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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
九章 坂原北高校文化祭
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七十ニ話 アリアとアリエの仲直り

姉妹というのは素直になれないもの、星宝姉妹編です




アリエとアリアがカフェダムールで会った次の日、すももは一人で店番をしていた。


「いらっしゃい。あ、アリアちゃん」


ワンピースにジージャンを纏った高貴なオーラを持った女性を出迎える。


「カフェモカってやつ、貰えないかしら」


アリアがカウンターに座り言う。


「オッケー、ちょっと待ってね」


すももがコーヒーを淹れる準備を始める。


「昼間早いのによくコーヒー飲みに来るね。あなた、学校とか仕事は?」


すももがアリアに聞く。時計の針はまだ三時を超えるか超えないかという微妙なところだ。


「そういうあんたこそ、若いのに店なんかやってるけど学校はもう卒業したの?」


アリアも負けじと言い返す。


「あたしはー、大学行ってるけど今日は午後の授業が休講になったから早めに帰ってきたってところかな。あなたは?」


「あたしも同じところかしら、今日は午後の授業入れてないの」


「へー、じゃああたし達歳近いんだね」


「近いっていうか同い年かもよ?」


「え、アリアちゃんて一年生なの?」


「二年生よ」


「あ、ごめんなさい。歳上だとは知らなくて………えっと、アリア、さん?」


おろおろし始めるすもも。


「いいわよ、そんなこと。普通にしてて、普通に」


「普通にってタメ口?」


「うん、わたしそういうの苦手だし」


「そっか、改めてよろしくね、アリエちゃん」


「よろしく」


「あ、カフェモカ出来たよ」


すももがアリアにカフェモカを差し出す。


「ありがと」


アリアがカフェモカを口に含むと口の周りにクリームの泡がついた。


「ねえ、ちょっと聞いてくれる?アリエがね、アリエがね……」


「どうしたの急に?酔っ払いみたいになって………」


カフェモカの泡をつけながら酔っ払う人間などすももは見たことがなかった。そんな人間いるのかと思うほどである。カフェモカの泡はビールの泡に似てなくもないが………。


「最近構ってくれないのよー。中学生なのに店の手伝いとかしちゃうし店の手伝いやるわけでもないのに家にいないし、なんなのよもー」


泣き上戸になるアリア。


「うーん、うちに来てるからじゃない?」


すももには当てずっぽうに答えたが実際その答えしか思いつかなかった。


「うちって………ここ?」


アリアは下を指さしてカフェダムールを示した。


「うん」


頷くすもも。


「えー、えーなによー、なによなによー、この店の何がいいって言うのよー」


「なにそれ、わたしに喧嘩売ってるの?」


「え、いや、そういうわけじゃ………」


すももに睨まれアリアはしどろもどろになる。


「ただいまー」


絹江が買い出しから戻ってくる。


「ちょっとおばーちゃーん、この人この店の何がいいのとかって言ってるんだけどー。何か言ってあげてよー」


すももが絹江にアリアの言葉を伝える。


「おやまあ、それは大変だねえ。うちの店に文句があるって言うならなんであんたはここにいるんだろうねぇ」


買ったものを冷蔵庫に入れる絹江は笑いながらアリアを睨みつける。一見笑ってるようだが睨まれたアリアは萎縮していた。


「べ、別にそんなんじゃないわよー。た、ただ妹がここに入り浸ってわたしに構ってれないって話よ」


アリアは冷や汗をかきながらもなんとか答える。


「あんた、妹にあんだけ酷いことしたって言われたのに構って欲しいだなんて変わってるねぇ」


「妹ってのはいればいるほどいじりたくなるものなのよ、むしろ嫌がらせすることが妹への可愛がりってものじゃない?」


アリアは軽く微笑みながら言う。


「それ、やめた方がいいよ」


すももが冷たい目でアリアを見る。


「なによ、わたしに文句あるって言うの」


アリアが不満に頬を膨らます。


「やってもいいけど、あんまりやり過ぎるとわたしみたいになるよ?」


「あんたみたいにってなによ、なにかやらかしたの?」


「口、聞いてくれなくなるよ」


「ヒェッ」


すももが自分の口を指して言うとアリアは息を漏らした。


「わたしもりんごの都合とか考えずにちょっかい出してたんだけど、それのせいで嫌われて雑に扱われたり……」


「う……」


「しまいにはちょっかい出しても全然口聞いてくれなくなっちゃったりするんだよねー、二ヒヒヒー」


すももが一本指を立ててもったいぶる。


「脅かさないでよもー!」


アリアが恐怖に立ち上がって叫ぶ。


「脅かすもなにもこれ全部事実なんだよねー」


すももが苦笑いする。


「でも、昨日も一昨日も普通に喋ってなかったかしら?」


「まあ、仲直りしたからね」


「ど、どうやって……」


「今までちょっかい出してごめんなさいって言うの。これが、第一プロセス」


「わたしが妹に謝るの?そんなのプライドが許さないんだけど」


拒否反応をするアリア


「じゃあ、アリエちゃんに嫌われたままでいいの?」


「ぐ……」


「この際面倒なプライドとかは捨てちゃおうよ、こういうのは先に謝った方が上手く行くんじゃない?」


アリアは眉を潜め少し考えてから答える。


「それで上手く行くというならね。で、第一プロセスってことは第二もあるんでしょうね?」


「じゃあ、第二ね」


アリアが二本指を伸ばす。


「第二プロセスは今までちょっかい出してきたのはアリエちゃんのことが大好きなんだけど素直になれなくてつい悪いことしちゃったんだって言うの」


「それが、第二プロセス?」


第一プロセスを聞いた時よりさらに拒否反応の強さが上がるアリア。


「そう」


「嫌よ、そんなの第一プロセスよりひどいじゃない!好きだから嫌がらせしてたって言うとかプライドが下りてもだめよ!」


ヒステリックに叫ぶアリア。


「えー、プライドが下りるなら大丈夫じゃないの?」


すももはアリアの気持ちが理解出来ない。


「いやだって、妹に面と向かって好きっていうとかは………」


アリアは顔を赤くして言葉を止める。


「は?なに?歯が痛い?」


「違うわよ!は、恥ずかしいって言いたいの!」


「あ………」


その瞬間、すももはりんごに自分に気持ちを伝えた時を思い出し恥ずかしさに顔を手で覆った。


「でしょー、だからなーし」


アリアは顔の横で片手を広げる。


「だめだよ」


すももは手の間からアリアを覗いて言った。


「え?」


「やっぱり駄目だよそういの」


「えー、でもー」


再度押されるがアリアは躊躇いばかりだ。


「姉妹が喧嘩したままだなんてやっぱり駄目だよ!姉妹はちゃんと話し合って、仲良くしないと!」


すももはアリアの両手を掴み強く言う。


「え、なによ急に」


アリアの顔には躊躇いよりも戸惑いの表情が表れていた。


「わたしも協力するから、アリエちゃんと仲良くしよっ、ねっ?」


「あんた………」


アリアはすももの純粋な熱意に打たれそうになる。


「う………」


さらに瞳から無言の圧力を感じ、何も言い返せなくなる。


「ふん、分かったわよ。やればいいんでしょやれば!」


アリアは半ばやけくそ気味に頷いた。


「やった!」


すももは喜びのあまりガッツポーズをした。


「あんたが喜んでどうすんのよ」


アリアはボソッと呟いた。




しばらくしてりんご、葉月、シャロンの高校生組がやってくる。


「ただいまー」


「こんにちはー」


「こんにちはです」


「みんなおかえりー」


「おかえり」


すももと絹江が三人を出迎える。



葉月side


「あ、アリアさんこんにちは」


「こんにちはです」


「よっ」


俺達はアリアさんに挨拶する。


「こんにちは。ねえ、うちの妹見なかった?」


「いや、今日はまだ見てないですけど」


「そう………」


「アリエに何か用でも?」


「まあ、ちょっと………」


煮え切らない返事のアリアさん。


「アリアちゃん、アリエちゃんと仲直りしたいんだって」


すももさんが言う。


「そりゃまたどうして?」


「お二人って喧嘩してらしたんですか?」


「そうは見えないけど?」


「違うのよ!そうじゃなくて、なんか最近輪にかけて妹が構ってくれないからどうにかしたいなって………」


アリアさんが両手の指と指の先を合わせながら恥ずかしそうに言う。


「あー、あーはー、はーはー」


すぐに分かった、確かアリエがアリアさんにいつも酷いことされてるっていうあれだ。


「それで色々わたしがアドバイスしてあげたの」


すももさんが言う。


「姉貴が?」


りんごがありえないだろという顔で言う。


「ちょっと、わたしだってお姉ちゃんらしくみんなにアドバイスとか出来るんだからね!」


すももさんがりんごの態度に抗議する。


「マジかよ、初めて聞いたわ」


「すももさんとか逆にアドバイス受ける方かと思ってました」


「葉月くんまでー、二人してわたしのこと馬鹿にしてるー?」


すももさんが不満に口を尖らす。


「すいません、わたしもそう思ってました」


シャロンが気まずそうに手を上げる。


「えー、シャロンちゃんまでー?!」


すももさんはさらに身体をカウンターに倒してぐでーっと脱力した。


「ぶー、ぶー」


しまいにはタコの顔真似をしながらブーイングを始めた、すごく子供っぽい。



「今日も来てやったわよ君嶋葉月、あたしに感謝なさい」


高慢な言い方でアリエが入ってくる。


「いらっしゃい、アリエちゃん」


「いらっしゃい」


みんなでアリエを出迎える。


「なんでお姉ちゃんがいんのよ」


アリエはアリアの存在に首を傾げる。


「なに?わたしがいちゃ悪い?」


アリアがからかうような目でアリエを見る。


「違うでしょアリアちゃん!ちゃんと打ち合わせ通りにやらなきゃだめ!」


すももさんが腕を交差してバツ印を作る。


「ええ?」


アリアさんが嫌そうな顔をする。


「はあ?!」


それに対してすももさんもアリアさんを睨む。メンチを切る不良みたいだ。


「あ、うん。えっと………」


すももさんに睨まれアリアさんが顔を赤くしながらアリエの方を見る。そんなに恥ずかしいことなのか?


「なによ?」


じっと見詰められてアリエも戸惑っていた。


「す、」


アリアさんの顔が何かを我慢してるような形になる。


「す?酢がどうしたのよ」


「す、す……」


アリアさんの我慢度がさらに上昇する。酢じゃなかったのか。


「煤?火を燃やした時の残りカスがどうしたのよ」


「す、すすす………」


あ、我慢のし過ぎでアリアさんの顔が茹でタコのようになってる。さっきのすももさんとは違うけどタコの出来上がりだ!


「すすす?そんな単語ないわよ。どうしちゃったのお姉ちゃん、顔も赤いし熱でもあんじゃない?」


等々すを並べ過ぎてアリエに認識されないほどのレベルに達してしまったか。うん、俺もすすすなんて単語知らないわ。強いて言うなら、擬音?


「好きだって言ったのよ!好きよ、すーき!」


茹でたこ、じゃない。アリアさんが爆発した。好きの一言を言うのにどんだけ我慢してたんだ。アリアさんは既に言ったみたいに言ってるけどこの場で好きと言ったのはこれが初めてだ。


「だ、誰が………。ま、まさか君嶋葉月?」


アリエの目が俺に向く。


「え、マジで?」


こんな美人に好かれるなんて困っちゃうなー。


「違うわよ!あなたよあなーた!あなたが好きって言ったの!」


アリアさんはアリエにビシッと指をつきつける。


「え、あたし?き、急にどうしたのよお姉ちゃん。えっと、お姉ちゃんてこういう人だった?」


アリエは急にお姉さんからの告白を受けてわけが分からなくなる。


「そんなわけないじゃない、リップサービスよリップサービス。今日くらいは妹に愛を分けてもいいかなって思ってるの。せいぜい感謝しなさいよ、いだだだだだ!」


アリアさんが馬鹿にしたように言うとすももさんに耳を引っ張られた。


「ちょっとなによー」


「予定と違うよアリアちゃーん。そんな態度で接してなんて、お姉ちゃん一言も言ってないよ?」


すももさんが優しく言う。


「誰がお姉ちゃんよ。あなたの妹になった覚えなんて一秒たりともないわよ」


「いいから………」


文句を言うアリアさんの耳にすももさんが何か囁く。


「え、あれやるの?」


「だーめ、ちゃんと言わないと伝わらないよ」


「分かったわよ」



「なあ、すももさんなんて言ったんだ?」


俺はりんごに聞いた。


「さあ?」



「アリエ!」


アリアさんが叫ぶ。


「なによ」


「今日は今までの非礼を謝ってあげる、感謝しなさい!」


謝ると言ってるのになぜか上から目線なアリアさん。


「え、今度はなに?ほんとお姉ちゃんどうしちゃったの?熱でもあるんじゃない?」


アリエがますます混乱する。


「謝るって言ってるんだから素直に感謝しなさいよ!悪かったから許しなさいよ!ほら、頭下げるから!」


アリアさんが泣きながら頭を下げる。いや、下がってない。90度直角ぐらいがお辞儀の正しい形なのだがアリアさんの場合30度くらいしか下がってない。これは果たしてお辞儀なのか、疑問に思うほどである。


しかも30度しか下がってないのに自分が頭を下げるなんて屈辱だなんて顔をしている。


「ひぇ、お姉ちゃんが、あの死んでもあたしに謝らないお姉ちゃんが…………」


アリエの表情が戦慄に変わる。そこまでおかしいか、あの人どんだけプライド高いんだろう。


「うえーん!ごめんねアリエー!」


「お姉ちゃん!?」


等々アリアさんがアリエに抱きついた。


「わたし、本当はアリエのこと大好きで、アリエと一緒にいたいのにいつも嫌われるようなことばっかやっちゃって、ごめんね、ごめんねアリエー」


アリアさんが泣きながら言う。


「お姉ちゃん…………、あたしも、お姉ちゃんのこと、大好きだよ」


アリエが優しい声で言った。


「アリエっ………」


アリアさんがさらに強くアリエを抱き締める。


「お姉ちゃん……」


アリエも幸せそうにアリアさんを抱き締める。



「この光景、どっかで………」


「もしかして………」


俺とシャロンはりんごを見る。


「はっ、やめろお前ら!そんな目であたしを見るんじゃない!あんなの泣きながら抱きつくやつと一緒とかやめろし!」


りんごが必死に否定する。


「まあ泣きながらてのは違うけどねぇ」


「はい………」


そうは言っても目の前にある光景が数週間前にすももさんとりんごが見せたものと違うとは思えない。


「だーからー、違うってー!」


再度否定するりんご、必死に否定する時点で既にクロだって。


すももさんの方はアリエとアリアを見て微笑んでいてからかう気にはなれなかった。多分すももさんは自分がりんごと仲直りした時の経験でアドバイスしたんだろうな。ま、そのアドバイスも元を辿ればすももさんとりんごにアドバイスした俺とシャロンになるわけだけど。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



次の日、またアリアさんがやってきた。


「いらっしゃいアリアさん」


「いらっしゃーい」


すももさんがピースサインを二つ作って指をハサミのようにチョキチョキする。


「こんにちは。昨日はありがとう、すもものおかげで素直になれたわ。アリエも、ちゃんとわたしのこと見れてくれるようになったの。こんなの、何年ぶりかしら」


アリアさんが嬉しそうに言う。数年ぶりに家族と再開したみたいな顔だ。


「そっか、アリアちゃんがアリエちゃんと仲直り出来てわたしも嬉しいよ」


すももさんも笑顔で返す。


「今日は、それだけ」


「あ、待ってよアリアちゃん」


すももさんがアリアさんを引き止める。


「カフェモカ、飲んで来なよ」


すももさんが淹れているコーヒーを指さす。


「でも今日は飲むつもりないわ」


「サービスサービスぅ」


すももさんが某ミサトさんみたいな言い方をした。あれ最近になってもよく映画とかやってるけど相当古い作品だよな。


「じゃあ、一つ貰おうかしら」


カフェモカが完成しアリアさんの前に置かれる。カフェモカを口に入れるアリアさん。口元にクリームがつく。


「ふひっ、変な顔」


それを見てすももさんが笑う。俺達も釣られて笑った。


「なによ、みんなしてー。ふふっ、あははははは!おっかし」


アリアさんは文句を言うがなぜかアリアさんまで笑ってしまった。



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