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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
1章カフェダムールへようこそ
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五話



お姉さんが叫ぶと店長のお婆さんが出てきた。


「あ、店長!この人料理出来ないのに出来るとか言ってるんですよー」


俺は教室で事件が起きて犯人が分からず先生が困ってるところにこの人がやりましたと密告するかのようにお姉さんを指さして言った。


「ほっほっほ、そりゃそうじゃ。教えてないからの、こいつはコーヒーと紅茶しか注げんのじゃ」


お婆さんがおくびもなく言った。


「ちょっとおばあちゃん!」


お姉さんが顔を赤くして叫ぶが彼女が料理を出来ないことには変わりない。


「いいから変わりんしゃい、あんたはコーヒーでも淹れてなさいな」


「はーい」


渋々ながらコーヒーを淹れる準備を始めるお姉さん。


「えっと、ブレンドでいいよね」


「あ、はい」


今は昼食を食べるのが主だからコーヒーの種類は気にしない。


お婆さんが深底の鍋に水を入れて壁の向こうのコンロに置く。


スパゲティが出来るまで時間ソシャゲでもやろうとスマホを取り出して思い出した。あ、さっきスタミナ使い切ったばっかだった。手持ち無沙汰だなこりゃ………。


何か会話でも試みるか。いや、一人暮らしが大変とかどこの高校に行くとかの話は昨日したか。個人経営喫茶店のお婆さんやお姉さんが相手となると多少知らない人より話しやすい感じがするがそれでも話しかけづらいものがあった。


「はい、コーヒーどうぞ」


「ありがとうございます」


先にコーヒーを受け取り中身を口に含む。


にがっとして思わず俺は舌を出した。そうだった、ここのブレンドは苦味が強いんだった。ミルクと砂糖入れないと。


「はあ…………」


ミルクと砂糖を混ぜてて再びコーヒーを口に入れると重くため息をついたお姉さんが目についた。


美人のため息は美しいとも言うが彼女のため息はこちらまで憂鬱にさせるまでの雰囲気をまとっていた。


「これこれ、お客さんの前でため息をつくでない。コーヒーがまずくなるぞい」


お婆さんがお姉さんに注意する。


確かに美味いコーヒー飲んでてもため息ついてる人が目の前にいたらコーヒーどころじゃないな。


「ごめんおばあちゃん…………」


「何か悩みでも?」


俺はさりげなく聞いてみる。


「ふん、こいつがため息つくなんざ妹のことしかありえんよ」


これにはお婆さんが答える。


「妹さん?」


確かお姉さんと妹さんはあまり仲が良くないんだったか。


「いや、まあそうなんだけど…………」


煮え切らないお姉さんの返事。


「仲がいいわけじゃないしちょっと気に入らないから仲良くなろうとする気もないけどやっぱり姉妹だからほっとけないて感じですか」


「違うし!別にそんなんじゃないし!だいたい、あんな冷血で姉を姉とも思わないやつとかどうでもいいんですけどー!あんなのと仲良くなるなんて論外ですー!」


声を荒らげてすごい勢いで反論してきた。


「ふん、どうだか」


疑い深そうなお婆さんの反応。


必死に否定する辺りお姉さんも素直じゃないだけかもしれない。


「ほれ、ナポリタンじゃ」


壁の向こうからナポリタンスパゲティが出てきてカウンターに置かれる。


「おー。これが、ナポリタン…………」


俺は目の前に置かれたケチャップの塗られた真っ赤な麺に興奮を隠せない。


これは俺の勝手なイメージだが喫茶店の料理といえばやはりナポリタンが似合うと思うのだ。


「いただきます」


俺は手を合わせフォークでナポリタンを巻いていく。それを口に入れるとケチャップ特有の辛みが麺全体から伝わってくる。


「あんた、ナポリタンは初めてなのかえ?」


お婆さんが聞いてくる。


「初めてってわけじゃないんですけど家じゃあまり食べないものですから。いつも王道なデミグラスソースのやつばっかでナポリタンなんて全然………」


俺はナポリタンを噛みながら答える。


「そりゃあまたどうして?」


「なんか母親曰くナポリタンは手間がかかって面倒らしいんですよね。頼めばたまに作ってくれるんですが普段は嫌がって断られちゃんです」


「そりゃあ違いない、一人分ならまだしも家族全員分となるとのお…………」


お婆さんが納得したように頷く。


自炊なんてものはまだしたことはないがこうして聞くと料理一つとってもお母さんというのは大変な仕事をしてるんだなと思える。


今度母さんにお礼の電話でもしてみるか、恥ずかしくて滅多に出来ないけど。


「ふーん、わたしは好きだけどなあナポリタン」


お姉さんが俺の皿を見ながら言った。


俺は思わず皿を持ち上げ防衛モードに入る。


この女、客の料理を食う気か。


「え、ちょ、違うって!そんなんじゃないって!別に食べたいとかそんなんじゃないからなね?!」


お姉さんが必死に否定する。だが俺は彼女の口元から垂れる体液を見逃さなかった。


「よだれ、垂れてますよ」


「え、うそ………」


言われてシャツの袖でよだれを拭うお姉さん。うわ、きたな。


因みに彼女が今着てる服はフリルやリボンのついた可愛いらしいシャツだ。


それをよだれ拭きに使うなどと、なんともったいない、なんとお粗末、なんとだらしがない、俺がそのシャツなら泣いてるところだ。


いつまでも皿を上げてても仕方ない、食事に戻ろう。


今回もお読みいただきありがとうございます。よかったらブックマークや評価お願いします

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