六十五話
それから俺達はすももさんとりんごが戻る間に外の模擬店を見て回っていた。
アリエが綿菓子とチョコバナナを忙しそうに変わる変わるかじっている。その様は小動物が食べ物を頑張って食べてるようで微笑ましかった。
「なによ?」
あまりに見つめてたせいでアリエが不満そうに言ってくる。
「いや、美味そうに食ってるなって」
「なに?食べたいの?」
「別にそんなんじゃ………、むぐ」
俺が否定するより早く俺の口にチョコバナナが突っ込まれる。口に入ったものは仕方ない、俺はその部分をかじった。
同時に周囲からキャーとかおーという歓声が湧いた。
モグモグ。うん、チョコの強い甘みとバナナの控え目な甘みが混ざっていい感じだ。ゴクン、口の中のチョコバナナを食べ終える。
「って、別に食いたかったわけじゃねえよ!」
「え、違うの?なによ、あたしのあげ損じゃなーい」
「悪かったよ。でも、美味かったよ」
「うん………」
「ねえ二人とも、さっきのもしかして関節キスじゃないかしら?」
『え………えーーーーーーーー!?』
清さんに言われて気づいて俺とアリエは声を上げた。
「う、羨ましいぞ君嶋ぁ!金髪女子中学生からの関節キスだなんて、俺なんて一度も貰ったことないのにぃ…………」
田中が拳をギリギリ握り締めて悔しがる。ほんとすまん、俺にそんなつもりはなかったがすまん。
「て、なんでお前まで驚いてんだよ。お前がやらしたんだろ!」
俺はアリエに詰め寄った。
「べ、別にそんなことないし!ね、狙い通りよ!そう、関節キスになるようわざとあたしの食べたやつを葉月に入れたのよ!」
アリエが言う。嘘だな、どう見てもテンパってるしこいつにそんなことが出来るとは思えない。
「いけませんお嬢様、お付き合いもしてない男女がそのようなこと、はしたないですよ!」
彩原さんがお目つけ役らしく注意する。
「あ、やっぱり………」
彩原さんに怒られアリエはやっぱり嘘、と言おうとしたのだろう。だがそれを山崎が遮った。
「うんうん、もしかしてアリエちゃん、君嶋くんのこと好きなのな?」
山崎に聞かれ、アリエは顔を真っ赤にしてしまう。
「あ、う…………………」
その様はまるで真っ赤に茹で上がったタコのような姿だった。さしずめ、某虹野さんのあだ名からとって茹でたこと呼ぼうか。
「そんなん知るかー!」
「お嬢様!」
そのまま走りだすアリエと追いかける彩原さん。お前はすももさんか!
「たく、いいよなぁ君嶋は、女の子にモテてさ。こうなったら俺はシャロンちゃんのやつ食ってるやるし」
そう言うと新井はシャロンの持っている綿菓子をかじった。
「あ、アライ?!」
シャロンが突然のことで戸惑う。
「新井、キモッ、つうか最悪………」
飯山がドン引きする。
「ていうかぁ、セクハラじゃなぁい?」
山崎が言う。
「せめて了承取れよ」
「いいじゃんこれくらいさぁ、冗談だよ冗談」
ちっとも悪びれない新井。
「あらまあ、こういうのって、下手したら裁判沙汰って聞いたけどそんな態度でいいのかしら?シャロンちゃんに訴えられるかもしれないわよ?」
清さんが悪魔のような笑みを浮かべて言う。恐いよこの人、恐いって!新井なんか余裕で捕食しそうな顔だ。
「ひいー!ごめんなさいごめんなさいシャロンちゃんごめんなさい!悪気はなかったんです、どうか、どうか許してー!」
新井は悲鳴を上げてシャロンに頭を下げる。謝り方も必死だ。
「あの、わたしそんなに怒ってないのでそんなに謝らないでください」
新井の平謝りにシャロンも戸惑ってしまう。
「ほんとに?!」
顔を上げる新井。
「はい、だからそんなに畏まらないでください」
「ありがとうシャロンちゃん!ありがとう!」
大袈裟に涙を流す新井。いや、清さんに睨まれたことに比べれば大したことないか。
「お待たせー!」
「悪い、時間かかった」
すももさんとりんごが走って戻ってきた。
「なに話してたの?」
「アリエちゃんと葉月くんが関節キスしたって話よ」
すももさんの問いに清さんが答える。
「その話はもう終わったでしょー!?」
俺は思わず声を上げた。よりによってなんでそっちー?意味わかんないし!
「か、関節キスー!?」
すももさんが衝撃に声を上げる。
「わたしというものがいながら他の女の子と関節キスだなんて…………もう出てってやるー!」
怒って走りだすすももさん。
「なんだしあれ………」
飯山が変なものを見る目ですももさんを見る。
「いつものことだしすぐ戻るから気にすんな」
「いつも………」
苦笑いする飯山。
「キャー!怒ってるすももちゃんも可愛いー!」
清さんがはしゃぐ。ほんとどういう趣味だあんた。
「わたしというものが?もしかして君嶋くん二股?」
山崎が疑いの目で俺を見る。
「ちげえよ!あの人とは付き合ってもなんともねえ!りんごの姉さんでよくしてもらってるだけでなんともねえし!」
俺は声を荒らげて否定した。
「お前、前に姉貴に付き合ってくれって言ってなかったか?」
りんごが言う。
「でもあれ断られたぞ」
「ふっ、ふふふ、あはははは!」
飯山が突然笑いだした。
「な、なんだよ、なにがおかしいんだよ」
「だってあんた、学校にいる時と違って全然楽しそうじゃん。学校じゃあんな暗い顔してんのに今日はこんなにはしゃいじゃってさぁ」
何言ってんだこいつ。
「いや、はしゃいでねえし」
「はしゃいでるし。なんか羨ましいんだけど」
「はあ?」
こいつ、さっきから何言ってんのかさっぱりだ。
「もしかして嫉妬かしら?葉月くんが普段見せない顔をわたし達に見せてるから嫉妬しちゃってた?」
清さんが言う。
「上手く言えないけど、そんな感じ」
「分かるー、なんかイケメンの意外な一面を見たんだけどあたしには絶対見せてくれないって感じだよね?」
山崎が目を輝かせて言う。
「うん」
「誰がイケメンだっつうの。俺はクラス一目立たない普通の、少なくとも普段は普通の男子高校生だぞ?!」
俺は二人に抗議した。
「おいおい、それ本気で言ってるのか?」
田中が馬鹿にするような顔で言ってきた。
「なんだよ、何か変か?」
「お前は知らないと思うがお前は学校じゃトップクラスのイケメンだと噂なんだぜ?女子みたいな顔をしながらも普段見せるクールな表情は遠回きに見る女子の熱い視線の的になってるて聞いたぜ」
「マジか」
俺ってイケメンだったのかー、しかも非モテじゃなくてモテる方。高校生活二ヶ月目にして衝撃の事実だな。
「マジだ、気づいてなかったのかよ」
「今初めて知ったわ、中学の時は女顔のせいで散々男からもいじられたからな」
「それは大変だった。だが今は………」
田中が俺の肩に手を置く。
「モテる側だ」
そう言って親指を立てる。
「お、おう………」
そう言われて少し嬉しくなった。
「ていうか俺がモテるて分かってて嫉妬したりしないのかよ」
「まさか?俺は下衆なことはしない。ただモテるお前のおこぼれを貰うだけだ」
爽やかに言ってのける田中。最悪だ、こいつ最悪だー!
「でも田中に告白されても断る自信あるなー、なんかすぐ胸とか触ってきそうだし」
山崎が言う。
「いや、俺はそんなことしないって!紳士的に、あくまで紳士的にだな………」
田中が言い訳のように言う。
「分かるぜ、紳士的におっぱいの触るんだな」
今度は新井が田中の肩に手を置いた。
「ちげえよ!そんなキモいことしねえよ俺は!」
否定する田中。
「誤解されんのが嫌ならまずそのキモい顔をどうにかしようか」
俺も田中の肩に手を置いて言った。
「いいじゃんか女の子が可愛いんだからさー、そんなこと言うなよー!」
叫ぶ田中、我欲に忠実過ぎるだろこいつ。
楽しい文化祭も終わり、片付けの時間が来た。その間も清さんや彩原さん、アリエが作業を手伝ってくれた。
「清さん、彩原さん、アリエ、今日はありがとうございました!」
片付けが終わり、俺は三人に頭を下げた。
「わたしからも、ありがとうございます」
「あたしも助かった」
シャロンとりんごも頭を下げる。二人だけじゃない、他のクラスメイトや仁藤先生も次々と頭を下げていく。
「そんな、いいわよわざわざみんなで言わなくても。葉月くんやみんなが楽しんでくれたならそれで十分よ」
「あたしも、ちょっと葉月に手貸そうかと思ったらここまでお礼言われるなんて思わなかったし」
清さんとアリエが言う。
「そうだ、せっかくだからみんなで記念写真撮らない?」
仁藤先生が言う。
「いいねー、やろうよ!」
「ああ、やろうやろう!」
クラスメイト達が仁藤先生に賛同する。
「あたしそういうの苦手なんだけど」
「そんなこと言わずにほーら」
クラスの輪から距離を置いていた飯山が山崎に連行される。
「あたしも何か苦手かも」
アリエが言う。
「大丈夫だって、俺が一緒にいてやるから」
俺はアリエの背中を押した。
「ちょっとやめなさいよ、子供じゃないんだから」
「恥ずかしいなら最初から自分で歩くんだな」
「むー」
頬を膨らますアリエ。
「やっぱお前ら仲いいな」
それを見てりんごが言った。
「別に普通だろ?」
「そうよ、別に変な仲じゃないわよ」
「どうだか」
肩をすくませるりんご。なんだよもう。
仁藤先生が足を付けたデジカメのタイマーを押してこっちに来る。
「きゃっ!」
『ええっ!?』
俺達は声を上げた。仁藤先生は何の突起物のない床でこけたんだ。そしてなるシャッター音。ああ、なんてことだ、前の方が仁藤先生で埋まって俺達生徒が画面に映らないじゃないか。これではやり直しだな、やれやれ。
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