五十四話
カフェダムールからの帰宅後風呂が湧いたチャイムが鳴った。
「みかーん、風呂湧いたぞー」
「はーい」
みかんが風呂場に行きリビングに待つ。しばらくしてみかんがやってきた。
「ちょっとお兄ちゃーん、なんで来ないのー!」
「ちょ、みかん服を着ろよ服を!」
俺はみかんの様相に叫んだ。
「あ、ごめん」
みかんが胸と股間を隠す。
「それよりもなんでお風呂来ないのー?昨日明日も一緒に入ろって言ったじゃん」
「あれマジだったのか、わかったから風呂戻ってろ」
数十分後、今日はみかんが俺にリビングで看病されていた。ここまで妹の裸を見たのは久しぶりだ。
「ごめんお兄ちゃん」
みかんがのぼせたせいでやつれた顔で言った。
「気にすんな、お前のそんな顔見れるなんざ逆に好都合だよ」
「なんかその言い方むかつくー」
みかんが口を尖らせる。
「その分なら動けるな、もうちょいゆっくりしてろ」
その時スマホが鳴った、見るとすももさんからだ。
「はいもしもし」
『あ、葉月くん?今近くにみかんちゃんいる?』
「いますけど、それがどうかしました?」
『ちょっとみかんちゃんから離れてくれる?』
「あ、はい」
俺は玄関に向かう。みかんに内緒の話だろうか。
「離れましたけど」
『実はね……………』
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
翌日、俺は出掛ける準備をしていた。
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
みかんが聞く。
「ちょっとな」
俺は少しはぐらかして答える。
「あたしも行く!」
「お前は来なくていい、一人で行く」
というかみかんについて来られたら困る。
「えー、あたしもいきたーい」
その時、みかんのスマホの着信音が鳴る。
「アリエからだ、なんだろ」
俺は今の内にアパートを出た。
目的地に到着。
「葉月くん」
「どうも」
すももさんに挨拶してカフェダムールに入る。
「てカフェダムールじゃんここー、なんで一人で行くのー」
後ろからみかんの声がして頭を抱えた。
「お前は来なくって言ったろー、なについて来てんだよー」
「なんでよ、コーヒーぐらいいいじゃない」
また店の扉が開いてアリエがやってきた。
「やっぱりここにいたのね、なんで呼んだのに来ないのよー」
アリエは先ほどメールで呼び出したはずのみかんが来なかったので怒っていた。
「でもお兄ちゃんが」
「ほら行くよ」
アリエがみかんを引っ張っていく、問答無用だ。
なぜアリエがみかんを誘ったのか、それは昨晩のすももさんとの電話まで遡る。
『みかんちゃんて明後日にはもう帰るんだよね?』
「そうですけど」
『じゃあさ、お別れパーティーやらない?みんなも集めてさ』
「いいですね、やりましょう!」
実家じゃそういう賑やかなイベントはなかったからあいつも喜びそうだ、俺は喜んでオーケーした。
『じゃあ明日みかんちゃんに内緒でお店に集合ね』
「了解!」
サプライズってことか。
すももさんと通話を終え今度はアリエに電話をかける。
『なによ、早速あたしの声が聞きたいっていうの?』
言葉は突き放す感じなのに声は楽しげという不思議な声が聞こえてきた。この日はアリエやみかんと一緒に出掛けたのだ。
「声が聞きたいというよりちょっと頼みがあるんだなこれが」
『なによ、あたしに命令なんていい度胸じゃない』
電話口なのにアリエが腰に手を当てて偉そうにしてるのが丸分かりだ。
「命令じゃなくて頼みな」
細かいが間違いを修正する。
『で、頼みてなによ』
俺はみかんのお別れパーティーのことを話した。
『そういうことなら喜んで協力するわ。で、あたしはなにをすればいいの?』
「このパーティーはサプライズでやるからみかんにバレるわけにはいかないんだ、だから…………」
『あんた達がパーティーの準備をしてる間みかんをあなた達から離せって言いたいのね』
俺の言いたいことを察してアリエが先に言った。
「察しがよくて助かるぜ」
『適当に街を連れ出してたっぷり遊んであげるわ、今日あいつにやられた倍はやってやるわ』
アリエのいやーな笑顔が浮かんだ、こいつも人が悪いというかただじゃ転ばないというか。まあどうせ冗談だろうけど、あいつらなんだかんだで仲良かったし。
そして現在のカフェダムールでは清さんがみかんを見た後俺に言った。
「ねえ葉月くん、さっきの子は誰かしら?もしかしてあなたってそういう趣味があるのかしら?」
「違いますよ!あいつは俺の彼女でもないし俺はロリコンでもないですから!」
見当違いな清さんに俺は必死で否定した。
「そう?でもあなたがそういう趣味でもわたしは構わないけど」
「だから違いますって!」
「みかんちゃんだよ、ほら一昨日一緒に出掛けたあの子」
俺が困ってるとすももさんが助け舟を出してくれた。
「あらそうなの、ごめんなさいね勘違いしちゃって」
「分かってくれましたか」
「でもなんでアリエちゃんがそのみかんちゃんを連れていったのかしら」
俺はみかんのお別れパーティーをサプライズでやることを説明した。
「あらそれは楽しそうね、わたしも混ぜてもらっていいかしら?」
「え、でも清さんみかんとは会話もしてないですよね?」
「友達の妹はわたしの妹も同然よ、だからわたしも手伝わせて、ね?」
清さんが大和撫子の柔らかい笑みを浮かべる。それを言うなら友達の友達は友達だと思うが。
「どうします?」
俺はすももさんに聞いた。
「いいんじゃない?人数が多ければきっと楽しいよ」
テッテレッテッテー、清さんが仲間になった。
パーティーの準備と言っても料理と折り紙で蛇腹の飾りやパーティーのタイトルを書いた看板を作るだけだがパーティーなので料理も派手めにしたり飾りの数も多くしなくてはならないので少々手間がかかる、特に飾りを実際につけるのは大変苦労がかかるであろう。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アリエside
「ちょっと、どこ行くのよアリエー」
あたしに引っ張られるみかんの声に頭を抱えた。
「どこって、あんたメール見た?」
あたしは嫌味を入れてみかんに言った。
「あ、」
そこでスマホを確認するみかん。大方、葉月に夢中で気づかなかったってとこでしょうね。昨日はあんだけ偉そうにしてたのに意外とブラコンなのねこの子。
「メイド喫茶?」
みかんが首をかしげる、あたしが誘ったのは実家がやってる飲食店なの。メイド喫茶なんて変わった店のチェーン展開とかやってるけど味はまともだと思う、ちょっと味付けが甘いけど。
「大丈夫よ、スタッフがちょっとお洒落な服着てたり周りが騒がしかったりするから」
「え?騒がしいの?」
みかんが不安そうになる。
「大丈夫よ!カラオケほどうるさいってわけじゃないしちょっと賑やかってだけだから」
「う、うん………」
みかんの不安を取り除こうとしたけど返事は弱気なまま。これでどうやってここまで来たのかしら?多分両親に送ってもらったんだろうと思うけど。
昨日馬鹿にされた仕返しでもしようと思ったけどこれじゃあ逆に不安ね。
「ここよ」
あたし達は目的のメイド喫茶に着いた。
「スター」
みかんが店の名前を呟く。その名前はスターという、由来は苗字の星宝から星を取って英語にしたという安直なものだけれど一号店を作った昔はさぞ斬新だったんでしょうね。なにしろまだメイド喫茶が流行ってない時代からあったらしいんだもの。
「どう?あたしの家がやってるの」
「あなたの家が??」
みかんがすごい勢いで首をかしげてきた。悪かったわね自分の家がメイド喫茶で。
「いらっしゃいませお嬢様!」
中に入るとスタッフがあたしを歓迎する。あたしは慌ててその人の口を抑えた、相手は女の人だから背伸びはいらないわ。
「ちょっと、人前でお嬢様だなんて大きな声で言わないでよ。恥ずかしいじゃない」
あたしは小声で言う。
「し、失礼しました」
「あ、おじょう………」
また大声でお嬢様と呼ぼうとしたやつがいたのでそっちを向いて口元に指を立てたジェスチャーをして黙らせた。
「あなたも色々大変なのね」
みかんが同情したような目であたしを見る。
「そんなことないわよ。あたし自身素人なのに店の手伝いする時あるしそれを見守ってくれてる店の人のが大変だと思うわ。最初なんか色々失敗したりしたもの」
同情されるのも何かシャクなのであたしはこう言った。
「お嬢様なのにお店の手伝いやるんだ」
「ま、まあ看板娘みたいなものよ」
ほんとは別の理由で始めたのだけど。
「ささ、あたし達を席に案内してくれるかしら?」
あたしはスタッフに席に案内させる。席に着くまでに客からの注目がすごかったけど看板娘が客として来てれば驚くのも当然よね。
と、そこでまた叫ぶことになった。
「だからこういうのやめなさいって言ってるでしょ!」
席にあったのは予約席って書いてある札でそこまでいいんだけどもう一つ名前のある札がひどかったわ。あれだけやめてって言ったのに名前のところがアリエお嬢様とご友人の方ってなってるんだもの、恥ずかしいったらありゃしないわ。
「し、失礼しました。ただいまお下げします」
「あたしが来たんだから下げるのは当然よ」
「あなたっていつもこうなの?」
みかんがあたし達のやり取りを見て言う。
「違うわよ!今日たまたまよ!いつもはこんな恥ずかしいこと……………だいたいいつもこんなんだったわね」
最初は声を荒らげたけど段々冷静になってきた。
「とりあえずなに食べる?好きな食べていいわよ」
あたしは席に座って言った。
「ごめんなさい、朝からだとそんなに食べれない」
「間違えたー!ごめんなさい、朝から喫茶店なんて誘うものじゃなかった。ありえない、こんなの絶対ありえないわ。あたしとしたことが…………」
あたしは頭を抱えた。
「とりあえずコーヒーとパフェない?」
みかんに言われてあたしは冷静になった。
「あ、コーヒーとパフェならここに」
メニューを開いてパフェのとこを見せた。
「じゃあメイドみかんパフェと…………ブレンドを一つ」
みかんがみかんパフェ食べるて自虐かしら?共食いになっちゃうわよ?
あたしはアロエパフェとブレンドを頼むことにした。
スタッフに注文を言って待ってる間みかんが言った。
「ねえ、他のお客さんもお嬢様って言われてるのになんでさっき恥ずかしいって言ったの」
「え、あ………あああー!」
あたしはまた頭を抱えた。ありえない、こんな失態絶対ありえないわ。この店女性客も大勢来るしみんなお嬢様って呼ばれてるからあたしだけ恥ずかしがる必要ないじゃない!なのに恥ずかしがるなんて逆に恥ずかしい。うう、穴があったら入りたい………。
みかんが無表情でこっちを見てる。やめて、昨日みたいに馬鹿にしてくれた方がまだ楽よ!
「お待たせしましたお嬢様、こちらブレンドになります」
ブレンドが運ばれてきた。
「だからお嬢様はやめ、あ、いやそのまま続けて」
あぶないあぶない、危うくまたお嬢様はやめてって言うところだったわ。
「お嬢様!あたし、感動しました!」
コーヒーを運んできたスタッフ、彩原薫子が両の拳を握りしめて言う。バイトとか会社の社員が基本のこの店において唯一本物のメイドなの。あたしの専属メイドでもあるわ。
「お嬢様がついにお友達を連れてきたと思うと感動で震えてしまいます!」
薫子が大袈裟に涙を流して言う。
「ちょっとやめなさいよ!それこそ恥ずかしいじゃない、あたしの友達が引いてるでしょ!?」
あたしは大声で薫子に言った。
「あ、これはお見苦しい姿を見せてしまいました。申し訳ありません」
薫子がみかんに謝る。
「わたしは別に大丈夫ですけど………」
みかんのこの態度なんかおとなし過ぎるっていうか昨日と差がありすぎるのよねー、もしかして葉月がいないとこんなんなのかしら。
「ブレンドはまず砂糖を入れずに飲むのがお勧めですよ」
薫子がみかんに言って立ち去る。
「あ、はい」
みかんがコーヒーを口にする。
「甘い」
短く呟いた。
「でしょお?コーヒーなんてどうせ砂糖入れるんだから最初から甘く作った方がいいのよ」
あたしもコーヒーを口に入れる。うん、甘みの中にすっきりした感じがあっていいわね。葉月とりんごとかいう女は甘すぎるとか言ってたけど。
「コーヒーなんてみんな苦いのばっかりかと思ってた
」
「基本そうだけどブレンドによっては甘く出来るわ」
ていうかあの店のが苦すぎるのよ。あのババアどういう趣味してんのよ、あたしのお祖母さまのブレンド見習いなさいよ。
「これならどんどん飲める」
ゴクゴクとコーヒーを飲むみかん。
「おかわり」
そう言ってカップを差し出してきた。
「いいけど、ちょっと待ちなさいよね。今スタッフ呼ぶから」
まさかこんなに早く一杯飲むとは思わなかったんだけど。
コーヒーのおかわりと一緒にパフェも来た。みかんパフェはメインのみかんだけじゃなくていちごやバナナとか他のフルーツもあって全部にチョコソースがかかってるわ。アロエパフェのアロエはヨーグルトに入ってるあのアロエよ、ナタデココもあるわ。ナタデココのがどっちかというと硬いわね。その上にバニラアイスが乗ってるの。
二人でパフェを食べる。まずあたしは上のバニラをスプーンですくう、これを先に食べないと中のアロエとナタデココが食べれないもの。アイスの冷たさがに目をつむる。くー、これがないと締まらないわ。ナイスアイス!アイスが減ってくと今度はアロエを狙っていく、一緒にナタデココもついてきたわ。コリ、コリコリ、グニャグニャ、ヨーグルトのないアロエとナタデココも悪くないわね。ナタデココあんま味ないけど。
きりのいいとこまで食べ終わるとみかんがこっちをじっと見つめてるのに気づいた。
「食べる?」
アロエとナタデココをすくってみかんの前に出してみる。するとおそるおそる体を乗り出して食べてきた。
モグモグ、パァーっと笑顔を見せるみかん、可愛いわねこの子。その後も何度かみかんにパフェを分けてあげた。
あ、この子にパフェあげるばかりであたしの分がなくなっちゃったわね。まあいいか、元よりそんなお腹減ってないし。
後は残ったコーヒーをゆっくり飲むだけ、と前を見たらみかんがまたコーヒーのおかわり頼んでるんだけど。
「ちょっと、これで五杯目よ!大丈夫?」
あたしは声を上げたけどみかんは首をかしげるだけだ。カフェイン中毒にならないかしらあの子、お金はあたしが出すから大丈夫だけど。
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