五百八十九話
その日のアリエも不機嫌なまま苦いコーヒーを飲み続けちびちびと砂糖を入れて無言のまま飲んでいた。
「お前、このままでいいのか」
「そうだよ、このまま喧嘩したままなんて悲しいよ」
アリエがいなくなるとりんごとすももさんが言った。
「いいんです。あのままあいつに甘えてたら俺は前に進めなくなりますから」
俺は自分でも分かるくらい空元気で言った。
とは言ったものの夜の料理の勉強ではあまり身に入らなくなり教師役の絹江さんには怒られてばかりの数日を過ごしてしまった。
「おやおや、せっかく頼んで来たのにがっかりだねえ」
「すいません」
「というか元気もないんじゃないか?やっぱりあの子と喧嘩したままのが原因なんじゃないかい?」
とうとう絹江さんにまで言われてしまった。
「だとしても彼女に甘えるわけには行きません」
たとて無理をしてでもやるんだ、俺の夢のためにも。
「ふっ、馬鹿ね。甘えるのと休むのは違うってものさ。いいんだよ遊んで。遊びたい時は思いっきり遊ぶ、それが子供ってもんさ。それがなにさ、甘えるだなんだて。そうやって気を張ってるから余計疲れるんだよ、いいから明日の夕方にでも遊んできな」
絹江さんは机を叩き言ってきた。軽い音だがその音には重みを感じるものだ。
「そうそう、勉強には息抜きも大事だよ」
「さっさと謝ってどこへでも行ってこい」
すももさんとりんごが続いて励ましてきた。
はっ、なんだが難しく考えてたのが馬鹿みたいだな。なんかもうどうでもいいや、受験だなんだて思ってたがいっそのこと忘れるか。
「ニヤニヤしてるとこ悪いけど明日は思いっきり遊んで明後日の夜からちゃんと勉強してもらうからね」
「は、はい!」
だが次の言葉で現実に帰ってしまった。
 




