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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
九章 坂原北高校文化祭
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六十一話




清さんの来客の受付を済ませ更衣室に向かっているとスマホが鳴った。確認するとアリエからだった。


「はい、もしもし?」


『ねえ、駐車場に来たんだけどあんたの教室どこ?』


「あ、わりぃ。今迎えに行く」


『はあ?別にそんなことしなくても………』


「気にすんな、近いから俺が行く」


正直に言うとアリエのようなか弱い少女を一人で高校の校舎に入れるわけにいかないからな。


俺は通話を切ると言った。


「飯山、清さんのこと頼むわ。山崎は田中のこと見張っとけ、清さんなら大丈夫だけど一応な」


「ちょ、君嶋?!」


「君嶋くん?!」


「俺はそんなことしないって!」


あっけに取られる二人と俺の言葉を否定する田中をよそに俺は走り出した。


「葉月くーん、廊下は走っちゃ駄目よー」


ずこっ、清さんの言葉で思わずずっこけそうになった。まさかここでそう来るとは。


「ぜ、善処しまーす」


さて、なぜアリエも清さんも自分の学校ではなく俺の学校に来れるのか。別に早朝だからというわけではない。今日は日曜だ、学校など元よりない。


最近では土曜に授業がある学校も増えてその学校の生徒達が来れるようにするためとか。どれくらい別の学校の生徒が来るかは分からないが中学校や小学校時代の友人を訪ねて来るのは間違いないだろう。


中には男、もしくは女を漁りにくる難破者、もいたりして、ハハハ。そんな変態内のクラスじゃ新井と田中くらいか、一クラスに二人もいるとなると他所の学校から来るやつらもそれなりにいそうだな。



駐車場に戻ってきた。


「ちょっと、わざわざ迎えに来るとか余計なお世話なんだけどー。あたしそこまで子供じゃないし」


アリエが俺を見つけるなり文句を言ってきた。


「わりぃ、慣れない高校で不安かと思って………」


俺は首の後ろをさすりながら謝った。


「お嬢様、ここは彼の好意に甘えましょう」


アリエの隣にいるメイド服の女の人が言った。アリエの家が経営してるスターの人と違って商売人ではなく本物の風格がある。


「ん、もしかしてあなた…………」


よく見るとこの人スターで見たことあるぞ。いつだっけ、えっと……………。


「はい、先日は当店をご利用いただきありがとうございます。わたくし、彩原薫と申します。アリエ様のお目付け役兼ボディーガードをしております」


彩原さんが自己紹介する。やっぱお金持ちてメイドさんとかちゃんといるのか、しかもボディーガードとお目付け役の。あ、俺も自己紹介しないと。


「あ、俺君嶋葉月って言います。娘さん、じゃないお嬢様にはお世話になってます」


「こちらこそお嬢様がいつもお世話になっております。失礼なこともありますが、今後とも、よろしくお願いいたします」


彩原さんが頭を下げる。


「ちょっと薫ー、恥ずかしいからやめなさいよー」


アリエが顔を赤くして言う。


「しかし、こういうのは初めが肝心と言いますか、君嶋様にはお嬢様もお世話になってると聞きますのでしっかりしないと」


様を付けられた、自分の名前に様を付けられるなんて初めてだから緊張するな。


「いや、そうだけど………」


「君嶋様。こちら、お嬢様がいつもお世話になってるお礼です、クラスの皆さんと召し上がってください」


「ど、どうも。わざわざすいません」


彩原さんが紙袋を受け取る。


「やっぱり、なんかコソコソ出掛けてると思ったら………」


アリエが呆れた顔で彩原さんを見る。余計なお世話だと言いたいらしい。


「あ、お目付け役と言ってましけどもしかしてスターにも…………」


「はい、お嬢様がいる時にはわたくしも店舗にて彼女のサポートをやらせていただいております」


やっぱりあの時いたのはこの人だったのか。



更衣室の近くに到着、既に着替えが終わったのか飯山と山崎が和服になっている。


「あら、アリエちゃんじゃなーい。アリエちゃんも葉月くんに呼ばれて来たのねー」


清さんが言う。


「ゲッ、なんでこいつが」


アリエが天敵に会ったような顔をする。


「清さんには和服を用意してもらったんだよ」


「え、和服?」


アリエは自分の紙袋を持ち上げ着物の飯山と山崎を見る、着物の二人を見るために下げた紙袋をまた上げる、下げる、という動作を繰り返していた。多分中身は件のメイドエプロンだろう。


「どっ、どどどどういうことよ?」


アリエが混乱した様子で言う。


「和装でもあり、メイドでもあるてイメージだよ。クラスでメイド喫茶やるか明治維新喫茶やるかって、揉めたからまとめたんだ」


「文化祭にも色々あるのね………」


「君嶋、もしかしてその子がもう一人の………」


田中がアリエを指して言う。


「星宝アリエ、メイド服のエプロンを持ってきてくれた子だよ」


「うひょー、可愛いっすねー!俺田中っす!君嶋くんにはいつもお世話になってるっすー、よろしくっすー」


彩原さんを紹介する前に田中がアリエに突進しやがった。しかも乱暴に手握って降ってるし。


「う、うん。よろしく………」


アリエも引いてるからほんとやめてやれ、つうかやめろ。


いい加減止めた方がいいか、と思ったが彩原さんのが先に動いた。


「あまりお嬢様に乱暴しないでくれます?さもないと、命の保証ができませんので」


田中の手を捻り、ニッコリ笑って言う。普通の人の笑顔じゃない、暗殺者とかヤの付く職業の笑顔だよ。ひぃー、なんか恐い、凄く恐い。


「いたいいたいいたいいたいって!ごめんなさい許して!軽い気持ちだったんです!悪かったから許してくださいよー!」


田中が悲鳴を上げる。


「軽い気持ち、その軽い気持ちでどれだけお嬢様が傷ついたか分かりますか?見知らぬ男にいきなり手を握られる不安、恐怖を、それが分からずにお嬢様に乱暴するとはいい度胸ですね」


低い声で彩原さんが言う。一言一言が田中を呪い殺さんばかりの怨嗟が入っていた。


「ごめんなさい!反省してるんで許してください!お願いします!」


田中の命乞いも必死だ。


「えっと、薫?本人も反省してるしその辺にしてあげたら?」


恐る恐る言うアリエに彩原さんはフンと鼻を鳴らして田中から手を離した。


「いってー、マジでいってー。君嶋ー、なんなんだよあのメイドさん、こええよマジで………」


田中が泣きながら俺に抱きついてきた。


「くっつくな気持ち悪い」


俺は田中を引きはがす。


「だいたいなぁ、てめえが女子中学生相手にでも握ってぶん回すのが悪いんだろうが。俺でも殴ってるわ」


「ひでえよ君嶋ー」


「あれはてめえの自業自得だろ」


飯山が軽蔑するように言った。


「流石にあれはやめた方がよかったかな」


山崎が引き気味に言う。


俺は二人を改めて見る。


「にしてもよく似合ってんなー」


「そうでしょそうでしょー、なんたってあたしだからね」


山崎が見せつけるように言う。めんどくせー。


「そ、そうか?」


顔を赤くする飯山。


『待って、おかしい』


俺とアリエは飯山の格好を見て言った。


「ちょっと清さん、なんでこいつ肩肌脱いでんの?しかも頭になんか刺さってるし」


一応露出がし過ぎないようにサラシが巻かれてるがただでさえ金髪で目立つ髪が清さんの魔改造で派手な髪型になり、串が刺さっていた。その様は花魁と言ってもいい、下手したら昔の吉原にでもいそうだ。


「いやー、だってこの子エキセントリックで面白い格好してるからいじりたくなっちゃってー」


頬に手を当てくねくねする清さん。


「なあ君嶋ー、この格好で接客とか嫌なんだけど。帰っていいか?」


飯山が本当に嫌だという顔で言った。


「待て帰るな。似合ってるから、似合ってるからそのまま仕事してくれ、頼む」


このまま帰られては流石に模擬店に差し支えが出るので懇願した。


「似合って……………、そんなあたしが………あ、う………」


飯山が顔を赤くして言葉を失った。


「でもこれ…………」


アリエがメイド服のエプロンを取り出す。ヒラヒラなフリルのついたそのエプロンは、とても飯山の花魁ファッションと似合う気がしなかった。


「じゃあこっちで」


清さんが旅館とか料亭にありそうな腰から下のエプロンを取り出した。 飯山に装着されるエプロン。


「どう?これなら似合うんじゃない?」


清さんが飯山を示す。


「これもまた似合ってるな、ていうかメイドエプロンの意味なくない?」


「それ、あたしのセリフなんだけど」


「じゃあ、晴美ちゃんにはアリエちゃんのこれを付けて、と」


清さんがアリエの手からメイドエプロンを取り山崎に付けていく。晴美は山崎の下の名前だ。清さん、もうそんなに二人との仲を縮めたのか。いや、あの人のことだから名前聞いた途端ノータイムで下の名前を呼び始めたのだろう。


「ど、どうかな?似合ってる?」


山崎がエプロンを付けた感想を聞いてくる。


「美、だな」


俺は思わず奇妙なポーズを取ってしまった。


「美、ね」


アリエも俺のとは違うが変なポーズを取る。


「美でございますね」


彩原さんは口元に手を当てて言う。


「美、なのか?」


飯山はサイコロでも投げそうなポーズで止まった。


「ビーッ」


清さんが指をピストルの形にする。


「それはビーム」


「ていうかビってなに?日本語なの?それは褒めてるの?ビってだけ言われても反応に困るんだけど?」


山崎が言う。


「美しいの美だよ。いや、それ以外思いつかなくてな」


「あたしもそう思い、ます」


アリエも俺達以外の年上の人間と面と向かって話すと合って流石に敬語だ。


「流れで言ったけどやっぱあたしもそれ以外思いつかないんだけど」


飯山が言う。


「そんなー、あからさまに言わなくてもー」


山崎がブンブン手を振る。


「いや、お前じゃなくて着物とメイドエプロンの組み合わせが」


「あ、そう………」


固まる山崎。流石に自分が可愛いと自惚れ過ぎだ。


「じゃあ次は葉月くん達ね」


清さんが言う。


「あっ、待ってください。流石に清さんが俺達と男子更衣室に入るわけにはいきませんよ」


「でもまだ朝早いから誰もいないみたいね」


清さんが男子更衣室を開ける。確かに誰もいない。


「じゃあ入りましょうか」


「あ、ちょ………」


よく考えたら着付け手伝ってもらうてことは女の人の前で下着姿になるってことで、しかも着替えまでしてもらうとか、なんてことだ…………。


「じゃ、脱いで」


「あ、はい」


更衣室で清さんの言われるままにする。すげえ、恥ずかしい。


「ほー、君嶋はこんはパンツ履いてるのかー」


田中が俺の下半身をジロジロ眺めて言う。


「はい、邪魔するなら帰ってねー」


男子にも関わらず男子更衣室を締め出さられる田中。


「ありがとうございます、助かりました」


「いいからいいから。まずは葉月くんの着物姿を見ないことには始まらないもの」


俺に男物の着物を羽織らせ、帯を巻いていく清さん。


「あと、は………」


清さんが紙袋からメイドエプロンを取り出す。


「それ、俺も着るんですか?」


「その為に持ってきてもらったんでしょ?」


「そう、ですけど…………」


着物だけでなくメイドエプロンまで俺に装着されていく。


「どうかな?」


清さんが折り畳み式の小さい鏡を見せる。青い着物に同じ系統の帯、白いフリフリのエプロン…………。


「どこのお母さんですかこれ………」


山崎とはほど遠い美しさの欠片もない姿だった。


「なに言ってるの、十分似合ってるわよー」


「似合ってるてお世辞やめてくださいよもー」


「顔が女の子みたいなのが幸いかしら」


「誰が女の子ですか!」


「あら、怒っちゃった?」


まさかここに来て俺の女顔がいじられるとは思わなかった。学校でもそんないじられないのに。

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