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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
九章 坂原北高校文化祭
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六十六話 アリエのお姉さん

今回から新キャラの登場です




文化祭の終わった五月中旬を過ぎたころ、その人は突然にやってきた、あまり見ない人だから常連ではないといのは分かる。だがそれだけではなかった。彼女は金色の髪をなびかせ、フリルの長い白いワンピースにカーキ色の丈の短い金属製のボタンのジャケットを纏っていた。


ジャケットとワンピースの組み合わせを見ればお嬢様には見えない。だが、その青い輝く瞳と白い肌と優雅な雰囲気を見ればどこか外国から令嬢に見えなくもない。


「そこのお兄さん、ブレンドを一つくれるかしら?」


「あ、はい」


って日本語かよ!しかも大分流暢だし声も綺麗だなー、胸も………おっといかんいかん、コーヒー入れないと。


コーヒーを淹れながら彼女を見る。よく見ると誰かに似てなくもない、だがその誰かがピンと来ない。いったい誰似だ、誰に似てるんだ。


「ねえ、葉月くん。あの子ちょっと可愛いと思わない?なんか気品があっていいかも」


清さんが小声で話しかけてきた。


「気品なら清さんもありますよ」


「あら、ありがと」


「ねえねえ、あの人ってすっごい綺麗だけど外国の人かな」


すももさんが言う。


「普通に日本語で注文してましたけど?カタコトじゃなくて」


「わたしみたいに日本慣れした人かもしれません、侮れませんよ」


シャロンが言う。


「それ言っちゃあ、なんとも言えないな」


俺は口をすぼめる。


「つうかあの人、どっかで見たことないか?」


りんごが言う。


「ない、ないけど誰かと似てるんだよ。誰かは分かんないけど」


「いい匂いね、流石はプロってとこかしら」


金髪の女性が言った。コーヒーを淹れてると上の方からコーヒーの匂いが微かに煙と共に出るのだ。当然近くにいるとそれを感じることが出来る。


「ありがとうございます、バイトですけどね」


「バイトでも腕がいいのはいいこよ」


「はは、そうですか」


知り合いならともかくこんな美人に褒められるなんて照れるな。


「良かったじゃん葉月くーん、流石プロだってさー」


すももさんが肘で俺をつつきながら言う。


「やめてくださいすももさーん、今大事な時なんですからー」


今体勢を崩したらヤカンやらコーヒーやコーヒーを淹れる機材が零れそうだ。


「やったな」


「同僚として嬉しい限りです!」


「ま、修行の成果かな」


頬が熱くなるのを感じる、やっば知り合いでも褒められるのは嬉しいものだ。


「どうぞ、ブレンドは苦いので砂糖とミルクを入れるのをお勧めします」


淹れ終わったコーヒーを女性に出す。


「ありがとう」


女性はコーヒーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。


「いただきます」


優雅な手つきでコーヒーを口に含む女性、そこで顔をしかめた。まさか、何かマズイことでもあったか………。俺は不安になった。


「なによこのコーヒー、苦いじゃない!苦くて飲めないわよー」


「すいません、こういうブレンドなもので」


「ふざけないでよ、苦いなら砂糖もっと入れなさいよ!」


「すいません、今やります」


俺は女性のブレンドを取ると砂糖を大量に入れてかき混ぜてから渡した。


「ど、どうぞ」


再び口に含まれるコーヒー。


「ふん、これなら悪くないわね。あいつが言った話は本当だったのね、油断したわ」


あいつって誰だろ。しかしこの不遜な感じ、どこかで…………。顔といい苦味嫌いといい不遜な性格、妙に引っかかる。


「嫌な感じねー」


「顔はいいんですけどね」


「そういえば、アリエも苦いの苦手でしたね」


「アリエねえ、まさかな…………」


いや、まさか…………。


やがて女性がコーヒーを飲み終える。すると財布からタンと音がする勢いでお札を置いた。


「釣りはいらないわ、せいぜいありがたく受け取りなさい」


店を出てく女性。


お札を確認する。


「1万円!?」


「まさか漫画にあるあれを地でやるやつがいるとは………」


「太っ腹ー」



それからすぐ後、バタン!と勢いよく店の扉が開いてアリエがやってきた。


「今あたしが来なかったかしら?」


「いや、来てないよ。てか今来たばっかだろ」


「ばっかもーん!そいつがルパンだ!ルパンを捕まえろ!」


「ルパンなんていねーよ!なに銭形ごっこしてんだよ、急にどうした」


普段のアリエならこんな茶番劇などやらないはずだが。


「正確には、あたしの姉が来なかったかしら?白いワンピースにカーキ色のジャケット着た金髪の女なんだけど」


アリエが息を整えて言った。


「お前かよ!お前の姉だったのかよ!」


「道理で偉そうにしてると思った」


「甘党なところとか色々似てますね」


俺達の中に引っかかっていたものがようやく腑に落ちた。


「来たのね。で、お姉ちゃん何か言ってなかった?」


「ああ、ブレンド飲んで苦すぎるとかあいつが言ったことは本当だったのかとか言ってたわ。お前から店の味聞いてたのに苦すぎるとかよく言うぜ」


俺は苦虫を噛み潰したように言った。


「ブレンドだけはやめときなさいって言ったのになんで飲んじゃうのよお姉ちゃん……………、ごめんほんとうちの姉がごめん………」


アリエが肩と頭を落として言った。


「大丈夫だよ、基本怒られたの葉月くんだけだから。あたし達被害皆無だし」


すももさんが悪びれもなく言う。


「あんた、あたしの好きなやつのこと分かってる?」


「?だれだっけ」


アリエの睨みに惚けるすももさん。


「すまない、うちの姉が残念で」


今度はりんごがアリエに謝った。


「いいわよ、いつものことだし。カフェモカちょうだい」


「あいよ」


カフェモカを淹れる準備をしながらアリエに聞く。


「お前さ、姉とかいたんだ」


「う、うん」


「姉ちゃんに学校とかここでのことととか話すのか?」


「たまに、ううん、滅多に話さないわ。お姉ちゃんとかいつも偉そうにしてるし、あたしのこと馬鹿にしてて好きじゃないし」


偉そうなのはお前もだろうとは思ったが敢えて言わなかった。本題はそこじゃない。


「馬鹿にするってなんだよ、例えば?」


「どうせあんたは頭悪いから勉強が出来ないとかブスだから男にモテないとか言ってくんのよ、ほんとムカつく」


俺はヤカンをダン!とヤカン置き場に置いて声を荒らげた。


「それはねえ、それはねえよ!お前は美人だ、可愛い!それはこの店にいる全員が認めてやる!」


「う、うん、ありがとう」


「えー、あたしほどじゃないと思うけどね」


「姉貴は黙ってろ」


「はい、アリエは可愛いです。わたしもそう思います」


「いや、わざわざ手握らなくてもいいから。でも、ありがとう」


「可愛いそうにアリエちゃん、あたしが慰めてあげようかしら?」


清さんがまとわりつくように言う。


「いや、それはいい、断じていらない、いらないから!」


アリエはそれを念入りに断った。


「で、なんでその嫌いな姉ちゃんと店のこと話したんだ?」


「あんたのことだからどうせコーヒーの味も分からない鈍感娘なんでしょうね、って言ってきたのよ。で、ムカついたからこの店を紹介したってわけ」


「そんな理由でうちの店紹介するなよ………」


「でもいいじゃない、店の客が一人増えたんだし」


「どうせ明日には来ねえよ、あんな甘党」


「あいよ、カフェモカどうぞ」


「いただきます」


美味しそうにクリームを口につけるアリエ、こういうのを見てると少しはさっき来たこいつの姉に対する苛立ちも和らぐというものだ。


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