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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
九章 坂原北高校文化祭
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七十話 りんごはソフトボール部の助っ人になる

今回はりんごに新しいキャラづけをしてみました




これは春のある日の学校での出来事だ。昼食の弁当を食べている時だ。


「なあ、もしかしてあの子達俺のこと見てるんじゃね?」


新井が指す方を見ると女子三人がひそひそ話をしながら廊下からこっちを見ている。


「気のせいだろ、てめえのことなんか誰がジロジロ見るかっつうの」


俺は弁当にある卵焼きに箸を伸ばす。


「じゃあなにか?お前が見られてるっつうのか?」


「なわけねえだろ。どうせシャロンのことに決まってるだろ、銀髪なんてあんまいねえしなにより美人だからな」


「そんな、美人だなんて………」


シャロンが恥ずかしそうに顔を赤くする。


「お前、ナチュラルにそういうこと言えるよなー」


りんごが煮物を頬張りながら言う。


「いいよなー外人はモテて、俺も生まれるなら金髪のイケメンに生まれたかったぜ………」


新井がご飯を頬張りながらうっとりする。


「どうせお前が金髪になってもモテるわけないし」


容赦ないりんごの言葉。


「ちぇー」



「ほら行きなさいよー」


「えーでもー」


「いいから、同じクラスでしょ」


耳を澄ますと例の女子達の声が聞こえる。言葉通り一人は同じクラスだが後の二人はあまり見ない顔だ。


『ほーら』


「ひゃっ」


同じクラスの女子が他二人に押される。その女子が振り返ると他二人がニヤニヤしている様が見てとれる。そしてこっちに近づいてくる。


「あれ、結局一人だけか」


「でもラッキーじゃんシャロンちゃーん、他の二人も呼んでもらおうぜー」


「そんな、からかわないでくださいよー」


「あの、間宮さん………」


「え、あたし?」


クラスメイトが声をかけたのはシャロンではなくりんごだった。


「あれ、三玉?三玉じゃん」


「ソフトボール部のお下げちゃんがシャロンちゃんじゃなくてりんごに何の用よ」


よく見るとそのクラスメイトはソフトボール部に所属するお下げ髪をした三玉だった。


「お前らどんだけあたしをディスれば気が済むんだよ」


りんごが怒ったような顔で言う。


「わりぃ、でもお前が声かけられるなんて滅多にねえじゃん」


「うんうん、クラスの女子でもレアな一匹狼、それが間宮りんごだろ?」


「否定はしない。で、その一匹狼様になんの用だ?」


りんごが三玉に言う。


「間宮さんて、スポーツ、上手、だよね?」


俺と新井は顔を合わせる。


「そうなの?」


「噂には聞いたことあるな………」


高校にもなると体育が男と女別でやるようになってるから直にそういうのを見ることはなく確かめようがなかった。


「リンゴは体育の授業だといつも活躍してますよ、スポーツテストの成績も良かったはずです」


「マジか」


「すげーなりんご」


シャロンの言葉に驚くばかりだ。


「てことは、あたしにスポーツ関係の頼み事ってこと?」


「うん、実はソフトボール部の練習試合があるんだけど今怪我で欠員が出ちゃって………」


「その代わりをあたしにやれってこと?」


「ダメ、かな?」


三玉が上目遣いで頼んでくる。


「ずきゅーん!もちろんいいよ、やろう、ソフトボールの練習試合、やろう!」


「ああ、絶対勝たせてやる!」


「なんでお前らが返事してんだよ……」


そう、三玉にオッケーを出したのはりんごじゃない、俺と新井だ。


「ばっか、こんな可愛い子の頼みを断るなんてなに言ってんだよ」


「しかも上目遣いのアピール、断る方がヤボだと思うぞ」


「いや、あたし男じゃないから分かんないし」


拒否する気満々なりんご。


「やっぱり、ダメ……かな?間宮さんて実家が喫茶店て聞いたから練習試合なんて、無理かな……」


「うぅむ…」


そう言われて難しい顔をするりんご。


「店の方は心配ねえよ。俺達もいるし、お前は安心して行ってこい」


「その間、俺がりんごの代打になってやるぜ」


新井がおかしなことを言い出した。


「いやお前はお前のバイト行けよ、あんだろバイト」


「じゃあいつのものバイト休んで……」


「それこそやめようぜ、な?」


「新井、そんなことするなら三玉の頼み全力で断るぞ」


重ねて言う新井にりんごが睨みを効かせる。


「アライ、気持ちは分かりましたので普通にお仕事行ってください」


シャロンも新井を止める。


「わ、わかった、そんなに言うならバイト終わりに行ってやる」


「それだと逆にうちの店が閉まってるから、素直にバイトして家帰れ」


「へーい」


「で、どうするりんご?店は気にしなくていいから後はお前の気分次第だぞ」


俺は改めてりんごに聞いた。りんごはしばらく首を振ったり唸ったりしていた。


「やってもいいが、あたし集団行動とか苦手だぞ?」


「と、とりあえずバッターと頼まれたところの守備だけやってくれればいいかな」


「わかった。で、いつから行けばいい?」


「えっと、練習試合までの合わせとかもあるから今日からかな」



というわけで放課後、りんごは三玉と共にグラウンドに行った。


「よし、行くか」


新井が言う。


「どこにだよ」


「決まってるじゃん、りんごの活躍を見にだよ」


「いいのかよ、バイトあんだろ」


「ちょっとくらい大丈夫だって。なあ、行こうぜ」


「まあ気になるっちゃあ、気になるしな」


「わたしもりんごのスポーツする姿見てみたいです」


シャロンが言う。


芝生から野球のグラウンドを眺めるとりんごがバッターボックスでバットを振っている。


「間に合ったみたいだな」


「ああ」


「ホームランでしょうか、わくわく」


「いや、それはないだろー」


「だよなー」


ピッチャー投げる、キィン!球がバットに当たる、そして、校庭端のネットに当たる。え、ネット?


あまりの衝撃にその動きを見ていた者の動きが止まった。口が開いて塞がらない状態になってしまった。


「あれ、ホームラン、だよな」


俺はしばし時間がかかってようやく口を開いた。


「ああ」


「まさか、本当にホームラン取っちゃうなんて思いませんでした、はは……」



ワァー!野球のグラウンドも時間が動き出して盛り上がる。


「すごいじゃない間宮さん!ホームランよホームラン!」


部長らしき人がりんごに近づいて言う。


「そんな、まぐれですよ………」


りんご自身信じられないという顔をしてそうだ。この位置だと正確な表情は分からない。


「いやいやー、まぐれでもホームランなんて打たれたらびっくりしちゃうなー」


ピッチャーも近づいて言う。おっとりしてそうな声だ。



バッティング変わって守備練習。


キィン!キィン!キィン!次々と打たれるボールをりんごはキャッチしていく。


「ぜぇ、ぜぇ………」


ユニフォームも汚れてるし息も切れてるが全弾キャッチ、一球も逃がしていない。


「なんだこれ…」


「すげえな」


「やっぱりリンゴはすごいです!」


俺達はその様に感嘆するしかなかった。


「帰るか」


「はい」


「ああ、あんまりいてもバイト送れちまうしな」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「と、いうわけでりんごはしばらく帰りが遅くなるそうです」


カフェダムールに帰った俺はりんごの事情を絹江さんやすももさんに説明した。


「あの子が野球の試合ねえ。珍しいじゃないか」


絹江さんが言う。


「お祖母ちゃん、野球じゃなくてソフトボール。試合じゃなくて練習試合」


すももさんが間違いを訂正する。


「細かいことはいんだよ、どっちも一緒だよ一緒」


「そんなこと言ってると、ボケちゃうよー。もうお祖母ちゃんも年なんだからそういうのは気にしていかないとダメだよ」


「余計なお世話だい、まったく……」


「で、その練習試合ていつやるの?」


「次の土曜日です」


「じゃあみんなで行こっか」


『おー!』



りんごが帰ってくると常連客共々で祝いの言葉を述べた。


「おめでとーりんごちゃん、野球の試合出るんだって?」


「この店から野球の試合出る子がいるなんて誉れだねぇ」


「ええ?!どうしたんだよみんな……」


りんごが急にそんなことを言われて戸惑っている。


「りんご、俺達も応援に行くから、頑張れよ!」


俺はりんごに親指を立てた。


「お前かよみんなに教えたの!てかばあちゃんは残るんだろうなぁ」


「え?」


りんごの言葉に絹江さんは目を見開く。


「あ……」


「ああ、お祖母ちゃんも行ったらお店に誰もいなくなっちゃうね」


すももさんが言う。俺もすっかりそのことを忘れていた。


「どうしよう………」


俺が目を横に回していると絹江さんの目がこっちに来た。


「絹江さん?」


「むう、どこかに昼間の間だけ店の留守番を頼めるやつおらんかのう。練習試合の日だけでいいからおらんかのう」


絹江さんが俺とシャロンを交互に見ながら言う。


「あー、分かりました。やれるかは分かりませんがなんとかやってみます」


俺は苦笑いしながら言った。


「店長達はせいいっぱい楽しんで来てください!」


シャロンが力強く言う。


「うむうむ、すまんのう」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



りんごのソフトボール部との練習二日目、今日も俺は新井やシャロンと共にその様子を見に来ている。


「よーしみんな、りんごに負けないようにちゃんとボールを追うのよー」


部長が大きな声でみんなに呼びかける。いつの間にかりんごが下の名前で呼ばれている。ところでここの部活の顧問はどこにいるのだろうか。周囲を見ても見当たらないが部室で見守ってたりするのだろうか。


「そーれっ!」


部長がノックを打ち部員達がそれを追いかける。


「ほらほら、みんな急いでー!そんなんじゃ練習試合負けちゃうよー!」


『はい!』


何個か取り損ねるが部員達は懸命にそれを追う。


「あれ、今日りんご目立ってなくね?」


新井が言う。


「割と今日は普通だな」


「でも、スポーツてなんだか熱いですね!」


シャロンが言う。


「そだねー」


「そだねー」


「なんですかその返事、二人とも普段そんな言葉遣いしてましたっけ?」


「いや、たまたまそんな気分だっただけ」


「俺も」


「はあ……」




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「頑張ってりんごー!」


「見てるからのー!」


ソフトボールの練習試合当日、すももと絹江は声を張り上げてりんごを応援する。絹江は片手にビデオカメラを持ってりんごの戦いを撮影している。



「あれって、りんごのお姉さんとお祖母ちゃん?」


ベンチで部長がりんごに言う。


「やっぱ来たのかぁ。つうか恥ずかしいからあれやめろし」


りんごは嫌悪感を出して言う。


「いいじゃない、家族思いのいい人達で。二人のためにも頑張りましょ」


「まあ、手は抜きませんよ」



試合が進むと、りんごの所属するチームは相手に点差をつけられ、不利な状態になっていた。


キィン!最終回、先行である相手の攻撃で満塁の時、ネット際に行くかに思えた強烈な球を相手チームが打つ。


「ああっ!」


観客席にいるすももと絹江、りんごの仲間たちが声を上げる。


ダダダッ!そんな時、りんごがボールを追いかける。まさか取るのか、あのボールを?と思われた。だがネット際にボールが落下したかに思えた時、りんごのグローブにはボールがしっかり握られていた。


「アウトー!」


審判の声が響き、ワアァァァ!と歓声が湧く。


「そんな、わたし達のサヨナラホームランが………」


相手方の部長が驚愕に声を震わす。


「すごいじゃないりんご!ホームランまで取っちゃうなんてナイスフォローよ!」


「やったよ間宮さん!満塁ホームランを阻止出来たよー!」


りんごの活躍を仲間たちを歓迎する。


「一発取っただけだしあと2アウトあるからまだ喜ぶの早いですよ」


りんごは謙遜するように言う。


「でも取れちゃったもん仕方ないじゃなーい、もう気分はサイコーよ!」


「満塁ホームランを阻止出来たてことは、相手チームもびっくりして調子が狂っちゃうんじゃないかな」


「なら打たれたボール取るのも簡単ですね、先輩」


「え、ええ……」


りんごに言われ部員の一人が緊張したように言う。



残り2アウト、りんごの仲間が言った通り投げたボールを打たれるのは変わらないが難なくアウトを取ることに成功した。


「すごい!あっという間にりんごのチームがアウト取っちゃったよ!」


すももが声を上げる。


「うむ、流れが変わったの」


絹江が言う。


「流れ?」


「さっき相手のチームは満塁の状態でホームラン打ったろ?」


「でもりんごに取られちゃったね」


「うむ、そこでせっかくのチャンスを取られ出鼻をくじかれたという状態になったのじゃよ。だからりんご達のチームが有利な流れになったのじゃ」


「へー」



攻守交代し、りんご達のチームがボールを打つ番になるがあっさり三振が二度続いてしまう。


「あれ?」


先ほどの活躍とは裏腹な光景にすももはあっけに取られた。


「うーむ、孫の活躍がもう少し見れるかと思ったが期待外れじゃったのう」


絹江も残念そうに唸る。



ソフトボール部の顧問兼監督は難しい顔をして腕を組んでいる。せっかくいい流れを作ったというのにこのままでは点差が開いたままで負けてしまう。今も最終回だというのにアウトが二回も出ている、後はもうない。さて、どうする………。


彼は三人目のバッターが出たところで口を開いた。


「代打!間宮りんご!」



「代打?りんごが打つの?」


「そのようじゃな」


代打がりんごと聞いてすももと絹江は興味津々だ。



「あたしですか?」


急に指名されたりんごは驚いた。


「助っ人の君にこんなことを頼むのは気が引ける。だが、以前練習でホームランを打った君の腕を信じたい、行けるか?」


職人気質のいかつい顔の男監督は苦渋の決断をりんごに託す。


「分かりました、やってみます!」


その心情を察したのか、りんごも力強く頷いた。


りんごがバッターボックスに立つ。ボールが飛んでくる、ホームラン、ではなくヒットだが速く守備が取れない位置に飛び、りんごは軽く一塁を得た。


「代打、間宮りんご!」


「え?」


監督の声にりんごが驚く。



「またりんご?」


「の、ようじゃな……」


まさかの連続代打にすももと絹江も興味より驚きのが勝っていた。


キィン!またいいところにヒットが飛び二塁も得る。


「代打、間宮りんご!」


「え、三度目?」


三度目のりんごの代打となり、またもや打つことになる。そしてりんごは四度目の代打指名を受けることになる。



「いやいやおかしいって、なんでりんごが四回目も代打してんの!流石に変だよ!」


「うむ、これはちょっと引くぞよ……」


すももと絹江は違和感を覚え始めた。



「はあ、はあ、なんであたしがこんな面倒な目に遭わなきゃなんないんだ………」


三回連続バッターボックスでバットを振る上に塁に走らされたりんごは息が切れ始めた。


目は血走り始め、りんごにボールを投げるピッチャーはりんごに恐怖を抱いていた。


─────なにこの女、なんで三回も代打で出てくんのよ。普通三回も打って走ったら普通疲れない、ていうかあの目はなによ?どこのスケバン?


そして投げるボールにも気合いが抜けてしまう。


「あっ……」


失敗した、ピッチャーがそう思うのも束の間、修羅と化したりんごの腕が動いた。


「こうなりゃヤケクソだー!」


キィン!ボールが勢いよくネットにぶつかり落下する。今度のは取られず、ホームランとして成立した。りんごが代打として打ったボールは全てヒット、アウトなど一つもない、つまり塁が全て埋まってる状態のホームラン、点差は四点以内、逆転サヨナラホームランと言われるものの完成である。



試合が終わり、互いの部長、キャプテンが握手を交わす。


「あんたのチーム、やるじゃない。まさかあそこから逆転されるなんて思わなかったわ」


相手チームの部長が言う。


「褒め言葉ならあっちにいる子に言ってちょうだい」


りんごのチームの部長がりんごを指す。


「確かに、あなたの連続代打、中々見事だったわ。また戦いましょ」


相手チームの部長がりんごに手を差し出す。


「いえ、もうこんなの懲り懲りです………」


りんごがやつれた顔で言った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



りんご達が練習試合に行ってる間のカフェダムール、絹江さんに言われた通りシャロンと二人で、ではなくあれから常連の佐藤親子に助っ人を頼んでくれて四人体制でやっている。


「すいません、礼子さんにも出てもらっちゃって」


俺は礼子さんに言った。


「いいのよ、どうせ今日も暇だしいつもお世話になってるお店に恩返しが出来てわたしも嬉しいもの」


「礼子さん………」


すももさんや清さんとは違う、お母さんというもののの笑顔に安心出来るものを感じた。


「シャロンおねーちゃん、五番テーブルのおじさんがブレンドちょうだいだって」


美結ちゃんがシャロンに注文を伝える。


「承りした、急いで淹れて参りますね」


シャロンがコーヒーを淹れる準備にかかる。


「シャロンおねーちゃんどうどう?あたし、注文出来たよ」


美結ちゃんが褒めて褒めてと言わんばかりにシャロンに言う。


「はい、初めての注文よく出来ました」


シャロンが美結ちゃんの頭を撫でる。


その様子を見て礼子さんが言った。


「美結も楽しそうで良かったわ、高校生になったらここで雇ってもらおうかしら」


「そこはまあ、絹江さん次第ですかね」


今の内から育てれば優秀な接客が出来るようになりそうだな。



「相変わらず老けた店ねえ」


アリエが来店した。


「わー、ちっちゃい子が来たー!」


美結ちゃんがアリエを見つけて言う。


「誰がちっちゃいよ、あんたのがよっぽど小さいじゃない」


小さいと言われてアリエはご立腹だ。


「ごめんなさい、でもここに来る人てみんなおじいさんとおばあさんばっかだし………」


「その意見には激しく同意ね」


アリエが微妙な顔で頷く。やめろ、俺だって気にしてるんだぞ。


「美結、そろそろお客さんを席に案内してあげなさい」


礼子さんが言う。


「はーい。小さいお客さん、お席はこっちでーす」


美結ちゃんがが元気よく手を上げてアリエを案内する。


「小さいは余計よ、ってあんた店側の人?」


アリエは美結ちゃんが店員をしてることに驚く。


「ああ、この子今日だけの助っ人。お母さんと一緒に働いてもらってるんだよ」


俺は簡単に美結ちゃんの説明をした。


「佐藤美結です、よろしくお願いします!」


美結ちゃんが元気よく挨拶する。


「えっと、あたし星宝アリエ」


人見知りのアリエは控えめな自己紹介を返す。


「じゃあ、アリエおねーちゃんだね。アリエおねーちゃんて呼んでいい?」


「別にいいけど………」


「やった!ありがとうアリエおねーちゃん!」


美結ちゃんが両手でアリエの手を持って振った。


「ごめんなさいね、この子ちょっと人懐っこいところあって」


礼子さんがアリエに謝る。


「い、いえ、大丈夫です」


「アリエお姉ちゃん、なに飲む?」


「カフェモカ、あたしいつもそれ飲んでるの」


「はーい、葉月お兄ちゃん。アリエお姉ちゃんカフェモカだってー」


「りょーかい、もう淹れてますよー」


「そういえばなんで他のやつはいないのよ、いつもは絶対店にいるおばあさんもいないじゃない」


アリエが俺に聞いてくる。


「りんごが野球の練習試合に行ってるからすももさんと絹江さんも応援で行ってるんだよ」


「そういえばそんな話あったわね、あなた達は行かないの?」


「流石に俺達も抜けたら留守になるからな。こうやって、店番してるわけさ」


「真面目なことね」


「本当は俺とシャロンも行きたかったけど絹江さんに押されてなー」


俺はそっぽを向きながら言った。


「でも、店長がビデオに撮ってくれてるのでりんごの活躍は後からでもバッチリ見れます」


シャロンが拳を握り締めて言った。


「ふーん。で、そこの親子が手伝いに来たってわけ」


「そういう、こと」


「わざわざ店の手伝いまでやるってことはその親子って常連なの?」


「土日に昼飯とか夕飯食いに来るよ、お前とは来る時間違うから会わないんだよ」


「ふーん、常連でも会わないこととかあるのね」


「ま、お互い四六時中店にいるわけじゃないしな」



「すももちゃーん、遊びに来たわよー。あ、りんごちゃんの応援だったわね」


清さんが来店してすももさんがいないことに気づいた。


「あら、可愛い店員さん。どなた?」


美結ちゃんに声をかける。


「佐藤美結です!今日はすももお姉ちゃん達の代わりにお手伝いに来ました!」


「あらそう、偉い偉い」


「えへへ」


清さんが美結ちゃんの頭を撫でる。


清さんがカウンターに座るとアリエは避けるように席を変えた。


「連れない子ね」


それを見て清さんが残念そうに呟いた。




「ただいまー」


夕方になり、絹江さん達が帰ってきた。


「おかえりー」


「おかえりなさい」


「もーあたし疲れたし、何でもいいから飲み物くれないか」


「はい麦茶」


悲鳴を上げるりんごに麦茶を渡した。


「あれ、コーヒーじゃないのか?」


「こういうのは麦茶って相場が決まってんの」


「決まってんのかよ………。まあいいや」


ゴクゴク、喉が鳴るほど一気に麦茶を飲み干す。


「ぷはぁ!おかわり!」


「あいよ」


俺はコップに麦茶を継ぎ足す。


「ねえねえ、りんごってすごいんだよ!ホームランキャッチしたり代打で四回も出て満塁ホームラン打ったりしたんだよ!」


すももさんが楽しそうに練習試合の結果を話す。


「ホームランをキャッチするまでは分かりますけど………代打四回に満塁ホームランて、どこの漫画です?」


「うるさいよ。ほんとに代打四回やって、満塁ホームラン打ったの」


りんご本人も強調して言う。


「だとしても四回も代打といのは変ですね、そもそもリンゴは助っ人なわけですし」


シャロンが言う。


「まあ、そうだな………」


「欠員が出たから助っ人を呼んだ、というのは本当だけどそのチーム、本当はもっと弱いチームだったのかしら」


礼子さんが言う。


「かもな。どっちにしろ、もうあんなのは懲り懲りだ」


そう言うりんごの顔は本当に疲れてるようだった。



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