六十八話 カフェモカ飲むアリアとアリエ
アリアの話は一旦終わりです、三話までしか思いつかなかったんで章にはしてません
「ま、カフェモカでも飲んで落ち着けって」
俺は完成したカフェモカをアリエに出す。アリエは無言でカフェモカを口に含む。
「ギャハハハ!なによそれ!ダッサ、うちの妹ダッサ!」
お姉さんがアリエのクリームのついた口元を見て笑いだした。
「ちょっと、何がおかしいのよ」
アリエはなぜお姉さんが笑ってるのか分からない。
「ふ、見てれば分かるよ。あんたもカフェモカ、どうかの?ブレンド、あまり減ってないみたいじゃないかい」
絹江さんが怪しい笑みをお姉さんに向ける。
「じゃあ…………、貰おうかしら」
「ブレンド、貸しな」
絹江さんがお姉さんからブレンドを貰い、クリームを乗せる。
「飲んでみな」
「はあ………」
お姉さんがよく分からないがらもカフェモカとなったブレンドを口に含む。
「あ、飲みやすい」
お姉さんの表情が和んだ。だが俺達はそれどころじゃなかった。
「プッ、ククク…………」
口元にクリームのついたお姉さんが面白くて笑いそうになってしまったんだ。
「なによあれー、見てよー」
すももさんがニヤニヤしながら後ろからお姉さんを指さす。
「見てますよ、むしろ見たら毒になりますって、くくく………」
やばい少しでも緩んだら爆笑になりそうだ。
「綺麗な顔して口にクリームて、なんのギャグだよ………」
りんごに至ってはもう声になってない笑いだ。
「すいません、お客様に失礼なんですけどこれは、あは、あはは………」
シャロンも我慢の限界だ。
「キャハハハ!なによそれー、お姉ちゃんダッサー、のお姉ちゃんの顔ダッサー!」
アリエがお姉さんと同じ台詞で笑っていた。
『いやお前もだろ!』
『あなたもだよ(ですよ)!』
俺達は一斉に突っ込みを入れた。
「ふぉっふぉっふぉ。どうじゃ、面白いじゃろう?」
絹江さんが指でVサインを作って言った。
「あらあら、すももちゃんのお婆さんも意外とお茶目なのね」
清さんがクスリと笑って言う。
「じゃろじゃろ」
「分かってて飲ませたの!?なんて屈辱、なんて恥さらし!ぐぬぬ………… 」
お姉さんが拳を握りしめて悔しがる。ぐぬぬなんて言う人漫画やアニメ以外で初めて見たよ。
店の扉が開いて新たな客が来た。
「いらっしゃい、なんだお前か」
ジジババが来ると思って緊張したじゃないか。
「ちーっす、来たぜー」
現れたのは新井だ、今日は学校のある日だが学校から直で来たわけではないらしい。
「なんだとはなんだよ、せっかく同級生がバイト先に来てやったのにその態度は…………うわぁ!」
新井はカウンターの方に近づくと驚いて声を上げた。
「どういうことだよ!あ、ああああアリエちゃんが二人!?ドッペルゲンガーかよ!」
新井がアリエとお姉さんを交互に指さして言った。
「チッチッチッ、甘いぜ新井。確かに金髪で顔もよく似てる、間違えるのも無理はない。だが片方はルパンの変装だ、そんなことも見抜けないようじゃ刑事失格だぜ?」
俺は指を振って言う。
「なんだってー!?おのれルパーン、正体を表せー!」
新井がアリエのお姉さんに突っかかる。
「なに言ってんのよ!誰がルパンよ、人違いもいいとこよ!」
お姉さんが新井に抗議する。
「人違い?ごめんなさいごめんなさい!人違いと知らず失礼なことを」
新井が頭を何度も下げる。やべえ、おもしれえ。
「あんたもあんたよ、なに変な嘘ついてんのよ」
「面白そうだったんでつい………」
俺は舌を出した。
「客相手になんてことしてるのよ………」
「安心してお姉ちゃん、悪ふざけに利用されるってことはこの店の身内として認められたってことだから」
アリエがお姉さんの肩に手を置く。
「ちょっと気に入らないけど悪くはないわね」
かっこつけてるけど二人とも口にクリームついてるぞ。
「お姉さん?アリエちゃんお姉さんいたんだ」
新井が言う。
「星宝アリアよ、わたしの名前を聞けることを誇りに思いなさい」
お姉さんが名前を言う。この人アリアって言うのか、アリアにアリエね。ていうかいい加減クリーム取れよ。
「どうも、新井一希です!妹さんにはいつもお世話になってます!先ほどは!どうも失礼しました!」
新井が直立不動になってかっこつけてるけどこいつアリアさんに突っかかってるから第一印象は悪いままだぞ。
「中々礼儀のある挨拶じゃない、気に入ったわ」
気に入ったんだ。
「あなた達は?」
アリアさんが俺達に目を向ける。
「俺か?俺はカフェダムール唯一の男性スタッフ、君嶋葉月、あ、君嶋葉月でーございます」
俺は選挙の街頭演説のように芝居がかった声で言った。
「二回言わなくても分かるわよ」
「あ、はい」
冗談通じねえなこの人。
「で、あなたは?」
アリアさんがすももさんに顔を向ける。
「わたしこそがカフェダムールの可愛い看板娘にして店長の孫!間宮すももよ!間宮すももよ!」
すももさんがビシッと指をつきつけて言う。
「だから二回言わなくていいし、自分で可愛いとか言っちゃうとかうぬぼれてるんじゃない?」
今度はうぬぼれが追加された。すももさんはうぬぼれてるんじゃなくて残念なだけだ。
「あたしは間宮すももの妹でりんごだ。また会ったな、ルパァン」
「だからっ、わたしはルパンじゃないって言ってるでしょ!」
まさかりんごまでルパンごっこに乗るとは、ルパン様々だな。
「フランスから留学に来ました、シャロン・カリティーヌです」
するとシャロンはアリアさんの前まで進んで居合い切りの体勢になる。
「はっ!」
「ひゃっ!」
シャロンがエア居合い切りをしてアリアさんが驚いて声を上げる。
「またつまらぬものを斬ってしまった」
「あ、あなたは石川五右衛門なのね」
お前もかブルータス。
「あ、そうだ。ピザね?ピザ、あれおやつにピッタリだと思うんだよ」
新井が言う。ゴールデンウィークに試しに作ったあのピザ、商品化に当たり若干の調整を加えたがあれから店のメニューに加えたのだ。
「その意見には同意ね、あたしも葉月のピザ食べたいわ」
「わたしにも一つくれるかしら」
アリエと清さんが言う。
「なに、ここピザ売ってんの?」
アリアさんが言う。
「あんまり種類作るの面倒だから三種類しか作ってませんけど」
「なにがあるのかしら」
「トマト、チーズ、エビです」
「俺エビ!」
「あたしチーズ」
「わたしはトマトで」
「じゃあ、わたしチーズ」
「ちょっとお姉ちゃん、真似しないでよー」
アリエが文句を言う。
「別にわたしが何食べようとわたしの勝手でしょ?」
「やっぱあたしトマトにする」
「ならわたしもトマトで」
「お姉ちゃん!」
また注文を被せられてアリエが声を上げる。
「ちょっと気が変わって」
アリアさんの表情は妹を弄ぶかのようなそれだ。
「むー」
頬を膨らませてアリエが睨む。実はこの二人仲いいだろ。
「面倒だからミックスにして全部ぶっこむぞ、こっちで一人分に分けるから好きなの食え」
「お、そりゃ楽でいいや」
「お腹を無理に空かす必要ないわね」
俺は冷凍庫から作り置きしてあった生地を出して次に調理台の上に透明なビニールを敷く、そして生地をレンジに入れて数十秒解凍する。レンジから出してさっき敷いたビニールの上にドーン!と大きな音がするくらい叩きつける。
近くではりんごがトマトをミキサーに入れて粉砕している。
「うおっ、なんだ?」
「大きな音ね」
客席側が音に驚く。だがこうでもしないと生地が柔らかくならないんだ、かと言って一々注文を受けてから作るんじゃ遅いからな。予め作って冷凍保存した方が早い。
生地が柔らかくなったら木の棒で円状に伸ばす。この作業が一番めんどくさい、小さかったり四角に近ければ楽なんだがピザはデカい上に円にしなければならない。少しでもムラが出れば焼き加減にも影響が出る。
「よし、と」
形が出来てほっと一息。
「それじゃ、チーズいっきまーす」
その上にすももさんがチーズを投入していく。
「姉貴、あんまやり過ぎなんよ。むしろ三分の一に留めとけよ」
「はーい」
ノリノリなすももさんをりんごが諌める。
「じゃあトマト行くぞ」
りんごがトマトソースを生地の上にかけていく。
「エビ入りまーす」
残った部分にシャロンがエビを乗せる。
これをオーブンに入れてしばらく待機、ピピピピというタイマーの音で蓋を開けて中身を取り出す。いい焼け具合だ、焦げ過ぎず半生のところがなくちょうどよく焼けている。皿に移しナイフで切り分ける。
「あいよ、ピザ焼き上がりー。新井がトマトで」
「清ちゃんがチーズ」
俺とすももさんがトマトとチーズを渡す。
「お前ら二人は全部持ってけ」
「ドーンと持ってけです」
りんごとシャロンがアリエとアリアさんに三種類分のピザを渡す。
新井と清さんがピザを口に入れる。
「やっぱピザってうめえな」
「ピザが食べれる喫茶店てほんといいわね」
「それはなにより」
アリエはまずトマト味を口に入れアリアさんも同じものを取る。アリエが顔をしかめチーズ味を取るとアリアもチーズ味を取る。アリエはエビ味を取るがまた同じようにされると諦めてそのまま食べ進めることにした。傍から見てるとかじりかけが二つずつ残ってるという相当汚い状況だ。
「つうかさっきの音はなんだよ、うどんでも作ってたのか?」
新井が言う。
「作り置きの生地を冷凍して、解凍した後伸ばしやすくするために台に叩きつけてたんだよ」
「これ作りおきなのかよ?」
「作り置きしてんのは生地だけ、トッピングも焼くのもさっきやったんだよ。その方が早くやれるからな」
「ふーん、考えてんだな」
そしてピザを食べ終わるとアリエはカフェモカを一気に飲み干した。
「帰る、会計して」
ぶっきらぼうに言った。
「あ、わたしも!」
アリアさんも追うようにカフェモカを飲み干すと言った。
アリエ、アリアさんの順に会計を終えるとアリアさんが先に出たアリエを追いかける。
「ちょっと待ってよアリエー」
「はあ、姉妹ってのはなんでこう仲が悪いのかねぇ」
見ててため息が出てきた。
「なんでわたし達見ながら言うの?」
「すももさん達も姉妹だからじゃないですかね」
「一緒にすんな、とは言えねえか」
今回もお読みいただきありがとうございます。ブックマークと評価お願いします