六十七話 アリエはお姉さんと喧嘩する
前回の続きです、どうぞお楽しみください
星宝家。
「ちょっと、どういうことよ!あの店のコーヒー苦いんですけど、ちょっとおかしいんじゃない!?」
アリエの姉がアリエに抗議する。
「知らないわよ!どうせ苦すぎるからやめた方がいいって言ったブレンドでも飲んだんでしょ!」
アリエが言い返す。
「ぶ、ブレンド?なによそれ。そ、そんなもの飲んでないし言ってもないわよ!」
「動揺してるわよお姉ちゃん、やっぱりブレンド飲んで苦すぎるから砂糖入れろって文句言ったんでしょ」
「言ってないし!コーヒーとかちょっと苦いくらいで十分だし!」
「ごめんお姉ちゃん、うちのコーヒーに比べたらあそこのコーヒーちょっとじゃ済まないくらい苦いの。ブラックで飲もうだなんて馬鹿な真似しない方がいいわよ」
「飲んでない、流石にブラックは飲んでないわよ」
アリエの姉は首を振った。
「あ、飲んだのね」
アリエの冷めた目でアリエの姉は顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。
「あーん、なんでわたしアリエの挑発なんかに乗ってあそこのお店行っちゃうんだろう。馬鹿みたい、あたし、馬鹿みたい!恥ずかしい!」
アリエはこの姉早く自分の部屋から出ていかないかなーと思った。
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翌日、彼女は再び店に現れた。もう来ないかと思ったがまさかの来店である。
「いらっしゃい」
「ブレンドをくださる?」
「やめときな、昨日それ飲んで苦いって言ってたじゃないか。他のにしときな」
絹江さんが言う。
「安心なさい、今日は苦いって分かってるから平気よ」
「苦いもんは苦い、やめときな」
「いいからブレンド、寄越しなさい。出来るでしょ」
強引な言葉に絹江さんは眉を潜めると息を吐いた。
「葉月、淹れてあげな」
「分かりました」
俺はコーヒーを淹れる準備をする。
「そういえば昨日妹来なかった?あたしみたいな金髪で洒落た学生服着てた子なんだけど」
「着てたよ、あんたがうるさいとか一々馬鹿にしてくる嫌なやつとか色々言ってね」
アリエのお姉さんに絹江さんが答える。
「なによあの子、わたしのことコーヒー屋さんにベラベラ喋っちゃうなんてさ、あんまりじゃない。いいもん、あたしだってあの子の恥ずかしいとこ喋ってやるし」
「いえ、お断りです」
俺は感初入れず答えた。
「即答とか酷くない?喫茶店なんだから客の愚痴ぐらい聞きたいなさいよー」
「それはバーです、あとあなたの場合愚痴というよりただの悪口です」
「なによ、店員のくせに生意気ね」
「むしろ最近の店は客の要求を聞きすぎだと思います」
「言うじゃない、あなたみたいなプライドある人好きよ」
「顔がいいだけの人に褒められてもあんまり嬉しくないっすね」
「その言い方は酷いわね!もう少しオブラートに包んだ言い方とかないの?!」
「せめてわがままを少し直してくれれば考えたんですが」
「考えとく」
考えるんだ。
「ていうか妹の愚痴聞いたのにあたしのは駄目って変じゃない?贔屓よ贔屓」
「贔屓も何もどうせアリエと同じような内容でしょ、聞く前から内容なんて分かってます」
「そうじゃないの、こういうのは知ってるからいいじゃなくて聞いて欲しいもんなの!」
「喫茶店はあなたの旦那でも彼氏でもありません」
「いいから聞きなさいよ!」
やだこの人めんどくさい。周りを見るとすももさん達も眉を潜めている。あの清さんもあの子ちょっと困った子ねという感じでアリエのお姉さんを見ている。
「昨日ね、あんたんとこのコーヒーが苦くて飲めないってあの子に言ったのよ」
「言ったんすか」
この姉妹あまり話さないんじゃなかったのか。
「あたしね、ブレンドなんて飲んでないって言ったのにあの子飲んだって言ったのよ。もー腹立つ、苦いの飲んで失敗したなんて思われたくないから否定するのにカマかけるんだもん、もう意味分かんない!」
「意味分かんないのはこっちです。飲んだものを飲んでないと言う方がおかしいです、素直に認めてください。はい、ブレンドです」
「そういう問題じゃないのよ、敢えて聞かないのが花なの」
コーヒーを口に含み顔をしかめるけどまた口に入れる。苦いのが嫌ならやめとけばいいのに、しかもブラックで。
「おうおう、頑張るねえ」
彼女を見て絹江さんが関心する。
「ねえあの人大丈夫?うちのコーヒーブラックで飲んでるよ?」
「いやー、普通無理だろー」
すももさんとりんごが首を傾げる。
「可愛いーじゃないですか!苦いのが苦手にも関わらず敢えて濃い苦味のブレンドをブラックで、健気な感じがたまらなくかわゆいです!」
シャロンが目をキラキラさせて言う。
「うーん、でもわたしの可愛いとはなんか違うわね」
清さんは首を傾げる方だ。
店のドアが開いてアリエが入ってきた。お姉さんを見つめると目は丸くしお姉さんに近づいてしゃがれた声で言ってきた。
「見つけたぞルパーン、逮捕してくれる!」
「え、わたし?」
わけが分からない、というお姉さんの顔。だろうな、いきなりお前はルパンだから逮捕してやると言われても反応出来るわけない。というか彼女はルパンじゃない。
「なんだよ、お前お姉さんのこと嫌いじゃなかったのか?」
「昨日の続きよ、大したことないわ。で、なんでお姉ちゃんがいんのよ、ここのコーヒー苦くて嫌なんじゃないの?しかもこれブラックじゃない、よくこんなの飲めたわね」
アリエがお姉さんに言う。
「確かに苦いわ。けど、これで逃げたらわたしの高いたかーいプライドに傷がついちゃうじゃない。敢えて、苦いコーヒーを飲んでるのよ」
ドヤアッという効果音が後ろに付きそうな顔で言うアリエのお姉さん。
「こいつ馬鹿だ」
「馬鹿だね」
「馬鹿だな」
俺はすももさんやりんごと異口同音に言った。
「とてもユニークな方ですね」
シャロンがオブラートに包むくらいだ。
「かわ………いくないわね」
清さんは守備範囲外だとはっきり言っていた。
「お姉ちゃん、ダッサ」
最後に妹の辛辣な一言が刺さった。
「うげっ」
アリエからの攻撃を受けお姉さんが固まる。
「あたし、ダサいってさ。お姉ちゃんダサいってさ、はは、ははは………」
そして力なく笑った。
「お前の姉ちゃん、案外もろいな」
俺はアリエに言った。
「いいからカフェモカくれる?」
「冷たいな!お前の姉ちゃんだぞ!?それでいいのかよ」
「いいわよ別に、嫌いだし」
「ほんと冷てえなおい。なんでりんごといいお前といい姉に冷てえんだよ」
俺は泣きながらコーヒーの準備を始めた。
「なんであんたが泣いてんのよ」
「一応俺も上の兄弟だからな」
「そういえばあいつ、どうしてるかしら」
あいつとは恐らく俺の妹のみかんのことだ。
「あいつならこの間文化祭で会ったろうが」
父さんと来て終了時刻になる前に帰ったけどな。
「でも兄妹とか言われるとなんか気になっちゃうじゃない?」
「まあな」
「なに、あんた弟がいんの?」
アリエのお姉さんが復活した。
「弟じゃなくて、妹な」
「その子、可愛い?」
「あんたには見せませんよ」
俺は嫌悪感を露わにして言った。
「ケチんぼね」
「つい昨日会ったばかりの人に妹の写真なんて見せる方がおかしいですよ」
「で、その子可愛い?」
「そりゃあ、あたしの自慢の親友だからね。可愛いに決まってるじゃない」
そう言ったのはアリエだ。
「なんでお前が偉そうにしてんだよ、俺の妹だぞ」
「いいじゃない、あたしの親友なんだし」
「あんたって親友とかいたんだ」
ピキっ、何気ないお姉さんの一言がアリエの堪忍袋の緒を切った。
「そんなこと考えるのはその頭かー!ああ?!」
アリエがお姉さんの頭に拳を擦りつけた。
「痛い痛い痛い!痛いって!悪かったから許してー」
涙を零しながらお姉さんが叫ぶ。
「ふん」
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