五百八十二話 星宝家のカレーの秘密
「ふむ、あれはまだあたしが絹江と一緒だった頃のことだねえ」
別れた理由を聞いてるのだから一緒だった頃の話なのは当然だがそれを突っ込んではいけない、祥子さんもおばあさんなのだろう。
「カレーのレシピを作ったまでは良かったんだけど喫茶店と言えばコーヒーでしょう?そのブレンドを作る時に揉めちゃったのよねえ、それはもうすごいくらいに」
「それはもう揉めたらやばいやつでは?」
俺は不安ながら口を挟む。
「うん、それは昔から二人で喫茶店をやろうって話してたからねえ。ここで揉めたら大変なのよぉ、でも揉めちゃったのよ。絹江はコーヒーと言えば苦いもんだと言うけどわたしは苦いの苦手だったよねえ」
「え、コーヒーって苦いもんじゃないの?」
みかんが祥子さんの意見を否定する。
「そうなんだけどわたしは昔から苦いのが苦手で、でも絹江は分かってくれないのよー。商品と店の好みは別物だって聞かなくて、ずっと聞かないものだからとうとう大喧嘩しちゃったのよ。あとはもう知っての通り、仲直りすることなく別々のお店を開いちゃったのよ」
顛末まで話されてしまった。
「聞いてしまえば大したことないけどそれって、かなりやばいんじゃないですか」
「そうよ、喧嘩したままなんてよくないわ」
俺とアリエは祥子さんに言った。
「そうなんだけどそれで何十年も来ちゃったからねえ、今さら………なんてこと出来ないのよ」
祥子さんは躊躇いを話す。長い間こじれてきた問題を解決するのは無理ってことか。
「でもカフェダムールには顔出してますよね」
「あれは特別、アリエやあなたがいるからそのために顔出してるのよ」
俺の指摘に祥子さんは笑った。
「やめなさい、大人ってのはそう簡単に仲直り出来ないのよ」
アリアさんが指摘してきた。
「そんな………」
だがアリエは納得していない。いや、俺もそんなおと納得できなかった。




