉月とアリエの遊園地デート②



「きゃー!揺れる揺れる揺れる揺れるー!」


「うわぁぉぉ!うわーぅあああ!」


これはバイキングという北欧の海賊船をモチーフにした横に揺れるアトラクションに乗った時の俺達の悲鳴。


「いーやー!速い速い速いー!」


「すげー!回る回る回るー!」


これはウェーブスインガーという円状に並んだ座席が回転するアトラクションに乗った時。


「待って、待って、上がらないで………」


「うわー、たけぇこれ………」


「いやいやいやいやいやいやー!」


「あああああああ!」


これはフリーフォールという直角に落下するアトラクションに乗った時。



「はぁはぁ………」


「ぜぇ、ぜぇ…………」


四連続で絶叫マシンに乗った俺達は体力を消耗して息も絶え絶えになっていた。


「ふっ」


「クスっ」


俺達は互いに顔を合わせるとふいに息が漏れた。


『ははははははははははは!』


そして盛大に笑った。こんなに笑ったのはいつぶりだろうというくらい笑った。


「遊園地って、こんなに楽しいところだったのね。初めて知ったわ」


「俺もだ。いいよな遊園地、悪くないよ」


俺もアリエも、満面の笑みを浮かべて笑い合った。


遊園地は楽しい、だが一つ、一つだけ気になることがあった。


「あのさ、一つ気になることがあるんだけど、いいか?」


俺は恐る恐る一本指を立てる。


「き、奇遇ね、あたしも一つだけ気になってるのよ」


俺達は気にしないようにしていた、気づいていながらそれに気づくのが恐くで気にしないようにしていたんだ。


『あれ、なに?』


俺達はアトラクションの影に隠れてる二人組を指した。すももさんとりんごだ、すももさんはビデオカメラを持っている。


「ぎくっ!気づいてたのー?」


すももさんがえー!言わんばかりの顔で近づいてくる。


「だから言ったろ、ここまでやったら気づかれるって」


横から呆れた様子のりんごがついていく。


「どういうつもり?まさか最初からあたし達をつけるつもりでデートを提案したんじゃないでしょうね?」


「はあ、失望しましたよ、すももさん」


俺とアリエはすももさんに疑問の念を向ける。


「や、やだなぁ、そんなことないじゃーん。つい昨日考えたんだよ、せっかく二人がデート行くんだから記録でも残そうかなって思っただけで………」


言い訳するすももさん。正直全く反省してない顔だ。


「あたしは止めようとしたんだけど、言うこと聞かなくて…………」


大分疲れた様子のりんご。


「はあ………、なんかな………萎えたわ」


俺はひとりごちると手近なベンチに座って脱力した。せっかく女子と二人だけとかいう夢のシチュエーションで遊園地まで来たのに、ずっと監視されていた、しかもビデオカメラでやられるとか台無しだ。


はあ、なんの恨みがあってすももさんはこんなことをしたんだろうか。やはり俺がアリエと仲がいいことに恨みでもあるのだろうか。


「ほんとごめん!悪気はなかったの!ちょっとした悪ふざけで二人のこと撮っちゃおうかなーて思っただけでそこまで落ち込む………なんて、ほんとごめん、だから許して、お願い!」


すももさんが手を合わせたり頭を下げたりしてるけど反応さたくない、むしろその気力がない。


「ほんと、最悪、あたしの葉月をここまで落ち込ませるとかなに考えてんの?」


アリエが俺のために怒ってくれている。


「アリエちゃんにも、ごめん」


再び謝るすももさん。


「どうする?葉月」


アリエが俺に声をかける。


「そうだなー、せっかく来てるんだからもう少し遊んでも…………」


グー、腹の虫が鳴ってしまった。


「腹減った」


「なによそれ、このタイミングでお腹が減るとか馬鹿じゃないのー?空気読みなさいよー」


アリエが呆れた様子で言う。


「俺に言うなよ、それにそろそろ昼も過ぎてるだろ?」


俺は進学祝いで貰った腕時計をアリエに見せる。


「それもそうね」


「言われてみればわたしもお腹減ったなー」


すももさんがお腹をさする。


「悪いな二人とも。あたし達、遊園地の外で食べてるからお前達は二人で好きなところ選べよ」


りんごがすももさんの背中を押す。


「いいよもう」


俺はりんごとすももさんに言う。


「なにがだよ」


「もういるのは分かってんだし、今さら二人だけになってもしょうがないっつうかなぁ」


「葉月………分かったわ」


俺の煮え切らない言葉にアリエが頷く。え、今ので何が分かったんだ?


「そこの愚か者達を許してあげる、そう言いたいんでしょ?」


「あ、ああ……」


「ならあたしも許してあげる。そこの二人、葉月の寛大な心に感謝しなさい!」


アリエがビシッとすももさんとりんごに人差し指をつきつける。


「え?いいの?」


「あたし達も一緒に?」


言われた二人も信じられない様子。


「いんじゃねえの?こいつも許すって言ってんだ、許してやるよ」


俺は笑いながら言った。


「やったー!これで合法的に二人をカメラに納められるー!」


ピョンピョン飛び跳ねるすももさん。


「いや、ビデオカメラはしまってくださいよ」


「えー」


「えーじゃなくて、それが一番不快なんですけど」


「はーい」


渋々ビデオカメラをバッグに仕舞うすももさん。



遊園地内部のフードコートに来た。俺は焼きそば、アリエはたこ焼きを食べている。すももさんとりんごは姉妹揃ってナポリタンだ。


「あんたってそういう趣味なの?」


アリエが俺の食べてる焼きそばを指して言った。


「別にたまにはこういうのいいかなって思っただけだよ」


いつもは焼きそばなど食べないが肉やキャベツ、人参のついた麺というのもいい、ソースのついた麺もいい味を出している。バリ、ボリボリ、口の中にキャベツの音が響く。


「ふーん」


「お前こそたこ焼きとか好きなのかよ。みかんと出かけた時もたこ焼き食ってたじゃん」


「家だとあんま出ないのよ、あんたんとこの店にも置いてないし」


ハフハフと息を出しながらたこ焼きを食べるアリエ。俺はそのたこ焼きに箸を伸ばす。


「ちょっと」


アリエが声を上げるが構わずたこ焼きの一つを口に入れる。


「あっつ!」


モグモグ…………ふむ、悪くない。パリッとした皮にコリコリと歯ごたえのあるタコが包まれている。


「うん、上手いな。お、おい」


今度は俺の手から箸が奪われアリエが焼きそばをすくっていく。


「ふーん、いい味じゃない」


アリエが口をモグモグさせて頷く。やるな、俺は素手でたこ焼きに手を伸ばした。


「あ、葉月ー!」


「いいじゃん別にー」


アリエに構わずまたたこ焼きを口に入れる。


「あっ、おっ」


いきなり口の中に入れたものだからびっくりしてしまった。熱い中、口を動かすとまた香ばしい味とタコの硬さが伝わった。


「むー」


アリエがお返しにまた焼きそばを奪っていく。


「いいなー、わたしも二人ととりかえっこしたいなー」


すももさんのフォークが焼きそばに伸びる。その腕を俺とアリエが掴んだ。


「え、なに?わたしが取っちゃダメなの?」


わけが分からないという顔のすももさん。


「すももさんにはあげません」


「あんたはナポリタン食べてるんだからそれで我慢しなさいよ」


「えー、なんかずるーい」


口を尖らせるすももさん、ブーブー文句言いそうな口だ。


「しょうがねえだろ姉貴、こいつらはカップルなんだからこういうのもありなんだよ」


りんごがすももさんに諭すように言う。そう言われるとなんか恥ずかしいな、まるでカップルの秘め事をしてるみたいじゃないか。


「ちぇー」



***********************



昼食後は絶叫マシンではなく比較的恐怖が少ないコーヒーカップに乗ることにした。したんだが…………。


「いっけー!」


すももさんがグワングワン真ん中の円盤を回してカップを回す。


「やめろ姉貴!もう少し加減しろ!」


「やーなこったー」


りんごが注意するが止まる気配はない。く、こんなんなら二人を一緒にするんじゃなかった。


「大丈夫かアリエ!」


俺はアリエを抱き寄せる。


「なんか………気持ち悪い………」


見るからの顔色が悪そうだった。


「えー、酔ってんじゃん。すももさんストップストップ!アリエ酔ってるから!このままじゃ吐いちゃますよ!」


俺は声を上げた。


「え、ほんと?!ごめん、やり過ぎちゃった!」


すももさんの真ん中の円盤を回す手が緩まりカップの回転も遅くなる。


「なに言ってんの葉月!このあたしが吐くとかあるわけないじゃない!そんなのあたしがプライドが許さないわよ!」


アリエが強がりを言う。


「プライドとかそんなんじゃなくて本当に調子悪そうだったぞ?」


「別にそんな顔してないわよ」


「でも、心配なんだよ」


「素直に受け取っておくわ」


アリエは拗ねた様子だが若干嬉しそうだった。


「なにこれキュンキュンするー!これはカメラに収めないと!」


すももさんがビデオカメラを取り出す。うわ、いいムードになったのに台無し………。すげえ萎える。


「やめろ姉貴、二人が嫌がってるだろ」


りんごがすももさんを止める。


「はーい」




今度はメリーゴーランドに乗った。俺とアリエが同じ馬に乗り。りんごが別の馬に乗っている。


「なんかこうしてると、カップルみたいね」


アリエが顔を赤くする。


「みたいて、カップルだろ?」


「そ、そうね」


「みんなー、楽しんでるー?」


すももさんがビデオカメラを持ってメリーゴーランドの外から手を振っている。


「あれ、どう思う?」


アリエが俺に言う。


「いんじゃねえの、もういいって言うか…………撮らせてやろうぜ」


俺は諦めてすももさんの勝手にやらせることにした。


「あんたって、押しに弱いタイプなの?」


「そうか?」


自分ではあまり思わないがそういう面もあるかもしれないな。


「りんごー、スマイルスマイル!」


すももさんがりんごに手を振る。


「なんであたしが………」


すごい嫌そうな顔をするりんご。


「ほら顔固いぞー」


さらにスマイルを要求するすももさん。それに対してりんごはかなり無理矢理な作り笑いをした。


「うーん、いまいちまだ固いけどまあいっか」



今度は観覧車に乗った。今までと違って密室だから視界にアリエ以外の人間が映ることはない。斜めから見ようと思えば見れるがそこまでは流石にしないだろう。


「今度は、二人きりみたいね」


アリエが顔を赤くして俺を見る。


「今度は、て朝は二人だったろ?」


「でも、さっきまでずっと二人じゃなかったわよ」


アリエが甘えるように俺に擦り寄ってくる。


「狭い………」


圧迫感を感じる。


「彼女が相手なんだから我慢しなさいよ」


さらにギュゥゥゥと身体を押し付けてくるアリエ。


「狭いつうか、苦しい。我慢できない」


「なによ、情けないわねー」


「今だ」


「え?」


俺は隙をついてアリエを反対側に押し出した。


「ちょっと」


戸惑うアリエを他所に彼女を反対側に寄せる。そして片腕で彼女を抱き寄せた。


「苦しいわよ………」


「うるせえ、お返しだよ」


そして俺は彼女に頬を擦り合わせた。


「恥ずかしいわよ」


「よく言うよ、いつも俺のこと呼んだりくっついたりしてるくせに」


「くっついてはないわよ、勝手に記憶捏造しないで」


その言葉にはニヤリと笑うだけで答えなかった。俺達に姿が夕日に輝く。ちょっと暑いな。

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