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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
九章 坂原北高校文化祭
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七十四話 葉月とアリエの仲はお祖母ちゃん公認 / アリアと清

今回は2本立てです。葉月とアリエの仲がアリエの祖母公認になるのと清の話。清はすももに対して強い執着があるのですももに新しい友達が出来てそっちばかり構うと爆発します

僕とカフェダムールの喫茶店生活74


夕食時、まかないを食べながら俺は言った。


「てかいいんですかすももさーん」


「なにが?」


「俺とアリエの話ですよ。俺、前にすももさんに付き合ってくれって言ったのにアリエと仲良くしちゃって」


「べっつにー、わたしは気にしないよー。葉月くんだってわたしのこと顔がいいだけの残念なお姉さんて見てるんじゃないの?」


拗ねたというより嫌味っぽく返してきた。


「それはまあ、そうっすね」


正論過ぎて苦笑いしか出来ない。俺も時折そう口にしていた。お姉さんとは言ってないが。


「そこは少しは否定せんかい!」


ビシッと胸に鋭いツッコミが入る。


「すももさん痛いです」


「大阪人はこれくらいやれないとねー」


「すももさんて大阪出身なんですか?」


初耳だ、ここからあまり離れてないと思ったのに。


『それはない!』


絹江さんとりんごが声を揃えた。


「ちょっとは驚いてよもー」


「身内なのに驚くかよ」


すももさんが口を尖らせるとりんごが突っ込む。


「と、いうわけで………アリエちゃんは葉月くんにあげまーす!」


「いえーい!」


「ぱちぱちー」


すももさんにりんごとシャロンが合いの手を入れる。


「二人ともテンション上がりすぎだろ!なに普通に受け入れてんだよ!」


まさか二人が俺とアリエの関係を察してるとは思わなかったぞ。


「大丈夫だ、前から知ってたからな」


りんごがさも当たり前のように言った。


「え、なにを?」


シャロンが首を傾げる。


「知らないで乗ってたのか」


「天然ボケにもほどがあるぞ」


「てってきり知ってたのかと思ってたよ」


俺達はシャロンの乗りのよさに戦慄した。


「だから、俺とアリエが付き合っていいのかって話だよ」


自分で言ってて恥ずかしいなこれ。


「付き合ってなかったんですか?てっきりわたし、ずっと前からそうだと思ってましたけど…………」


俺は言葉を無くした、気づかない振りしながらこいつも俺とアリエの関係を勘ぐっていたのか。


「はあ………全く参ったねぇ、あんた達には……」


「でもあのクソババアはどう思うかねえ………」


その中で絹江さんが空気を読めない発言をした。


「ちょっと、それどういう意味?」


すももさんが反抗的な態度で聞く。


「だって葉月はあのババアの商売敵の店員じゃろ?孫と付き合うのを許すかどうか…………」


「アリアちゃんだって言ってたじゃん、おばあさんは関係ない、大丈夫、ね、葉月くん?」


「え、ええ………」


多分大丈夫、だと思う。やばい、ちょっと不安になってきた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



次の日、アリエが店にやってきた。今日は雨なので彼女も傘をさしている。


「今日も来てやったわよ愚民共」


「いらっしゃい」


「いらっしゃーい」


すももさん達が挨拶する中、俺は恥ずかしくなり目を逸らしてしまう。


「なによ、客が来てんだから挨拶しなさいよ」


アリエが俺の目の前に現れて言った。


「い、いらっしゃい」


どうもぎこちなくなってしまう。


「なにか変ね、調子悪いの?」


アリエが背伸びして俺に顔を近づけてくる。な、なんだ?キスでもする気か?


「熱は、ないわね……」


触れたのは唇じゃない、額だ。熱を測ったのかこいつ、びっくりさせないでくれよ。


「ほら、なんもないんだから席に案内しなさいよ」


「お、おう……」


俺はアリエをカウンター席に座らす。いつものようにアリエはカフェモカを飲んでいる。


「なあ、今日はアリアさんいないのか?」


俺はアリエに聞いた。


「なによ、お姉ちゃんがいなかったら変なの?」


「いや、最近は二人で一緒に来るから………」


「今日は授業が遅くまであるみたい」


「ふーん、珍しいこともあるもんだな」


「大学生は自分で時間割作れるからね」


すももさんが言う。


「あの人大学生なんですか?」


「うん、わたしよりちょっと上」


「上?見えませんけど?なんていうか………同い年とかってくらいに仲良さそうですけど」


「アリアちゃんがタメ口でいいってさ。なんかいいな、こういうの」


すももさんが笑った。


「気兼ねなく話せる友人、ですか」


「うん」


「なに、あんた友達欲しいの?」


友人という言葉にアリエが反応する。


「いらないよ、もうこの店に腐るほどいるからな」


俺は店を見渡しながら言った。


「腐るほどって………ここ年寄りばっかだけど?」


「年寄りっつかー、ここの人達、はよく喋るから学校のやつよりよく話すんだよ」


「ふーん、あんたはそういうの、好き?」


「ああ」


「あたしも………その中に入ってるのかしら」


アリエが不安そうに言う。


「お、おう………」


こういう話をするのは恥ずかしいな、特にアリエが相手だと。


「やっぱりあんた調子悪そうね、どこか悪いの?」


「いたって健康だよ」


また心配されるなんて変だな、こいつと話すと体温が上昇するのか?



カランカラン、店の扉が開いて新たな客が現れる。


「いらっしゃ………あ……」


現れたのは昨日噂になったアリエのお祖母さん、祥子さんだ。以前店に現れて以来ほとんど見ていない。


「なんだい、みんなびっくりして。あたしが夕方に来るのがそんなに変かい?」


祥んが常連達の反応を見て言う。みんな顔見知りだったのか。


「ほんとだよ、あんたが夕方に来るなんて計算外だからうちのスタッフが驚いてるじゃないか」


絹江さんが祥子さんに言う。


「常連なんですかこの人?!」


俺は絹江さんまでそんなことを言うものだから思わず聞いてしまった。


「いつもは昼間に来るんだがね。ほんと、商売敵なのにご苦労なこったよ」


絹江さんは嫌味っぽく言った。嫌ってそうだけどどこか親しみを感じさせた。


「へっ」


それを見てりんごがそっぽを向いた。


「なんだい、文句あっかい」


「べぇつに」


りんごはニヒルに笑うだけだ。


「いつものコーヒーもらおうか、あのにがーいコーヒーをね」


祥子さんが苦いの部分を強調して言った。


「言われなくても出してやるよ、わし自らね」


「絹江さん?」


「なんだい、わしが淹れちゃ悪いのかい?」


「いや、俺達がいる時に珍しいなって」


「ふっ、こいつは昔からの商売敵だ。その大将が自ら来てんだ、こっちも大将が行かないと恥さらしだろ」


「ふふっ、なんか男前すね」


「いつものことだよ」


絹江さんがコーヒーを淹れる間祥子さんが話してくる。


「葉月くん、あなたのことはいつも孫から聞いてるわ」


「ええっ?」


急にそんなことを言われて慌ててアリエを見てしまう。


「なによ、悪い?」


「いや、俺の…………なにを話してんだよ?」


「あんたが新井ってやつと話してたとか今日は鼻の調子が悪そうとか………あと今顔がちょっと青ざめてるとか」


「どんだけ俺のこと見てんだよお前」


あまりによく見られてるものだから感服してしまう。


「当然でしょ、あんたなんだから」


「よく言うぜ」


好きだから見てる、だから隅々まで分かるんだろうな。


「本当に、仲がいいわね」


祥子さんの笑顔は絹江さんが言ってたみたいな俺達を非難するようなものではなかった。


「別に、そんなんじゃありま……せんよ」


俺は気恥ずかしさで否定しきれなかった。


「なによ、照れちゃって」


「こんな時だけ感づくんじゃねえよ、貴族娘」


さっきは俺の顔が赤くなっても調子悪いとか思ってたくせに。


「それで、二人は付き合ってるのかしら?」


「なに言ってるのよおばあちゃん!あたし、そんなこと一言も言ってないじゃない」


アリエがプクーっと頬を膨らます。


「あら残念ね。でも、そういう結果でもわたしは構わないけど?」


「ええ?」


いいのか?本当に?という疑問がふっと出る。


「なんだい、うちの孫は好きじゃないのかい」


「いえ、そんなことは。アリエのことは、それなりに、いえ、かなり好きだと思います」


家族相手に嘘をつくのも無理がある気がした。特にこの優しそうなおばあさんにはそれが出来ないオーラがある。


「そうなの?あたし知らなかったわよ!なんで言わないのよ!」


アリエが俺の言葉に驚く。


「昨日気付かされたんだよ、周りの人に」


「案外鈍感なのね」


「そうか、好きかい。なら付き合っても構わないよ、結婚は流石に息子夫婦に直接話付けないと駄目だけど」


祥子さんが言う。


「いやいや、結婚なんて気が早いですよー。まあ、でも考えてみます」


「なに言ってんの君嶋葉月。あんたはあたしのもの、それは一生変わんないわよ!そのつもりであたしに仕えなさい!」


アリエがビシッと俺に指をつきつける。


「お嬢様の仰せのままに」


ここはアリエの大言に乗っておくか。


それにしても家族公認か、これはもう後には引けないな。引くつもりないけど。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★





すももさんがアリアさんと仲良くしている。それはみんなも知っての通りだろう。すももさんに友達が増えて嬉しいのは俺達も同じだ。


だがその中に、例外が、一人、だけ、いたのだ。その例外、とは、清さん、である。


俺達は、気づかなかったんだ…………。彼女は、最初こそはあら、すももちゃんに新しいお友達が出来たのね。という程度のものだったのだろう。


人間それほど独占欲が強くなければ友人が新しい友人と話していたくらいでは嫉妬などしない。だが………これは違った、違ったんだ………。


一度や二度ならいい、けど………すももさんは大切な友人を、友達を、ほったかしにしてしまったのだ!大切な人間に長い間放っておかれるとどう、なるか、どう…………なるかぁ…………!



「なあ、あれ………なに?」


それを見たこの日、すごい気になって言えなかったがようやくりんごにそれを話した。話すだけでも口がカラッカラに乾いてしまう。それだけの闇を覚えた。


「知らないぞそんなもの…………わ、わたしだって、き、聞きたい………」


答えるりんごの声にも震えが見える。


「清、ですよね?」


いたって普通の調子でシャロンが答える。


「いや、なんかあれ明らかに違うだろ。なんつうか黒いっつうか全体的にモワーッと寒気が出てるっていうか…………」


俺は清さんの様子を説明する。実際にそういうものがあるわけではないが俺には感じるのだ。


「うんうん!おかしいだろあんなの!人間の出すオーラかよ!」


りんごが指を動かしながら言う。


「オーラ?」


シャロンが首を傾げる。


「見えるだろ、清さんの周りにどす黒ーい、オーラが」


「ありませんけど?」


「く………あたし達とこいつは生きてる世界が違うのか………」


りんごが悔しさに拳を握る。


「そういえば………最近スモモはキヨとあまり話しませんね」


『それだー!』


俺とりんごは声を揃えた。そうか、そうだっのかー、そのせいだったのかー。この時ようやく俺達は気づいたんだ、なぜ清さんが黒かったのかを!


「あの、すももさん!」


「あ、ああああ姉貴!」


俺とりんごはすももさんに詰め寄った。


「なに二人とも急に慌てて、トイレでも行きたいの?」


すももさんが言う。


「なんで俺がこいつトイレ行くんだよ!性別違うだろ!」


「そうじゃなくて、き、ききき………」


りんごが清さんのよすら言えない状態になっている。


「キツツキ?」


駄目だ、話が通じない。


「じゃなくて!」


言葉にするのも不可能なので指で二回ほど示す。


「ん?」


すももさんが首をその方向に曲げる。


「んぐっ、ぐ………」


すももさんが恐怖に息を飲んだ。顔もかなり引きつっており、あの世のものを見たように冷えたものになっている。


「な、なによあれ、本当に人間?」


アリアさんも恐怖を露わにしている。


「すもも、ちゃーん」


清さんが呼ぶ。はーい、とでも言ったらあの世に引きづられそうな顔だ。


「は、はいっ」


はーいじゃないから多分セーフだ。すももさんの顔には冷や汗がたっぷり垂れている。本格的な夏はまだだというのに梅雨時の今にそれほど多量の汗が現れている。


「最近は、新しいお友達が出来て随分お楽しみのようねぇ」


清さんの目はすわっていない、どこか虚空を見るような瞳をしていた。呪いの言葉の中には悲しみや寂しさ、孤独勘ぐってが混じってるような気がした。


「えっと、星宝アリアちゃん、アリエちゃんのお姉さんなんだけど知ってる、よね?」


「ご、ごきげんよう。お、愚かな妖怪女さん、わ、わたしは………あなたみたいな怪物なんかに、負けないわよ!」


アリアさんが清さんに宣戦布告する。


「震えてますよアリアさん!」


「そんな顔で言わないでよ馬鹿!」


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!地震の音じゃない、清さんを見る俺達の震えだ。


「ええ、知ってるわ。アリア、さん」


ふふっと清さんが笑う。いつもの大和撫子な笑いじゃない、くらーい、底冷えするような笑みだ。


「わたしからだぁいじな、だぁいじな、すももちゃんを取った泥棒猫、さん」


清さんが一字一句を呪いの言葉のように吐き出す。


「ひいっ、あの、ごめんなさい、わ、わたし、そ、そんなつもりじゃ………」


アリエさんが泣きそうな声で言葉を絞り出す。


「いいのよアリアさん、すももちゃんが可愛かったんでしょう?ずっと、ずっと話していたいほど可愛かったんでしょう?」


清さんがアリアさんに近づき後ろからからめとるように頬に触れた。これが蛇の力か………、おそろしい、ああ、なんておそろしい。


「でも、駄目なの。すももちゃんはわたしのもの、わたしだけのものなの、あなたが触れたらわたしだけのものではなくなってしまう…………」


「わ、悪かったから!わたしが悪かったから許してよー、ねぇ!?」


とうとうアリアさんはひっく、ひっく、と涙を流し始めた。こわっ、清さんこわっ、天然のホラー映画だわこの人………。声を荒げず暴力も使わずここまで相手を泣かせられるとかヤクザの人もびっくりだよ。


「もうやめて!」


すももさんが今までの冷たい空気を吹き飛ばすような大声を出した。


「すももちゃん?」


清さんがすももさんの声に首を傾げる。


「待ってよ清ちゃん!悪かったのはわたしだから、ちゃんと、ちゃんと清ちゃんに構わなかったわたしが悪いから!だから、アリアちゃんに意地悪するのはやめてよ!」


すももさんが涙ながらに声を荒らげて言う。すると清さんの周りを包んでいた黒いものがフッと消えた。


「すももちゃん、ごめんなさい…………あなたを欲しかったあまりにに、あなたまで泣かしてしまうなんて」


清さんがすももさんの涙を指で拭う。


「もうあなたを独り占めしたりしない、あなたに放っておかれてもずっとあなたを見守ってるわ」


清さんがすももさんのところに周り込み、優しく包み込んだ。


「わたしこそごめんなさい、わたし、清ちゃんが寂しい思いしてるなんて知らなかった。新しいお友達が出来たことに浮かれて、そっちにばかり………」


「いいのよ、もういいの」


ぎゅっと清さんがすももさんを抱きしめる。


「清ちゃーん!」


すももさんも清さんを強く抱きしめた。清さんは微笑んですももさんの背中を撫でた。


「すももの友達って………変わった子がいるのね」


落ち着いたアリアさんが辛うじて言葉に出す。


「元々変わってますがこれは………初めてです」


「ああ」


「キヨは本当にスモモが大好きなんですね」


シャロンが満面の笑みで言う。この状況で笑えるのかよ…………。


「好き過ぎてバックれるレベルだけどな」


「はあ…………わたしもう、疲れたわ。帰る」


俺はアリアさんの会計を済ませた。俺も、疲れたよ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



次の日、カフェダムールの扉を開けようとしたアリアの手が途中で止まった。清だ、清がいたのだ。


「どうしたのよお姉ちゃん、なんで入らないのよ」


一緒に来ていたアリエが中に入らないアリエを不審がる。


「んっ」


アリアが中の清を指す。


「あー」


アリエは納得した。昨日清と揉めて泣かされたことをアリアに聞いていたのだ。


「大丈夫だよお姉ちゃん、あたしがいるから」


「う、うん」


アリエに説得されアリアが中に入る。


「いらっしゃい」


「いらっしゃい」


中のすもも達が出迎える。



葉月side


アリアさんは警戒した様子で中を見ている。当然目の先は清さんを向いていた。


「あら、あなた…………」


清さんがアリアさんの方を向く。


「な、なによ!また変なこと言う気?」


目が合うとアリアさんはざざっと後ずさり、さらに警戒を強める。


「いやねえ、そんなことするわけないじゃない。すももちゃんの友達よ?そんなことしたらまたすももちゃんが泣いちゃうわ」


清さんが温和な顔で言う。昨日の顔を知らなければ騙されていた笑顔だろう。


「そんなこと言われたって、騙されないわよ!」


アリアさんは清さんから距離を置いたカウンター席に座る。


「カフェモカ二つ」


「はーい」


すももさんが注文を取る。


「ちょっと葉月ー、昨日は大変だったんだからね?!」


アリエが俺に嫌な記憶を思い出した顔で言う。


「どうせ後でアリアさんに泣かれたとかそんなんだろ」


俺は目元に手をやって泣くような仕草をした。


「そんなんじゃないわよー。もー、そんな軽く泣くぐらいじゃないわよ。もー、わんわん、ピーピー泣かれて大変だったんだからー!」


アリエが俺の腕を掴んで言う。


「そ、そうか………」


当時はあの程度でも家に帰って緊張の糸が切れて爆発したんだろうな。物理の怪我も精神の怪我も傷を受けてからしばらく経ってからのが深く出るのか。


「泣いてないわよ、誰が泣いたのよ!何年何月何日、地球が何回回った日よ!?」


アリアさんがアリエの言葉を否定する。


「子供かっ!」


「あら、負けず嫌いなのね」


清さんがにこやかに笑う。


「可愛い、アリア」


シャロンがクスリと呟いた。まさかこいつ、こんな趣味があるのか?


「わたしは20、充分大人よ 」


アリアさんが20の2を指で出す。


「そういうのが子供っぽいんだけどな…………」


俺はアリアさんに聞こえないように呟いた。


「地球が何回回ったかは知らないけど201X年、六月X日七時四十五分、晩御飯を食べ終わったタイミングよ」


アリアさんの問いにアリエが答えた。


「ちょっと、なに正確に覚えてんのよこの愚妹!」


アリアさんが顔を真っ赤にして抗議する。


「ふっ、聞かれたかは答えただけだけど?」


アリエが見下したような目をアリアさんに向ける。


「馬鹿にしてー!キー!」


アリアさんがハンカチを噛んで悔しがる。こんな仕草漫画以外で初めて見たぞ。


「これは……可愛いくないわね」


どうやら清さんのお眼鏡には適わなかったようだ。あの人守備範囲広そうなのにな、やっぱ違うのか。


「でも、すももちゃんのお友達同士仲良くしましょう、ね?」


清さんが周りに花が咲きそうなくらい華やかな笑顔で言う。


「か、可愛い………」


アリアさんが清さんにときめく。分かる、分かるよその気持ち。


「も、もちろん仲良くなるわ!友達に………いや、そうやって油断させる気なんでしょう、そんな手には引っかからないわ!」


アリアさんがビシッと指をつきつけて宣言する。この女、甘いようで警戒心が強い。


「あら、残念。わたし達、いい友達になれると思ったのに。それに友達の友達って言うじゃない?」


「関係ないわよ!あんたみたいな妖怪雪女と誰が友達になるもんですか!」


アリアさんが啖呵を切る。


「はい、カフェモカ二つ」


すももさんが星宝姉妹にカップを差し出す。


「ありがと」


「もらうわ」


二人がカップに口をつけ口元にクリームがつく。


「妖怪雪女…………なる、ほどー」


六月の高湿度にも関わらず超低温のオーラを出した女、正に雪女にピッタリだ。


「雪女、雪山に現れるというあの………」


シャロンが目をキラキラさせて言う。


「人間を凍らせるっていうあれか」


りんごが言う。


「キヨ、試しに白い着物を着てみてください!絶対似合いますよ!」


シャロンが清さんの近くに寄って言う。


「いいわね、でも家にあるのは下着用の薄いものなのよね」


清さんが少し悩ましく言う。


「下着用………」


てことは…………


服をはだけさせてあっふーんとか言ったりよいではないかよいではないかて言われてあーれーてぐるぐる回ったりするのか、いいな。


「いって!なにすんだよ」


アリエに手をつねられた。


「あんた、あたし以外の女で欲情したでしょ!」


「なっ、駄目かよ………」


確かに俺は清さんのあんな姿やこんな姿を想像したがそれの何がいけないのだらうか。


「いい?あんたはあたしのものなんだからあたし以外の女で欲情なんてしちゃ駄目、するならあたしにしなさい!」


アリエが指をつきつけて言ってくる。


「欲情って………」


アリエの身体を確認する。中学生としての小さい身体、まだ膨らみきってない小さい胸…………。


「無理があるな」


「ちょっとー、それどういう意味ー?!」


「あの二人、いつからあんな仲良くなったのかしら?」


清さんが首を傾げる。


「ふっ、すももしか見てない馬鹿には到底気づかないわよ」


アリアさんが勝ち誇る。


「どういう、意味かしら?」


ゴゴゴゴゴ、清さんの周囲が揺れた気がした。


『ひいっ!』


俺とアリエはそれに気づいて互いに抱きついた。昨日のトラウマが蘇る。あまりこういうのは見たくないんだがな。


「どうせ、来る日も来る日もすももしか見てなくて他の人間なんて、大して興味もないんでしょう?」


清さんの変化に気づかないアリアさんがさらに挑発をする。


「へぇ、そう、見える………?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、さらに揺れが酷くなる。


「ちょっと君嶋葉月!あれどうすんのよ、その内昨日みたくお姉ちゃん泣くわよ!?もうあんなお姉ちゃん見たくないわよ!止めて葉月!」


アリエが必死に訴えてくる。妹にここまで言わせるなんて、清さんはなんておそろしいんだ。


「あの、き、清さ………」


俺は恐怖を抑えて清さんに話しかけようとした。


「いたっ!」


「あうっ!」


けど俺が清さんに挑む必要はなかった。すももさんが布巾で二人の頭を叩いたんだ。


「ちょっとー、昨日あれだけ止めたのに今度は喧嘩?やめてよねそういうの?!」


すももさんが声を荒らげる。


「ごめんなさいすももちゃん」


「わたしが悪かったわ」


落ち込む二人。清さんから出る揺れも収まった。


『ふー』


俺とアリエは安心して息が漏れた。顔を合わせるとふいに笑みが零れる。


「もー、ここは喫茶店なんだからそういうのはだーめっ」


すももさんが優しくピッと人差し指を二人に向ける。


『はーい』


大人しく返事する二人。まさかダークホースがこんなところに隠れてるなんて、すももさんには清さんも形無しみたいだ。


「すげえな姉貴、あの清さんを抑えつけるなんて」


りんごが関心する。


「そりゃあまあ、年長者だし?お姉ちゃんだから?これくらいやるよー、にひひー」


すももさんがもったいぶるように言って笑った。


「なんだか、お母さんみたいですね」


シャロンが感慨深く言う。


「お母さんじゃないよ!まだそんな歳じゃないもん!やめてよもー」


すももさんの顔が笑顔から悲鳴に変わった。まだ若いのに年増だと言われたらたまったものじゃないな。


「でも、今日のすももはお母さんみたいです」


「あ、そう………」


再度言われてすももさんも満更でもなさそうになる。


「そういえば、あたしのお母さんもあたし達が喧嘩したら止めてくれたっけ」


アリエが感傷的な表情で言う。


「母さん、か。なんだか故郷の母さんが恋しくなってきたな」


思わず呟いた。



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