六話
「ねえ、聞いてくれるー?今日妹がねー」
お姉さんが話しかけてくる。
聞いてくれるかとは言ってるが俺の答えなど気にせず話しはじめた。
「構ってくれないのよー。いつもゲームばっかしてさあ、わたしが話しかけてもぜーんぶ無視、無視無視むーし、なんか腹立っちゃう。昔からあんなだけどお父さんとお母さんが死んでからもっと冷たいしやんなんちゃっうー」
なんだ、さっきは好きじゃないとか言っていたがやっぱり妹さんのこと好きじゃないか。いや、それよりも…………。
「両親、亡くなってるんですか?」
「うん、交通事故で」
「つい最近のことじゃがの、交通事故で死んでしもうた。すももの、この子の高校の卒業式には出れたんじゃが下の子の中学の卒業式には出れなくなっての。それもあって拗ねてるんじゃよ、いや、あれは殻に閉じこもってるというべきか」
お婆さんが言う。お姉さんの名前すももて言うんだ、果物系とか俺の妹と名前被ってるな。二人共卒業式があったってことは三歳差の姉妹か。
「あの調子じゃあ高校入っても友達が出来るかどうか…………」
お婆さんが物憂げに息を吐く。
さっきすももさんに客のため息をつくなと言っていたがこの人も相当疲れてるな。
「なんとかしてくれんかのう」
「俺ですか?」
「だってあんた、あの子と年も学校も同じなんじゃろ?」
店の客になんてこと言うんだこのばあさんは、まさか俺に殻に閉じこもってるという下の孫を立ち直させろと言うのか。いくら年と学校が同じでも気を許し過ぎだろう、まだ来店して二度目というのに。
「いや、でも…………」
「わたしからもお願い!妹を、りんごを元気づけてあげて!」
すももさんも手をパン!と合わせ頼んでくる。あんたもか。
妹さんの名前はりんごというようだ。姉妹揃って木の実の名前か。
「いや、あの…………俺、客ですよ?たった二回店に来ただけ俺が店の人の事情に立ち入るなんて…………」
俺は困惑気味に言う。
「冗談じゃよ冗談、そこまでわしも落ちぶれてはおらんよ」
お婆さんがほがらかに笑う。
まったく脅かさないでくれよ。
「え、冗談なの?!」
驚いたように言うすももさん。
こっちは本気だったのか。
「坊主はただの客じゃからの、そこまでやらすわけにはいかんて」
「ちぇー、りんごと同い年だから話しやすいと思ったんだけどなー」
お婆さんに言われて口を尖らせるすももさん、気持ちは分からんでもないが流石にこればかりはどうも出来ない。
「ごちそうさまでした」
会計を済ませ外に出る。ナポリタンの値段は約600円ほど、外食にしては安い。たまに昼食を食べに来るのもいいか。どちらにせよこの後自炊用の食材を買いに行った方がいいか。
★★★★★★★★★★
少年が店を出る直前物陰から彼を見つめる者がいた。
「ふーん、あれが姉貴の言ってたやつか。中々いい男じゃん」
すももの妹、りんごは風船ガムを膨らませながら呟くとすぐさま自室に戻った。
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