六十三話
というわけで文化祭が始まった。
「来ないわね、文化祭だってのに人が来ないなんておかしいじゃない」
アリエが不満そうに言う。
「いや、まだ文化祭始まったばっかだから来るわけ………」
内の制服だが廊下に生徒達が歩くのが見えた。
「来たか!」
俺が叫ぶよりも早くアリエが動いた。
「よく来たわね、愚民共。この和装メイドが快く歓迎するわ」
ふんぞり返って生徒を歓迎するアリエ。そういやスターで初めてこいつの接客受けた時もこんなんだったな。
「キャー、可愛いー!」
「こんな子うちの学校にいたんだー!」
女子生徒がアリエに歓声を送る。すまないがあいつはここの生徒じゃないんだ。
「席はこっちよ」
アリエが手馴れた様子で女子生徒を席に案内する。流石は家の手伝いをしてることはあるな。
「メニューはこれよ」
アリエが画用紙で作ったメニューを渡す。制作は字を書いたのが俺でメニューに添える絵は山崎がやった。もちろんそれは一枚だけで他のクラスメイトとも手分けして複数書いた。シャロンが絵を描いても良かったがあいつがやると細すぎるので途中で遠慮してもらった。
「すいませーん」
客の一人がアリエを呼ぶ。
「コーヒー二つと、オムライス、ナポリタンください」
「彩原さん、俺オムライスやるんでナポリタンお願いできます?」
「承知しました」
その声が聞こえると同時に俺は彩原さんに指示をだす。彩原さんはアリエのお目付け役だけあって料理も出来るらしく担当してもらった。
コンロに火を入れフライパンと鍋を置く。コンロと言っても即席のカセットコンロだ。鍋に入れる水は一々水道に行く手間を省くためペットボトルの水を使用。オムライス用の白米も出来合いのものを使用する。
「一番テーブルにコーヒー二つとオムライス、あとナポリタンの注文来たわよ」
アリエが戻ってくる。
「おう。オムライスとナポリタンは今やってるからアリエはコーヒー頼むわ」
「え、あたし?コーヒー?」
「え、なんでそこで驚くの?コーヒーて電磁調理器でお湯沸かして豆挽いてフィルターに入れた後お湯入れるだけだぞ?」
「君嶋様、お嬢様は接客が主で調理の仕事はあまりしないのです」
彩原さんが説明する。
「マジすか………」
どうしよう、一応練習はしてもらったから他のクラスメイトにもコーヒーを淹れることは出来るが…………。
「ごめん、待たせた!」
「すいません着替えに時間かかってしまって」
りんご達が着替えを終えて戻ってくる。
「ビンゴ!プロに任せるよ」
俺は着物にエプロン姿のりんごに言った。
「プロってなんだよ、意味分かんないんだけど」
ポカンとするりんご。
「コーヒーの注文が入ったんだけどあたしじゃ淹れらんないから喫茶店で働いてるあんたがやれって言ってるのよ。分かったらさっさとやりなさい、二人分よ」
アリエが代わりに説明する。
「分かったけどなんでお前が偉そうにしてんだよ………」
苦笑いしながらりんごがヤカンに水を入れていく。
「わたし、豆とかフィルターとか用意しますね」
シャロンもコーヒーを淹れる準備をする。
「じゃあ俺は………」
新井が困ったように口を開く。
「お前はサーバーとドリッパー持ってこい」
「了解!」
りんごの指示に動き出す新井。
それから俺達は忙しくなり息をつく暇もなくなった。俺、彩原さん、アリエ、りんごにシャロン、新井と田中、山崎と飯山が接客班と調理班に別れてるがどちらもフル稼働だ。あとのクラスメイトは自由に学校を回っている。下手に人数いても邪魔だけだからな、今はこれだけで十分だ。
え、先生?先生は…………
「これだけいればうちのクラスも安泰よねぇ。わたし外で何かないか見張ってくるから彩原さんわたしの代わりにクラスを見てくれないかしら?」
「承知しました」
そのやり取りの後教室を出ていってしまったのだ。
清さんにいたっては
「うーん、文化祭で飲むコーヒーも悪くないわねぇ」
とか言いながらくつろいでる。まあ交代の時間までまだあるしまた着替え手伝ってもらうからどこか行かれるより断然マシかな。
「ふう、だいぶ客も減ってきたな」
俺は疲れからか息を吐いた。
「ま、文化祭始まってから働き通しだからな」
りんごが言う。
文化祭が始まってばかりは客がたくさん来たがしばらく経つと数も減ってきた様子だ。
「これで少し楽になれますね」
シャロンが言う。
「にしてもお前らも中々その衣装似合ってるな」
さっきまで忙しさでまともに見る暇がなかったがりんごとシャロンの姿をようやく見れた。りんごは薄いピンクの着物を、シャロンは水色の着物をそれぞれ纏っていた。
「なんだよ、褒めても何もでねえぞ」
顔を赤くして照れ隠しのように言うりんご。
「あ、ありがとうございます。そう言ってくれると嬉しいです」
シャロンは素直に頷いた。
「マジか、じゃあ俺も頑張っちゃおうかなー」
新井が握り拳を作って言う。新井も一応着物だ。色は濃い赤、よくこんなのあったなていうくらい着物にしては珍しい派手な色だ。
「お前じゃねえよ、お前なんて全然その格好似合ってねえよ」
新井の着物にメイドエプロンを付けた姿はやはりと言うべきか、田中同様似合うものではなかった。
「ちょ、ひどくない?俺だって田中クンに手伝ってもらって頑張って着たんだからさぁ」
不満を言う新井。
「はいはい、よく頑張ったな。だがそれと似合う似合わないは別問題だ」
「ちぇー」
昼食時になると込むのでその前に他のクラスメイトに店番を交代してもらった。これで着替えの手伝い以外はしばらく暇になりそうだ。
そして俺は一緒に店を運営してたメンバーと学校の外を歩いている。メインは屋内だが外にも模擬店はある、外にあるのは部活や委員会の運営する模擬店だ。
「あーあ、せっかくだから着物で文化祭回りたかったなー」
山崎が言う。
「仕方ないだろ、流石に清さんもそこまでの数の着物持ってこれないんだから」
「うーん、頑張れば持ってこれないこともないかな」
清さんが言う。
「マジすか」
「でも大変だからお家を出るところから誰かに手伝ってもらわないと無理ね」
「ですよねー」
「じゃあ誰かが清さんのお家まで行けば大丈夫かな」
「俺は行かないぞー」
「あたしもだ、ていうか清さんの家知らねえし」
りんごが言う。
「でも間宮の家は清さん、が知ってるから迎えに来れば済む話じゃないの?」
なぜか清さんの名前を言う時だけ赤くなる飯山。アリエを迎えに行ってる間どんなやり取りがあったのだろうか。
「それだとあたしが手伝う羽目になってやなんだけど」
りんごが言う。
「なら君嶋やシャロンも手伝うてことで」
「俺達も巻き添えかよ、家近いから出来なくはないけどさ」
「みなさんと着物で出歩けるなら、わたし手伝ってみたいです」
シャロンが言う。
「あらシャロンちゃん可愛いー!撫でていい?ねえ、撫でていい?」
とか言いながら既に清さんがシャロンを抱きしめて撫でている。教室で仁藤先生もアリエを撫でていたが清さんが愛で方は強めだ。
「ふわぁ………」
シャロンが清さんの腕でメロメロになっている。清さんの愛で方は強いだけでなく愛もあり、優しさもあるためこのように対象を腑抜けさせてしまうのだ。
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